第195話「様々な船」

 軽く十人は眠れそうな後宮の巨大ベッドの真ん中で、俺は眼を覚ました。

 外を見ると、カーテンから明かりが差し込んでいる。時刻は昼間か、午後になってしまったかもしれない。


「ううん……久々によく寝た」


 本当に、久しぶりによく寝たという満足感が身体に充溢している。

 薬で無理やり高められたものではない、自然な回復。


 国の公式行事でみんな忙しくしている最中に、休ませてもらうのは少し申し訳ない気がするが、無理をし過ぎて倒れてしまってもしょうがない。

 たまには、惰眠を貪るのも良いものだ。


 一緒に寝ていたはずのリア達は、もう後宮のベッドからはいなくなってた。

 あいつらは、俺が国際会議に出ていた間に寝てたからな。


 俺と一緒に遅くまで、惰眠を貪っていたのはシェリーだけだった。

 俺が妻達に襲われないように、お守り代わりになってくれたシェリーには感謝しなければならないのだが。


 俺に寄り添って寝ているシェリーの様子がちょっとおかしい。


「はぁ……はぁん」


 頬が赤く染まっていて、息が荒いように思える。

 うわ言のように何かつぶやいてるので、慌てて飛び起きた。


「大丈夫かシェリー?」

「ふぅー、ふっー、ふうんっ……お兄さま」


「大丈夫か、具合よくないのか」

「えっ、ああ……そうです、ちょっと具合が悪い……です」


 やはり昨日の無理なドーピングが、子供にはよく無かったのか。

 どうしたら良いか分らず慌てる。


「どこか、痛むのか」

「ちょっとムズムズするんです……はぁん」


「誰か呼んでくるか? それかそうだ、回復ポーションを飲むか?」

「回復ポーションはダメです! ……それではきっと治りません。それより、お兄さまがお腹をさすってください。早くぅ……」


 うーん、疲労などは回復ポーションでも取れないし、竜肝の丸薬などで具合が悪くなったのだから自然治癒しかないってことなのかもしれない。

 シェリーはこう見えても天才チートなので、魔法学にも造詣が深い。


 自身には魔力がないのに、魔宝石を使った砲弾をデザインできるほどのシェリーが言うのだ。

 何か意図があるには違いない。とりあえず、指示に従う。


「そうか……こんな感じか」

「はい、良い感じです。気持良くなってきました」


 寝やすいように、シェリーも寝間着姿になっているので服の中に手を差し入れて触るのは簡単だ。

 治療はお手当てとも言うから、魔術的なドーピングで乱れた体調は、人にさすられると良くなるのかもしれない。


「なあ、でも……逆に具合悪くなってきてないか」


 手で触れたシェリーの柔らかいお腹は、さするほどに熱を帯びてくる。


「大丈夫、です……。今度はもっと上の方をさすってください。もっと上です、もっと上、そこです! そこを強くさすって……ふわぁ」

「ここはお腹じゃなくて、胸じゃないか」


 触れた柔らかい肌から、シェリーの心臓がバクバクと高鳴っているのを感じる。

 明らかに不整脈。この胸の動悸は尋常ではない。呼吸も荒いし、本当に誰か治療の専門家を呼んできたほうがいいのではないか。


「もう、強くさすってって、いったじゃないですか。お兄さまが、そうしてくれたら絶対に良くなりますから」

「あっ、ああ……」


 俺は言われるままに、なるべく胸の柔らかい部分には触れないようにその合間をさすることにした。

 ちょっと悩ましい感じがするが、医療行為ではあるのでなるべく意識しないように心臓マッサージに集中する。


「ううーん。もどかしい手つきです……。じゃあ、今度は下に……もっと下に手を」

「こうか……なあ、シェリー。やっぱりお腹が痛いのか?」


