第252話「魔都ローレンタイト」
俺達、シレジエ艦隊はローレンス川を遡って魔都ローレンタイトに迫っていた。
しかし、ここで変事に見舞われる。
「先生、なんで敵の抵抗がないんでしょうね」
「おかしいですね。事前の調査では、魔都ローレンタイトには一騎当千の八将軍と、二万近い親衛隊が常駐してたはずなんですが?」
港近くの城砦に砲撃しても、敵の抵抗がほとんどないとはどういうことだ。
こちらもかなりの強行軍なので、陸上兵力は少ない。
まず砲撃で敵を誘い出して、出てきたところを叩く予定なのが狂ってしまった。
敵はこちらの策を見越して、魔都の奥に兵を温存させているのか。
「とりあえず、物見を送りますね」
そこでわかったことは、すでに魔都の兵力はほとんどが消滅しており、八将軍とやらも行方不明になっているとのこと。
捕まえた敵の兵士に聞いても「聖母がくるぅぅ」とかわけのわからないことを言うだけでまったく要領を得ない。
ともかく、敵に戦力がないことはわかった。
出番がなくなったドレイク提督は、苦笑している。
「なんだよ、こっちは決死の覚悟で準備して攻め込んだってのに手応えがねぇ」
シレジエ艦隊を駐留させている大湖から、砲撃で港に面する施設を潰したが、反撃がほとんどないのはほんとに兵が少ないのだ。
「そういうなドレイク。楽に勝てるなら、それに越したことはないだろ」
「まー、王将の言うとおりだな。大魔王の魔獣ってやつには警戒しとかなきゃねぇ。温存できるなら悪いことじゃねぇ」
あれでこちらも黒杉軍船を一隻と、艦隊のいくらかをダメにされているので油断はしていない。
「しかし、魔獣も全く出てこないってどうなってるんだろう。魔都も捨てたってことなのか?」
相談している暇も惜しいと、ライル先生がさっさと上陸軍を組織し始めた。
「ともかく、上陸して街を占拠してしまいましょう」
大魔王イフリールからララちゃんを取り戻して、混沌母神復活を阻止する目的のある俺達には時間がない。
ここで、リアと合流することにもなっているからローレンタイトも落としておかねばならない。
「ハイドラ、怪しげな儀式が行われていた
「はい、そのとおりです王将様。足をお舐めすればよろしいですか?」
従順になったのはいいのだが、くすぐり拷問のせいかハイドラはちょっとおかしくなってしまっていた。
証言に信ぴょう性があるか怪しいところだ。
「大丈夫かな。もうちょっとくすぐっといたほうがいいか?」
「やめてくださいぃぃ」
あー、やっちゃったか。
行きがかり上、捕虜のハイドラの面倒を見ているシェリーに怒られる。
「お兄様。床が汚れるので遊ばないでください」
「すまん。まあ、大丈夫かな」
その間にも、船から出た兵が次々と魔都を占領し始めた。
目立った抵抗はない。
「タケル殿、とりあえずローレンタイトの魔王の宮殿まで攻め上がります。魔都は、そこを落とせば終わりです。ハイドラの言が正しいか、捕虜にも傍証させましょう」
俺達は港に艦隊を残して、魔都の中心である魔王宮に向かった。
二万もの兵を駐留させる都市だ。
すくなくとも二十万の住人がいるはずなのだが、街は活気がなく寂れ切っている。
行軍しながら街の様子を観察したが、酷い有様だった。
「先生、どう見ます?」
「大陸の一州に過ぎなかったニスロク国が、総力を振り絞って大戦争をやらかせばこうもなりますよ」
総力戦というこれまでにない戦い方をしてアビス大陸制覇まであと一歩まで迫っていた魔国だが。
その歪みは、国民に犠牲を強いるものでもあった。
こちらは、俺も先生もいるし、それ以前に一目で上位魔族とわかるオラクルとカアラがいるので何の抵抗もなく魔王宮を占拠してしまった。
