第205話「聖都ラヴェンナ」
シェバ族のところに一晩泊まってから、俺はハダシュトの港へと帰ることにした。
その前に、デ族長と相談して借りている
そして、砂原砂漠に点在するルビーやダイヤモンド鉱山の採掘もなるべくお願いする。
「では、交換レートはこんなものでお願いします」
「ふむ、ワルクない」
シェバ族は、取引できる交易品が豊富に存在する。
魔宝石、ルビー、ダイヤモンド、金、
こちらも、シェバ族が欲しがる砂糖や小麦粉、織物などの日用品をたっぷりと用意して、なるべく独占的な取引をお願いすることにした。
まだこちらの贅沢品を売るには早いので、基本の生活レベルを上げていかないといけないな。
本当なら、シェバ族のところに直接支店を置きたいのだが、
ハダシュトのマルカス提督と交渉して、佐渡商会の支店を置かせてもらうことで代用する。
将来的には、
商売の道も一朝一夕にはならず。
今はなるべく、交易の機会を増やすようにお願いする。しかないね
みたところ、厳しい環境で寿命が短いせいか
食料をどんどん送り続ければ、
「というわけで、これからはより活発な取引をお願いしたい」
「コチラからも、モウひとつ、オネガイよいか」
そう言うと、デ族長は小さな
あれ、この子は上半身は人間とほとんど変わらない。
いや、オラケルと同じように魔族と人間との間の子にできる灰色っぽい肌をしている。
やはり人間の血が混じってるのか。
お尻からは特徴的なトカゲの尻尾が生えている。
これは、竜乙女ドラゴンメイドのような半竜神ドラゴンハーフか、もっと複雑に血が入り混じった混血児なのだろう。
この子を見るからに、人間と魔族である
相手が人族か魔族かは知らないが、デ族長の言う『遠くの血』が混じったハーフレプティリアンの女の子。
なるほど。俺は傭兵に来る
実際に本拠地であるシェバの村にくれば、
彼らは寿命が短く繁殖力が旺盛である。異種族の血を混ぜることによって、爬虫類人レプティリアンは種族として新しい可能性が見出そうとしているのかもしれない。
そりゃ俺にも交配して、子孫を残せと言うわけだ。しかし、トカゲ型の爬虫類人レプティリアンとやった人間がいるとは物好きな。
もしかしたらこの子の父親は、ここに以前来たことがある上級魔術師のレブナントの奴かと思ったが。
さすがに十二、三歳ぐらいの容姿なので、計算が合わない。
「ワタシのムスメのムスメだ」
「つまり、孫娘ってことか。この子が何か?」
「キタの人に預けたい」
「預けるって、どういうことかな」
「この子は、外のセカイに興味がある。見せてやってクダサい」
「えっと、ああ……そういうことか」
このハーフレプティリアンの少女は、デ族長の孫娘である。
その子に外の世界を見せたいというのも、まあ本当のことなのであろう。
それ以上に、大事な孫娘を預けることで、俺がこれからずっと信用して取引できる相手か調べようって魂胆なのだ。
竜乙女ドラゴンメイドの姫であるアレが、カスティリア王国に客将として渡ったのと一緒の理由である。
結果的に、アレはカスティリア王国を資格なしと見限ってシレジエ王国を選んだ。
こちらの器量が試されている。
「ドウだ、オネガイ、デキるか」
「うん、分かった。信義にかけて、お引き受けしよう」
「ヨカッタ。ワタシは、キタの人がキニいったから、ナカヨクしたいのだ」
「うん、ありがたい話だ。俺も仲良くしたい」
「ナカヨクすれば、子もデキるであろう?」
「えっ」
「イチゾクの血に、キタの人の血も入れてみたい」
「それは、ちょっとどうだろうか。ハハッ……」
ちょっと考えてたのと違うぞ。
まあ、いいか。
チョコンとデ族長の隣に座っている、まだ幼さの残るハーフレプティリアンの少女は年の頃はまだせいぜい十二、三歳である。
子供なら連れて行っても、まさか繁殖を強請られることはあるまい。
昨日、危うく一緒の閨ねやに入れられそうになった蛇女っぽい
子供なら安心だ。
「じゃあ、君も俺についてくるといい。俺はシレジエ王国の王将、佐渡タケルだ。君の名前を聞いておこう」
「ラ……、ラ・シェバ・デバ」
「ララちゃんか」
「ラ・シェバ・デバ。ララが呼びやすければ、そうでもいい」
族長のおじいさんが、デ。
孫娘の
