第213話「騎士長バーランド」

 魔国の人間とやらと誤解されて、街の門が閉じられてしまった。

 門番の兵士ぐらいどうとでもなるんだが、無駄に争うつもりもないので、責任者であるらしいバーランド騎士長とやらが来るのを待つしかない。


 警戒はしていたが、急造の物見櫓から矢が飛んでくることはなかった。

 なんか向こうは、過剰にこっちを恐れている感じがする。


 やがて、弓を構えた兵隊とともに銀色に輝く鎖帷子を着込んだ騎士が、外壁の上から覗きこんで叫んでくる。

 おそらくあれが、兵士達が言っていたバーランド騎士長であろう。


「そこの魔国の騎士、一体何の目的があって単騎でアンティルの街までやってきた。魔国の降伏を求める使者であれば、アビスパニアは絶対に降伏も帰順もせぬと伝えろ!」

「いや、魔国の使者とかじゃないっていってるだろ。俺は、シレジエ王国の王将、佐渡タケルと言う者だ!」


「シレジエ王国……聞いたことがない国だ!」

「ユーラ大陸から来たと言えば分かるか!」


「な、なんと……今一度言ってくれ。ユーラ大陸だと!」

「ユーラ大陸から来たんだよ! 俺は一応、アーサマの勇者でもあるんだけど、アーサマ教会ってここにもあるのか?」


 どうやら騎士長とやらは、ユーラ大陸に聞き覚えのある口振りだ。

 もしかしたら俺と同じように流れてきた人もいるのかもしれない。


 ここにもアーサマ信仰があって、教会関係者がいれば『白銀の羽根』を見せれば、少なくとも魔国とかいうところの騎士ではないと分かってもらえるはず。


「ちょっと待ってくれ」


 なんか、街壁の中がざわざわとしだした。

 やがて、閉ざされていた大門がギギッと音を立てて開く。そこから出てきたのは、髪に白いものの目立つ初老の騎士だった。


 近くで見ればなかなかの男前である。

 上級騎士らしく綺麗に撫で付けた髪は、元々は黒茶色だったのだろうが、白髪が増えてロマンスグレーになっている。


 口元の無精髭にも白いものが混じり、精悍な感じで渋い騎士だ。

 どうやらこの街の騎士は、俺のようにフルプレートの鎧ではなく鎖帷子を身に着けているのが普通らしい。


 バーランド騎士長はその上から革のマントを羽織って、革のベルトに長剣を差している。

 上品かつ颯爽とした身のこなしは、貴族的であり騎士としての腕も熟練であることを感じさせる。


 もしかすると、渋い見た目よりも、若いのかもしれない。


「部下が失礼した。確かに魔国の者なら、敵地の街の門をわざわざ訪ねるということはあるまい。本当に、ユーラ大陸から渡ってこられた勇者だというのならば。何か証となるようなものはあるか?」

「証なあ……そうだ、アーサマからもらった『白銀の羽根』があるよ」


 俺が、大事に持っている『白銀の羽根』を一本差し出すと、バーランドという騎士長は震える手で受け取った。


「これは、まさしく……失礼を致しました。どうぞお返しいたします」


 あれっ、これで信じたのか?

 こんな『白銀の羽根』ぐらい偽造できると思うんだが、バーランド騎士長は何か感じ入るところがあったらしく、簡単に納得してしまった。


「まさか、伝説にあるアーサマの勇者が来られるとは……しかも、差し出されたのが『白銀の羽根』とは、創聖女神のお導きかもしれません。どうぞ、アンティルの街の居城にいらしてください」

