第79話「シェリーの人生」

 シェリーが脱衣場でさっさと服を脱いで、俺を急かす。


「ご主人様、早く行きましょう」

「えっ、ああごめん」


 俺は鎧を外して、中の服も脱ぐとお風呂場に行く。

 もちろん、腰のタオルは忘れていない、相手は子供だとはいえマナーがあるからな。


 その点シェリーは、まったく身体を隠さない。

 ちょっと胸が膨らんでるような気もするんだが、どうなんだろ。


「つかぬ事を聞くが、シェリーいま何歳だっけ」

「十二歳ですけど、それがいかがしましたでしょうか」


 まだ問題ないな。子供にタオルを巻けというのも、なんか逆に意識してるみたいで気恥ずかしい。

 青みがかった銀色の瞳で、俺を不思議そうに見上げるシェリーに、「いやなんでもないんだ」と手を振って応える。


「ご主人様、あのお疲れのところ申し訳ないのですが……」


「ああ、いいよ」

「ありがとうございます」


 俺は石鹸を泡立てて、シェリーの髪を洗ってやる。

 シャロンが流行らせたせいで、主人の俺に洗われることが奴隷少女の栄誉ということになってしまっている。


 シャロンが、奴隷少女を躾けてくれるのはとてもありがたいのだが。

 どうも教え込みが過剰になりすぎている、俺が洗うのが特別な待遇になってしまっては、逆に贔屓と見られないかと心配になる。


 シェリーの活躍は、十分に栄誉に値するから、特別な待遇でもいいのだけど。


「ふむ……」


 異世界でも珍しいと言える銀色の艶がある髪。

 さらさらと触れて、石鹸の泡でその輝きに磨きをかけていくのは楽しい作業だ。


 この銀糸のような光沢のある髪は、プラチナブロンドで金髪の一種なのだという。

 オラクルちゃんの真っ白の柔らかな髪とは、また違った感じがする。


 この前まで篭っていた『試練の白塔』は豪華なダンジョンで、やたら大理石やら宝石やら金銀財宝を見せられたが、シェリーの髪や瞳にまさる美しい銀色は存在しなかった。

 珍しい種類の猫を愛でるようなものだが、美しい髪に触れるのは、ファンタジーの醍醐味であると思う。


「ご主人様、もう髪はいいと思います」

「あっ、すまなかった」


 あんまり洗いすぎてもキューティクルが落ちちゃうしな。

 まあ、美容のことはよく分からんのだが、モンスター石鹸は天然素材だからそこまで悪くないはずだと思いつつ、お湯で流してやる。


「ありがとうございます、今度は私がご主人様のお背中をお流ししますね」

「うん、じゃあ頼む」


 シェリーは、気を回し過ぎるぐらいに気が利く。

 背中を洗ってもらえると気持ちはいいんだが、ウチの商会には頭脳チートが少なく、この娘の小さな頭には、かなり負荷がかかっているはずだ。


 無理してないかと少し心配になる。

 だから、あまり大人ぶって欲しくないのだ。


「ん、よく考えたら、なんでタオルを使わないんだ」

「この前、ご主人様がシャロンお姉様にそうしているのを見まして、髪も手で洗いますからこっちのほうが丁寧かなと」


 シェリーは、小さい手で必死に石鹸を泡立てながら、俺の背中をこすっているようだ。

 女性の柔肌ならともかく、俺のゴワゴワの肌なんかどうでもいいんだけど、まあどちらでもいいことか。


 人に手で、直接こすられる感触は、なんというか少しくすぐったくて気持ちいい。

 脇腹辺りをこそぐられると、くすぐったくて耐えられないはずなのだが、シェリーは上手く手の力を調節してくれているので気持ち良いだけだ。


 それはありがたいんだが、徐々に前の方に来てないか。

 シェリーと眼があった、明らかに前に来てる。


「そこは背中じゃないと思うんだが」

「前は、ダメですか」


「ダメではないけど、そこは自分で洗うよ」

「良かった、ダメじゃないんですね」


 シェリーはそう言うと、口元に無邪気な微笑みを浮かべて、乗り出すようにして俺の胸板も泡だけにしている。

 まあしたいなら、できるだけさせたいようにしてやろうと思うのだが、その下はマズい箇所だし気をそらすか。


「シェリーそろそろ俺はいいから、お前の背中を洗ってやるよ」

「じゃあ、洗いっこしましょう」


 ええー、何いってんのこの娘。

 俺の憮然とした顔色で察したか、すぐに謝ってきた。


「ご、ごめんなさい。ちっさい頃、こうやってお父さんと洗いっこしていたから」

「そうか……。いや悪くはないんだ、洗いっこだな、構わないぞ」


 怒られたと思ったのかシェリーが、青みがかった銀色の瞳を曇らせるので、俺は少し慌てる。

 俺も泡立てて、シェリーの身体を洗ってやる。


 シェリーがお父さんと洗いっことか、ビジュアル的にやばくないかと思ったが、よく考えたら幼児の頃の話だろう。


「お父さんって歳じゃないから、せめてお兄ちゃんぐらいにして欲しいもんだが」

「お兄ちゃんって呼んでもいいんですか」


「……それは」

「ご、ごめんなさいご主人様、調子に乗りました」


 いやシェリーは悪くないんだが、ご主人様の響きは、俺にとってあまり現実感がないから気にならない。

 だが、可愛らしい娘からお兄ちゃんと呼ばれるのは、背筋がゾワッとする。


 自分の中の悪しき者が眼を覚ましそうだったので、色即是空と唱えて静めておく。

 ……というか、静まらないぞ。


 なんで平然と、俺の下半身に手を伸ばして来てんの!

