第194話「たまにはゆっくりと」
風呂、風呂かあ……。
毎回ロールを捕まえて洗ってやるのが作法なのだが、今日はヘトヘトでその気力もない。
「本当にお疲れですねえ国父様」
「まあ、今回はちょっと俺も堪えたかな……」
ここ数日、昼夜を問わず激しいイベントが続き、短い睡眠時間による疲労を
気が抜けてしまうと反動が物凄い。
どんな栄養ドリンクがあっても、無限に頑張ることはできないわけで……。
「あらタケル疲れてるなら、わたくしの
「リアうるさいよ……」
ふざけたリアに怒り返す気力もない、後ろからリアが押し付けてくるやたらと柔らかい肉の圧力も重たく感じる。
そりゃ、その乳の中に詰まってる栄養ドリンクを飲めば元気になるだろうさ。
飲めばすぐ元気になるのが分かっているから、その甘くてとろみのある液体を飲みたいという欲もある。
しかし、それで元気になった途端に、また疲れさせられるのは御免被りたい。
俺が心からいま欲しているのは、ごくごく自然な休息。
だた、それだけなのだ。
「勇者、そんなに疲れたのなら、おぶってやるのダ」
「ちょ、おぶらなくてもいいよ」
それは恥ずかしいと遠慮する俺の腕を、スイッとすくわれてそのまま尻を持ち上げられた。
おんぶって、子供じゃあるまいしと拒絶すると。
「じゃあ、抱っこダーッ」
「うおーい!」
アレの大きくたくましい竜の腕で、抱っこされた。なんだか、身動きが上手く取れない。
カアラが魔法で浮かせてくれているようで、アレに抱き上げられた俺の身体はフワフワと浮かんでいる。
魔法で俺の身体を羽のように軽くしたのは、アレが持ちやすいようにではなく俺が抵抗できないようにだろう。
楽なのは良いのだが、俺は赤ん坊じゃないんだぞ。
抗議も虚しく、神輿のようにみんなに持ち上げられて、運び去られる俺。
アレ、カアラ、ルイーズ、それとリアに囲まれて護送されては、抵抗のしようもない。
俺達が使う大浴場は後宮の側にあり、幸いにして王城から奥に向かう通路は、各国の来賓の多い中央ホールからは離れている。
アレに抱えられて運ばれる俺の情けない姿は、外部の人間に目撃される恐れはないのだが。
通路の角で出くわした後宮勤めのメイド達が、クスクスと笑いを堪えて俯いて通りすがるのは微妙な気にさせられる。
そりゃ、大の男が抱っこされてたら滑稽だし笑うよな。
やれやれと、俺は苦笑する。
背中にデカイ竜翼が生えている
城のみんなも魔族や
恐れられるよりは、女の子に笑われているぐらいでちょうどいいのかもしれない。
「ついたゾ」
お風呂場の脱衣所について、ようやく下ろしてもらう。
後宮のお風呂場は、初代建国王レンスの時代から建てられた古いものであるが、西洋風で大理石張りの立派なものだ。
まるで宮殿というか、宮殿そのものであるので豪奢だけど石畳というのは少し寒々しいので、脱衣所が濡れてもいいようにコットンのバスマットが敷き詰めてある。
机や椅子などの調度品は、木目のあるオーク材を使うようにしている。
棚の上に並べられているのは、ラタンを編んで作った脱衣カゴだ。
ユーラ大陸に自生しているラタンは、日本にも生えている
ホワイトオークの机の上に藤カゴを並べておくだけでも、壮麗ではあるが冷たい大理石の脱衣所に暖かみが出る。
そんな和洋折衷の風情を楽しんでいる暇もなく、俺は寄ってたかって服を脱がされて裸にされてしまう。
リア達も、ポイポイと藤カゴの中にドレスや下着を脱ぎ捨てて裸になる。
「はぁ、やっぱりこうなったか……」
どうせ、みんなで寄ってたかって俺の身体を洗ってのんびり湯に浸る暇もなく。
「あら、元気になりました。是非もありませんね」とかリアに言われて、そのまま大きなベッドへと連行されて行くパターンだろう。分かってるんだぞ!
