第75話「到達記録更新」

 これまでの到達最上階、白塔五十四階。

 その宝物庫の金の大門が開いた。


「別に、何の変哲もない大部屋だけど」


 例えば魔王とか巨大ドラゴンが現れるとか、そういう気配みたいなものが一切ないので拍子抜けしてしまう。

 前から、やけにゴツゴツした鎧を着た、スチールゴーレムがノシノシと一体やってくるが、ボスと言うには迫力にかける。


「まさか、このゴーレムが敵ってことはないよな」


 俺が軽く始末しようと、ゴーレムに近づくと、後ろからオラクルちゃんが叫んだ。


「タケル、そいつはヤバイ、注意しろ!」

「えっ」


 そう思った瞬間、ギギギギッと関節を軋ませながら、ゆっくりと巨大な大剣を振り上げたスチールゴーレムが――高速で、斬撃を繰り出してきた!


「うあっ!」


 やばっ、中立の剣で何とか受け止める。

 オラクルちゃんの注意がなければ、不意打ちを食らうところだった、コイツ……ゴーレムの癖に、今笑ったか?


「タケル、こいつらは、魔道自律兵器『スウィフト・スチールゴーレム』じゃ。動きが速いから注意するんじゃ!」


 速いゴーレムとか反則だろ!


 ゆっくりと動くスチールゴーレムでも手強いのに、魔導鎧を着たゴーレムが、ギリィィィィと不快な起動音を上げながら、身の丈三メートルはある斬鉄剣を高速で叩き込んでくる。


 その動きが、無機質なゴーレムとは違い、的確でいやらしい。意志を持った自律機械ロボットなのか。

 くそっ、人間を舐めるな!


「二天一流奥義、虎震剣!」


 俺は左手の中立の剣で、大剣を打ち返し、そのまま大上段から右手の光の剣で叩き切った。

 堅い、それでも、ギギッと音を立ててゴーレムの身体が両断されて動きが止まった。


 俺が奥の手として秘匿してる、虎震の型を使わせるゴーレムだと……。

 そのスウィフトゴーレムが、次々と姿を表す。


 オラクルちゃんが、女神像を三体操作してぶち当てるが、スウィフトゴーレムは、聖なる杖の攻撃をかわし、斬鉄剣で難なく大理石のアーサマ像を叩き割って見せた。


「これ、けっこうやばいな」


 カアラや、リアや、ライル先生が魔法をぶち当てているが、なかなか倒れない。

 傭兵団はあまり戦力あてにならない、こんな化け物と戦士でまともに斬り合えるのは俺とルイーズだけだ。


 銃士隊の射撃は、敵が反応するおかげで牽制程度には効いているようだが、頑丈なスチールゴーレム相手には、決定打にはならない。


「クックック、俺の出番のようだな」

「ウェイク、何か手があるのか」


 やけに余裕ぶった、ウェイクは前に立つと、大きく手を広げた。

 そこに左右から、ウェイクにいつも従っている、盗賊の側近が火縄銃を渡す。


「お前んとこの先生がライフル造るのおせえから、火縄銃で連発する方法を思いついたんだよ、反逆の魔弾!」


 ウェイクの『反逆の魔弾』が当たると、次々とスウィフトゴーレムが動きを停止する。

 なるほど、側近が弾込めして次々と渡して、連発する方法か。ウェイクが撃つと、弓魔法『反逆の魔弾』がかかるから、ジャイロ効果により火縄銃でもライフル並の命中精度が出るのだ。


 ウェイクの連発で多数居たゴーレムは、みんな動きを止めた。

 しかし、いくらライフル並とはいえ、狙撃でゴーレムが機能停止するのはどういうことなんだ。


「勇者、よく見てみろよ。あいつらの胸に小さい赤い魔宝石が付いてるだろ。そこのちっさいのが、魔道自律兵器って言ってたから、つまり魔法的なエネルギー源がそこだと思って撃ち抜いてみたのさ」