 さすがにシェリーとはいえ、胸をさわれというのには抵抗があったので助かった。

 お腹なら、悩ましい感じはしない。


「お腹がムズムズするんです。さすってくれたらムズムズが良くなるんです。もっとリズミカルに、円を描くようにお願いします」

「こうか……」


「ううん、だいぶよくなってきました。お兄さま、お上手です。今度はもう少し、下腹部のあたりをお願いします」

「こうか?」


「ああいいです、そこをもっと強く、もうちょっとだけ下に」

「下?」


「そこのもうちょっとだけ下に手を差し入れて、強くこすってください!」

「もっと下の方を……って、シェリー。もしかして、俺をからかってないか?」


 下腹部より、下に行ったらマズいだろうが、常識的に考えて。

 頬を上気させたシェリーは、なおも俺に下に下にと繰り返し要求してくるので困ってしまった。


「私は真剣です、これが嘘や冗談を言っているように見えますか。ムズムズして、苦しいんです、本当なんですよ!」

「いや、嘘も何も……」


「お兄さまがそうしてくれたらすぐに治るんです。助けると思って、あと少しなんです、後生です……」

「いや、ちょっと待てっ!」


 腕をがっちりと掴まれては逃げられない。

 さすがにまずいので俺は手を引き戻そうとするが、ギシギシッとベッドを軋ませて、びっくりするほど強い力で引いてくるので参った。


「お兄さま、お願いします! そうだご褒美! 今回のご褒美権を、ここで発動しますよ!」

「それでもダメだってっ!」


 いかに可愛いシェリーのおねだりでも、これは聞けない。超えちゃいけないラインがあるから、断固として拒否する。

 この不毛な綱引きは、シェリーが妥協して背中とお尻をさすることで許してくれるまで続いた。


「ああ、お兄さま、楽になってきましたよ。ああっ……そこもいい感じです。あと三十分ほどさすってくれれば、スッキリと治りそうです」

「そりゃ良かったなあ……」


 こういうことになるとすっかりワガママになるシェリーの注文は、そこをリズミカルにさすれ、ここを強く揉め、後ろから抱っこしてイイコイイコしろだのと延々と続き。

 たっぷり三十分もマッサージさせられてしまった。


 シェリーが治ってから、さすって治るのなら俺がやらなくても、他の者を呼べば良かっただけだと気がついても後の祭りである。

 ともかく、竜肝の丸薬は危ないので乱用には気をつけよう。子供には、毒になるようだ。


 ゆっくり休めて元気になったはずなのに、また朝から少し気疲れしたような……。

 だがまあ、シェリーは短い時間でも俺を独占できたと機嫌良さげだし、頑張ってくれているシェリーが気分良くなったんなら、それでもいいんだけどさ。


     ※※※


 起きだして正装に着替えると、すでに午後も遅い時刻となっていた。

 手早く軽い食事を済ませると、ちょうど来賓を送って帰ってきた『飛行船』が王宮の中庭に到着するところだった。


 そう飛行船……シレジエ王宮の中庭に、ゆっくりと空飛ぶ船が降り立つ。

 飛行船と呼ぶにはまだ旧式すぎる構造かもしれないが、楕円形型の気球にゴンドラを吊り下げた姿はそう呼べる外観ではある。


 正直なところ、飛行船が牽引できるゴンドラはまだ小さい。

 客室には、十人乗せるのがせいぜいだ。


 カアラとオラクルに、籠を担がせて浮遊するよりはだいぶマシだが。

 小型の飛行船が運べるゴンドラは、各国使節を乗せるスペースとして辛うじて面目が立つ大きさである。


 飛行船の気球の中には、水を電気分解して作った水素を充満させている。

 本当は、ヘリウムガスが使えれば良かったのだが、ユーラ大陸では見つからなかった。水素の問題点は、燃える。……というか、火がつくと爆発する。


