第123話「子供の話」

「なあ、タケル」

「何だオラクル。あっ、いやスマンな」


 あれほど浮気しないとか言っていたのに、ついに嫁を一人増やしてしまった。

 説明するのが大変だが、とりあえずオラクルちゃんだよな。


「嫁のことは良い、ちゃんとワシに了解を取ってくれれば何人増えても面倒を見るから安心すればよいのじゃ」

「いや、面倒見るのは俺っぽいんだが」


 まあ、オラクルちゃんにも面倒をかけるからな。


「それより、子供のことじゃ」

「えっ、それはエレオノラの早とちりでさ」


 何だか、もじもじとしている。

 なんだ、何を言い出すつもりだ。俺のヒットポイントはもうゼロだよ。

 なんでみんな、こういう時に俺の精神を畳み掛けてこようとするのだ。


「このタイミングかなあと思うてのう、実は……」

「ちょっと待て、あーそうか」


 最近やけに急成長して抱きまくらの条件を満たさなくなったオラクルのお腹をさすると、下腹部に盛り上がりが……。

 これはもしかすると、もしかするのか。


 突然の急成長、水着だったのが最近ブカブカの服を着るようになってきたこと。

 そして、有り過ぎる心当たり。この符号の意味するものは。


「どうもこれ以上は、誤魔化せないようになってきたのじゃ」

「オラクルお前、なんでもっと早く相談しないんだよ」


「ワシはエンシェントサキュバスじゃからな。もしタケルが子はいらんと言うなら流してしまうこともできる。その期限的にも、そろそろギリギリなのじゃ」

「そういうことじゃなくて、身重の身体でダイソンと戦うとか危ないだろ!」


 オラクルちゃんまで、姫騎士の真似してズレなくてもいいんだぞ。

 俺が子供を流せとか言うわけ無いだろ。


「だって、言ったら連れてきてもらえんかったじゃろう」

「当たり前だよ、城で安静にしてろって言うに決まってるじゃないか」


「ワシとしては、腹の子よりタケルの方が心配だったのじゃ。それに魔族と人間の間の子とか、ぶっちゃけた話どうなんじゃ」

「それは俺だって子供の将来は考えるけどさ、その覚悟ができてるから結婚したんだよ。それはわかってほしい」


 あっけらかんとしてるようで、オラクルもいろいろと考えてたのな。悩んでたのは俺だけだと思ってたよ。

 オラクルは、三百歳だし、有能だし、放っといても平気だと思っていた。甘えてたのは俺の方かもしれない。


 それなりに合図は出してたのに、言われるまで気が付かない俺のほうが悪かった。

 オラクルを優しく抱きしめる。このくっついてる腹に、俺の子がいると思うと不思議な感じがした。


 俺は大人の男としては若干低身長だし、オラクルがもう少し大人に成長すれば、屈まなくてもいいのにとも思う。

 あとそろそろツインテールは卒業しようオラクル。幼い系の可愛さアピールが、限界点に達してきてる。


 ちっさい皇孫女が来たから、キャラかぶるしな。


「タケルは、何か失礼なことを考えているのじゃ」

「俺は顔に出てるのか、なにオラクルが髪を切らないなら、そろそろストレートかポニーテールにしたほうが似合うんじゃないかと思って」


 ツインテールのまま母親になるってのは、ビジュアル的にあれだからね。

 俺は、オラクルの白っぽい髪を括る紐をシュッと解いてやる。


 うんサラサラだ、でもちょっと髪質がシットリ潤ってきたかもしれない。

 身体の成長もあるし、妊娠すると体質変わるって言うしな。


「サキュバスはグダグダと面倒な人間とは違って、安産すぎるぐらい安産じゃから、心配無用なのじゃ」

「そうは言っても初産だしな、心配ぐらいさせろ」


「もしかして、面倒な人間って私のことを言ってる?」


 珍しくエレオノラが察してきた。

 エレオノラは、面倒な人間オリンピックがあれば代表選手になれるレベルだよね。


「一般論だと思うぞ」

「一般論なのじゃ」


