第136話「久しぶりのお風呂」

 俺は、風呂が好きだ。

 こうして成り上がってみれば、王族というのも好き勝手できるものではなく、いろいろと忙しくて、大きな湯船で手足を伸ばせる機会は貴重だ。


 できれば、一人でゆっくりと楽しみたいところなのだが、まあ家族サービスも大事だろう。俺ももう結婚して、子供もできようかという男なのだから贅沢を言ってはいけない。

 ワイワイ言いながら、シャロンがシェリーのエプロンドレスを脱がしてやり、自らも脱ぐさまほのぼのと眺めて「これはこれで、悪くないな」などと思っていたのだが……。


「んん?」


 なんか、違和感というか。


「なあ、シルエット。シェリーと並んでみろ」

「はい」


 純白のドレスも絹の下着も脱ぎ捨てて、裸体になったシルエットは同じくシャロンに脱がされたシェリーと並ぶ。

 身長は、シルエットの方がまだ優っているのだが、胸が……。


「なあシェリー、いま何歳だ」

「えっと十二……」


 そう聞いて、横に居たシャロンがもうシェリーは、誕生日が来てるから十三歳だと言い添える。

 シャロンは本当に偉い、たくさんいる奴隷少女全員の年齢と誕生日を覚えているのだ。


「それはおめでとう、なんか誕生日プレゼントを用意しておくな」

「ありがとうございます!」


 それはいいのだが、シェリーは胸が成長しすぎてないか。

 この前、一緒に入ったのいつだっけ、ついこの間だと思ってたんだが。


 子供の成長は早い。

 俺は、シェリーだけじゃなくて奴隷少女の親代わりだと思っているから、娘の身体を見てもなんとも思わんし風呂ぐらい一緒に入っても構わんと思っていたんだが。


 俺の妻であるシルエットと並べても、女性らしい身体つきになってきているシェリーとずっと入ってるって、これマズくないかとふっと我に返ってしまったのだ。

 だいたい父親代わりとは言うが、十三歳といえば俺の世界で言えば中学生だろう。中学生の娘と、普通の父親が一緒に風呂に入るだろうか。


「うーん」

「あの、入らないんですか」


 腕を組んで、考えこんでいる俺の顔色を、シャロンが窺う。

 みんな平然としてるし、いまここで一緒の入浴を断るのも、なんか意識してるみたいで逆に恥ずかしい。


「ああ、すまん。先に入ってくれ。俺もすぐ追いかけるから」


 俺は、いったん後宮の庭にでると、お風呂場の外で薪をくべているロールを捕まえた。


「いやー!」

「お前も一緒に入るんだ」


 ロールを脇に抱えると、煤だらけになってしまっている赤いメイド服も下着も脱がす。

 彼女はブラはつけてない、木綿のパンツだけだ。なぜなら、まったく必要ないからだ、


「お前いつから風呂に入ってないんだよ、服もいい加減に洗濯もしろよ」

「ごしゅじんさま、あたしはよごれないたいしつだから、いいんだよ」


 良くないよ。だから、なんなんだその意味のわからん設定は。

 赤銅色の髪の毛も、砂でジャリジャリじゃねえか。


「ところでロールお前何歳になった」

「よくわかんないけど、たぶん十三さい」


 歳は増えてるらしいのに、まったく成長していない。

 お前の胸も尻もペッタンコな身体つきを見ると、まだ子供だと安心するわ。


 ドワーフということもあって、背が低いだけでなく成長自体が遅いのかもしれない。

 よく考えれば、俺が歳を取るのだから奴隷少女たちだって大人に成長する。ロールはまだまだ平気だが、これから難しい時期に入ってくるんだなあ。


 風呂嫌いのロールには悪いが、今日は彼女を一緒に風呂にぶち込むことで、中和させてもらうことにした。

 よく考えたらシェリーだけ特別扱いし過ぎだし、仕事を頑張っているといえばロールだって身を粉にして働いてるのだ。


「あー、またロールさんだけご主人様に洗ってもらって、特別扱いズルいです!」

「いくらでもかわってあげるよ……」


 シェリーは俺に洗われるのが好きかもしれないが、ロールにとっては拷問らしいぞ。

 妻であるシルエットと洗いっこすると、変な空気になってしまう可能性もあるので、シャロンがシェリーを洗い、俺がロールをゴシゴシと洗う流れでいく。


 ロールを洗うのも久しぶりだ。

 シャロンだって、これだけ大量の奴隷少女を抱えて、全員を面倒みられるわけではないからな。砂でジャリジャリになってる髪を石鹸で洗い流しながら、もっと彼女を面倒見てくれる人がいるんだろうなと思った。


 シェリーとかロールとか、専門分野では有能な働き者に限って、生活面では無頓着だったりするから。

 上手く奴隷少女同士で、注意しあうような体制を作っておかないといけないのかもしれない、ロールの場合は仲がよくて生活面でよく気がつく料理長のコレットによく見ておくようにお願いして……。


 ……いや、一人じゃ言うことを聞かないだろうから、三人ぐらいで囲んで無理やり風呂に浸けて。


「ごしゅじんさま、わるいかおしてる。なにか、ふおんとうなことをかんがえてる?」

「考えてないよ、ほらすごく綺麗になった」


 綺麗にすれば、ロールの赤銅色の髪も輝きを取り戻すのだ。

 褐色の肌も綺麗だし、この世界のドワーフは黒妖精なので、耳も尖っていて可愛らしい。


 ロールは動きやすいように、いつも髪を切りそろえてショートカットにしてるから、洗って髪を整えればそれだけで映えるのだ。


「お前は、元がいいんだから、もうちょっと身嗜みに気を使えば、もっと綺麗になるんだぞ」

「ロールおふろきらい」


 石鹸を泡立てて、身体を磨き上げてやりながら、どうしてこんなワガママに育ってしまったのかと嘆息する。

 ご主人様である、俺のせいなんだろうなあ。


「まあいい、お前は俺がずっと磨き続けてやるわ」

「やーやー」


 やーやーじゃない。戦国武将か、お前は。

 本当に、いつまで子供のつもりなんだか。俺は、こういうのが可愛いと思ってしまうので仕方がない。


「シャロンお姉さま、ロールさんのああいう甘え方って、卑怯ですよね」

「貴女も、もうすこし子供らしくすればいいじゃないですか」


 隣で、シェリーがシャロンに髪を洗われながら愚痴っていたので、俺は苦笑する。シャロンも笑ってる。

 形は大きくなっても、まだ甘えたりないのだろう。境遇が境遇だし、そうやって甘えていればいいとおもう。


 シェリーは、大人をやるのを強いられてるからな。

 俺やシャロンには甘えていいんだ。


「ふぁー」


 ざぶんと湯船に浸かって手足を伸ばせば、極楽気分だ。

 そりゃ旅先でもお湯で身体を流すぐらいはしているが、やはり湯船に浸かるのとはぜんぜん違う。


 身体が温まって疲労が一気に抜けていくようだ。

 一緒に入っているシルエットがこっちに擦り寄ってくるから、その手をとって、膝に乗せて抱きしめてやろうと思ったら、慌てて泳いできたシェリーが俺の膝の上にスルッと入り込んできた。