「それはいいんだけど、魔族のハーフの女の子は街に入れていいの?」


 魔族が人族に忌み嫌われるのは、ある種仕方がない面もあるとはいえ。

 ララちゃんは初めての拒絶でショックを受けている。誤解が解けたなら、謝罪してほしいものだ。


「勇者様のお連れの少女にも失礼しました、お詫びは幾重にも……お前ら、なにやってる! 絶体絶命の我々を救ってくださる方々かもしれんのだぞ!」


「へい、たいへんすみませんです……」

「勘違いして、申し訳ありませんでした!」


 自ら頭を下げたバーランド騎士長に強く促されて、先ほどのランツという若い兵士と、年配のレントン兵長が出てきて頭を下げてくる。

 ただの誤解で謝ってはくれているようだし、ララちゃんも大丈夫だと言ってるのでこっちも許すか。


「勇者様、私の不行き届きで申し訳ない。魔族のハーフだからいけないということはありません。魔族と血が混じっている人間は、この街にもたくさんおります」

「魔族との混血が多いなら、なんでこんな誤解をしたんだ?」


「魔族との混血と言っても、たいていは肌色が灰色っぽいぐらいでして、そちらの少女は少々異様な尻尾を……もちろん、よくよく見れば人間に近いと分かりますが。見慣れぬ大きな尻尾を見て、純粋な魔族と勘違いしてしてしまったようで」

「純粋な魔族だと、この国では拒絶されるのか?」


「我が国、神聖アビスパニア女王国は、創聖女神アーサマを信仰する人族の国です。ですがアビスはもともと魔族の多い土地柄でもありますので、魔族であっても無条件で拒絶するというほどではありません。ただ、いま我が国は大陸の魔国との戦争がありまして……兵士も気が立っているのです」

「それで俺達を敵と勘違いしたのか」


「一概にはいえませんが、異形な姿の魔族ほど強い力を持つものです。その少女の大きな尻尾を見て、即座に強い力のある敵であると判断してしまったのですよ」

「ふうむ、魔国というからには魔族の国もあると、そっちはもしかすると大陸にあるんじゃないか?」


「その通りです。アビス大陸と申します。私どもも、元々はアビス大陸よりこの島に逃げてきました。お詫びとともに、そこら辺の事情も詳しくお話ししましょう。立ち話もなんですので、どうぞお城までおいでください」


 それじゃあということで、街にある小さい城へと案内された。

 居城と呼ばれているが、館ぐらいの大きさである。街の大きさも、最初の印象ほどではなく小じんまりとした規模だ。


 街には古い建物も幾つかあるが、他はどこか急造という印象が拭えなかった。

 おそらく、人口は五千人もいればいいほうかな。戦争中のせいか、革鎧で武装している兵士の姿が多かった。


 通されたお城の応接間のソファーも、堅い革張りである。

 革製品の多さからみるにどうやら、生糸や羊毛があまり取れないらしいなと察する。


 それにしても城に人気がない。

 お茶も、バーランド騎士長が手ずから入れてくれる。紅茶じゃなくて、ミントティーであった。コーヒーや紅茶が手に入らないのかもしれない。


「まず正式にご挨拶をさせていただきます。私はこの神聖アビスパニア女王国に仕える騎士、バーランド・ハーラントと申します。いま私は、アビスパニアの将軍ということになっていますが、ついこの間まで騎士長でしたので騎士長とお呼びください」

「将軍だったら将軍って呼ぶよ。俺もさっきいったけど、ユーラ大陸のシレジエ王国って国の王将だから、同格ということになるだろう」


「さようですか。しかし、騎士長のほうが慣れてましてな。褒められた話ではないのです、他の騎士長も騎士団長も廷臣も将軍も、国の主だったものはみんな戦死しておりますから、たった一人生き残った私が騎士長兼、騎士団長兼、大臣兼、将軍ということになってしまっただけで、ハハハッ」


 そうバーランドは笑うけど、笑えねえよ。

 どうやら、とんでもない状況らしい。バーランドとしては、もう笑うしかないって感じなのか。


「しかし、ここのアビス大陸というのだったか、アーサマの神聖魔法の届かない土地だと聞いたんだけど。それでもアーサマ信仰があるってことは、ユーラ大陸からの渡来人ってことなのか?」


 バーランドは多少肌が浅黒いが、骨格は白色人種である。

 どうやら、俺よりも先にユーラ大陸から入植した人がいたらしい。


 大いなるシグス・マキヌスって、文明があるという噂も聞いたから驚きはしないけどね。


「勇者殿、ユーラ大陸に神聖リリエラ女王国という国はございますか」

「あっ、千年前に滅びた国だなそれ」


 千二百年前の話だ。酷幻想リアルファンタジーがあまりにも酷い状況であることを見かねた創聖女神アーサマが、実験的に女王リリエラに強大な神聖魔法を持たせて、統一国家を作ろうとしたことがあった。