どうやら、シェバ族というのは名前にあまりこだわりがないらしい。
何はともあれ、ララちゃんという新しい仲間を引き連れて、俺はカアラの飛行魔法で帰ることとなった。
カアラが俺を持って、俺がララちゃんを抱えて飛ぶという極めて不安定なフライトであったが、さほど距離がなかったのでなんとかなった。
※※※
街に戻ってみると、ハダシュトの小さな港がドレイクが拿捕した海賊の船でいっぱいになっていた。
小型のガレー船が主だが、大型帆船であるジーベック船も……八隻を数える。
何をやったドレイク。
……というか、港を見れば一目瞭然だけどさ。
「ドレイク……これはやり過ぎだろ」
「ウハハハッ、ちょっとやり過ぎちまったかねぇ」
この調子である。話に聞いたら、五回の出撃で五連勝。
そりゃ、ここいらの海賊なんて大砲持ってないし、潰して脅して有り金絞り上げるのが楽しかったのだろう。
本当にもう、どっちが海賊なんだよって感じである。元海賊の血が騒いじゃったんだろうな。
まあ相手はならず者の海賊だ。戦利品を稼いでくるのはいい。問題は、拿捕した大量の船のほうだ。
もともと、シレジエ外洋艦隊は、長期航海が予定されているので、戦闘員をさほど多くは積んでいない。
この数の船を運ぶといっても、余分な船員はない。
まさか捕虜にした海賊を、そのまま船員に使うわけにもいかない。
ハダシュトの小さな港では、雇える船員の数が圧倒的に足りない。
結局、拿捕した船はそのままハダシュトの街であずかってもらうことにして、ジャン・ダルランの第二艦隊を呼び寄せることとなった。
本国のナントの港から船員を満載してもらって、ここまで来てもらうことになる。
ジャン提督だって通常業務に忙しいのに、わざわざハダシュトの港までの航海はいい迷惑であろう。
まあ、そう言ってもしょうがない。
もともと補給艦が中心の第二艦隊は、シレジエ海軍の二大武闘派であるメアリード提督とドレイク提督のサポートが主な業務であるわけで。
これも、仕事のうちと諦めてもらうしかない。ジャン提督には、毎度面倒をかける。
「まあ、ものは考えようか。佐渡商会のアドレア海進出はもともと考えていたから、計画が早まっただけだ。ガレー船を護衛艦、ジーベック船を商船に改造して、アドレア海での商取引に使ってしまうのもいいだろう」
ジーベック船は大型帆船であり、搭載量が多くて交易に使うのに都合がよさそうだ。
これで外洋に出るのは、ちょっとキツそうだがな。
「だろ、それだよ王将! 俺ァ、それを考えて動いてたんだよなー」
俺の言葉に救われたのか、義足のほうの膝を叩いてカカッと笑うドレイク。
分かったから、もうこれぐらいにしておいてくれ。
付近の海賊を撃滅してくれたことに、最初は喜んでいたマルカス総督も、拿捕した船で港が満杯になってきたことで、微妙な感じになってる。
捕虜にした海賊を閉じ込めておく牢獄も、もう空きがないそうだ。
もともと、ハダシュトの街はそんなに大きくない。
何事にも、限度というものがあるのだ。
これからこの港にも佐渡商会の支店を置いて、末永く商売するつもりなのだ。
港を借りている迷惑料も兼ねて、マルカス総督には拿捕したガレー船を多少譲ることも考えておくべきだろう。
マルカス総督の警備艇が増えれば、経費は総督持ちで港の安全度が高まる。
それも悪い判断ではない。
※※※
ジャン提督の第二艦隊待ちで、時間ができたから黒杉軍船の魔方陣からまたシレジエの王城に戻って、オラケル達と遊んでいると、リアがやってきた。
またふざけたことを言いに来たのかと思えば、やけに真面目である。
「タケルは、やはりユーラ大陸の外へ行かれるのですね?」
「そのつもりだ。欲しいものがあるからな」
俺が欲しいのは、ジャガイモやトウモコロシのような新しい作物なのだ。
小麦が主体であるユーラ大陸にも、新大陸にあるはずのエネルギー効率の良い作物が入れば、特に大陸の北方地域で問題となっている飢餓を解消することができる。
今の黒杉軍船でも、内実はガレオン船に過ぎない。
長距離航海が危険なことは分かっていたが、それでも行くと俺の覚悟が堅いと見たリアは、こう提案した。
「この世界の始まりの地、聖地ラヴェンナに行きましょう」
「教皇国の首都か、どうして?」