 飛行船ヒンデンブルグ号が静電気で発火して、爆発、炎上したのは有名な話である。

 竜のブレスか、火の魔法で攻撃されたらひとたまりもないので、安全性は低く軍事用にはとても使えない。


 安全のためと、風の魔法でスムーズに移動させるために。

 カアラかオラクルちゃんが船長として必ず乗船する規則になっている。


 今のところ飛行魔法の補助がないと、とても使えるものではなく。

 飛行船がすぐ飛行機に取って変わられた歴史を見れば分かるように、しっかり作ったところで、民需用としても実用性はそう高くない。


 そのため、気球や飛行船の計画だけは前から作ってあったのだが、実際の製造は今日まで延期になっていた。

 今回、何のために試作したのかといえば、各国大使に向けてのデモンストレーションのためだ。


 噂が駆け巡る速度は、飛行船よりもずっと早いことを俺は知っている。

 シレジエには、空飛ぶ船があるという風評を各国の大使に広めさせることで国威が高まる。


 長い訓練を受けた竜騎士や上級魔術師でなくても、普通の人間が空を飛べる夢の乗り物。

 新しい文明を目の当たりにした各国大使は驚いて、国元でシレジエという国の技術の高さを語り、友好関係を深めるように進言してくれるだろう。


 すっかり女王然と、綺羅びやかなドレス姿のシルエットが飛行船のタラップを降りてくる。

 今朝から、エリザ達ゲルマニア帝国の使節団をエスコートして帰ってきたのだ。


「シルエット、ご苦労様」

「タケル様の妻として当然のことですわ」


 ユーラ大陸連盟会議も終わり、本来なら俺も帰国する各国の代表を見送る立場なのだが、それはシルエットやニコラ宰相に任せっきりになってしまっている。


 ニコラ宰相のほうは、大陸中央部にある隣国ローランドの王族貴族を飛行船で送っている途中らしい。

 実質はともかく、俺は立場上あくまで王配おうはいの立場なので、シレジエ王国の公式外交を宰るのは女王と宰相である。


 役割分担は大事だと分かっているのだが。

 シルエット達が国の代表として忙しくしているのに、一人でのんびりと眠ってしまっていると少し申し訳ない気分になる。


「いつも苦労をかける」

「あらわらわは、楽しく女王をさせていただいております。自らの成すことが、妻としてタケル様の御為おんためになるならば、何をしていても嬉しいのです」


 殊勝なことを言うシルエットに報いるものがないのは悲しい。

 俺は、できた妻を優しく抱きしめるとキスをした。


「これが終わったら……って、何度も言うが、シルエットと二人でのんびりと過ごしたいものだ」

「ええ、忙しくて一緒に過ごせなかった分もたっぷりとお願いしますね。それも楽しみにしておりますが、そのためにも世界が平和であってくれなくてはいけませんね」


 そういうと、シルエットはクスクスと笑う。

 こうしている間にも、飛行船には水素ガスが充填されているところだ。


 シルエットばかりに外交の仕事を任せていては申し訳ない。そろそろ俺の出番だろう。

 二台の飛行船が王都に戻り次第、今度はナントの港まで海に面した国々の使節団を送る予定であり、それには俺も同船することにした。


     ※※※


 海に面した各国大使を飛行船で、ナントの港まで送迎する。

 もちろん、港で降ろして終わりということはない。


 シレジエ唯一の国際貿易港として改装中のナントの街からは、黒杉軍船で各国使節を母国まで送る。

 本当はレブナント達、カスティリアの大使も送っても良いとは申し伝えてはあったのだが、逃げ帰るように自力で港まで行って自分達の船で帰国してしまったのは、さすがにバツが悪かったのだろう。


