19:18 教室棟屋上

 罠だ。

 どう考えても、罠に決まってる。


 静海に連れられて、教室棟三階からさらに階段を上って屋上に向いながら、彼女が何を企んでいるのかを考えていた。


 まず最初に私が思ったのは、屋上でこいつが『独裁者』の『命令』を使おうとしてるってことだ。平気で皆殺しとかをするような静海のことだ。「屋上から飛び降りろ」とか『命令』して、私を殺すことだって普通にやりかねない。

 ……でも、私が『独裁者』の弱点を知っているってことは、ついさっき彼女も見たはず。『命令』したってどうせ耳をふさがれて無効化されるって分かりきっているのに、わざわざ屋上まで連れていくなんてあるだろうか?

 じゃあもしかして、物理的に屋上から突き落とそうとしているとか? それなら、『独裁者』の弱点なんて関係ない。

 ……でもそれならそれで、パッと見はガーリィでゆるふわっぽい雰囲気の静海が、一応バスケ部で毎日しごかれてる私を一対一で突き落とすだけの力があるようにも思えない。


 それでも。静海は絶対に何かを企んでいる。私を陥れるために、屋上まで誘導している。さっきの「『犯人』が誰だか分かったかも」なんて台詞だって、きっと私を誘い出すための嘘だ。私はそう確信していた。

 だって彼女は……アリスをイジメていた、張本人なんだから。


「ねぇねぇ絵里利ちゃーん。アリスちゃんってぇ、中学時代どんな子だったぁー?」

「はぁ? 何でそんなこと聞くのよ⁉ あんたなんかに言うわけないでしょ!」

「えぇー、なんでぇー? もしかしてシズ、絵里利ちゃんに嫌われちゃってるぅー? ぴえーん」

 これまで自分がしてきたことをすっかり忘れたみたいに、慣れ慣れしく話してくる静海。そんな彼女のことが心底腹立たしくて、私は、彼女にずっと冷たくあたっていた。



 この学校には校舎は二つあるけど、事務棟の屋上にはハシゴを使わないと行くことができないから、アリスが飛び降りたのはほぼ間違いなく、こっちの教室棟の校舎の屋上ってことになるらしい。

 校舎から屋上に出る扉にも、基本的にはいつも鍵がかかっていて、生徒は普段は屋上に出ることは出来ない。そのカギは、職員室と用務員室。それから、屋上菜園を管理している園芸部部室の、合計三か所に保管されている。

 だからアリスは多分、園芸部の部室に侵入してカギを手に入れたのだろう。そこなら、部活が終わって最終下校時刻を過ぎれば誰もいないはずだし。演劇部の部室は古くて、扉のカギはほとんど意味がないような小さな南京錠だけだから、壊そうと思えばその辺の石でも壊せるから……。

 これも全部、ここに来る前にディミ子ちゃんから聞いた話だ。


 今は、この学校には私たち以外に誰も人がいないので、静海は普通に職員室から屋上のカギを盗んできたみたいだった。



 階段を上りきって、屋上に出るための扉を開ける。

 空は、朝なのか夜なのかさえ分からないような、相変わらずの一面灰色だ。


「んんーっ! やっぱり外に出ると解放感で気持ち……よくなぁーいっ!」

 見ているだけで気分が滅入りそうな空の下で、背伸びをした静海。大声で叫んで、そんな風におどけて見せる。でも、彼女のことが大嫌いな私はクスリともせずに、入ってきたドアを後ろ手で閉めた。


 屋上は、よく野球グラウンドでホームベースの後ろにある、バックネットのような金属製のフェンスで全体を囲まれていた。その中の数か所には、ドアっぽく開けることが出来る箇所があって、そのフェンスの向こう側に行くことも出来る。うちの学校だと、そういうところにもカギがかかっていたりするのだけど、この学校は基本的に用がない生徒は屋上立ち入り禁止だから、そこまで厳重じゃないみたいだ。