「アーサマがタケルを呼んでいます」
「話をするだけなら、いつもみたいにお前に降臨するのではいけないのか」
「それが、特別な神託を授けるので、始祖の聖地まで来て欲しいとのことです。女教皇聖下の招待状も届きました」
「ラヴェンナは、聖地なのか。まあ行けと言われたら、ついでに済ます用事もあるし構わないが」
教皇国ラヴェンナのあるタリア半島は、ハダシュトの港からそう遠くない。
その首都であり、聖地ラヴェンナは港街でもあるので船で行ける。
タリア半島の根本あたりのラヴェンナの港に行くついでに、寄り道して砂糖と穀物を買い込むのも良い。
その中間地点にあるシシリー島は、ラヴェンナの穀物倉庫と呼ばれており、小麦を安く買える。
「ではお願いします」
「うん、では艦隊をタリア半島の港に向ける、そこからラヴェンナに行こう」
アーサマの神託か。
これから、遥か西方の新大陸へと旅立つのだ。
おそらく、それについての話。
聞いておいて、損はないだろう。
※※※
そういうわけでやってきました、聖ラヴェンナ教会
特に急ぐ必要もないので、船団を引き連れてそれでも二日ほどの船旅である。陸路に比べて、船は早い早い。
俺の外洋艦隊は、正式に女教皇聖下から招待状を貰っているので、歓迎されたがやはり魔族が混ざっているとギョッとされた。
そうか、ここは聖都だから魔族はマズいんだな……。
さすがにアーサマ教会の本拠地に魔族を連れて行くのは難しいようなので、一緒に付いてきた
俺は、リアに連れられて神殿への坂を登る。
「リアは、よく道を知ってるんだな」
「わたくしも、伝道修道女となり、勇者認定三級を授けられたときに一度来ただけですけどね」
本当は聖女認定されたときも来なければならなかったのだが、そんな時間がなかったという。
いろいろ忙しかったしな。リアも、俺と結婚してシスターを辞めていなければ、大きな街の教会を一つ任されてもおかしくないほどの幹部になっていたのだ。
陸に上がって、丘の上にある壮麗なる白亜の神殿が、アーサマ創聖の聖地ラヴェンナであった。
神殿に入ると、天井にどでかく色鮮やかなフラスコ画が描かれている。
芸術には興味ないので、まず出てきた感想としては「金かけてるなー」である。神殿を支える桃色がかった大理石の柱の一本にしても、これどこから運んできたんだよというほど立派である。
随所に描かれている精密な壁画については、その美術的価値は計り知れない。
タリア半島は温暖湿潤のうえ海があるので商業も活発なようだし、アーサマ教会のご本尊に集まっている寄付金は莫大な額になるだろう。
こういうぶっといパトロンがいるから、工芸や美術レベルもあがるはずだ。それが特産品となり、さらに街が栄える。経済と文化の好循環である。
宗教家は、王様より、商人より、ずっと儲かる商売なんだよな。
まあ、今更教祖になるつもりはないが。
「おい、勇者」
「えっ、なに?」
「こっちだよ!」
「子供?」
神殿の聖職者に案内されて、女教皇の間という場所に案内されて進んでいると、幼女に服の袖を引かれた。
ブカブカの白いローブに、またブカブカの金糸で飾り立ててるケープを着込んでいる。
豪奢な服に着せられてるって感じの幼女である。
周りの反応で、さすがに勘の鈍い俺も大体読めた。
「ちょちょーちょっと! タケル、何失礼なことを言っちゃってるんですか。この方は、是非もなくアーサマ教会の信徒の頂点に立たれる、ラヴェンナの女教皇、アナスタシア二世聖下ですよ!」
「えー、やっぱりそうなのか……」
柔らかい白銀の髪の上に、頭にちょこんと花冠を乗せている。どう見ても、ただの頬がぷっくらした可愛らしい女の子である。
年齢不詳がうようよしているアーサマ教会のシスターの頂点なので、見た目がどれほど可愛らしく、声が甲高くても、見た目だけで判断しちゃいけないのは分かるが。
これは女教皇というより、幼女教皇だよ。
ただの豪奢な聖衣に着せられている幼い女の子が、
そうか、アーサマ教会の幹部って上ほど若いと思ってたけど、頂点はロリババアなのか。
オラクルとキャラかぶるなあと、俺は内心で思ったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます