第274話「絶光の一撃」

 砲台がある丘から光が広がっていく――


「うわーっ!」


 素っ裸になっている女騎士達をどうしようかと考えて途方にくれていた俺は、極光の明滅を見た。

 みんな声にならない叫びを上げている。


「そうか、これが……」


 ついに、大陸砲コンチネンタルキャノンが起動したのだ。

 大陸一万人分の魔術師・神官の魔力を結集したその放射を、魔法として名付けるならば『極光』となるであろう。


 世界にあまねく存在する魔素。

 その魔素を秩序ある創聖へと近づけていけば行くほど魔法は純化を増して神聖魔法に近づいていく。


 シェリーの作りだした魔導回路は、魔術を調律して神聖魔法へと転換する装置であった。

 その身にに創聖の光を帯びながら、刹那のそのまた刹那の速度で『王皇金の砲弾』は飛来する。


 リスボンの街だった残骸に上陸しようとしていた大魔神めがけて一直線に――


 ――ギギギギギギギギギギッ


「なんだ、うわ!」


 金属がこすれ合うような、耳をつんざく金切り声。

 鐘が鳴り響くような音も聞こえる、なんだこれ鼓膜が破れそうだ。


 砲弾が大魔神に直撃した瞬間から、辺りに七色のプリズムが散らばりはじめた。

 混沌と創聖の力がぶつかってるのか。


 ――キュコォオオオオオオオ!


 そして爆発。

 名状しがたい叫びを上げながら、大魔神の巨体がゆっくりと後ろに倒れていき。


 港に落ちた瞬間に爆発的な大津波が発生した。

 海に展開した艦隊は全力で退避。


 崩壊した街のあたりは津波に流されて、俺の頭の上にも塩辛い雨が降り注いだ。

 大魔神は倒れた。


「やったのか……」


 ユーラ大陸全土の資源を結集し、たった一発しか作れなかった最強の砲弾だ。

 やってもらわねければ困る。


 だが、街から大量の巨大触手が舞い上がるのが見えた。

 まだ生きてるのか、マズい!


「オラクル、飛んでくれ!」

「どっちじゃ」


「いいから上だ。速く!」


 俺の予感どおり、大触手が鎌首を持ち上げて砲台に向けて突っ込んでいった。

 なんて速さだ、クソッ、迎撃が間に合わない――


「砲台はやらせません!」

「カアラ!」


 砲台の前に飛んだカアラが、大触手の直撃を受け止めた。


「あぁぁああああ!」


 触手に飲み込まれていくカアラ。

 あらかたの魔力を使い果たしたその身で、よくぞ喰い止めた。


「えいっ!」


 俺は、光の剣と中立の剣の出力を全開にして伸びてきた触手を叩き切る。


「大丈夫か、カアラ!」


 だらりと下がった肉をかき分けて、引っ張りあげる。


「けほっ……」

「無理をしやがって……」


 やっぱり服が剥ぎ取られて全裸だったが、意外と大丈夫なんだな。


「きぼちわるい、なんで口にはいって、ゲホゲホ」

「すっごいヌルヌルになるしな」


 気持ちはわかると慰めようとしたら。

 俺の背中に張り付いてるオラクルが叫ぶ。


「タケル、あれを見るのじゃ!」

「ああ、ああああー!」


 さっきの触手は、力尽きる前の最後の攻撃ではなかった。

 大魔神が再び立ち上がってしまう。


 腹部に直撃を受けて凹んではいるが、倒すに至らなかったのか。


「さっきのが、最後の弾丸だったんだぞ!」


 一応予備の通常弾もあるが、大魔神相手にどれほど効くものか。

 カアラが身を張って砲台を守ってくれても、もう撃ち出す有効弾がない。


「タケル触手がまた来るのじゃ!」

「オラクル!」


 新たに飛んできた触手に、オラクルが絡めとられてしまう。

 俺は必死に触手を斬り裂くが。


「剥かれたのじゃ!」

「ああ……」


 無事ならいいんだけど。

 なんで、いちいち服だけ巻き込んで剥がすんだ。


「……どうやら、ついに僕の出番のようですね!」

「ホモ、じゃないニコラウス!」


 巨大な銀翼の羽を広げたニコラウス大司教が、飛んでこちらまで来た。

 その鍛えぬかれた肉体は、まるでヘラクレスのようであった。


 ……というか、なんで全裸なんだよ。

 マッスルなポージングするな。


 お前は別に触手に襲われてなかったよな。

 服を自ら脱ぐ意味はなんだよ?


「シレジエの勇者、プランBです。そのために、アーサマは僕に創聖の力を与えました!」

「プランBってお前、そんなことしたらただじゃ済まないぞ!」


 アーサマを降臨させ、神聖力を極限まで高めた大聖者を人間大砲として撃ち出す。

 あまりにも非人道的なので、一度は避けた計画を実行に移すという。


 アーサマも、それをよしとするのか。

 力を降臨させているのなら、なぜこの期に及んでも何も言わないのか。


「勇者、そんな顔をしないでください」

「ニコラウス……」


 ……服を着ろよ。


「世界を救うために死ぬるならば大聖者として本望! その代わり、後の新教派ホモテスタントを頼みますよ」

「わかった。俺の名にかけて信仰を保護しよう」


「それを聞いて安心しました。はぁぁ、ホールに入り込んで撃ち出されるとは、なんとも僕に相応しき最後なりぃぃ!」


 そんなどうしようもないことを言いながら、砲身の中に入っていく。

 今のが、お前の遺言になるのかもしれないのだが、本当にそんな最後でいいのかニコラウス。


「魔力再充填完了、いつでもいけます!」


 シェリーが叫ぶ。

 おい、魔力充填速いな。


 大陸砲コンチネンタルキャノンの砲身は、すでに青白い光を発している。

 どうやら、一発目でヘトヘトに疲れ果てているレブナントに代わり。


 もう一人の上級魔術師であるセレスティナが必死に充填していたようだ。

 みんな、一撃目がダメでも諦めていなかったのだ。


「ほいっと」


 砲撃手のウェイクは何の躊躇もなく、引き金を引いた。

 全てを白く塗りつぶす極光が広がっていく。


「イヤッッホォォォオオォオウ!」


 そんな懐かしい掛け声とともに、ニコラウス大司教は大魔神に向かって飛んで虹色の輝きの中に消えた。

 最後までそんなのか。


 だが、お前の犠牲は無駄にしないぞニコラウス!

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