 縦長の屋上の、私たちが出てきた出口を出てまっすぐ進んだところ――私がこの学校に入ってきたときの正門側。ちょうど、三年C組の教室の上に当たるあたり――には、園芸部が管理しているらしい畑とか、小さなビニールハウスみたいなものが見える。

 そして、出口から後ろを振り返った側――城ケ崎さんがいる生徒会室の上あたり――には、非常用の貯水ポンプやソーラーパネルのようなものがあった。


 この学校の生徒の静海でも、ここに来ることは珍しいらしい。パタパタと屋上を駆け回りながら、彼女は園芸部の屋上菜園や、校舎の上からの眺めを物珍しそうに見ている。

 そんな彼女の行動を見張りながら、私はある一つの可能性を思いついていた。

 彼女が、私をここに連れてきた理由。私を殺すための、彼女の作戦。それは、この屋上のどこかに「『卑怯者』の鶴井千衣が隠れている」かもしれないってことだ。


 静海一人じゃあ、私を力づくで校舎から落とすのは難しいかもしれない。でも、もしもそこに『卑怯者』の千衣が、透明になって隠れていたら? 陸上部の千衣と二人がかりで来られたら、さすがに私も逃げ切れるかどうか分からない。

 ……そういえばディミ子ちゃんも、私に静海の『独裁者』の弱点を教えるときに、こんなことを言っていた。



「不破さんの攻撃を警戒するときは、同時に、近くに鶴井さんが隠れているかもしれないということも考えてください。彼女たち二人が揃っていると、例えば……『透明になった鶴井さんが耳をふさぐのを邪魔している間に、不破さんが独裁者の命令をする』なんていう、コンビネーション攻撃も可能になるかと思います。

 一応、鶴井さんに触ることが出来れば、『卑怯者』の透明化は解除されて鶴井さんの姿を見ることが出来るようになるはずですが……そもそも見える見えないに関わらず、『耳をふさぐのを邪魔する存在』がいる状況というのは脅威だと思います。

 まあ、その場合には鶴井さん自身が不破さんの『命令』を食らわないように耳栓なりヘッドホンなりをしなければいけないはずですから……二人の間で細かい連携ができないという欠点もあるのですが」



 そんなわけで。

 私は『独裁者』の弱点を知ったからと言って、まだ静海のことを完全に油断することはできなかったんだ。


 さっき屋上の出入り口の扉を閉めたから、千衣がもしも廊下に隠れていたのなら、屋上に入ってくるときには必ず扉を開ける音がするはずだ。だけど、もしもあらかじめ千衣がこの屋上に隠れていて、私がおびき出されてしまったのだとしたら……。

 正直、静海と千衣がそこまで用意周到に準備をしているっていうのは、ちょっと考えすぎかもしれない。でも、その可能性はゼロじゃない。

 周囲を注意深く観察して、私は千衣の気配を探っていた。


「アリスちゃんが飛んじゃったのってぇ、どのへんなんだろぉねぇー? 絵里利ちゃん、分かるぅ?」

 そんな私の警戒心にはまるで気付いていない様子の静海。今は、近くにあるドア状フェンスを開いて、校舎の淵から身を乗り出して地上を見下ろしている。その口調は、特に含みがあるだとか、何かを企んでいるっていう感じでもない。