甘美なる地獄。
覚悟を決めていたら、一糸纏わぬ姿となったリア達はそそくさと白い湯着を着始めた。
「えっ?」
「タケルは……湯着を着る習慣はありませんでしたから、是非もなく腰にタオルを巻くだけで良かったですよね」
「あれ?」
「どうしたんですか怪訝そうな顔をして、ここは是非もなく湯着でしょう。豊満な身体を持つわたくし達が裸のままでは、タケルも気が休まらないでしょう。それとも裸の方が良かったですか?」
「いやいや、湯着のほうがいいよ。うん、素晴らしい配慮だ。よく気遣ってくれた」
俺は、慌てて褒める。
リアの提案にしては上出来だ。
どうせなら一人で入らせてくれればとも思うのだが、そこまで贅沢は言えまい。
かといって艶かしい女達の肌を見せられては、ゆっくり入浴どころではなくなる。
そこで湯着!
そうかリア達は、掛け値なしに俺を労ってゆったり休憩させてくれるつもりなんだなと感謝する。
「いえ、これぐらいの配慮。わたくしも先輩になりましたから、妻としてこれぐらいの配慮はできるのですよ」
リアがえっへんと、妊娠してさらに大きくなった胸を張っている。
そういや、なんかリアは後宮の序列が上がったと言ってたな。
リアは、六番目の奥さんだったのだが、七番目に入ったエレオノラが公姫であったために序列最下位に置くわけにはいかないだろうということで、そのままずっとビリだったのだ。
今回、ルイーズ、カアラ、アレが入ったことでリアが最下位でなくなったわけか。
「ときにカアラ、いま後宮の序列はどうなってるんだ」
俺はちょっと気になって、後宮の今の序列をカアラに聞いてみた。
「はい、国父様の奥方の序列は、第一位シルエット女王陛下、第二位カロリーン公女殿下、第三位エレオノラ公姫殿下、第四位アレ姫殿下、第五位ライル摂政閣下、第六位シャロン宮内卿、第七位オラクル妃殿下、第八位ステリアーナ様、第九位ルイーズ様、第十位がアタシとなってます」
「アレが四位って、やけに高いんだな」
「アレ様は、ランゴ島の女王の御息女です。ランゴ島は、今回のユーラ大陸連盟会議で各国から正式な独立国家として認められましたから、姫殿下という形になります」
「なるほど、そこは分かった。しかし、カアラは良いのか。リアの下で」
リアの下ってキツイよな。
うん、聖女と魔族の確執がなくても、俺ならキツイと思うわ。
「アタシは、もちろん最下位でいいです。できれば、オラクル妃殿下の序列をもう少し上げて欲しいのですけどね……」
「タケル、わたくしは仮にも勇者認定第一級の聖女なんですよ!」
「ルイーズもいいのか、リアなんかの下で」
「私はもちろん、聖女様の下で依存はない。うちは准男爵家だし、末席でも構わないんだが」
「そうか、本人達がそれでいいというのなら仕方ない……良かったなリア」
「タケル、酷いですよ!」
元気があるときなら、戯れにリアの序列をまた最下位にまで下げてやろうかと思うのだが、今はそんな余裕がない。
俺はうるさく言ってくるリアを無視して、風呂場に入ると掛け湯もそこそこにザブっと湯に浸かる。
「ちょうどよい湯加減だ」
「ねえタケル、なんでいっつもわたくしだけそんな是非もない扱いなんですか、聞いてるんですか!」
ここ数日、ゆっくり風呂に入っている余裕もなかったからなあ。
空気が乾燥しているシレジエでは、濡れタオルで拭く程度でも、身体は清潔に保てるのだがそれはそれ。
身体がポカポカと温まる風呂の気持ち良さ。これが、何よりもまして贅沢なものだ。
血行が促進されて、それだけで疲労が手足から抜けていくような気分だ。