 たった二百年で失敗して滅びたそうだが。


「なんと、千年も前に……私どもはその末裔でして」


 その話には、俺も驚いた。


「千年も前に新大陸に入植してたのか!」

「さようです。強大な神聖魔法を誇った不滅のリリエラ女王陛下は、この世界のあまねく土地に、創聖女神アーサマのご威光を広めようとなさったのです」


「ふうむ、それで失敗したと。いや、アビスパニアって国があるんだから失敗ではないのではないか」

「いえ、やはり失敗でした。この大陸に入植した当初から、神聖魔法が届かないことが分かっておりました。しかもこの土地には、創聖女神の慈愛も理解できぬ魔族が山ほどおります。この大陸は呪われた土地を意味するアビスの名を与えられて、入植計画は放棄されたのです」


 かつてユーラ大陸全土を支配した神聖リリエラ女王国は、強大な神聖魔法だけが取り柄の超大国だった。

 科学技術はどんどん劣化していったので、この神聖魔法が届かぬ土地ではどうしようもなかったというのもよく分かる。


「でも、バーランド達が残ったと?」

「取り残されたと言ったほうがよろしいでしょうか。帰る術も持たぬ私どもは、アビスパニアを建国しました。このアンティル島からアビス大陸に渡り、土着の魔族との生存競争に勝ち抜いて……なにせ千年の歴史でありますから一言では語りつくせませんが、アビス大陸の南半分の三州を有する大国にまでにもなったのです」


 物凄く壮大な歴史である。

 バーランドが見せてくれた地図をみると、アビス大陸を大きく六つのブロックに分けているらしい。


 北半分を東から順番に、モロク州、ニスロク州、タンムズ州。

 ここは、もとから三大魔国と呼ばれていた地域。


 南半分はダゴン州とリンモン州。

 そして、さらに南のバアル州が、もともとのアビスパニアの領土である。


 バアル州は、もう俺の世界だとアメリカじゃなくてメキシコに相当する位置だな。

 アビス大陸の州がブロック分けされているのは、どうやら人族同士が別の国に別れて相争ったこともあるようだ。


 魔族の国、魔国も同じように分裂して相争ってもいたらしい。

 そんでまあ、長い長い歴史のなかで北半分を魔族が、南半分を人族が支配する地域みたいな感じでまとまっていたそうだ。


 アビスパニアの地図には、伝説の大いなるシグス・マキヌスもちゃんと存在した。

 どうやら、俺の世界ではメキシコ湾であるところを、大いなるシグス・マキヌスと呼んでいるようだ。


 アーサマから与えられた強大な神聖魔法に頼りっぱなしの神聖リリエラ女王国がたった二百年で滅びてしまったのに対して。

 魔法も持たない見捨てられた少数の移民から始まった神聖アビスパニア女王国が、強大な魔族を相手に戦い続けて、知恵と勇気だけで千年の後も生き延びているというのは、歴史の皮肉を感じさせる。


「よくやったもんだ」

「しかし、それも過去の話となりました。つい三年ほど前のことです。魔国の一つニスロクの族長の子イフリールが、大魔王となったのです」


「大魔王って、ただの魔族の国の王ではなく力を持つものという意味だな。もしかすると、魔素溜まりを開いたのか!」


 ちょうど三年前というと。俺が勇者になった時期に近い。

 不気味な符合を感じる。


「魔素溜まりというのは、私にはわかりかねますが、大魔王の力を得たイフリールは、地より現れし魔族の祖より王たる資格を与えられ一夜にしてその身を赤き竜に変えたとも聞きます。我々が分かるのは、その日より魔軍が大海竜などの強大な怪物や魔獣を使役するようになったということだけです」