 いやシェリーのことだから、単に洗おうとしてるだけなんだろう、でも極めてマズイ。


「シェリー、あのさ」

「はい、何でしょうご主人様」


 純真そうなキラキラ輝く瞳で、上目遣いに見つめてくる。

 なるほど、やっぱり他意はないのだ。まだ子供だから性差がわからず、何も思わずに前を洗う流れで触れただけなのだろう。


「いや、背中を洗ってやるからもういい」

「あっ……」


 シェリーにそういう意図がなかったとしても、こっちとしては耐え難い拷問なので、俺は裏に回って、小さな背中を手で洗ってやった。


「ご主人様、まだ前が綺麗になってません」

「いや、もう十分だから」


 俺は回り込もうとする、シェリーを更に回りこんで、ほっそりとした肩を手で押さえた。

 子供のやたらスベスベとした柔らかい肌だが、生っ白くて筋肉がついてない。部屋に閉じこもってないで、もう少し運動したほうがいい。


「しかし、ご主人様、ご不浄はきちんと洗わないといけませんよ」

「それ、もしかしてシャロンに習ったのか」


 コクンと頷く。なんてことを教えてるんだよ。

 いや、待てよ。確かに遠い子供の頃、皮は剥いて洗わなきゃいけないとか親に教わった気がする、シャロンは間違っていない。


 そうすると、そんなにおかしなことでもないのか。

 子育てを知らない俺が、おかしなことを考えすぎてるだけだ、こっ恥ずかしいな。


「シャロンは、ご不浄まで人に洗ってもらえとは言わなかっただろ。自分で綺麗にすればいいんだ。そこは、あんまり人に触らせるものじゃないんだ」


 俺は、我ながら何いってんだという気になる。

 しかし、分かりやすく言わないと、子供だからまだ理解できないのだろう。


「そうですか、そう言えばシャロンお姉様も言うだけで、洗ってはくれませんでした。自分でしなきゃいけないんですね」


 ちょっと残念そうに、シェリーは泡だらけの手を落とす。

 ふうっ……間一髪だったぜ。


「もういいだろう、十分綺麗になった」

「ご主人様、ダメです。ご不浄が十分綺麗になってません、ご自分でされるのならきちんとされてください」


 シェリーは、やけにご不浄にこだわるな、なんだよもう。

 逆らうわけにもいかないので、俺は後ろを剥いてさっさと股のあたりを洗ってしまう。まあ、確かに言われてみれば、洗うのって結構いい加減だよな。


「ご主人様、でもでも私、自分のご不浄の洗い方がよく分からないんですけど」

「そんなの俺が知るわけないだろっ! あー怒鳴ってすまん。えっと、泡立てて適当に表面だけさっさとしておけ」


 シェリーは、俺に泡だらけのご不浄を見せようとしてくるので、桶でお湯を汲んで頭からぶっかけた。

 無邪気にも程がある、そんなのシャロンに聞いてくれよ恥ずかしい。


「はぁ、もう風呂に入るぞ」


 俺もかけ湯して、湯船に入る。今日は本当にどうしたんだというぐらい誰も来ない、貴重な時間だ。

 いつもこうならいいのに、シェリーもささっと湯船に入ってきて、なぜか俺の膝の上にちょこんと乗ってくるが、まあこれぐらいは許そう。


 広い湯船に一人……。ではないけど、奴隷少女一人ぐらいは許容範囲だ。

 なんと心地が良いことだろう、貴重な時間だ。


「ご主人様のお膝に座ってから言うのもなんですが、甘えさせてもらって良かったんでしょうか」

「気にするな、今日はシェリーしか居ないし」


 他にいっぱいいたら、一人だけ特別扱いするわけにはいくまいが、今は構わない。

 そういうふうに気を回すのが子供らしくないんだよな、他の奴隷少女なんてもっとアバウトだから気を抜けばいいのに。


 割り当ての仕事さえきちんとすれば、多少のことは大目に見る。

 シェリーは、その甚大な働きから言えば、もっとわがままを言っていいはずだ。


「私は生まれて物心ついたときには、もう母親はいませんでした」

「うん、昔話か」


 そういや、シェリーの事情ってあまり聞かなかったな。

 最初の奴隷少女たちと違い、シェリーは二期生だから、俺が直接タッチすることは少なかったのだ。


「ギャンブラーの父親に愛想を尽かしたんです。父親は、すごく羽振りのいい時もありましたが、負け続けるとドン底まで行く人でしたから、引き際を見定めた母は賢かったんだと思います」