 エレオノラは、呆れたようにわざとらしくため息をついた。

 どっちかといえば、呆れたいのは俺たちなのだが。


「はぁ、まったく見せつけてくれるわね」

「しょうがないだろ、エレオノラの狂言とは違って、オラクルは本当に妊娠してるんだから」


「やっぱりあんたたち、私に当てつけで言ってるでしょう!」

「いや、一般論だぞ」

「一般論なのじゃ」


 そんなこんなで、オラクルの妊娠が発覚したので、知ってしまったからには負担をかけそうな飛行魔法はもう使えない。

 せっかく、エレオノラが馬車を持ってきてくれたんだから、馬車で行くことにした。


 ダンブルクまで来れば、諸侯連合領は目と鼻の先だし、エレオノラが率いてきた二千騎の騎士隊が護衛についているんだから、心配はいらないだろう。


「あのー、ガンナー様は、ご結婚なさるんですか」

「あっ、ツィター。まあするっちゃするが……」


 まだ居たのか。心配は別の方向にあったようだ。

 もうランクト公国に戻るし、正体はぶっちゃけバレてもいいと言えるかもしれない。


 むしろ、ツィターは側で俺達の話をずっと聞いていて、それだけの情報しか受け取らなかったのか。普通は、「ああ実はシレジエの勇者だったんだ」とか察するだろ。

 俺も程よくバレてもいいタイミングで、そういうシチュエーションがあるのを期待してたのに、中二すぎるとか引かれるだけで全く気づかれないからビックリだわ。


 意外に隠形の黒ローブ着ただけで、正体ってバレないもんなんだな。

 まあ、この元エリート楽士が天然ボケで、かなり抜けているってこともあるだろうけど。


「それでしたら私、お世話になりましたガンナー様に、お祝いの曲を捧げさせていただきます!」

「そういうのはゆっくりできるときに頼む。これから馬車の旅だから、皇孫女殿下をお慰めするように」


 満面の笑みで、細い腕に抱えた大きな台形の弦楽器をジャーンとかき鳴らして、一曲やりだそうとするので、俺はもうそのままツィターを抱きかかえて、皇帝と皇孫女が乗った馬車に放り込んでやった。

 ゲルマニア帝国も、これからまた復活するだろうから、ツィターも宮廷楽士としてゲルマニア皇族にしっかりと仕えろ。


 馬車の中から、「なんですか貴女は!」とエリザの甲高い声が響いて「ツィターです」「名前を聞いてるんじゃありません!」「楽士です、旅のお慰みに一曲弾かせてもらいます」とか騒ぐ声が聞こえてきたが、ゲルマニア宮廷人は、ゲルマニアの方で始末してもらおう。

 こっちはいま、エレオノラの処理で精一杯なのだ。この上、天然ボケ楽士の相手とかしてられない。


 そのうち、ゲルマニア皇族の馬車から賑やかな音楽が聞こえてきて、騒ぎが収まったのでこれで一件落着だ。

 エリザにも話し相手がいるほうが良いだろう。


「私たちは、こっちの馬車で行くわよ」

「そうか、ってお前これ……バネついてるじゃん!」


 あいかわらず、素晴らしい寄木細工マルケットリーだなあとか観察してたら、堂々と座席の四方にバネを使った機巧が組み込んであった。

 お前これ、うちが極秘裏に開発して特許出願中の技術なんですけど。


「あんたんとこの馬車が、いいのつけてるから真似してみた」

「お前これ、うちの名産にしようとおもってたのに、パクりやがったのか。待てよ、いいから走らして見ろ。乗り心地とか」


 俺たちは、大きな四頭立ての馬車に乗り込んで、試しに走らしてもらった。

 頼むぞ、せっかく俺とライル先生が頑張ったのに、パクった奴のほうが良かったとかあり得ないからな。


「どんなもんかしら、なかなか良い感じにできたと思うんだけど」

「うちのより、乗り心地が良すぎるんだよ!」


 どんだけだよ、うちのより使うバネの数が少なくて、しかも揺れが少ないじゃないか! 単にパクっただけじゃなくて、改善カイゼンしてやがってる。ランクト公国は、どこの極東の自動車産業だよ。


「いいじゃない、あんたのモノは私のモノ。私のモノはあんたのモノってことで」


 俺が愕然としているのを見て、いなすように隣に座って身体を擦り寄せてくるので慌てて逃げる。

 いろいろ言いたいことはあるが、まず擦り寄ってくるなら『炎の鎧』を脱げよ。俺自身は平気でも、魔法がかかった黒ローブだって焦げちゃうだろうが。


 もちろん、この馬車はランクト公国御用達なだけあって、防火素材で覆われていて、エレオノラが乗っても燃えないような加工がされている。

 この技術も、金になりそうだよな、本当にどんだけ頑張ってもランクト公国の技術力には勝てないわ。


 ちょっと前にシェリーが言ってたな。「技術で勝てないなら、買収すればイイのです」って。

 結局のところ、エレオノラと結婚してしまうのが、技術力で争うよりも良い方法なのかもしれなかった。


     ※※※


 ダンブルクの守りを、マインツ卿に任せて、一路ランクトの街へとひた走る。

 去り際に、マインツに「いずれ大将軍に任じるから」と言っておいたら、「御意のままに」と返された。


 平然と受け止めているマインツ卿は、こういう展開になるって読んでたのかもしれないな。

 油断ならない爺様だけど、その目的がゲルマニア皇族の保護で、俺と利害が一致している限りは頼もしい存在だ。


 要塞街ダンブルクには、救出部隊を引き連れたヘルマンが戻るから、ダイソンに直接攻められてもそう簡単には落ちないだろう。

 拠点の守将がマインツで、『鉄壁の』守護騎士ヘルマンが付いていれば、ライル先生が攻めたところで落とすのは難しいレベルだ。


 マインツに任せれば、西の守りにかけては、安心してもよいだろう。

 むしろ心配なのは諸侯連合領の荒れっぷりだった。ランクト公国に入ってからも、ゲルマニア皇族が乗る馬車が、少人数の追手に襲われたのである。


 攻撃を仕掛けてきたのは、みんな寄せ集めの雑兵。

 ダイソン派は、ゲルマニア全土で農民の一部に支持を得ているらしく、息の掛かった者が諸侯連合領の農村地帯にも入りこんで、扇動とスパイ活動を行なっているらしい。


 一度は馬車に乗り込んだものの、すぐ「かったるい」とか言い始めて、騎馬に乗り換えたエレオノラが暴れまわって、皇族の馬車を狙う拳奴皇軍の追手はすぐに追い払われてしまったのだが。

 帝国全土の治安は、やはり奴隷のカリスマであるダイソンを倒さない限りは回復できないとわかる。


 農民出身(ということに、いつの間にかなっている)の王将軍である俺が民衆に人気があるように、奴隷出身のダイソンも支持する民衆がいるのだ。カリスマとしては、俺のライバルであるといえる。

 今回は帰るが、いずれはダイソンと決着を付けなければならない時がくるのだろう。


 クックック、その時こそアイツを確実に屠ってやろう。

 もちろん、こっちは絶対的な安全圏から、一方的な攻撃でだ!


「タケル、そろそろその黒ローブを脱いで、流離いの黒銃士ドリフ・ガンナーは止めたほうがいいのじゃ。話が無駄にややっこしくなるからの」

「スマンなオラクル、これやってると結構ハマってくるんだよ。普段の俺から開放されて自由な気持ちになるというか、だんだん痛いつぶやきが気持よくなってきて……」


 あんまりやってると、射撃キャラ被りで盗賊王ウェイクから苦情が来るかもしれない。本家射撃チートは、あっちだしな。

 サスペンションのアイディアを速攻でパクったランクト公国のことを、他所からパクりまくっている俺では、表立っては非難できない。


 俺たちは、そのまま無事に大都市ランクトへと至り、安静が必要なオラクルちゃんとゲルマニア皇族たちはしばらく休憩を取ったのちに、馬車で王都シレジエへと向かってもらった。

 ゲルマニア全域に、少なくない数のダイソン派が潜伏していることを思えば、やはりシレジエ王領が一番安全だから。


 あと、他の人にランクトの街には居て欲しくないって理由もある。

 なぜなら、ランクトの街に残った俺は、姫騎士エレオノラと一緒に済まさねばならない用事があるのだ。

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