 例えば今、私が静海のところまで行って彼女の背中を蹴りつければ、そのまま彼女を校舎から蹴落とすことだってできてしまいそうだ。


 アリスをイジメていた静海を……イジメの主犯格の、現状で一番『犯人』っぽい静海を……簡単に殺すことが……。

 い、いやいや……それこそ、静海じゃあるまいし。この私が、そんなひどいことするわけないよ。

 慌てて首を振って、また自分の頭の中に現れた恐ろしい考えを、追い払った。


 と、そこで。

「アリスちゃんってさぁ……」

 校舎の淵から乗り出した姿勢のまま、こっちを向かずに静海が何かを話し始めた。

「変わった子だよねぇ」

「は? な、なに言ってんのよ急に……」

「だって、こんな高いとこから飛び降りちゃうなんてさぁ……シズだったらぁ、怖くて絶対できないもぉん」

 それは、これまでの彼女の、他人をバカにしたような話し方とは少し違って聞こえた。

「あの子ってさぁ、シズたちがどれだけ痛めつけても、物隠しても……絵里利ちゃんにやったみたいに恥ずかしいカッコにして写真撮ってバラまいてやっても……ぜぇんぜんツラそうな顔とかしないんだよねぇ。なんかぁ、イジメてるこっちのほうがバカみたいに思えてくるくらい、つまんなそぉーな顔して、ずぅーっと耐えちゃうの」

「あ、あんたねっ!」

 アリスをイジメていたことを、まるで思い出を振り返るように話す静海。思わず頭に血が上って、彼女に飛び掛かりそうになってしまう。でも、そんなところを千衣に取り押さえられたりしたら、それこそこいつらの思うつぼだ。


 高まる怒りを必死にこらえて、背後を取られないように壁やフェンスに背を向けながら、私は少しずつ静海に近づいて行った。

 静海は、そんなことには特に気付かずに、話を続ける。

「多分……シズたちのイジメなんて、アリスちゃんにとっては大したことじゃなかったんじゃないかなぁ……? きっと、我慢できるレベルだったんじゃないかなぁ……?」

「な、何言って……」

「なのに……。シズたちがあれだけやっても耐えられたのにさぁ……。どぉして、突然飛んじゃったのかなぁ? こっから飛び降りるほぉが、ずっとずっとツラい気がするんだけどなぁ……」

「!」

 静海までは、まだあと十メートルくらいはある。

 でも、だめだ。やっぱり耐えられない……! 私はそこでフェンスを背にするのをやめて、走り出していた。たとえ千衣が隠れていたとしても、そんなの振り切ってやる!

 そしてフェンスのドアをくぐって、ちょうどこちらを振り向いた静海の、制服の首元をつかんだ。

「あ、あんたなんかに、アリスのつらさが、分かるわけないでしょっ⁉ あんたのせいで……あんたのせいで、アリスがどれだけ苦しかったか……つらい思いをしたかなんて……あんたが、言っていいことじゃないんだよっ!」

 このまま少し力をいれて押すだけで、確実に静海を校舎から突き落とすことが出来る。この状況じゃあ、『独裁者』の『命令』をしても、千衣がどこかに隠れていたとしても、絶対に間に合わない。

 どんなことが起きても、少なくとも静海だけは道連れにすることが出来るような態勢だ。


 でも、そのときの静海には慌てたり、死を恐れたりしている様子はなかった。

「そっか。そぉ、だよねぇ……。

 平気な顔してても……きっとアリスちゃんには、シズが分からないようなツラさがあったんだよねぇ……」

 彼女は少しだけ悲しそうな微笑みを浮かべている。

「でもさぁ……きっとアリスちゃんが飛んじゃった十月二十八日の『今日』は、あの子にとって、もっとツラいことがあったんだよぉ。シズのイジメよりなんかよりも、もっともぉーっとツラいことが……」

「あ、あんたっ! まだそんなことを……」


 もう、我慢の限界だ。私の怒りは、頂点に達していた。

 私は静海を、ここから突き落とすことにした。もうあと数秒。それで覚悟を決めて、こいつの襟首を掴んでいる手を押す。それで終わりだ。


 そのとき、

「だってシズ……アリスちゃんに『もうイジメるのやめてあげる』って、言ったんだもん。そしたらアリスちゃん、シズに初めて笑ってくれたの。『ありがとう』って、言ってくれたの」

「え……」

 静海を掴む私の力が緩む。その隙に、彼女はスルリと私の手から逃れてしまった。

「あの子……ホントはずっと、気づいてたんだよ。シズが、別に好きでイジメしてたわけじゃないってこと。アリスちゃんをイジメてる間、シズが全然楽しくなんかなかったってこと。