 ナントの街まで移動してもらうのがちょっと回り道になってしまったが、飛行船の飛距離がブリタニア同君連合まで届かないのだからしかたがない。

 カアラ達が乗っているから、飛行船のガスが抜けても平気と言っても、海の上に不時着したら大変なことになる。


 ちょっと回り道にはなったが、帆船でも風魔法で急がせることができるので、一日も経たずにブリテイン大島まで着くので時間はそう変わらない。


 エーレソン海峡を通って、スウェー半島の自治都市アスロを経由して、ゲルマニア内海の奥地にあるラストア王国の港まで行くのも、もう一日もあれば余裕だ。

 そう考えると、ユーラ大陸も狭く感じる。


 黒杉軍船もそうだが、外洋にも出られるガレオン船の威容は各国を驚かせた。

 海に面した諸国に、シレジエの強大な海軍力をアピールしておくのも悪くない。


 もちろん平和外交を進めるに当たって示すのは、海軍力だけではなく文化の豊かさも欠かせない。

 豪華客船とまではいかないが、黒杉軍艦をいずれは民需用にも使うための試験も兼ねて各国の来賓を迎えるために内装を整えさせている。


 最高級品の天鵞絨ビロードで飾り立てられた船室には、ランクト公国より運ばせた絵画などの美術品を並べて飾りつけてある。

 できればシレジエ王国産で統一したかったのだが、やはりランクト公国のほうが質が良い。料理を盛る皿や器も、ランクト産の白磁器である。


 ワイングラスは、高価なガラス器で有名なラヴェンナ教皇国産。

 ただその中身は、ナントの街の特産品でもある良質のワインやブランデーであった。


 やはりシレジエは農業国なのだ。大事なのは器より中身。各国大使に、美味い酒や料理を存分に味わってもらって、貿易の拡大へと繋げたい。

 そのために、出す料理にも趣向を凝らした。


 今日の材料は、海で手に入る新鮮な魚介類が中心だが、俺が工夫した新しい調理法がある。

 ブリタニア同君連合の、『キング』アーサーがもりもりと料理を食べているので嬉しくなって声をかけた。


「アーサー、料理楽しんでくれているか」

「ああっ、相変わらずシレジエの飯は美味いが、この海老や貝は物凄く美味いぞ」


「口にあったようでなによりだ」

「ただの野菜を食べても、いままでにない濃厚な旨みが口の中に広がる。これは……ソースが違うんだな。一体どういう味付けをしているんだ?」


「それはオイスターソースを使った料理だ」

「オイスターソース?」


「調味料に、干し牡蠣の汁を煮詰めたものを使っている……と言えば分かるかな」

「これが干し牡蠣だと! そうかどこかで味わった気もしていたが、牡蠣がこんな濃厚で深い味わいになるとは信じられない。どうやったか知りたいものだが……」


 牡蠣は、アーサーの母国ブリタニアの特産品でもある。

 実はアーサーから引き出物にもらった干し牡蠣を使ったのだ。


 オイスターソースの作り方は、ちょっと手が込んでいる。

 干し牡蠣を塩茹でした煮汁を濃縮し、小麦粉で濃度を調整しながら、ネギと生姜と砂糖を加えて調味した。

 そのレシピにたどり着くまでに結構苦労したので、タダでは教えたくない。


「牡蠣の旨みを凝縮させるとそうなるんだ。まあそこは、佐渡商会の秘伝のソースってことでな」

「ふうむ、さすがはシレジエの勇者、佐渡タケルだ。まさか飯でも驚かせてくれるとは愉快。秘伝ならば、簡単には教えてくれないか。よーしさっそく大量注文してやるぞ! それでうちの料理人にも研究させてみよう」


 オイスターソースは、アーサーの他にも美味しいという意見が多く、大量に買い込んでいく大使が多かった。

 ブリテイン大島で牡蠣を買ってオイスターソースを作れば、新しい貿易用の商品になるかもしれない。


「それよりアーサー、ピラフの味はどうだ?」

「うん、これもオイスターソースの味付けだな。美味いんじゃないか」


 どうしてもお米を味わって欲しかった俺は、オイスターソースを使ってシレジエ海老やシレジエ貝を使ったピラフを作っている。

 ピラフはフランス料理だが、もともと米を炒める料理は世界各国で親しまれている。


 オイスターソースを使って油で炒めた米ならユーラ大陸人の口にも合うらしく、ようやく美味しく食べてもらうことができた。

 米の美味しさを知って、南の地方の国にはぜひ育てて欲しいのだが、時間がかかるだろうなあ。


 いずれは、北ユーラ大陸でも普通にお米が食べられるようになるといいのだが、そちらにかんしてはまだまだ先が長そうだ。

 まあ、それも先の楽しみということで。


 久しぶりに会ったアーサーと飯を食いながらワインを酌み交わしていると、突然ドンドンドンドンと太鼓の音が響き渡る。

 何が始まったかと思えば、船の真ん中で半裸になったニコラウスが、多数の神官とともに(全員ムキムキの男)ねじり鉢巻を巻いて太鼓を乱打している。


「ニコラウス、お前どっから現れた!」


 いつ来た?

 乗船しているのに気が付かなかった。額の汗を拭きながら、俺に祝辞を述べるニコラウス大司教。


「シレジエの勇者様の晴れの舞台と聞きまして、はるばるとゲルマニアから海の上まで祝福に駆けつけました、ソイヤッサ!」


 太鼓のバチを左右に構えて、謎のポーズを取るニコラウス。

 なにがソイヤッサだよ。ソイヤッサってそういう意味じゃねえよ!