「遠慮がないな」

「遠慮するなって、お兄様が言ったんですよね!」


 まあ、そのようなこと言ったかも知れないけど。

 いまはシルエットと夫婦のスキンシップをと思ったんだがと、シルエットの顔を見ると苦笑していた。


「甘えさせてあげればいいじゃありませんか」

「そうか、そうだな」


 シルエットは本当に寛大だ。正妻の余裕というものだろうが、余裕すぎておもいっきり付け込まれてるんだよなあ。

 まあ、夫婦のスキンシップなら、今晩たっぷりとできるから良いか。


 そう考えつつ、俺はシェリーを膝に抱きながら、シルエットの手のひらを握っていた。

 今晩はいよいよ、シルエットとも一線を超えてしまうかもしれない。


「お兄様、興奮してます?」

「なんでだ……」


「なんとなく、お尻にたくましい盛り上がりが感じられて」

「わー!」


 シェリーに指摘されて気づくとは、俺としたことが。妻と手を握っていて、興奮してしまうのはしょうがないけど、この場では抑えるべきだった。

 慌てて跳ね除けたので、おもいっきり湯船にシェリーを沈めてしまった。


「ゲホゲホッ、お兄様酷いですよ。放り出すことないじゃないですか」

「すまんつい……」


「それに生理的な反応は、仕方がないと思います。私とお兄様の間柄で、いまさら恥ずかしいことじゃないですよ」


 シェリーは、もしかして男の生理的な反応をもう知ってるのか。

 シルエットですら知らんのに。


 優等生でなんでも吸収するシェリーには、リアが面白がっていろいろといらん知識を吹き込んでるらしいから、知っててもおかしくないか。

 でも子供に面と向かって『生理的な反応』なんて言われてしまうと、こっちは恥ずかしいんだよな。


「シェリー、お前にはまだ早い」

「えっ、何が早いんですか」


 そのまま、やけに艶かしい仕草で擦り寄ってくる。

 いや、そんなふうにしなだれかかられても、シェリーには反応しないからね。あくまで、シルエットに興奮したんだし。


 しかし、恥ずかしいのは確かだ。

 いろいろと差し障りがあるので、俺は湯船を泳いで後退した。


「あっ、逃げた。ねえ何が早いんですか、お兄様!」

「知らないよ、シャロンに聞け!」


 俺はバシャバシャと泳いで、シャロンのところまでいく。

 シャロンは、油断すると湯船から上がろうとするロールを抑えこんで、ゆっくり浸からせていた。


 さすがは、奴隷少女のお姉さんポジションである。

 しかし、こんな状態だと、シャロンにシェリーまで任せるわけにはいかないよな。


「ねえ何が早いんですか、教えてくださいお兄様」

「何がってお前……わかって言ってるんじゃないか」


 そのわかっている微笑みは、俺を困らせて喜んでるように見えるぞ。

 湯船の端っこに追い込まれて、俺は質問攻めにあった。両手を広げてピッタリと抱きつかれて、逃げ切れない。


 本人はふざけてるつもりなんだろうけど、やっぱり気のせいじゃなく、シェリーはしっかり女性の身体に育ちきってしまってるよな。

 抱きすくめられて胸に当たる、しっかりと柔らかい双乳の感触が、もう一緒にお風呂に入るのはマズい身体だと語っているような気がする。


「そんなの具体的に教えてもらわないとわからないですよ。もっと手取り足取り詳しく教えてくださいお兄様ー」

「お前はおっさんか」


 俺をお風呂の端っこに追い詰めて喜んでいたシェリーが、もう耐え切れないというように吹き出した。

 冗談だったのかと、フッと息が抜ける。


「アハハッ」

「はあ、やっぱりわかってフザケてたのか。大人をからかうもんじゃない」


 シェリーは、情緒面はともかくとして頭が良いからな。

 俺を辱めてからかうぐらいのことは平然とやる。まったく困ったもんだ。


「ごめんなさいお兄様、ちょっと意地悪でしたね」

「そうだよ、男女間のそういうのを覚えるのは、まだお前たちには早いから」


「じゃあ大人になったら教えて下さいね」

「まあ大人になったら……」


 いや、おかしくないか。そういう男女間のアレって、親が教えるもんだったっけ?

 この世界は職業訓練制度はあっても、一般教育をしてくれる学校がないから、誰も教えてくれないんだよな。


 そうすると、親か親代わりが教えることになるのか。

 性教育がないからシルエットが、リアに偏ったことを教えられてからかわれたんだし、純粋無垢なことが良いとも限らない。


「約束しましたからね」

「……うーん」


 どうなんだろう、そういう保健体育的な教育もあったほうがいいのかな。

 変なところから、この世界の教育問題について考えることになってしまった。俺は為政者なので、教育制度についてもいろいろと提言できるのだ。


 ライル先生は教育学にも詳しかったから、相談してみたほうがいいだろうか。

 現代と同じようにはいかなくても、公教育機関を設けて、カリキュラムで教えたほうが市民レベルも向上するかもしれない。いろいろと、改良点が見つかるものだ。


「あれ、どうしましたお兄様」


 考え事に沈んでいる俺の顔を、上目遣いに覗きこんでくる。

 その銀色の瞳に、紅潮するほっぺたには幼さが残るが、胸はやけに育って大人の身体に近づいていることを意識してしまう。


「いや、お前たちにもそのうち必要にはなるんだろう。大人になったら、もう風呂には一緒に入らないけどな」

「えー! じゃあまだ大人じゃないです。子供です」


 そりゃそうだろうと、俺はシェリーの銀髪を撫でてやる。

 指にからみつく濡れた髪は、なんとも言えない心地よい感触がした。いつもはオーバーワーク気味で乾いている印象なのに、お風呂に浸かっているときのシェリーは、銀糸のような髪も、色素の薄い肌も、瑞々しさに満ちて美しく輝いている。