普通なら、魔王宮の戦いとか起こるのにな。
相変わらず、肩透かしの大魔王だ。
何の抵抗もなく落ちた王宮では、豪奢な服に身を包んだ老人達が俺達を出迎えてくれた。
「降参だ勇者殿。魔王様は、勇者が攻め上ってくれば、大人しく降参せよと言っておったからな」
聞けば、魔国宰相や魔王宮の侍従長などの高い地位の老人達らしいが、ようはもう宮殿には内政官しか残ってないということ。
「大魔王は、やはりここにはいないのか。
俺がそう尋ねると、侍従長デモゴルゴーンと名乗った白髭の老魔人がハイドラを叱責した。
「他言するなと命じたのに、しゃべったのかハイドラ」
「すみません。どうしようもなかったんです!」
ハイドラの謝罪の声とともに、宮殿のカーペットが汚れてしまう。
厳しい老人は肩を落とす。
「仕方があるまい。大魔王様の命とはいえ、我らとて降伏した身じゃ」
どうやら、ハイドラよりも事情を知ってそうな老人だ。
また尋問するかと思ったが、それよりも早く老人はとんでもないことを言い始めた。
「邪神アーサマの勇者殿、そなたらは海の向こうのユーラ大陸より参ったのじゃな」
「ユーラ大陸のことを知っているのか?」
「そなた達がこちらのアビス大陸に渡ったように、大魔王様はアビス大陸の伝承を集めて、人族達の故郷であるユーラ大陸と人族の女神を僭称する邪神アーサマのことを研究していた。それが同時期に起こったのは、やはり定めなのじゃろう」
「大魔王も言ってたな。定めとはなんだ?」
「宿命じゃ。ユーラ大陸は、混沌母神に逆らいし邪神アーサマの作りしもの。そして、このアビス大陸はそのユーラ大陸の鏡合わせにできた世界じゃと大魔王様は言っておられた。混沌母神様は、我らが何かすれば何事かを返す」
「観念的な話はもういい。なんで、それが混沌母神の復活をさせようって話に飛躍したんだ」
「太魔王様のお考えは遠大すぎてワシらにもわからん。ただ、それによって何が起こるかだけは誰の眼にも明らかじゃ」
「何が起こるんだ?」
「わからんのか勇者殿よ。この足元のアビス大陸そのものが、混沌母神様なのじゃ」
そういって、足元を杖で叩く老魔人デモゴルゴーン。
「いや、ちょっとそう言われてもわからんが……」
「混沌母神様をよみがえらせるということは、このアビス大陸そのものが立ち上がり、ユーラ大陸ごと邪神アーサマを滅ぼすということじゃ」
「おい、それって……」
「大魔王様の混沌母神復活の儀式が成った暁には、アビス大陸の上におるワシらも生きておれん。そして、世界最大の魔神と化した『アビス大陸そのもの』に襲われるユーラ大陸もまた滅びるじゃろう」
「そうか、それが世界を滅ぼすってことか。そんなことしたら全員死ぬじゃねえか!」
バカじゃねえの大魔王イフリール。
前からおかしいと思ってたけど、あいつ本当にヤバイやつだった!
この場にいる魔族達も、初めて知ったらしく老魔人デモゴルゴーンの言葉に驚愕していた。
大魔王イフリールが何か儀式をやっていることは知っていても、魔獣を出す儀式ぐらいにみんな思ってたらしい。
「幼少の頃よりイフリール王子にお仕えしたワシであるが、ここに至るまでお諌めすること叶わなかった不明を恥じる。どうか頼む。大魔王イフリール様を止めてくれ」
言われるまでもない。
もはや、一刻の猶予もない。
リアとの合流はまだだが、あいつもこっちに向かってるからすぐ追いつくだろう。
まず何よりも、混沌母神復活の儀式を食い止めることだ。
俺達は、この付近にあるという丘。
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