「そうか……」


 敵は、大海竜などの怪物を操っているわけだ。

 それは人間の兵では勝てない。


「大魔王イフリールは、その日より終末戦争を開始しました。強大なる魔力で瞬く間に三大魔国を支配下に置いて、アビスパニアにも攻めてきたのです。敗戦につぐ敗戦で、大陸三州を失って、我が国も残すところこのアンティル島だけとなりました」


「島だけになったなら放っておいてくれって話だけどな」

「大魔王イフリールは、創聖女神アーサマを打倒して、この世をアーサマの創聖前に戻すと言っておるのですよ」


「創聖前に戻すって、バカげてるぞ。そのイフリールは異界を知っていっているのか。そうなったら今の魔族も生きられないぞ!」

「大魔王は世界を滅ぼすと、我々の聖書にはありますな。大魔王と言うからには、アーサマの勇者と対になる存在だと理解しております」


 まるで最後の審判だな。大海竜には、審判の日に世界を滅ぼす海の支配者リヴァイアサンという別名もある。神獣ベヒモスやリヴァイアサン、あのクラスの怪物を世界に放てば、本当に世界が滅んでしまうかもしれない。

 終末戦争とは、北欧神話のラグナロクとか黙示録のハルマゲドンとかをやらかすつもりかよ。


 しかし、なんとも馬鹿げた話である。

 魔国も何考えてるんだ。人族と戦争するまではわかるが、自分の住む大陸を滅ぼしてどうする。自分も普通に死ぬだろ。


 おそらく、どこかでは歯止めをかけるつもりなんだが、俺の知っている魔素溜まりからでる怪物というのは人間に、いやそれが魔族から生まれた魔王であったとしても制御できるものではない。

 それでユーラ大陸の北限の地にいる魔族も酷い目にあっているのだ。たしか、異界と化した北の大地をどうすることもできず、北の魔王は引きこもりになっているとカアラに聞いた。


 赤き竜の魔王イフリールとは、魔素溜まりと通ずる異界の力をも制御できるほど、強力な大魔王ということなのだろうか。

 自分の住む大陸ともども自殺したい願望がある大魔王とか相手にするのは怖すぎるので、むしろそうであってくれとすら祈るけども。


 アビスパニアの領土だった、タゴン、リンモン、バアルの三州もすでに各地に大魔王から命ぜられた総督が立って魔国となっているそうで。

 そして、それら六大魔国を支配しているのが、世界を滅ぼす大魔王アンゴルモアイフリールというわけである。


 ふむ、地図でみるとアンティル島は、俺の世界だとキューバあたりだな。

 この島以外、もう全部魔国になっちゃったのか。


「そういや、アンティル島の開発があまり進んでなかったようなんだが」

「アンティル島は始祖の地ではありますが、国の中心が大陸のほうに移ってしまったのですっかり寂れておりまして」


「なるほど、それで開拓したてみたいになってたのか」


 植生も豊かなアンティル島を放置しておけるのだから、大陸のほうはよっぽど豊かなのだろう。

 畑を耕してたおばちゃんは金貨も知っていたし、鉄の鎧もあるってことは、鉱物資源もあるってことだろう。これは貿易相手としても期待できる。


「この島に逃れてから半年近く、古い建物を建て増し、逃げ延びた民にジャガイモを作らせて、なんとか飢えを凌いでいるのが状況でして……」


「それなら、椰子の実も採って食べるといいぞ。あれ美味しいから」

「そうですな……本来なら食料採集に出たいのですが、もし敵がけしかけてくる大海竜が現れたらと思うと恐ろしく、海岸に民をやることができなかったのです。海にさえ近づかなければ、襲われることはなかったので」


