第192話「シレジエの三美妃」
結婚式が終わり、披露宴会場である王城に向かおうとしたところで街が騒然となった。
祝いによる騒ぎではない。人々が口々に天を指さして騒ぎ立てる。
「おい、アレ見ろよ!」
「なんだあれ……雲か?」「でけえ」
酒場の軒先で結婚式を祝っていたおっさんが、天を見上げて思わずエールの並々と注がれたジョッキを取り落とす。
黒い巨大な塊が、王都シレジエの上空に迫っていた。
暗雲と最初は思ったが、そうではない。小山ほどもある巨大な黒褐色の肉の塊であった。その巨大な円盤型の肉が空を飛んでいるという光景に、みな唖然と口を開けた。
ルイーズ達と、パレードの道をゆっくりと歩く俺の下にも兵士の伝令が走ってきた。
「王将軍閣下、謎の飛行物体が王都に近付いているという報告が入りました!」
「未確認飛行物体って、UFOかよ」
そう言っても、誰も反応してくれない。
まあUFOといっても、リアぐらいしか分かってくれそうもないが。兵士と一緒に来たライル先生が説明してくれる。
「あれは、王竜リントヴルムですね。ゲルマニア帝国領とランクト公国の国境付近にある洞穴『死竜の巨穴』に住んでいた超巨大な化物ですよ。またの名を
「大飯喰らいの竜ですか、それはまた……」
あの空飛ぶ黒い肉の塊は、食べまくって太りきった竜なのか。なんかそう見るとユーモラスなイメージがある。
そんなことを呟いていると、とんでもないとライル先生にたしなめられた。
「過去の出現例では、あの
羊皮紙の資料を見ながら説明してくれるライル先生。
先生は、「当時を知っているオラクルさんのほうが詳しいんじゃないですか」と目を向けた。
オラクルは、ニヤッと笑うとオホンッと咳払いをする。
「まあ知らんことはない。あれは、レンスに討伐された二百四十年前の段階で、三百年は生きておる有名な
「ほうほう、なるほど……」
ライル先生が、感心した顔でオラクルの解説をメモっている。
あの、そんな怪獣が近づいてるならそんな余裕ないと思うんだけど。
空から近づいてくる
近づいてきて分かったのだが、全身の鱗が黒くところどころ白い骨が見えている。巨大な身体から赤黒い肉がボロボロと堕ちて……。
「先生なんかあれ、腐ってないですか?」
「そうなんですよ。正確には、あれは王竜リントブルムの成れの果てなんですね。二百四十年にレンスが生成した猛毒を喰わせて討伐したは良いものの、死後硬直した死体が硬すぎてどうにも始末できず『死竜の巨穴』にそのまま封印されていたものです。腐らずに今日まで残っていたのは確かなんですが、鱗の色は黒ではなかったそうです」
「黒ずんでるって、アンデッド化してるってことですか」
「黒色化するのは明らかに魔素の影響です。ただのアンデッド化ではなく、王竜リントブルムの死体に『魔王の核』を埋め込まれて死霊魔王化したものだと思います。魔王竜リントブルムとでも呼べば良いのでしょうか」
「大変じゃないですか」
「そうですね。王竜の死体を死霊魔王化して操るとか、犯人はもう一目瞭然。誰の仕業なのか自白したようなものです」
そう語ると、ライル先生は不敵に微笑み、結婚式の後ろの方に参列していたカスティリアの使節団を睨みつけた。
カスティリアの使節団の代表は、カスティリアの上級魔術師レブナント・アリマー。ユーラ大陸で唯一、魔王の核を埋め込んだ死霊魔王を操る技術を持つ上級魔術師である。
「これはあらぬ言いがかり、何のことか分かりませんなあ!」
カスティリアの大使たるレブナントは、声を張り上げて続ける。
「私が死霊魔王を操る術を心得ていることは認めましょう。で、す、がっ……私はここに居るわけですから、アリバイがありますよねえ。そもそも、モンスターの発生などユーラ大陸では珍しいことでもない」
「レブナント大使、カスティリアにはもう一人上級魔術師がおられましたね。先に準備しておけば、同等の魔力があるものなら犯行は可能なのではと推測しますが?」
「フフッ、どっちにしろ証拠にはなりありませんね。それよりも、この事態をどうするのです。王都が危険に晒されたのでは、国際条約の締結など無理でしょう。これはシレジエ王国の失態ですぞ。早く我々を安全な場所に避難させていただきたいものだ!」