目をつぶって湯に身体を浮かべると、そのまま蕩けていきそうな心地だった。
もう顔に、濡れタオルをかけてしまう。そうして身体の力を抜くと、重さから解放されてまるで宇宙遊泳している気分にもなる。
「ねえ、タケルねえねえ……」
「うるさいなあ」
アレですら空気を読んで静かにしているというのに、リアがまだ耳元で囁いている。
本当に序列を下げるぞ。
そう思って、顔のタオルを上げてリアを見ると肌色だった。
湯着はちゃんと着ているのに、肌色だった。
「どうですか、これ。是非もない感じですよねえ」
「これって、完全に透けてるじゃねえか!」
「フフッ、凄いでしょう。本日は、あえて湯着を透かせてみるという趣向です」
「はぁ……」
「脱ぐだけでは、飽きられてしまいますからね。今回はシースルーをテーマにしてみました」
「休ませてくれるんじゃなかったのかよ」
まったくふざけてやがる。
よく見たら、ルイーズもカアラもアレもみんな湯に浸かったら透けてしまっている。
そして、悔しいことにリアの言うとおり。
風呂場の湯気が良い感じのアクセントになっているちょっとこの趣向は、疲れきった今の俺ですらムラムラくるものがあった。
温まると、血行が良くなるからね。
リアの思い通りになっていると思うと口惜しいが、確かに悪くない。
「わたくし達はもちろん何もしませんが、タケルが元気になってわたくし達に何かする分には構いませんでしょう」
「こいつめ……」
なんで自分が、『是非もない扱い』をされるのか分かってるだろう。
今日こそ大人しくしているだろうという、俺の期待を裏切りやがって……。
「何でしたら
「いや、いいよ……」
ここでリアの誘惑にホイホイと乗っては、こいつを調子付かせるだけだろう。
リアも子ができて大人しくなったかと思ったら、ぜんぜん大人しくないのは困ったものだ。
それとは別に、新しく後宮に入ってきたルイーズ達の目の前で俺を翻弄して見せて良い所を見せたいという意図も感じた。
だから俺は、「ねえねえ」と擦り寄って迫ってくるリアを無視して、湯船の縁に手をかけて頑張って抵抗していた。
そこに、ドタドタと官服姿のままのシェリーが風呂場に乱入してきた。
風呂場で走ると滑るぞと思ったら、案の定足をツルンと滑らせた。
「お兄さま、きゃー!」
「危ない」
慌てて、カアラが魔法で浮かせたので転倒しなくて済んだ。
「すみません……」
「いえいえ、大丈夫ですか?」
小柄ながら、ビシッと
実質は高級官僚どころではなく、宰相や大臣クラスすら手足に使う影の大宰相なのだが。
確かシェリーは、魔王竜の死骸の後始末を担当していたはずだ。
目の前でずっこけるなんてシェリーにしては珍しい。銀色の眼の下にはクマがあり、深い疲労の色が見えた。銀髪のショートカットもボサボサになっている。
「このような姿で、失礼します」
「構わない、どうしたシェリー!」
何か緊急事態なのかと、俺は腰にタオルを巻き直すと、風呂からあがる。
普段は許可無く立ち入ることの許されない後宮にやってきたからには、よっぽどの用事なのだろう。
「お忙しいところ申し訳ありません、急ぎの仕事です」
「いや、忙しいのはシェリーも同じだろう」
「魔王竜リントブルム襲撃の被害総額が算出できましたのでその確認と、それに加えカスティリア王国に対する賠償交渉を開始するご裁可をいただきたく、馳せ参じました」
「そうか、出た被害を叩きつけてカスティリアに追加請求するんだな」
魔王竜の死体からは素材が取れるから、それだけでも黒字になっているとは聞いていたが。
ちゃっかりと、出た損害分をカスティリア王国から取るらしい。