 それでさ……『今日』の放課後、部活前にアリスちゃんがシズのとこに来てさ、言ったんだよね。……『どうしてわざと自分を悪く見せているの?』って」

「あ、あんた……何言って……」

 私には、静海に言っている言葉の意味が、よく分からなかった。よく分からないはずだった。……なのに、なぜかその言葉に、身動きが取れなくなるほど驚いていた。


 静海は、静かにその意味不明の言葉を続ける。それは、私に言っているというより、過去を振り返っているただの独り言のようだった。

「そんでさ……。そんなこと言われて、シズなんかバカらしくなってきちゃってさ。シズの気持ち見透かされたような気がして、なんか恥ずかしくなってきちゃってさ。

 だから言ったの。『もうめんどくさいから、イジメるのやめてあげる』って。そしたらあの子、『ありがとう』って……。

 あれって、自分がもうイジメられなくなって嬉しいから……じゃないでしょ? なんかあれ、シズが本当のこと言ったから……。今まで自分に嘘ついてたシズが、アリスちゃんの期待に応えてやっと素直になったから……それに対しての、『ありがとう』って感じで……。

 ああぁ、もぉう……だからアリスちゃんって、変な子なんだよ……。だからシズ、あの子嫌いなんだよぉ……」

「……」

 気づいたとき、私は屋上の出口に向かって、後ずさりを初めていた。

 この場にいてはいけないような気がした。なぜだか、このまま彼女の話を聞いているのが、怖く思えてきた。


 一歩。もう一歩。

 さらに、もう一歩。

 私は、どんどん静海から遠ざかっていく。


「絵里利ちゃぁん……」

 そんな私をその場に縛り付けるかのように。静海がこっちに微笑みながら、呼びかけてきた。

「だからねぇ……そんなアリスちゃんが、シズを『犯人』にするはずがないの。シズのこと最初っから相手にしてなくて、上から目線で見てたようなアリスちゃんが、シズに追い詰められて飛び降りるはず、ないんだよぉ……?」

 徐々に、その口調がいつもの彼女に戻っていく。

 他人をバカにするような、邪悪な表情になっていく。

「シズは、確かにアリスちゃんをイジメてたしぃ……アリスちゃんはシズのせいで、いぃーっぱい嫌な思いしたと思うよぉ?

 でもぉ、アリスちゃんは本心ではそんなの、全然気にしてなかったの。シズのこと見下してたアリスちゃんは、シズのイジメなんかで自殺したりするよぉな子じゃないの……。だから、シズは『犯人』じゃない。『犯人』は、他にいるんだよぉ?」

「ふ、ふざけないでよっ!」

 後ずさりながら、なけなしの反抗心を振り絞って、彼女に叫ぶ。

「そ、そんなの、あんたが勝手に言ってるだけしょっ! いくら『イジメをやめる』なんて言ったからって、それであんたがそれまでにやってきたことが消えるわけないじゃないっ! アリスだって、あんたのこと許したわけじゃないんだからっ!

 だ、だから、あの子が飛び降りたのだって、きっとあんたへの当てつけで……」

「え、り、りっ、ちゃーん……」

 不敵な笑みを浮かべて、ゆっくりと私のそばに近づいてくる静海。私は今すぐにでも逃げ出したいのに、『臆病者』の能力に縛られているように、足がいうことを聞いてくれない。

 それは能力なんて関係なく、もっと本能的なものだ。私が彼女に、心の底から恐怖してしまっていたからだった。


 静海は私のすぐそばまで来ると、私のアゴにそっと手を当てて、

「何をそんなに、慌ててるのぉ?」

 と言った。

「わ、私は、慌ててなんて……」

「……ねぇ?」

 懐からスマホを取り出して、その待ち受け画面を見せる静海。そこには、元がよく分からないくらいまで写真加工アプリで加工された、静海によく似たかわいらしい女の子の写真と、デジタルの時計が映っている。現在時刻は……十月二十八日 十九時二十五分……。