「まだお父さんに会いたいと思うか」


 シェリーが奴隷に落ちたということは、おそらく父親に売られたのだ。

 しょうが無い事情があったにせよ、親に捨てられたようなものなのでキツイだろうが、会いたいなら探してやってもいいと思う。


「会いたいかといえば、会いたいですけど。もう生きてないと思います、あの時の王都は破産して借金まみれの博徒を生かしてくれるほど甘い状態ではなかったです」

「そうか……」


 淡々と、他人ごとのように語る。非情な響きがある。

 だから情がないわけではなくて、奴隷少女たちは心を殺さないと耐えられないような地獄を、それなりに見てきているのだ。


「唐突に、暗い話をして申し訳ありませんでした。思い出してしまったので」

「いや、話して楽になるってこともあるだろう。俺はわりと聞きたいんだけど、聞いていいかどうかわからんことだしな」


 俺にも触れられたくない過去はたくさんある。

 もし人の思い出したくない過去に触れたいなら、慎重に時間をかけてゆっくりと距離を詰めていくしかない。


「私は幸せです。シャロンお姉様がいますし、ご主人様がお父さん……ではなかったですね。お兄さんのようなものだと思ってもよろしいのでしょうか」

「そうだな、シェリーがそう思ってくれるなら嬉しい」


 俺は奴隷って制度が好きになれない。

 今のこの社会環境では、奴隷がなければその分だけ物乞いと犯罪者が増えるだけというのは理解しているので、無くせとは言わない。


 利己的な俺は、ただ自分の目の届く範囲だけ、奴隷が本来の奴隷らしく無く自由に生きてくれたらと願うだけだ。

 奴隷少女たちにはフランクに接しているつもりだが、本当に同じ人間として親しくなれたのは半数にも満たないと思う。


「じゃああの、今だけ甘えてもよろしいのでしょうか」

「うん、誰も居ないとこでならな」


 やたら堅苦しく奴隷と主人の枠を考えがちなシェリーが、こうしてその則を取っ払おうとしてくれるのは嬉しい。

 甘えるといっても他愛無い、俺にギュッと抱きついてくるので、髪を撫でてやった。


 やっぱり、まだ子供だな。そう思うと可愛らしくて仕方がない。

 俺は一人っ子だったが、妹というものがいれば、こういうものかなと思う。


「お兄さん、お兄様、お兄ちゃん、兄貴、アニサマ……」

「うーん、なんだそりゃ」


 耳元に息を吹きかけるように繰り返して、やたら豊富な語彙で妹アピールしてくる。

 西洋は、そういうのみんなブラザーのはずだろ、俺の言語チートの翻訳はどうなってるのやら。


「どれが反応いいかと思いまして、お兄ちゃんがご主人様は一番グッと来ますか」

「グッと来るかと聞かれた途端に来なくなったな」


 俺は思うんだけど、シェリーの子供らしくないところは、よくない。

 まあ、子供に子供らしさを押し付けることが、もういけないことのようにも思うが、背伸びしたいとかそういうレベルじゃないから。


「ご主人様は、さすがに難しいです」

「大人は難しいんだよ、たまにはシェリーも気を抜いて、年頃の女の子らしくしてればいい」


 数学的天才だの、経済チートだのと言われて、大人と同等の扱いをされるのは疲れるだろうと思うのだ。

 しかし、子供を甘やかすってのはどうやればいいのかねえ、猫ならヨシヨシと喉でも撫でれば満足するだろう。


「よーしよし、シェリーはいい子だな」

「あっ、ご主人様、じゃないお兄ちゃん。それいいです!」


 褒めながら、髪と背中を撫でてやったら、やたら好評だった。

 なるほど、褒めてもらって嫌がる人はいないし、猫可愛がりするとはこういうことか。


「そうか、よーしよしよしよし、シェリーは可愛いなあ」

「もっと褒めてさすってください、ああっお兄さま、素敵です……」


「よしよし、可愛い可愛い」

「もっと名前を呼んでください、後生です!」


 なんか、段々面倒くさくなってきたんだが。

 一度始めたことなのでしょうがない。シェリーは尻尾をふらんばかりに喜んでるし、止められない。


 柔らかいホッペタを、盛んに擦り寄せてくる。

 昔、飼ってた猫とそんなに変わらないな、奴隷の首輪に鈴でもつけてやろうか。


「シェリーは、髪が綺麗で可愛いな、よしよし」

「はぁっ、はわぁ、お兄さま、もっと褒めてぇ!」


 大丈夫なのか、のぼせてきたんじゃないのか。

 息が荒くくっついてる肌が、やけに熱くなってきたようにも思う。


「なあシェリー、お前のぼせてるんじゃないか」

「違います……。お兄さま、後生です、もう少しだけギュッとして。もうちょっとなんです!」


 声は、大丈夫っぽいんだが。肩をブルブルと震わせてるから、さすがに気になる。

 抱きついてきてるシェリーを剥がし、小さい身体を抱き上げて、顔をマジマジと見てみると、額に玉の汗が浮かび銀髪が張り付いている。


 上気した頬はピンク色に染まっているが、もともとシェリーは極端に肌の色素が薄いから、これだけでのぼせてるとは判断できない。


「ほんとに、のぼせてないか、息が荒いぞ」

「はぁ……。ご主人様、ここで止めるなんて、ホントありえないですよ。ここまでやっておいて、酷です」


 非難げな声もしっかりしているし、青みがかった銀色の瞳は、まだ理性の色を保っている。

 どうやら、いらぬ心配だったようだ。じゃあ再開。


「よーしよし、シェリーは賢いなあ、いい子だな」

「うああっ、お兄ちゃんありがとう!」


 しっかと抱きついてくるので、頭と背中を撫でてやる。

 ブルっと恐ろしいほどに肩を震わせたが、すりついてくるので喜びの表現だろう、シェリーは褒められるとこうなるらしい。


「よーし、シェリーは可愛いなあ、よしよしよしよし!」

「はぁぁ、おにいひゃん、ひゃぁ!」


 なんか、面倒くさいを通り越すと、今度は面白くなってくる。

 シェリーのさらりとした髪はよく手に馴染むし、肌もやたらすべすべしていてさわり心地が良い。こんだけ喜んでくれると、こっちも可愛がり甲斐がある。


「よーしよし、シェリーは可愛いなあ、可愛いなあ」

「ああっ、まだ、続けて……」


 シェリーの俺の首根っこを抱きしめる手の力が緩んで、小さい体が湯船にふわっと浮かんだ。

 風呂で気持ちよくなって、気が抜けたのかもしれない、俺も風呂は好きだからよく分かる。


「まああれだ、シェリーにはいつも助けてもらってるよ、ありがとう」

「ああっん……ここで本気褒めで来ますか、もうたまらないです」


「ん? いっつも本気で褒めてるぞ。シェリーがいなかったらと思うとゾッとするからな、お前が居てくれて本当に良かったよ」

「私も、私も、ご主人様に、お仕えできて幸せでしたぁ……」


 なんで過去形だよ。

 シェリーは、ふうっーと大きく息を吐いて呼吸を落ち着けると、俺の肩に頭を押し付けて動かなくなった。肌が触れてるせいか、ドクンドクンと心臓の鼓動が高鳴ってるのが聞こえる。


「大丈夫か、なんか様子が変だし、もう上がったほうがいいんじゃないか」

「いえ、今あの……。反芻してるんです」


「そうか」

「はい……」


 よく分からんが、肩を震わせるほど満足してるのならいい。

 シェリーには借りばかりできて、何も返せなかったような気がしていたし。


「うーん、甘やかすって、今みたいな感じで良かったのか」

「はい、大変結構なお点前でした。ああっ! でもでも欲を言えば、もう少し序盤トーンを下げて、耳元で囁く感じから入って徐々にヒートアップして、最後に凄く強く来る感じがベストだと思います。でも、今のもかなり良かったのでまた褒めて欲しいです」


 満足気なわりに、怒涛の勢いで注文が多いのは、ちょっと引く。理屈っぽいのはシェリーの悪癖だ。

 甘やかすのって難しい。なんか少しズレてる感じがしないでもないが、シェリーは毎回こんなもんだからいいや。


「そうか、まあそのうちにな」

「はい、ご主人様にまた褒めてもらえるように、今後も頑張ります」


 最後にくしゃくしゃと銀色の髪をかき回し、お風呂から出るのを渋るシェリーを促して、上がる。

 のぼせたのか、脱衣所でぐったりしている彼女を横にしてタオルをかけてやる。


 自分はささっと体を拭いて服を着ると。

 何か冷たい飲み物でも持ってきてやろうと、風呂場の扉を内側から開けた。


 すると何かが、パタリと落ちた。扉に立てかけてあったらしい。

 なんだろうと思って拾い上げてみると『お風呂場清掃中』と書かれた札だった、なるほどシェリーは、やっぱり賢い。


 ただ、こういう手を思いついたんなら、俺にも早く教えてくれよ。


     ※※※


 その後、二回目の収束を終えたと聞いた迷霧の伏魔殿めいむのふくまでんがまた開いたという報告が届く。

 これで、三回目だ……。


 二度あることは三度あるとは良く言うが。

 開いたり閉じたり、魔素だまりはチューリップじゃないんだぞ、フリード。


 やっぱりアイツ、「魔王の核を二つ埋め込めば、パワー二倍。三つ埋め込めばパワー三倍!」をやるつもりなんじゃないか。

 オラクルちゃんに、どうなってんだろと相談してみるが、その可能性は低いと言う。


「それはない……ないとおもうのじゃ。勇者の身体でも、魔王の核二つは耐えられん。ましてや三つなどと、生命の本能的に死ぬとわかるはずじゃ。フリードが一つを取り込んで抑え込んでいることがもうギリギリなんじゃから、万が一やってしまったらその場で死して魔王転生コースじゃろうな」

「そっちのほうがヤバイ気もする。まさか、ここまで引っ張っておいて魔王の核を取り入れすぎて、自滅で第六天魔王に転生とか」


 フリードなら、その可能性もないと言い切れない辺りが怖い。

 皇太子が死んで魔王転生したら、ゲルマニア帝国は外征どころではなくなり、人間同士の戦争は終わりそうな気もするが、それはそれで厄介。


 あの金獅子皇の意図はまったく読めない、だがこれが新しいラウンドの幕開けを告げるゴングの音であることは、俺にも感じられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る