すでに、カスティリア王国には十万白金貨(金貨にすると百万金貨)の賠償金の支払いを求めているが。
それに、今回の騒ぎの被害も上乗せ請求してやるわけか。
「今回の襲撃は、カスティリア王国がやったとレブナント大使が自白しちゃいましたからね。当然ながら、それによって出た被害は一時的にシレジエ王国が立て替えているだけで、カスティリア王国が負担すべき筋のものです」
「おい、被害総額二十万金貨って!」
俺は、シェリーに手渡された書類の被害総額を見て仰天した。
額が桁違い過ぎて、思わず二度見してしまった。
「被害を受けた地域住民だけではなく、軍も動かしましたよね。使用した大量の武器弾薬も安くはありません。魔王竜対策に使った兵装なのですから、カスティリア王国の起こした動乱鎮圧の費用として請求させてもらうのは当然のことです」
「シェリー、これはかなり盛ったな」
金貨二十万枚といえば、立派な軍馬が二万頭も買える金額だ。
確かに魔王竜の攻撃はとんでもなかったが、街への直接被害が出なかったので潰れたのは郊外の麦畑ぐらいだ。この桁違いの額が出る計算はおかしい。
どこかで水増ししているはずなのだが、さすがはシェリー。
ざっと見ても、不当に被害額を盛っているのがまったく分からないように仕上げてある。
「これぐらい追加請求すれば、カスティリアは内側から倒れるだろうとの目測です」
「それは、ライル先生の指示か」
あまりに多額過ぎる賠償金命令は、新たなる戦乱を生むのではないか。
俺は、そんな不安を感じる。策を立てるのは、ライル先生やシェリー達官僚の仕事だが、それを責任を持って裁可するのは俺だ。
「そうですね。ライル先生は、相手が直接金で払うことを諦めて、アフリ大陸の植民地を買い取ることができれば、『魔王の核』とやらをカスティリアが使うこともできなくなると言ってました」
「そうか、レブナントはアフリ大陸の魔素溜りを使ってたんだな」
正確なところは調査してみないとわからないが、『魔王の核』を手に入れるのにカスティリア王国が自国の領土で魔素溜りの開放をやっていれば大損害が出ているはずだ。
一方で、魔族しか住んでいないアフリ大陸の奥地でやれば、被害を出すこと無く『魔王の核』を手に入れることができる。
レブナントの最大の強みは、人間にはおよそ立ち入れない危険なアフリ大陸の砂漠の奥地まで入れるということだ。
ポンポンと出てくる『魔王の核』の出処を考えれば、その辺りと考えるのが当然の推測であり、俺もそれが正しいと思う。
「私も、この賠償金上乗せは必要事項だと思っております。そのために出した数字です。向こうが出し渋ったら、艦隊も繰り出して大砲を向けながら請求します」
「分かった、許可する」
いい加減な数字では、賠償交渉の根拠にはならないので、撃った砲弾の数から潰された畑の枚数までみっちりと算出されている。
対空砲の設営費まで入れているのは本来ならやり過ぎだとも思うが、国際会議の妨害工作にあんな真似までやらかしたカスティリア王国にはいい薬かもしれない。
砂埃にまみれているシェリーは、城で安穏と計算だけしていたわけではない。
カスティリアを急いで封殺するため、現地を自分の足でかけずり回ってたった一日で被害総額をまとめてきたのだ。その働きには報いないといけない。
「ありがとうございます」
「仕事が終わったら、お前も風呂に入るといいよシェリー」
「これを渡せば、私の仕事は終わり……ですので」
シェリーも、さすがに疲れが見える。
疲労のために判断力が鈍っていたせいか、俺は余計なことを思いついてしまう。
「リア、ちょっとだけ