 確かディミ子ちゃんが、この学校の最終下校時刻は七時半だと言っていた。あと五分で、その時刻になる。


「絵里利ちゃんは『今日』……アリスちゃんが飛んじゃった『十月二十八日』のこの時間、自分が何してたか覚えてるぅ?」


 覚えてない。覚えてるわけない。

 私は学校の外で目覚めたときから、記憶が曖昧だった。自分がどうしてこの世界にいるのか、よく分からなかった。唯一覚えていたことと言えば……その日の授業が終わって放課後になったから、部活に向かったことくらい。

 だった、はずだ……。


「うふふぅ……」

 静海は、自分の顔を私の顔にくっつくくらいまで近づけて、耳元でささやくように言った。

「覚えてるん、でしょぉ? っていうか、思い出したんだよねぇ?」

「そ、そんなわけ……」

「だってシズたちはさぁ……この世界の時計の時間の通りに、『十月二十八日に自分たちがしてたことを思い出す』ようになってるんだもんねぇ? だから、『アリスちゃんが飛んじゃった日の七時二十五分まで』のことは、もう絵里利ちゃんだって思い出してるはずなんだよぉ?」


 そんなの嘘だ!

 その言葉は、声には出せない。なぜなら、私はそれを認めてしまっていたから。静海の言っていることは本当だったから。


 確かに私は、目覚めてすぐのころは、何も思い出せなかった。

 でも。

 この学校にやってきて、時間が経つうちに……だんだんと『あの日』のことを思い出していた。『あの日』の部活でどんなことをがあったとか、どんな練習をしたとか……自分が持っている時計の時間に合わせて、『十月二十八日』のその時間に自分が何をしていたのかを、思い出していたんだ。


「シズはさぁ、『十月二十八日』の部活が始まる前の時間……だいたい、四時前ごろかなぁ? 実は、アリスちゃんと会ってたんだよねぇ。それでそのときにあの子と、さっき絵里利ちゃんに言った『イジメやめてあげる』って話をしたんだぁ。そのときの記憶を、絵里利ちゃんがこの学校に来る前には、もう思い出してたんだぁ。

 だからシズはぁ、自分が『犯人』じゃないってこと、最初っから知ってたんだよぉ?」

 ディミ子ちゃんも私も、静海がどうして自分のことを『犯人』じゃないって断言できるのかを、不思議に思っていた。

 それは、彼女があの『十月二十八日』の早い段階で、アリスに会って話していたから。そのときの記憶を、既に思い出していたからだったんだ。


「そ、そんな変なこと言って、誤魔化そうったって……!」

 それでも、何とか反論の言葉を絞り出そうとするけれど……でも、すでに目の前に静海はいない。彼女はもうとっくに私のことを置いて、屋上の出入口のところまで行ってしまっていた。

 彼女は私に背中を向けながら、つぶやく。

「『今日』、シズが『もうイジメやめてあげる』って言ったあと……アリスちゃんは次に、誰に会ったのかなぁ? シズに笑顔で『ありがとう』なんて言っていたはずのアリスちゃんを、そのあとで自殺するほど追い詰めちゃったのは……一体誰なのかなぁ?

 うぷぷ……。さすがにそろそろその誰かさんも、もう思い出してるんじゃないかなぁ? 自分が『今日』、アリスちゃんにしちゃったこと……。自分がアリスちゃんを追い詰めた、『犯人』だってことをさぁ……。

 もしかしたら絵里利ちゃんも『今日』の放課後……中学の卒業式ぶりにアリスちゃんと会ってたのかもねぇ?」

 そう言って、彼女はそのまま屋上を出て行ってしまった。

「そ、そんな……はずは……」

 残された私は、誰もいない屋上で、言い訳のような独り言を繰り返していた。

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