 それで、無人島みたいに見えたのか。

 椰子の実も放ったらかしになってると、まあ納得である。


 大海竜は確かに強敵だ。

 あれは、ユーラ大陸の伝説だと自然にいるものとなっていたが、どうも何らかの方法で魔国が意図的に操っているらしい。


 しかし、街や村に向かって大海竜をけしかけられないところをみると、細かいコントロールはできんのかもしれないが。

 ともかくそんな怪獣を使役する相手だと、弓とか槍とかではどうにもならない。


「それで、アンティル島に閉じ込められてしまってるわけか」

「勇者様は海を越えて来られたとおっしゃった。もしや、大海竜を倒したのではありませんか?」


 あれを倒したといえるのかな。

 どっちかというと飲まれたんだが、腹を割いてやったので死んでるかもしれない。


「まあ、状況によっては倒せないこともない」


 あの大海竜。今の俺にとっては、そこまで強大だとも思えない。

 たかだか二、三匹程度しかいなかったし、アビスパニアが滅ぼされていないところをみるとそんなに数はいないんじゃないかとも思える。


 陸に上がれば、追いかけて来られない生き物のようだし。

 一緒に発生する激しい嵐の影響さえ抑えられれば、普通にカアラの魔法や大砲の一斉射撃で倒せるだろう。


「どうぞ、我が国をお救いください。きっと、勇者様はそのためにアーサマから遣わされたのでしょう」


 いや、アーサマは俺に危ないから行くなって言ってたんだけどね。


「そう言われて、ハイそうですかと戦争に参加するわけにもいかないし、困ったもんだね」


 正直、他国との戦争に巻き込まれたくないんだよなあ。

 俺は別に魔族を敵とは思っていない。貿易相手としてみても、取引する国が魔国であっても一向に構わないわけだ。


 黙りこんでしまった俺を見て。

 バーランドは席を立つと、奥に向かって人を呼んだ。


「そうだ、ぜひ女王とお会いください。プティング! プティング! アモレット女王陛下をこちらにお連れしてくれ」

「えっ、女王がくるのか?」


 ここ応接間なんだけど。

 普通、謁見の間とかじゃない。


 そう思って俺も思わずソファーから立ち上がったら、現れたのは頭に頭巾をかぶった、エプロンドレス姿の若いメイドさんであった。

 いや、確かこの国は羊毛がなく布はどちらかというと貴重品っぽいので、これで豪華な服なのかな。


 おそらく二十代半ばのメイド服姿の若い女性は、赤ん坊を抱いている。

 白い布に包まれている可愛らしい赤ん坊は、クリクリの瞳で俺の方を興味深げに見つめている。


 俺も子供がいるので、赤ん坊をみると自然と和む。

 女王は子持ちなのか?


「そちらは、乳母のプティングです」

「あっ、じゃあもしかして……」


「この年端もいかない赤子、アモレット・アビスパニア・リリエラ様こそが、アビスパニアの第二十七代女王陛下です。そうして、もし勇者様がお救いくだされなければ、最後の女王となられるでしょう」


 乳飲み子を見せての泣き落としかと思ったが、うっすらと笑みすら浮かべているバーランドの口調は淡々としている。

 もはや、半ば諦めてしまっているのかもしれない。


「うーん、同情はするけどなあ」

「勇者様に、見ず知らずの国のために戦ってくれとは申しません。島より逃れる術をお持ちならどうか、アモレット女王と乳母のプティングだけでも一緒に連れて逃げていただきたい。女王陛下さえ無事なら私どもが全て滅びても、アビスパニアは形を変えて生き延びることができます」


 わが身を虚しくした忠義の言葉は、俺に耳にも心地よく響いた。

 女子供にも弱いが、俺はどうもこういう女子供のために命を張る渋いおっさんの願いにも弱い。


「アビスパニア最後の女王か」


 ゲルマニア帝国には幼女皇帝というのもいたが、ついに乳児女王が出ちゃったかって感じだね。

 大陸の首都が落とされて島まで逃げてきているのだから、王族や貴族もみんな死んでるというのは分かるが。


 乳飲み子が一人で女王様とは哀れなものだ。

 乳児女王、アモレットはその手に何かキラキラしたものがあるなと思ったら、アーサマの『白銀の羽根』を持っていた。


 これこそが、アーサマによって祝福を受けた女王リリエラの子孫の証であるという。

 なるほど道理で、俺が『白銀の羽根』を見せたら、途端にアーサマの勇者だという言葉を信じたはずだ。


 バーランドではないが、これには俺も運命の導きというのを感じざるを得ない。

 せっかくユーラ大陸が平和になったから新大陸探検に来たのに、また戦争とは困ったもんだが、こういう運命なのかなあ。

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