「それは、いいですね!」
ザバッとお湯から上がって、リアが微笑みながらこっちにやってきた。
赤ん坊も飲んでるものなのだから、ちょびっとだけなら害にならないだろう。
「ちょっとだけだぞ、相手は子供だからな」
「えっ、なんですか……ええっ?」
俺は顔を背けておく。
リアに
「ほわああああっ!」
叫び声を上げたシェリーは、ボンッと銀色の髪が逆立った。
どういう理屈でなるのか知らないが、髪が爆発する。全身の毛穴が逆立つ感覚がある。
「どうだ、元気になったかシェリー」
「なんですか、なんですかお兄さまぁぁ! このピンチなのに、にもかかわらず、だからこそ、ワクワクしてくる感覚はぁぁ!」
「ちょっと、元気になりすぎたか?」
「うははっ、これは面白いゾ。この子に、竜肝も食べさせてみるのダ」
アレが出てきて余計なことを言い出す。
「おい、アレやめろ」
「なんですか、なんですか、もっと元気になれるんですか!?」
アレの提案にシェリーは乗り気だ。
頬を紅潮させて、手足をブンブンさせてる。だから、風呂場で暴れるとコケるぞ。
「うん、すっごく元気になれるゾ。携帯用に丸薬にして置いてあるから、こっちにくるのダ」
「おいおい、無茶するなアレ」
竜肝は、抵抗力が強い人間じゃないとキツイんじゃなかったか。
「一粒ぐらいなら、子供でも食べるんだゾ」
「そりゃ、
脱衣所に上がったアレに、魔王竜の竜肝で作った丸薬を口に放り込んでもらって、シェリーはまた髪が爆発した。
本当に無茶苦茶するなこいつら。
「ほわあああっ、お兄さまダメです!」
「ええっ、大丈夫か?」
「すっごいダメな感じに、元気が……元気が溢れてきました。すぐ行って、仕事をチャチャチャチャーンと済ませてきます!」
「お、おう……」
すっごいダメな感じに元気になったシェリーは、俺が決済を与えた紙束を抱えて走っていた。
俺は、もうしばらく浸かっていようと湯船に入ると、カアラに声をかけられた。
「シェリーさんは、元気になってよかったですね」
「やり過ぎだ。ダメな感じに元気になるって表現は、よく分かる」
ここぞというときに元気になるのには良いが、乱用は要注意だ。
シェリーがダメな感じと言ったのは、危険性をよく理解出来ていると言える。
「フフッ、タケルもちょっとだけ
「俺はいいよ。もう休むんだから、押し付けてくるな……」
それを飲むと、眠れなくなるからヤバイんだよ。
「勇者も竜肝食べればいいのダ。丸薬にすると、マイルドな効き目になるんだゾ」
「食べないよ」
アレも引っ付いてくるし、俺を休ませてくれるって趣旨はなんだったんだ。
まあいい、俺が我慢すれば……。
「ねえ、タケル」
「勇者」
「お前らなあ……」
絡み付いてくる二人に、俺が文句言おうとしたとき、ビューンと何かが湯船に飛び込んできた。
ザブンと湯船から上がってきたのは真っ裸のシェリーだった。
銀の髪が濡れて、頬が赤い。
今入ったばっかりなので、湯に当たっているわけでは絶対ない。
「お兄さまー!」
「どうした、シェリー」
「仕事終わったら、来てもいいっていったじゃないですかぁぁ」
「速いなシェリー」
というか、速過ぎないか。
本当に、お仕事ちゃんと出来たのか。
「しっかり論拠立てて、概算要求書を作成しておきましたので、あとは外交官の仕事です!」
「そうか、仕事が高速すぎるけど……シェリーお前酔ってるか?」
「はい、頭がおかしくなりそうです」
「そうか、そういう感覚あるよな」
シェリーが火照ってるのは、
初めてでダブルはキツイ。栄養ドリンクを、まとめて一気飲みするようなものだ。子供なら栄養過多で酔っ払ってもしょうがない。