シレジエの提案による新大陸法の締結。
ユーラ大陸全土の国際連盟が結ばれると、反シレジエの姿勢を崩さないカスティリア王国は完全に孤立することになる。それは同時に、貿易立国であったカスティリアの没落を意味した。
そこで、各国の大使が集まった王都シレジエを魔王竜リントブルムに襲わせて被害を与え、シレジエの権威を失墜させ、力ずくで条約締結を阻止しようとする作戦。
あいかわらず、レブナントは
危ない危ないと騒ぎ立てるレブナント達カスティリアの使節団に対して、ライル先生は声を張り上げた。
「各国政府使節の方々! ご覧の通りカスティリア王国は、世界の要人が集まったこの王都を襲わせようとする企てを行っております。ですが、どうぞご安心ください。このシレジエには王勇者、佐渡タケルがおります。魔王竜リントブルムを見事討伐してご覧に入れましょう。危険と感じられる方は避難されても結構ですが、これは歴史的な見物となります。どうぞ我らが勇者の魔王竜退治をご覧になられる勇気のある方々は、展望台までお上がりください!」
驚いたことに、ライル先生はこれを見世物にするつもりらしい。
俺は先生に耳打ちする。
「本当に大丈夫なんですか?」
「タケル殿の提案通り防空監視を怠っておりません。早期発見できています。まず対空砲火を仕掛けて、そののちに要塞街オックスの三門のマジックアームストロング砲で迎撃します。魔の山に大量に設置してある山砲もそのまま使えますよ」
いずれ空中戦の必要が出てくると考えたシレジエ義勇軍では、野砲の射高を改良して対空砲を配備している。
まず王都シレジエで試そうと、実験配備された対空砲がこんなに早く役に立つとは思っても居なかった。
魔王竜リントブルムの迎撃が始まったらしく、遠くから大砲の音が聞こえる。
まっすぐとこちらに向かってくる黒い肉の塊に着弾する光が見えた。
なるほど、大丈夫そうだ。
ようは王都に迫る前に倒せばいいのだ。俺は、腰の魔法剣を抜剣すると光の剣の力を通した。
「いいだろう、勇者というものが何のためにいるか、各国の大使の方にもお見せしよう。どうぞ、結婚式のレセプションが一つ増えたとでも思って頂きたい!」
俺がそう言うと各国大使から「おおー」と感嘆の声があがった。
不安がっていた街の群衆も「勇者様があの化物を退治するってよ」と話が広まって混乱が落ち着いた。
シレジエならびにゲルマニアの大勇者となった俺の勇名は、ユーラ大陸全土に轟いている。
こういうとき、人心を収める役に立つというのはありがたいものだ。
「ご主人様、鎧をお持ちししました。どうぞご無事で」
「勇者のお仕事ですから、是非とも勝ってきてくださいね」
俺はタキシードの上から、シャロン達にミスリルの鎧を着せてもらった。
オラクルの代わりに俺の赤ん坊を抱いているリアも、俺に祝福の魔法をかけてくれた。
「私達もいこう!」
えっ、ルイーズ達もくるの。
ルイーズも、カアラも、アレもやる気満々のようだが……。
「いや、ドレスのままで戦うって無茶だろう」
俺がそう言ったら、ルイーズは笑って上を指さした。
上? と思ってみるとルイーズの騎乗する大火竜が飛んできて、ドサッとその場に降り立った。
「なるほど、
「竜殺しなら、私に任せておけ」
ルイーズはともかく、アレは同じ竜族なんだから同族殺しにならないかと思うんだが……。
出撃する気満々で、「腕がなるゾ」とか言っている。大丈夫らしい。
王竜も仲間の竜を喰いまくってたらしいから、もしかしたら同族殺しとか気にしないのか。
頼もしいのだか怖いのだか分からないがまあいい。
「まず、アタシが先制攻撃を仕掛けますね」
「カアラも来てくれるか、頼もしい。よし、それじゃあみんなで討伐しにいくか!」
俺だけならともかく、王都には対空砲火に加えてうちのフルメンバーが揃っているので、いかに巨大魔王竜といえども負ける気がしない。
それこそ、結婚式に華を添えるようなものだ。
※※※
「凄いな」
オラクルちゃんに抱えてもらって空を飛ぶ。
空からだと、敵の様子味方の様子がよく分かる。集中砲火が巨大な黒竜の身体に殺到して足止めしている。
ときおり長大な距離から空気を震わせて炸裂するのは、要塞街オックスからのマジックアームストロング砲だ。
あいかわらずすさまじい砲撃の威力だが、それでも肉が崩れ落ちるだけで平然と進んでいる魔王竜リントブルムもなかなかやる。
「うむーすごいのじゃ。さすがはアンデッド化した伝説の古代竜。腐れ落ちた肉が、
「オラクル、俺が凄いといったのはシレジエ義勇軍のほうだよ」
シレジエの旗を高らかに掲げた義勇軍砲兵隊は、大口径の対空砲を使って発生した
対空砲火で撃ち漏らした竜は、銃士隊の一斉放射が片を付ける。ナロー海戦では火竜に歯が立たなかった義勇軍も、この短期間に空を飛ぶ敵に対しての戦い方を覚えた。
人間は一人ひとりは脆弱だが、それらが軍隊としてまとまったときの知恵と力は地上最強の生物ドラゴンにも勝る。
それがあまたの種族のなかで、人族がもっとも栄えた理由であろう。
「そうじゃな、タケルの軍隊もようやりおる。雑魚は地の者に任せて、我らは親玉を叩こうぞ!」
「おう!」
オラクルと平行して飛んでいたウエディングドレス姿のままのカアラが声をかけてくる。
「国父様、どうかまずアタシに魔法攻撃をお許し下さい」
「カアラか、メテオ・ストライクはちょっと困る。地上には味方の軍もいるし」
あれは、何本もの隕石が火花を散らしながら降り注ぐ呪文だ。コントロールができない流星群なので、地上への被害が甚大となる。
指向性が低いので、下には味方の義勇軍も村落もある。
「どうぞお任せください、このようなときのためにメテオ・ストライクの指向性を高めて敵にだけ当たる新しい呪文がございます」
「それなら任せた」
ウエディングドレス姿で、空を飛ぶカアラが前に出ると高らかに両手を広げて呪文を詠唱した。
「カアラ・デモニア・デモニクスが伏して希わん、星辰のはるか彼方に輝く暁の冥王、時空の狭間より権限せしめ、我が君に仇なす敵を滅したまわんことを、メテオ・インパクト!」
空が急に暗くなって天空に星空が広がる、そこより飛来した多数の隕石は、灼熱の鉾となって魔王竜リントブルムの巨大な身体をぶちぬいた。
しかも、魔王竜の中心でお互いにぶつかって衝突したので地上への被害は……破片が落ちたりしてるが軽微。
こちらも流星衝突の衝撃波で激しく揺さぶられるほどだ。
これには砲撃にびくともしなかった巨体も、激しく揺らめいて傾いた。
目の前で敵に炸裂した巨大な流星ショーに、街や義勇軍から、「うおおおー」と大歓声があがった。
これは、もしかすると雨降って地固まるってやつかもしれない。
街を守るために力を振るった最上級魔術師カアラの活躍が民衆に知れ渡れば、友好的な魔族に対する人族の扱いも変わるかもしれない。
意図してやったわけではないが、これ以上はない派手なお披露目になった。
「よくやったカアラ!」
「はい!」
「じゃあ、次は私が行くのダ!」
大きな青い竜の翼を羽ばたかせて、アレがビューンと天高く飛んでいき。
そのまま一気に降下した。
「はあ、嘘だろう?」
天を覆うばかりの竜王の巨体にたいして、豆粒のようなアレがぶつかってそのまま地面へと蹴り落とした。
地面へと叩き落とされた衝撃で、ブワッと土煙が上がって吹き飛ばされそうになる。
「あの巨体を蹴りで落とすとか……アレ独りでいいんじゃないかもう」
「では、続きは私がいこう!」
今度は、大火竜の手綱を握ったルイーズが向かう。
地面に倒れた魔王竜リントブルムに対して、ボォォォと炎のブレスが吐きかけられる。腐りきった魔王竜の肉はよく燃える。
その間にも、アレがパンチやキックを繰り返して魔王竜の巨大な頭をボッコボコにしている。
「えっと……なあオラクル、これ、俺いらなくないか?」
「タケル、一応勇者としてトドメを刺した振りぐらいするのじゃ」
そうだな、兵が見ている。というか、諸外国の大使も見てる。勇者である俺が活躍しないとマズい。
俺も慌てて魔王竜リントブルムのところにいく。それもオラクルに運んでもらってるだけなんだが、本当に俺何もやってないな……というか、これマジで俺が攻撃するところなくない?
「国父様、尾っぽの先に付いてるのが魔王の核ですよ」
「おっ、そうか。意外な場所に弱点の核があるんだな。レブナントらしいやり方だ」
どうやら、カスティリア王国の連中は魔王竜の力の源になっている『魔王の核』を竜の尻尾に埋め込んだらしい。
俺は魔法剣に『光の剣』と『中立の剣』のパワーを全力で通して、ズバッと一気に尻尾を切断した。
するとあっけなく魔王竜リントブルムの動きが止まった。
長い尾っぽだけが、まだ生きている(アンデッドなので生きてるってことはないが)ビクンビクンとのたうち回っている。なんか気持ち悪い。
「えっと、これどうしよう」
「国父様、砕いてしまうことも出来ますが、ここは私にお任せください」
「どうするつもりだ?」
「魔王竜リントブルムの『魔王の核』を研究対象として捕獲しておいてはいかがでしょうか。カスティリア王国にこのまま自由にされても困りますし、対処法を研究しておくべきです」
「なるほど、上手く捕まえられるか」
「もう少し短く斬っていただけますか」
カアラの指示で尻尾を二、三度輪切りにする。
動いている方が、『魔王の核』が詰まっているほうだ。
「こんなものか」
「捕らえました!」
カアラが、魔法の網を覆い被せて抑えつける。
さらに網のなかで衝撃波で肉を削っていく、すべての肉をこそぎ落として、小さな黒い結晶を取り出した。こんな小さな物が、あれほどの巨体を操っていたのか。
「これが、『魔王の核』か」
「ええそうです。アンデッドを魔王化する強力な魔素の塊、アタシもかつてはこれを求めて血眼になりました……」
カアラの目的は、かつてユーラ大陸を支配していた魔王の復活と魔族の復権だった。
もしかしたら、まだ未練があるのかもしれない。
「もう、カアラはいいのか」
「アタシには、もうお仕えする真なる魔王オラケル様がおられますから、こんな紛い物はいりません」
「あっ、そうなのか。もうカアラは、俺の息子を魔族の王にするって決めてるのね」
それはそれで、まだ赤子のオラケルに重荷を背負わせることになってしまうので、ちょっと問題だなあと思うのだが、まあ先延ばしか。
俺がそう思って苦笑していると、カアラが抱きついてきた。
「それと……今は、大事な旦那様もおられますから」
「そうかじゃあ、これはもういらないかな」
俺は、カアラの綺麗な金髪をなでてから額にある十字の紋を擦る。
「オラクル、『魔王呪隷契約』を解除するにはどうしたら良い!」
「簡単じゃ、お互いに契約解除を認め合えば呪隷紋は消える」
「じゃあ、契約解除だカアラ」
「国父様よろしいのですか……いえ、でもアタシは……」
俺が認めても、カアラが躊躇しているので十字の刻印が消えない。
俺は、ミスリルの鎧を脱ぐとモーニングコートのポケットから白銀の指輪を取り出す。
「カアラこれが、新しい俺達の契約だよ」
「ああっ、はい……旦那様。一生お仕えいたします」
結婚指輪をカアラの青くほっそりとした指に通してあげると、額に付いた十字の刻印はゆっくりと消えていった。
やれやれ、これで一件落着だ。とんでもない結婚式になったが、無事に済んでよかった。
ルイーズ達にはあとでゆっくり指輪をあげようと思っていたのだが、まさかこんな場所でプレゼントすることになるとは思ってもいなかった。
しかし、これが俺達らしいかとも思うのだ。
※※※
全て無事に片がついて、結婚式披露宴の席上。
俺はこっそりとライル先生に尋ねてみた。
「先生、本当は魔王竜が来るの分かってたんじゃないですか」
やけに準備が良かった。
たしかに防空システムの必要性を説いたのは俺だが、まるで魔王竜が攻めてくる方向まで予測されていたような完璧な対空配備だった。
「さて、どうですか。しかしこれで、カスティリア王国の国際的立場は最悪となりました」
「結果的には良かったんですかね……」
レブナント達はあれほどのことをしでかしても、いけしゃーしゃーと結婚式場に居座っているが、カスティリア王国の使節が他国の大使と話をしようとしても相手にされていない。
シレジエ王国とカスティリア王国、どちらに正義があるかユーラ大陸全土の国家に知れ渡る結果となった。
「これでこちらも『魔王の核』の研究もできますし、魔素溜まりなどの危険なポイントは今後管理を徹底しますから、もうあんな真似はさせませんよ。賠償金の支払いでも、キリキリ追い詰めてやりましょう」
「そうですね。王都を危険に晒されるわけにはいきませんし」
先生が言うには、今回の魔王竜の攻撃がカスティリア王国の最後の奥の手だったそうだ。
純粋に期間的に間に合わなかったということもあったのだが、王竜リントブルムが封印されていた場所がゲルマニア帝国だったために戦時には使うのが憚られたのも、遅きに失してしまった理由であるそうだ。
「いずれ、カスティリア王国はシレジエの相手をするどころではなくなるはずですしね……」
そう言うとクックと悪い笑いを浮かべるライル先生。
どうやら、カスティリア王国をさらに追い詰める手があるそうだ。これ以上一体何をするというのか……。
まあいいや、俺は本当に疲れた。
結婚式の料理は大変美味しいのだが、徹夜明けに無理を重ねたせいか食欲が無い。
「じゃあ、そろそろ俺は後宮に下がらせてもらいますね」
「そうですね。政治折衝は私達に任せて、タケル殿はどうぞ奥でお休みください。まだ王将軍のお仕事が残っておられますからね」
えっ、仕事?
まあいいや、ちょっと眠らせてもらってから考えよう。俺が、トボトボと歩いて行くとウエディングドレス姿のルイーズとカアラとアレが付いてきた。
えっ、あのこれって……ああっ!
俺が気がついたのは、カアラとアレに後宮のベッドに押し倒されてからだ。
「うわ、忘れてた」
全て無事に片付いたわけではなかった。
結婚式の後は、初夜があるではないか。あんな魔王竜との大決戦があった後にやるのか!
いや、だからこそか。
三人とも頬を赤らめて興奮している。魔王竜との戦闘が、彼女達にはいいウォーミングアップになってしまったようだ。
「酷いですね国父様、アタシ達を忘れていたなんて」
「いや、そうじゃない。すまないけど、今日はお互いに疲れてないか?」
「まあ、タケルも魔王竜退治で疲れているだろうから……」
さすがお姉さんルイーズが、助け舟を出してくれるのでありがたいと思ったのだが、そこにアレが割って入る。
「それなら大丈夫だゾ。さっきの魔王竜の死体から竜肝を取ってきたのダ。みんなでこれを食べれば、すぐ元気になる」
「えっ、竜肝って、魔王竜はアンデッドで腐ってただろう!」
それ殺されてから二百四十年も経ったやつじゃないか。
完全に腐ってる、腐ってないわけがない!
「大丈夫ダ、王竜の肝は決して腐らないんだゾ」
「そうなのか、それは初耳だ。私にもいただこう」
モンスターの内蔵には目がないルイーズは、興味津々で受け取って味を確かめている。
いや、食べちゃダメだって。絶対腐ってるって!
「騙されるなよルイーズ! 腐らない肉なんてこの世にあるか!」
大丈夫だ美味しいと、アレとルイーズは魔王竜の巨大な黒い肝をバリバリ食べてみせるが、竜の内臓を食べまくって竜殺しの英雄になってるルイーズやアレと俺は身体の作りが違う。
たしかに、熊の胆とか、発酵状態になってカビが生えても食べられる熟成肉があるとは聞くけど、その乾燥して黒ずんだ二百四十年物の竜肝は絶対違うと思う。
「ほら、よく噛んで食べるんだゾ」
「うああ、ングッ」
力ずくで黒ずんだ竜肝を、アレに無理やり口に放り込まれて強引に食べさせられてしまう。
あれ、まずくない。コリコリと、まるでナッツの食べたような食感だ。
「どうだ、これはめったに食べられない珍味なんだゾ」
「本当だな、確かにこれはいける……ううぅ?」
二百四十年前の竜の死体から取った肝がこんなに美味いとは、これは面白い発見だった。
しかし、食べた途端に髪の毛がブワッと逆立った。髪の毛だけじゃなくて、全身がの毛穴からボワッとなった。
「うわ、なんだ!」
身体が燃えるように熱くなって、力が全身にみなぎる。
「勇者も元気になったのだゾ」
元気になった……なったはいいけど、この効き目はやばくないか。
無理やり元気にされた感がなんか、すごく身体に負担が掛かりそうなんだけど!
「さあ、やるのだゾ! まず私から繁殖ダ!」
「待ってくださいアレさん、最初はアタシですよ」
二人のドレスが、ペロンペロンと捲れて、大事な部分があらわになる。
だから、それどういう仕組みになってるんだよ!
「ルイーズ助けて!」
「うんまあ、私は最後でいいから……」
竜肝を食べて元気になった二人の勢いはルイーズにも止められず。
強引に元気にされた俺は、夜を徹しての宴、二日目へと突入するのだった……。
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