「……お前もしかして、これだけのためにここまで来たのか」

「ハハハッ、どうぞお気遣いなく。祝いの席といえば私が居なければ始まらない、ソイヤッサ!」


「始まらないって、もう終わりかけなんだが……」

「ヘイヘーイ、お気になさらず。私なら万里の道も神聖魔法でひとっ飛びですからね。ソイヤッサ!」


 だから、ソイヤッサじゃねえよ!

 お前が平然と飛んできたら、俺が作った飛行船の凄さが薄れるだろ!


 俺の気も知らず、男気溢れる筋骨隆々とした背中をこちらに向けて、見事な白銀の翼を見せるニコラウス大司教に呆れる。

 アーサマも、こんなくだらないことに高位の神聖魔法力を使わせて良いのか……。


 そもそも、魔王竜が出たのはお前のところの領土だろ。

 魔王竜退治に間に合わなかったのはしょうがないと百歩譲っても、魔王竜の死体の浄化をアーサマ教会総出でやってるんだよな。


 なんでそっちに行かずに、ちゃっかりパーティーの最後にお前が参加してるんだよ。


 俺のいろいろなツッコミを無視するかのように、盛んに打ち鳴らされる新教派ホモ・テスタントによる太鼓の演奏。

 太鼓の音に合わせて、ニコラウスが両手でくるくると回すバチさばきも見事であった。


 ホモ大司教は、飛べるから分かるとしても、この大きな太鼓と屈強な神官達はどこから……。

 そういえばナントの街にもでかい大聖堂があったな。俺が気が付かないうちに、現地の神官が船に乗り込んでいたのか。


 新教派ホモ・テスタントの影響は、すでにナントの街の教会にまで浸透しているのか。

 俺の胸に不安が広がっていく……。


 そんな心配を他所に、熱い男達による意味不明な太鼓の乱れ打ちは否が応にも盛り上がり、各国使節には大受けのレセプションになった。

 各国の高官から「これが噂に聞くノルトマルクの大太鼓……いやぁ、お見事ですなあ!」「さすがは大司教猊下、ソイヤソイヤ!」と褒め称える声が聞こえた。


 豪奢で上品な船上パーティーが、祭りの雰囲気に塗りつぶされた。オーディエンスの盛り上がりは怖いぐらいだ。

 おーいもう、アーサマなんとかしてくれよ!


 この奇祭が、普通に女神を祀る儀式として喜ばれるんだから、ユーラ大陸人の感覚が分からなくなる。

 アーサマ教会関係者がどんな奇行をしても、そのたびに尊崇の念が深まっているのだ。


 アーサマ教会は、何らかの洗脳魔法を使っているのではないか……。

 俺は、前からそういう疑いを抱いている。


 あと、あきらかに美味しいところを持って行こうとしている。

 毎回ホモ大司教は、どうしようもない。


「まあ、今日は最終日だ。盛り上がってるなら、もうなんでもいいか!」


 目的の交易のほうは上手く行きそうだから、細かいことはいい。今日だけは無礼講にしてやる。

 そんなに人気なら、和太鼓もうちの国で製造して売ってしまえ。


「ほら、シレジエの勇者様も御一緒にぃぃ、ソイヤッサ!」

「あーもうぉぉ……ソイヤッサ!」


「おおー勇者様もやりますなあ、ソイヤッサ!」

「この踊りも素晴らしい、ソイヤッサ!」


 両手にバチを持ったニコラウスの謎のポーズに対して、俺が繰り出したやけっぱちの阿波踊りに、オーディエンスからさらなる歓声があがった。

 俺達の真似をして踊ろうとしている東方の大使もいて、さらなる笑いが上がった。


 俺も今日はちょっと酒が入ってるし、みんな船と酒にしたたかに酔ってるのでノリノリである。

 この分だと、シレジエ王国が海に開いたルートを通して、新教派ホモ・テスタントの奇っ怪な教義まつりが、ユーラ大陸全体に広がっていくかもしれない。


 これも、世界に巻き起こった新しい変化と言えるかもしれなかった。

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