【走馬灯】
えぇーっとぉ。
実はシズ、アリスちゃんのこと嫌いなんだよねぇ。
んー、嫌いだったからイジメてたって言いたいんじゃなくってぇ……。むしろその逆で、嫌いだったからイジメるのやめたってことなんだけどぉ……。
ほらシズってさぁ、がんばらなくても、割となんでもできちゃうヒトじゃぁん? いや、自慢とかそーゆーんじゃなくって、ほんとに昔からそうなの。
だってシズ、ほんとは声優とかも、全然興味なかったしぃ。むしろシズの妹の方が、ちっちゃいころからプイキュアとかそーゆーの大好きでさぁ。シズお姉ちゃんだから、あの子のこと喜ばせたくて、よくそーゆーののマネしてあげてたんだよねぇ。
そしたらあの子、「大っきくなったらプイキュアになりたぁい!」とか言ってさぁ。ほんと、あの子ってそのころからすっごい可愛いかったんだよねぇ! あ、あの子の写真あるよぉー、見るぅ⁉
……え、いいのぉ? あっそ。
そんでぇ、あれはシズが中三で、妹が中一のときだったかなぁ?
そのころにはあの子もさすがに、アニメキャラになるのは無理だってことは知ってたけどぉ。その代わりに、そのアニメの中の人……声優を目指すようになったんだよねぇ。
その頃から、声優ってすっごく流行ってたみたいでぇ、なりたい子もたくさんいたらしくってさぁ。だから競争率ハンパなくて大変な夢だってことは、あの子も分かってたみたいなんだけどぉ、「それでも絶対なりたい!」って言って、あの子すっごい頑張ってたんだぁ。そしたら、シズだって応援したくなるじゃぁん?
だからスクールとか色々と調べてあげたり、親を説得してあげたりしてさぁ……。近くでちょうど素人対象のオーディションがあるって分かって、応募の書類作るの手伝ってあげて、なんなら一緒について行ってあげたりしてぇ。
そぉそぉ。なんかぁ、あの子が「一人で行くのは怖い」とかかわいいこと言うからさぁ、引き立て役くらいのつもりで、一緒に参加したんだぁ。
もちろん、あの子はそのオーディションのために、すっごい努力してたんだよぉ? 寝る間も惜しんで練習してたしぃ。いろんなアニメとか見て研究したりぃ、発声練習とかスクールの先生の個別レッスンとかも受けて……。
でも、いざオーディションが始まったら、あの子は全然相手にされなくて……そのうえ訳わかんないことに、オマケでついてったシズのほうが主役に受かっちゃったりして……。そこからトントン拍子で事務所とかも決まって、天才声優とか言われるようになって……。
シズ、チヤホヤされるのは嫌いじゃなかったからぁ、ちょっとそこでいい気になっちゃったんだよねぇ。お仕事いっぱいもらえると、みんな褒めてくれたしぃ。最初のうちはあの子も、「すごいすごい!」って言ってくれたしぃ……。
だけど、去年のゴールデンウィークくらいに、ついにあの子が爆発しちゃったんだよねぇ。
多分あの子、ずっと焦ってたんだと思う。シズがオーディションに受かったのと同じ歳になったのに、自分はまだ全然うまくいかない。何度オーディション受けても誰からも相手にされない。なのに、全然努力してなくて声優に興味ないシズがどんどんうまくいっちゃってるのを、毎日のように間近で見せつけられて……。
表面的には「おめでとう」とか、「私も負けないよ」なんて言ってても、心の中ではすごい嫉妬してたんだと思う。そんなときにタイミング悪くシズが「今年のプイキュア映画のゲスト声優に決まった」とか言っちゃって……。
シズ、あの子に言われちゃったのぉ。
「まぐれで受かったくせに、私の夢を取らないでよ!」って。「アンタなんか、死んじゃえっ!」って……。
シズ、そんなつもりなかったんだよ? ただ、一緒にアニメのマネしてたころの続きのつもりで……。シズがやってることにも、あの子は本気で喜んでくれてるって思ってたから……。
それからシズ、なんかヤケクソ? みたいな感じになっちゃってさぁ。ヤサグレちゃったんだよねぇ。悪っぽい子たちと仲良くなってタバコ吸い始めたり、アリスちゃんだけじゃなく、いろんな子をイジメてストレス解消したりしてぇ。
でも、わざとそーゆーカッコ悪いことしてたのも、アリスちゃんには気付かれちゃってたみたぁい。『あの日』、部活の前に突然シズに会いに来たアリスちゃんに、言われちゃったんだぁ。
「不破さんは、どうしてわざと自分を悪く見せているの?」って……。
ホント、シズあのヒト嫌いだよぉ。
人が気にしてること、平気でズケズケ言っちゃうんだもぉん……。
せっかくシズがさぁ、自分から悪い噂拡めて、声優のお仕事出来なくなるようにしたかったのに……。シズなんか「まぐれで受かった」だけで、中身空っぽのクズ人間だってことをみんなに知ってもらって……頑張ってるあの子のほうがちゃんと評価されるようにって思ってたのに……。
だからシズ、もうアリスちゃんに関わりたくなくなっちゃった。これ以上なんか言われるの嫌だから、距離をおきたくて、言ったの。
「もうアンタをイジメるのやめてあげる」って。
それにシズ、もっといい方法思いついちゃったんだもん。
確かに、最初はあの子のオマケで始めた声優だったけどさ……たまにだけど、ちょっと楽しいかもって思えるときもあったんだ。やりがい……みたいなの、感じちゃってる瞬間があったんだよね。
だから、次からはもっとマジメにやって、頑張ってるあの子よりももっともっと頑張って……ちゃんと頑張ったから夢がかなえられた、ってことにすればいいんだよね? 「天才JKアイドル声優」に、ちゃんと実力で追いつけばいいんだよね?
そうすれば、あの子だってシズのこと、見直してくれるよね? あの子の憧れのお姉ちゃんに、また戻れるよね……?
さんざんアリスちゃんのこと傷つけといて、今さらこんなこと言うなって? 勝手に悪ぶって勝手に開き直って……そんなの身勝手すぎだって怒られちゃう?
でも、しょーがないじゃん。
シズはシズだもん。こーゆー生き方しかできないのが、シズなんだもん。
他人に何て言われたって……わがままな『独裁者』って言われたって、シズはシズをやめられないもんね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます