第137話「新造船着工」
シェリーを満足させたのが良かったらしく、その番はついに邪魔が入らず、シルエットがついに本当の男女の営みを自ら見出した。
しかし……。
「ごめんなさい」
「いや、しょうがないよ。最初はみんな痛いっていうから」
固く閉じた入り口を、完全に開くことは叶わなかったのである。
思えば、俺の妻はみんな楽勝すぎた。調子に乗って、一歩間違ってたら、シルエットを傷つけてしまったところだ。
「ゆっくりやっていけばいいからね。シルエットの番は溜まってるんだから、明日の夜も時間を取るから」
「はい、お願いします」
本来、初めてというのは大変なものなのである。
ただでさえ、シルエットは年齢よりも身体つきが幼い。無理にやってはいけないって、俺の直感が正しかったのだろう。
ここで無理やりにやって痛みを与えてしまうと、シルエットのトラウマになってしまうかもしれない。
時間をかけて、慎重にやっていきたい。そのために、俺はしばらくシレジエに滞在する時間を取ることにした。
どうせ、俺もシレジエでやらなきゃいけないことがあるのだ。
※※※
魔の山に、新造船計画のスタッフが集まって作業開始となった。
いまだに戦争の傷跡、というか掘りまくった坑道で穴だらけになっていて、山一面に生えていた黒杉もだいぶ少なくなった。
船を作るためにまた黒杉を切り出すから、そろそろこの貴重な資源も枯渇するだろう。
次に黒杉が生えてくるまでどれほどの時がかかるやら、木材は一朝一夕には生えない。その分、ヴィオラが作っている薬草園のスペースを広げられるから、悪いことばかりではないのだけれど。
ちなみに、作業に従事するスタッフは、俺とシェリー、船大工に木工技師、そしてオックスの街の樵ギルドの最長老であるヨロギ爺だ。
木材の切り出しが進んで、輸送する人夫もやって来る予定だ。
「今度は素人の勇者様に、伐採だけじゃなくて木材加工も教えにゃならんのか」
「また世話になるなヨロギ爺」
ヨロギ爺はやれやれと言った感じで、首をぐるりとまわしてから背伸びをする。肩をポキポキ鳴らすと、真っ白の短髪を掻いて笑った。
齢は八十を超える爺さんなのに、ずっと山仕事をしてきた男なので、
とにかく、俺は伐採を開始して、まずまっすぐの簡単な板から加工を始める。
前に伐採した分が、少し残っているのも助かる。
黒杉は、しばらく伐採しておいておいてもまったく変わらない。
丈夫というより、植物由来であるにもかかわらず、木材とはまったく別の素材に変化している感じだ。
俺は図面通りに切って板を作っているのに、なにやらヨロギ爺は腕を組んで不満そうな顔をして。
うーんと唸った。
「なあ勇者様、この図面書いたのは誰じゃね」
「そこのシェリーだけど」
ヨロギ爺は、シェリーの幼い顔を見て。
ほえっと、呆れた顔をする。
「あんなちっこい娘っ子か、そりゃしょうがないわいねー」
「図面がなんかおかしかったのか、船大工や木工技師のチェックも入ってオーケーも出てるんだが」
「そりゃ紙の上ではええように見える。だけど、こりゃ遊びがなさすぎるわい」
「遊び?」
「そうじゃ、形ががっちりしすぎとるんじゃあ。硬いは脆いじゃよ。このままだとすぐ沈む」
「沈むって、どういうことだ。設計に余裕が無いからダメってことか、素材が硬いから……柔軟性がなさすぎるってことか?」
あいかわらず、ヨロギ爺の言ってることはよくわからないが、爺はこう見えてもシレジエ一のベテラン樵なのだ。
理屈なんかわからなくても、木でなんでも作ってみせるし、爺が直感的にマズいと感じたならどこかにマズい点があるはずだ。
俺が作業を止めて、技師とシェリーたちに柔軟性がなさすぎるのと、設計に無理がありすぎるのではないかと、なんとか通訳して説明してみた。
そのおかげで、喧々諤々の議論が起こっている。たしかにヨロギ爺の指摘は的を射た部分があるらしい。
黒杉は木材と違って曲げられないから嵌めこんで継ぐことになるのだが、接続部が硬すぎることで船体にどのような影響が出るかが未知数なので、大工や技術者も気になっていたそうだ。
ヨロギ爺がマズいと言えば、やっぱりマズいのだろう。
作ったこともないのに、設計図どおり完璧に行くなんてないからな。
俺が何か物を作った経験なんてプラモデルぐらいしかないが、あんな簡単なものだってつなぎ合わせると設計図通りいかなかったりする。
まあ、俺は専門家ではないのでその間も木を切るだけなんだけど。
ヨロギ爺はまだ納得いってない
「バケモン杉で、船を作ろうなんてのがまず無茶苦茶なんじゃわい」
「アハハッ、バケモン杉って言い方は面白いな」
まさにバケモンが湧く森だしな。
頭上を鷹よりも大きな鳥が、キキキキーッと甲高い叫びを上げて、大きく羽ばたいて飛んで行く。
「笑い事じゃないわい。船が沈んだら、人がたくさん死ぬじゃろ」
「そうだな、沈まないようにするにはどうしたらいいかな」
「そうじゃねえ、船の部分はやっぱり軟い木で作って、硬くしたいならその周りをバケモン杉で覆ったらええじゃろ」
「なるほど、本当に鉄甲船みたいにするわけか」
案の一つではある。
もともと黒杉は加工が難しすぎるのだ。しかも、その木材を切り出して加工するのは素人の俺である。がっちりした設計で作れというほうが土台無理だろう。
「それにの、完璧に壊れない物を作ろうとしちゃいかんよ。そういうのは物の理に反しとるわいねー」
「あーなるほど、なんとなく爺の言うこともわかる」
ヨロギ爺が直感的にダメだと思ったのは、この図面は完璧すぎるってことなのだろう。
一部の隙もなく船体を完璧に設計すると、一部の隙ができただけで全部が瓦解してしまう。
「物には強い部分と弱い部分を作っておくんじゃ。そしたら弱い部分が先に壊れるから、そこを直せば長く持つじゃろ」
「なるほどなあ、わざと壊れてもいい部分を作っておくのか」
ヨロギ爺の言うことにはまったく理論的な裏付けがないが、素人の俺にはとても正しいように響く。
黒杉だけを素材に船を作るのは至難の業だし、もしそんな最強軍艦が出来たとしても、ちょっとでも壊れたら修理もできない。あっという間に沈んでしまう。
俺はヨロギ爺の話をなるべく話して、設計を調整してもらうことにした。
どうせ覆うなら全面にということで、おそらく完成品の黒杉軍艦は、二重構造になって甲板や内板を木材で、骨格や外板を黒杉で作る形になるだろう。
大本の設計はガレオン船なのだが、いろんな人の意見が加わることでどんどん改良されてまともな形になっていく。
本当の最強とは、単なる鉄壁ではなく硬軟併せ持つことなのかもしれない。
そんな感じで、いろんな人の関与があって、新造軍艦の製造は少しずつ進んでいくのだった。
※※※
クタクタになって王城に帰れば帰ったで、今度は夜の航海が待っている。
王将軍に休みはなかった。
「なんて、自分で言っててもな」
「タケル何かおっしゃいましたか」
いやいやと、俺は苦笑する。
シェリーがヨロギ爺の指摘を受けて、躍起になって設計をやり直してるので今日は邪魔が入らない。
シルエットと二人で、ゆっくり入浴を楽しめる。
ふっと気が付くと、シルエットが俺の上に跨って、なんとか固く閉じた股を緩めようとがんばっていた。
「ふうっ、やっぱりなかなかですね」
まあ、お湯で柔らかくなるってこともあるかもしれないけど。
そんなに焦らなくてもいいんだよ。お風呂のときぐらい、休めばいいのに。
「シルエット、硬くなっちゃダメだ。もっと身体の力を抜いていればいいんだよ。人間の身体は、自然にできるようになってるんだから」
「自然にですか?」
俺は、昼間のヨロギ爺の話を思い出してきた。
完璧にやろうとしてはダメなのだ、遊びがないと壊れてしまう。
頑張ろうとしすぎたり、痛みを怖がったりして、余計に強張ってしまう。
上手くやろうとしすぎなければ、上手くいくのに。
「なあシルエット。二人でこうして居るだけで、いいだろう。できても、できなくてもいいんだよ」
「はい、あなた……」
シルエットが、奥さんらしいことを言うので、俺はおかしくなって笑ってしまった。シルエットも、ウフフと笑う。
その瞬間にスルッと、俺はシルエットと繋がった。
「なあ、こんなもんだな」
「ええそうですね、難しく……考えすぎてたみたいで」
「痛くはないか」
「ちょっと、ビリッとしますけど、大丈夫みたいです」
リラックスしたのが良かったのだろう。温かいお湯の中で、俺はシルエットとようやく一緒になれた。
破瓜の証が、すっとお湯の中に溶けていった。
ようやく最愛の正妻に、本当の意味で受け入れて貰って、俺は至福の時間を味わうのだった。
だが、ここで求めすぎてはいけない。もらえるものだけを受け取り、与えられるものだけを与える。
「人には人のペースがあるんだ。ゆっくりと、一緒にやっていこうな」
「はい、妾も、もう焦りません」
やっぱり、俺はシルエットと一緒にいるときが、一番幸せに思う。
言葉で伝えなくても、お互いにお互いが、この世界で唯一のかけがえの無い存在であることが伝わる。
愛する人を、ただあるがままに抱くこと。
それがどんな激しい摩擦よりも、心に深く染み入るような心地良さなのだった。
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