第98話「ライル先生の告白」

 戦後の混乱が落ち着くまで延期となっていた、俺とシルエット女王の結婚式もついに間近と迫ったある日、俺はライル先生に呼び出された。

 先生が俺を名指しで呼ぶときは、いつもよっぽどのことがあった時だ。待ちに待った時が、ついに来たかと思うと身の震える思いがする。


 覚悟は完了している、アンバザックの居城の先生の部屋を訪ねるとベッドに腰掛けて待っていた。

 国務卿の正装でも、いつものきっちりと首元までボタンを留めた官服でもなく、魔術師が着る緩やかなローブを着ていた。


 そんな姿なのに表情は固い、両膝に両手を乗せた姿勢で、俺の顔を見て深くため息をついた。

 戦場ですら、余裕の笑みを浮かべいてる先生が、いつになく緊張の面持ちである。よっぽどのことがあるのだ。


「先生お呼びでしょうか」

「ええ、今日呼んだのは、約束の件です」


 先生の声は、少し震えている。俺はどうしたら良いかなと、身の置き場がないような気持ちになる。

 先生の部屋は、溜まった紙束やら魔道具やら書籍が溜まって足の踏み場もない状態なので、少し考えてから良いやと思って、先生のすぐ横に腰掛けた。


「タケル殿、近いですね……」

「隣はダメですか」


「えっとまあ、いいです。さっきからずっと、何から話せばいいのかと悩んでいました」

「なんでも話してください」


「もういっそのこと、一緒にお風呂にでも入ったほうが話が早いのかもしれません」

「いいですね、行きましょう!」


 先生は、俺が大げさに喜んで立ち上がったので、アハハと笑った。

 緊張が少しは、ほぐれてくれるといいけど。


「そういえばタケル殿には、会った時からずっとお風呂に誘われてましたよね。冗談にして受け流していましたが、一緒に入れない理由があったんです」

「それを話すには、一緒に入るのが一番いいというわけですね!」


「そうですよ、残念ながら楽しい話ではありませんけど、お湯に浸かりながらならば多少は和むかもしれません」

「あの先生、もうロールにお風呂を焚くようにお願いしてますから、良かったらすぐにでも入れますよ」


 まあ、まだ浴槽に水を張っただけで、焚き始めで微温いだろうけど、しばらく浸かってれば、適温になるはずだ。

 すでに焚いていると聞いて、先生は少し驚いている。


「なんでもう焚いてあるんですか。タケル殿は、事前にそういう流れになるってわかってたんですか」

「先生に身体の秘密を見せていただくとなれば、ただ脱ぐよりもお風呂に入るって流れのほうが抵抗がないだろうと思いまして」


 ライル先生は、ほっそりとした顎に手のひらを当てて、「ほう」と感心して微笑んだ。

 本当は、もしかしたら今日こそ、ライル先生と大人の階段を昇るかもしれないから、その前に身奇麗にしないといけないと考えて、ロールを走らせたなんてことは黙っておこう。


「まさか、タケル殿に行動を先読みされるとは思いませんでした。これは、焼きが回ったということですかね。よろしいでしょう、私も覚悟を決めました」


 先生は、ベッドから立ち上がると、さっとローブの膝を払ってから部屋を出ていく。

 俺は、慌てて後ろをついて行く。いよいよ一緒にお風呂か。


「こうやって、『お風呂場清掃中』の札を付けておけば誰も入って来ませんから」


 俺がそう言ったのに、ライル先生はお風呂場の引き戸に念入りにロックの魔法をかけていた。

 よっぽど肌を他人に見られたくないのだろう。そして、それを俺だけに見せてくれるのかと思うと、胸が熱くなった。


「タケル殿、先にお風呂に入っておいてください。後から行きます」

「わかりました」


 お風呂場で、かけ湯してゆっくりと湯船に浸かって待った。

 まだ微温いが、そのうち暖かくなってくるだろう、むしろ長居するかもしれないのでこれぐらいでちょうどいい。


 先生が、お風呂場の扉を開けて入ってくる。

 いよいよ……。


「……って、なんでお風呂場にまで、服をきてるんですか」

「湯浴み着です」


 ズッコケそうになった。

 先生もたまに外してくるよなあ。もったいぶらずに、早く脱いでくれればいいのに。酷幻想リアルファンタジーに、散々鍛えられてきたから、俺はもうどんな悲劇でも受け入れる覚悟はできている。


 先生は、浴衣のような白い薄衣をまとっていた。

 肌が透けて見えて、むしろ裸よりこちらのほうが艶かしいぐらいだ。


 やはり、先生はおっぱいがあるし、柔らかい女性の体つきをしている。最近になって、茶色のショートヘアーが少し伸びたから、余計にそう見える。

 さて、先生が隠してる秘密とはなんなのだろうか。


「先生まさか、そのまま湯浴み着とやらでお風呂に入ってくるわけじゃないですよね」

「ここまできて申し訳ないんですが、なかなか踏ん切りがつかないものです」


 先生は、眉根を顰めてため息をついていた。

 普段なら、可哀想だから許して上げようなんて気持ちになるけど、今日だけは別だ。俺は覚悟を決めてきてるし、先生もだからこそ来たはずなのだ。


「ライル・ラエルティオス、ここまで来て約束を反故にするおつもりか」

「タケル殿がそこまで真剣になるのは、久しぶりに見ましたね。はい、わかりました。どうぞ御覧ください」


 そう先生は、ため息混じりに頷くと、湯浴み着を脱ぎ落として裸になった。

 うーん、滑らかで美しい肌だ。生まれてから、一度も陽に当たったことがないんじゃないかと思うほどに透き通った白さ。


 細身ながらも胸は程よく発達しているし、お腹のラインはほっそりとしている。二十三歳の健全な女性の体つきだ。

 酷い火傷でもあるのではないかと思ったが、違うらしい。


 下半身も女性らしい肉付きで……んんっ。

 よく見ると先生の股に、赤ちゃんぐらいのサイズの男の子が生えている。


「そうか、先生は男の娘だったのか」

「なんですかそれ!」


 目を瞑って緊張に震えていた先生が、驚いて瞳を見開く。

 いや、男の娘とか許容範囲ですよ。こんなに可愛い子が女の子のはずがないってやつですよね。


「全然オーケーですね」

「ちょ、ちょっと待ってください。男の娘とか、言葉の意味がわかりませんが、何か誤解を受けているような気がするので……」


 そうですか、じゃあ失礼してもうちょっと観察させてもらいますよ。

 よく見ると男の子の位置が少し上すぎる気がする、そしてうっすらとした毛の下にしっかりと女の子がある。


「えっとこれは……そっちでしたか」

「あんまりジロジロ見ないでください!」


 先生は、手で股間を隠してしまった。

 いやでも、先生が確認しろって言ったんじゃん。いや、言ってないのか。


 よく観察できなかったが、おそらく男の子二割、女の子が八割ってとこだったように思う。

 なるほど、両性具有とか半陰陽ってやつなのかな。ライル先生の父親が「半人前」とか言ってたのはこのことかと納得はできる。


「タケル殿は、なんで私の身体を見て、そんなに落ち着いていられるんです」

「まあ、あらゆるケースを覚悟していましたし……」


 確かに、現実世界で見たら重たいのかもしれないけど、リアルファンタジーだからなんでもありだよなあというのが先に来てしまう。

 当事者にとっては、辛いのはわかるけれど。だからといって、大げさに驚いて見せるのも違う気がする。


「はぁ……なんだかなー、なんだかなーですよタケル殿!」

「はい」


 ライル先生は深くため息をつくと、かけ湯して湯船に入ってくる。

 本当はお風呂好きなのに、誰にも見られないようにと思うとなかなか入れなくて、苦労しただろうなと思うと可哀想ではある。


「予想した反応と全然違ったので、話を切り出すタイミングが掴めませんでしたが、私の身体は見ての通りです」

「なるほどです、詳しく話を聞いてもよろしいですか」


「ええ、いくらでもお話しします。我がラエルティオス家は、代々が大学者で上級魔術師の家系であることは知っていますね」

「はい」


「ゲイルのクーデターで死んだ……いえ、私がわざと見殺しにしたようなものですが。上の兄二人は、上級魔術師でした。通常に考えて、いくら魔術師の家系と言ってもこれだけ上級魔術師が連続で生まれることはありえません」

「そうなんですか」


「上級魔術師は、小さい国だと一人居るかいないかの珍しい存在なんです。魔術師の家系だからって、そんなにポコポコ産まれたら、この世界は上級魔術師だらけになってますよ」


 先生は、想像するだけで恐ろしいと身を震わせる。

 本当に上級魔術師を嫌ってるなあ。


「ラエルティオス家に上級魔術師が続いたのは、子供の因子を操作するおぞましい禁忌魔法を使っていたからです」

「あー、遺伝子操作技術みたいなものですか」


「タケル殿の言葉の意味はよくわかりませんが、だいたいそのような理解で正しいと思います。そして、兄二人が成功作で、このようなイビツな身体に産まれてきてしまった私は失敗作というわけなのです」

「なるほど、事情はわかりました」


 ライル先生の存在が明るみに出れば、ラエルティオス家は忌まわしい禁呪魔法を使っていることがバレて、社会的に立場が悪くなる。

 殺されずに生かしてもらえただけ、幸運だったとすら言える。


 魔法力が弱く、身体にも秘密を抱えたライル先生は、家系の恥として実の親に疎まれ、ずっと虐げられてきたそうだ。兄二人が王都勤めなのに、先生だけが地方書記官として左遷されていたのも、そのせいなのかもしれない。


 先生に言うのは酷だが、上級魔術師を強く憎む理由も、それで何となく見えてくる。

 自分が中級魔術師止まりだからなんて単純な妬みではなく、もっと切実な恨みなのだ。


 まともな上級魔術師に生まれなかったことが、先生にとっての身の不幸だった。上級魔術師を憎むことを、単なる八つ当たりと言ってしまっていいとは思えない。

 もともと、強い魔術師を求めすぎるラエルティオス家の業が、先生を苦しめたのだからいっそみんな死んでしまえと思っても不思議はない。


 先生の語る身の上話を聞いて、俺はしばらく押し黙って、先生の人生に思いを馳せた。

 救いがあるとすれば、その歪みと不幸な生い立ちこそが先生が知識チート化する強いモチベーションになったということだろう。

 足りない魔法力の代わりを求めるように、先生はありとあらゆる知識を貪欲に吸収して、錬金術師でもあり軍師でもあり、薬学と博物学のスペシャリストともなった。


 その痛みも苦しみも、先生を育てた糧となっていると俺は思う。


「私の話は、以上です」


 全てを語り終えると、先生は深くため息とともに、少し薄紅色の唇をほころばせた。

 思い出すのも辛い話ではあろうけれど、誰にも話せない秘密をついに語れた満足もあるのかもしれない。


「えっとじゃあ、次は俺の話をしていいですか」

「はい、なんでしょうか」


「改めて、結婚を申し込んでよろしいでしょうか」

「タケル殿は、何を聞いてたんですか!」


 先生が、久しぶりに本気で激昂している。

 怒られても困るんだよなあ。


「いやだから、えっとじゃあ、先生って実際のところを聞きますけど、自分のことを男性だと思ってるんですか?」

「いえ、男とは思ってませんよ。こんな身体ですし」


「じゃあ、結婚してもいいじゃないですか」

「いや、いやいやいや! 違うでしょう。そういう意味ではなくてですね」


「そんなにいやいや言われると、俺でも傷つくんですが」

「いえその、プロポーズを断ったわけでは……。いえ、そんな問題以前の話なんですよ。じゃあ話してあげますけど、タケル殿はアンドロギュノスという『古き者』を知っていますか」


「あーなんか、ありますね」


 俺の世界と一緒かどうか知らないけれど、男女が背中合わせにくっついてる頭が二つで、手足が四本の生物だっけ。


「仮に私の身体が誰かに見られたとしたら、魔物扱いなんですよ。男って言ってるのは身体が女性に見えるから、万が一にも求愛されては困るので言ってるだけで、私のカテゴリーは男でも女でもない、人間ですらないんです。私が、それをどんな思いで話したと……ううっ」


 先生は瞳に滲んだ涙を、嫋やかな手で拭った。

 さっきから、ため息をついてばっかりだな。まあ、これだけ素の感情を出してくれたのは初めてかもしれないから、これも貴重だ。


「じゃあ先生につかぬ事を聞きますけど、おしっこするときは立ってします? 座ってします?」

「おしっこって……座ってしますけど」


「じゃあ、問題無いですね」

「いやいやいやいや、意味がわかりません!」


「俺はもうライル先生が、男でも女でも、魔物でもなんでもいいんですよ。先生に求婚してるわけですから」

「タケル殿の言うことは、ビックリさせられることが多いですけど、もう今回だけはなんと言っていいかわかりません!」


 先生は、何度も口をパクパクさせて、怒っていいのか悲しんでいいのかもわからない様子だった。

 何と言ったらいいかなこれ。


「先生、俺は魔族ともその……やってますし、下半身触手だらけの『古き者』とも、散々馴れ合いましたし。両方ついてるから魔物だとか言われても、求愛しない理由にならないんですよ」

「そんなことを言われても、タケル殿は、私がこの身体のことでどれほど苦しんだかわからないでしょう」


「そんなの教えてくれないとわかりませんよ、一生かけてわかっていきたいと言ってるんです」


 先生が返答を思い浮かばないという、とても珍しいものが見れたので満足だったりする。

 先生は公的なことに関しては知識チートだが、私事になると、とても弱くなることがある。


 俺は先生のブラウンの瞳をしっかりと見つめて、絶対に折れないし絶対に逃がさない。

 ようやく、先生の深いところまで触れることができたのだから、手を握って絶対に離さない。


「それでも、私は私が嫌いです」

「だから俺が好きになっちゃいけないんですか。もし身体が問題だと言うなら、魔法か何かで変えてしまうこともできるんじゃないですか」


「そんなこと! 私が考えなかったとでも思うんですか。切開や整形で、見かけ上どちらかの性にすることはできますが、回復ポーションを使うと形状は元に戻ってしまうんです。因子自体を組み替える禁呪もありますが危険なものです。それに、もとから壊れて産まれてきた私は、これ以上自分の形を壊したくなかったから!」


 先生は、溜まったものを吐き出すように一息にそういうと、顔を俯けて押し黙ってしまった。

 俺はちょっと考えてから、慎重に言葉を選んで返す。


「つまり、先生は自分自身を嫌いつつも受け入れてるってことですよね」

「諦めているだけです、生きていくためには受け入れざるを得ないこともあります。人間には多かれ少なかれあるでしょう、私だけが苦しんでいるわけではないのですから、理不尽でも業を背負っていくしかない」


「じゃあ、俺にも受け入れさせてくださいよ。そのまま全部抱きしめさせてください」

「タケル殿は、何というかすごく軽いですよね。私は身体だけじゃなくて心も歪んでしまっているから、素直に抱きしめてなんて言えませんよ」


 俺もそこまで素直ってわけじゃないから、搦め手だって使う。

 よし、切り札をだそう。


「ここで俺の求婚を受けないなんて、先生らしくないですよ」

「えっとその、私らしくないとは?」


「よく考えてみてください、シレジエの王族になる俺と結婚すれば、ライル先生も王族のファミリーに入るわけです。そうすると、先生が欲しがってた国の実権を完全に握れてしまいますよね」

「あ……。それは考えても見ませんでした、いやでも」


「でもじゃない、ここは『はい』か『イエス』しか選択肢がないところです」

「タケル殿は、たまに凄く強引になりますよね」


 それは、強引に行っても良いと言ってるのだと判断して、俺はライル先生を抱きしめた。

 お湯はすでに温かくなっていたが、ライル先生の身体は話しているうちに感情を高ぶらせたせいか、お湯よりも温かくて柔らかく感じた。


 俺の抱きしめる手を跳ね除けないということは、これはオーケーだと思っていいんだろうか。


「我ながら、強引だと思います。本当はもっと時間をかけるべきなんでしょうけど、シルエット女王との結婚式も間近ですし、その時はライル先生も一緒に嫁に欲しいんです」

「一緒にと言っても序列からいって、シルエット女王が正妻なのは決まってるんですよ」


「俺の気持ちの問題ですよ、わかってもらえませんか」


 抱きしめる肌を通して、俺の想いが伝わるだろうか。

 伝わってくれるといいなと、俺は思う。


「わかりました、わかりましたよ! じゃあ私らしく、無理難題をふっかけてあげましょう」

「おお、先生も攻めてきましたね」


 面白くなってきた。

 俺は先生のためなら、なんだってやってやろう。世界だって手に入れてやる。


「結婚式までに、カロリーン公女を落としてきてください。この際ですから、トランシュバニア公国も欲しいです」

「先生それは、相手の意志もあるんですけど……」


 そう来るとは思わなかった。

 困った俺の顔を見て、先生は挑発的に笑ってみせる。


「おや、弱気になりましたか。いいんですよ、じゃあこの結婚話は無しです」

「待ってくださいよ、やらないとは言ってない」


 俺の先生に対する求婚も、なし崩し的に無しにするつもりだろう。

 そうはさせるか。


「ヴァルラム公王は、すでに公女を嫁に出したつもりでいるんですよ。外交的な根回しは、済んでるんです。公女だって、今のタケル殿の勢いで口説けば、落ちるかもしれないじゃないですか」


 俺は少し考える。

 うーん、カロリーン公女なあ。


 女の子として見たときに、好きか嫌いかといえば、もちろん好きだが。

 結婚の対象とは、考えてもみなかった。シルエット女王と、ライル先生のことしか考えてなかったよ。俺の視野はやっぱり狭いのだ。


 しかし、先生にここまで言っておいて、否やとは言えない。

 根回しも済んでるというのなら、当たって砕けてみてもいい。


「……わかりました、じゃあやってみせましょう!」

「お手並み拝見といったところですね。本気のタケル殿の力を、見せてくださいよ」


 先生らしい笑顔を見せてくれたので、俺はホッとする。

 やっぱり、暗い顔よりも野心に燃えているほうが先生らしい。


 カロリーン公女を口説くか。

 先生には大言壮語してみせたけど、俺はきっとこのあともそのことでグジグジと悩むことだろう。


 でも今は、この勢いのまま流れに乗ってみよう。

 だって俺の腕の中に、先生がいるのだから、なんだってできようと言うものだ。


「まあ、それはそれとして先生のおっしゃるとおりにしますから、その分だけ少し結婚の前祝いをいただきますね」

「ちょっと待ってください、タケル殿。そこはまだ、覚悟してないですけど」


「覚悟を決めましたって、言ったじゃないですか」

「そういう意味じゃないんですよ!」


 往生際の悪い先生が落ち着くまで、しばらく抱きしめてから、そっと薄紅色の唇に口付けしてみた。

 お風呂だと魅力が二割増になる先生の、少し紅潮した頬を見てたら、うんこれは行けるなと、確信に近いものがムクムクと芽生えてきた。


「もうちょっとだけ……、舌とか入れて見てもかまいませんか」

「こんなことになるなんて、私は思っても見ませんでした」


「俺もです、本当に感激です」

「タケル殿と私と、言ってる意味が違いますよ……」


 最後までやらないにしても、もう少しだけ、もう少しだけと続けて、先生がむくれてるのに気が付かないぐらいやり過ぎてしまったかもしれない。

 結婚するんだから、もう自分を抑える必要もないのだと考えてしまったせいで、俺は少し強く迫り過ぎてしまった。


 あとで機嫌を損ねた先生に、許してもらうのが大変だった、また貸しがたくさんできてしまう。

 俺ばかり満足してはダメなのだ。順序というものがあるし、焦る必要だってない。もっと相手をよく見て、時間をかけるべきなのだろう。

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