まあ、考えようによってはシェリーがくっついてくるのは都合がいいとも言える。
膝にでも乗せておけば、まさか子供の前で乱れるわけにもいかず、リア達の防波堤になるだろう。
「お兄さまぁ、十一番目のお嫁さんにしてください……」
「はいはい、そのうちな」
完全に酔っ払ってるので、適当に相槌を打っておく。
今の俺でも、小さいシェリーの相手ぐらいはできる。これぐらいがちょうどいい。
「そのうちじゃダメれすよ、いますぐれすよ」
「はいはい、そのうちな」
シェリーはヌルヌルと、酔っ払い特有の動きで首にまとわりついてくる。触れるシェリーの肌は、物凄く熱く火照っている。
こんな状態で風呂に入ってても良いものだろうか。なんだか心配になってきた。
「シェリーそろそろ上がるか」
「えー、いまはいったばかりじゃないれすか、もっと一緒に入っていましょうよー。ご褒美は? ねねっ、お兄たまー。上手にお仕事できた、ご褒美は?」
うん、危ない。
甘えてくるのはいつも通りだが、歳相応というより幼児化してて、いつものシェリーじゃない感じがする。
濡れた銀色の髪をポンポンと叩くと、俺はシェリーを抱きかかえて風呂から上がった。
髪も石鹸で綺麗に洗ってあげたい気もしたが、今日はもうざっと流すだけでいいだろう。俺も疲れているが、それ以上にシェリーを休ませたほうがいい。
「今日は特別に一緒に寝てやるから、それで勘弁しろ」
「うわーい!」
その間に、リア達が寄ってたかって俺の身体をタオルで拭いてくれるのだが、もう好きにさせておく。
本当にシェリーが心配で、寝付くまで見守りたいという気持ちはあるのだが。
シェリーを近くに寝かせておけば、まさか夫婦の夜の生活が始まることもないだろうという目算もある。
「なあシェリー。いまは一時的に元気になってるだけだから、ちゃんと寝るんだぞ。仕事が忙しいのは分かるが、睡眠不足は育ちざかりの発育に良くない」
「ハッ、そうでした……」
俺が何気なく口にした言葉で、賢いシェリーは何か考えついたようで、わなわなと唇を震わせている。
そんな衝撃を与えるようなことを言ったか?
「シェリーさんのお仕事は、今でも欠かせない大事なものですが、王国の未来も見据えてしっかり成長しないといけませんからね」
「カアラ様、ご忠告痛み入ります。自分がまだ発育過程であることをすっかり忘れておりました。若輩者の私も、ご先輩方のように早く成長してお兄さま好みになりたいです」
シェリーは、カアラにバスローブをかけてもらいながら、自分の胸を撫でてそんなことを言っている。
何を二人で盛り上がっているのかいまいちよく分からないが、ちゃんと休みも取ってくれるならいいんだけどな。
風呂上りにシャロンが用意してくれていた、冷たいコーヒー牛乳をみんな飲んで、歯を磨いてさっぱりとした気持ちで床に入る。
後宮の大きなベッドに何人妻がいても、シェリーさえそばにおいておけば今日こそぐっすり眠れそうだ。
「シェリー、じゃあ寝るから」
「はい、お兄さま。私は、どうやら焦り過ぎていたようです。ゆっくり寝て、大きく成長するのでご期待ください」
何を期待できるのかは知らないが、俺はその言葉に頷く。
シェリーはいつも忙しそうにしているのだから、強引にでも休息の時間は取るべきである。
たまには心も身体も、ゆっくりと休めないとね。
胸に抱いたシェリーのぬくもりをお守り代わりにして、俺もゆっくりと深い眠りの中に入っていった。
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