「まだ子供でいいんだな」

「はい、子供でいいです。困らせてごめんなさいでした」


 シェリーはキラっと瞳を輝かせると、イタズラッぽく笑って、ペロッと舌を出した。

 そういう仕草は、あまり子供っぽくはないのだが。


「お前もたまには、風呂にゆっくり浸かったほうが良いんだろうしな」

「はい、私はお兄様と一緒じゃないと入りませんよ」


「それは困るな」

「困るならもっと可愛がってくださいよ」


 そういう感じに、お風呂のことで困らせてくれるのは、ロール一人で十分なんだが。

 ああなるほど、さっきロールだけズルいって言ってたもんな。


 シェリーには、ロールだけ可愛がっているように見えるのだろう。

 なかなか、奴隷少女たちを公平に可愛がるなんてのは、俺には難しい。


 そういう開いた穴を、シャロンにフォローして貰わないことには、俺は何も出来ないのだ。

 そうして、頼っているという意味では、シェリーの小さい肩にも重い負担をかけてしまっている。


 彼女が、疲れているのは、俺の仕事を頑張ってくれているからだ。

 俺は彼女の肩を優しく揉んでやった。


「はぁ、お兄様気持ちいいです」

「そうだろうな、お前この歳で肩こりとか、ちょっとやばいぞ。少しは身体も動かして、頻繁に風呂に入って身体を温めるようにしろ」


 俺はさんざんと暴れまわってるから肩こりはないんだが、シェリーはもっぱらデスクワークなので凝っている。


「はぁ、気持ちいいです。私の凝りは、お兄様が全部ほぐしてくれればいいじゃないですか」

「甘えすぎだろ」


 苦笑しつつも、シェリーが凝っているのは俺のせいだから、硬くなった筋肉を揉みほぐすして、手足の筋も伸ばしてストレッチしてやる。

 小さい身体だから、全身をマッサージしてやるぐらいでは、こっちは疲れない。


「はぁ、はぁ、気持ちイイ! ああっ、そこ! そこが気持ちよすぎてぇ」

「ここか、ゆっくりと伸ばすから、痛くなったらいえよ」


「ひぐっ、気持ちいっ、もっと痛いぐらいに強くぅ」

「いや、痛くなったらダメだって言ってるだろ」


 俺は、何言ってるんだと笑った。

 シェリーは、たまに変なことを言うからな。痛い方がいいってドMじゃあるまいし。


「ううっ、たまらない。もっと強く」

「あんまりやり過ぎると、もみ返しがくるんだよ。物足りないぐらいで十分だよ」


「あーん、胸も揉んでください」

「揉むわけ無いだろ、終わり終わり」


「じゃあ、自分で揉みますから、後ろからギュッとしてください」

「えー」


 俺が迷うと、「この前約束したご褒美まだでしたよね」と冷静に言われる。


「ここでそれを使ってくるのかよ」

「なんだったら誕生日のプレゼントもこれでいいです、後生ですから中途半端なところで止めないでください」


「わかったよ、後ろから抱けばいいのな」

「はぁい、もっと強くお願いします」


 俺が後ろから抱きすくめると、シェリーは湯船の中で自分の身体を触っている。


「はぁ、なんかこれ、少しいかがわしくないか」

「いえぜんぜんまったく、後ろから抱くぐらい、普通の兄妹のスキンシップですっ! ああっ……」


 あんまり、シェリーが艶めかしく喘ぐので。

 なんか恥ずかしくなって、俺は手でシェリーの口を塞いだ。


 そしたら、また俺の手を取って指を吸ってくる。赤ちゃんかよ。

 俺の指をチュッチュと吸いながら、ブルっとシェリーは身体を震わせた。


「なあ、シェリーこれいつまで」

「最後に目をつぶってもらえますか」


 シェリーの言われるままに、俺は目をつぶる。

 すると、抱きしめていたシェリーの身体が、スルッと抜けた。


「ん? ……んんっ!」


 そのまま、シェリーから頭をつかむように抱きしめて、激しくキスをしてくる。

 びっくりして目を開けた俺は思わず、身体を引き離して、口を手で拭った。


「ああっ……」

「お前、キスはダメだろ」


「なんで、兄妹のスキンシップ」

「これはちょっと、さすがにダメだろ」


 なんだこの変な空気、シェリーは小さな頭を俺の肩に寄せてまた擦り寄ってくる。

 ぐったりとした顔で、満足したらしいからいいけど、いきなりキスするとかマナー違反だろう。これはダメだと教えておかなくてはいけない。


「キスはダメなんですか」

「少なくとも、いきなりするのはダメだ」


「じゃあ、指を舐めてもらえますか」

「それならいいけど」


 俺の指を舐めたと思ったら、今度は舐めさせるのか。あいかわらず変な趣味だ。

 シェリーは、小さい指を俺の口の中に入れてきた。


「んっ、んっ?」

「どうですか、美味しいですか」


 指が美味しいわけ無いだろうと思ったけど。

 なんだこれ、ぬるっとしてて舌先に少し甘酸っぱいような味がする。指に蜂蜜でも塗ってたのだろうか。


「……もういいか」

「はい、いい誕生日プレゼントでした。まだ子供ですけど、一歩大人に近づけたような気がします」


 そういって、シェリーは俺に舐めさせた指を舐めていた。

 これ、止めさせた方がいいよな。


 いつの間にか、シェリーのペースにハマって、言いなりになっちゃうんだよな。

 やっぱり俺は、この娘を甘やかせすぎで、気をつけないといけない。


 労をねぎらうのは大事だが、シメるところはビシッとシメないと。


 あと、誕生日プレゼントぐらいちゃんと用意する。

 といっても、シェリーが喜ぶ物って、本当に難しいんだけれど。


 明日からの作業を頑張って、黒杉で出来た軍艦を製造してやるのが、シェリーへの最大のプレゼントになりそうな気がした。

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