「なるほど、さすがウェイクだな、感服した」


 ウェイクは、少し恥ずかしそうに「そうでもねえよ」とつぶやいて、金髪の前髪を払った。

 すぐに敵の弱点を見抜いたのも慧眼だが、一撃で小さい的を撃ち抜けるのは、ウェイクの腕があってこそだ。さすが飛び道具特化チートの盗賊王といえる。


 まあ、とりあえず何とかなった。

 この宝物庫を突破した全盛期の老皇帝コンラッドも、かなり強かったに違いない。


「さてと、宝は何があるかな」


 部屋の奥に進むと、いかにも無造作な感じで、タップリと銀貨と金貨と白金貨が詰まった袋が三つ置かれていた。


「見たこと無い、デザインの金貨だな」

「これは『神聖リリエラ王国』の古貨幣ですね。そのまま鋳潰してもいいですが、骨董的価値もありますよ」


 なるほど、古いコインか、好事家に上手く売れば儲かりそうだ。

 もちろん戦利品は、ウェイクにも分配するが、それでも十分な儲けだ。


「こっちの宝箱は何でしょうね」


 ウェイクに付き従ってる盗賊が、罠が無いか調べてくれるが、大丈夫のようだ。

 女王リリエラは、トラップの類は使わない。


 宝飾のついた立派な箱のなかには、七色に輝く薄衣が入っていた。

 うーん、なんだこれ。オリハルコンの大盾に比べると、格段落ちるような。


「これは『女神のローブ』だと思います。オリハルコンには劣りますが、これも伝説級の装備ですよ」


 先生がそう説明してくれると、確かにちょっと箔が付いたような気がする。絹でもなく金糸でもなく輝く薄衣は、どんな上級素材なのか見当もつかない。

 ちょっと揺さぶってみると、強力な防御魔法がかかっているせいか、布から鱗粉のように輝くエフェクトが見えるほどだ。


「しかし、あんまりデザインの趣味は良くないな。これはシャロンに着せられないから、リアにやるか」

「そんなこと言いながら、わたくしに渡さないでください!」


 そう言いつつ、渡されるといそいそとその場でシスターローブを脱いで、着替えようとするリア。


 うんうん、その場で装備しないと意味ないって……、アホか。

 シャロンたちが、慌てて白いシーツを広げて、リアの裸体が見えないように頑張っている。


 リアはネタがワンパターンすぎるんだよ。そんなことやっても、もう誰も突っ込まないからな。

 白いシーツの中から、やたら華美な『女神のローブ』を着たリアが爆誕した、似合ってるのがムカツク。


「まあ、これもタケルからの愛の篭ったプレゼントですから、是非もありませんね」

「お前、意地でもフードは付けるのな」


 顔を見せないのは、シスターの戒律だとは言っていたが。

 リアは、無理やりにでも『女神のローブ』に、白い布を結びつけて被っている。


 あとできちんとフードを縫製すると言っていたが、フード云々の前にすぐ脱ぎたがる癖を何とかしろ、戒律がまったく機能してねーじゃねえか。


 まあ、リアにいまさら言ってもしょうが無いので、言わないけどさ。


     ※※※


「次の宝物庫は、八十八階じゃが、どうする」

「もちろん行くよ、おそらくそこにオリハルコンの武器があるだろ」


 オラクルちゃんが、少し心配そうに言う。


「タケル、魔道自律兵器は、ワシどころか不死王オラクル様が喉から手が出るほど欲しかったのに、手に入らなかったモンスターじゃ。それをこうも多数出してくるこの『試練の白塔』のレベルは高い、行くなとは言わんが注意するんじゃぞ」

「おう、望むところだ」


 魔方陣に乗って、八十八階に行くと、いきなり出てきたのはドラゴンだった。

 ルイーズが、眼があった瞬間に『竜殺しの大剣』で一刀両断したが、いきなりドラゴンかよ……。


 しかもグリーンドラゴンじゃなくて、レッドドラゴンだ。

 火炎のブレスはルイーズに通用しないが、雑魚敵がこれってことなのか。


「ルイーズ、解体はあとにしような」

「すまん、我が主」


 玄関開けたらいきなりドラゴンの事態を目の当たりにしても、ルイーズはまったく動じてないってのはすごいな。

 俺が、この不動心を手に入れるには、どれほど戦士としての経験を積めばいいのか、でも解体は探索が終わってからにしよう。


「雑魚を相手にしててもしょうがないじゃろ、最短ルートで行くぞ」

「やっぱり、今のが雑魚なのね……」


 レッドドラゴンに、アースドラゴンに、グリーンドラゴン。

 あと、ハウンド・ドラゴンに率いられたレッサードラゴンが、大量に出てきた大部屋もあってウザかった。


 一撃必殺の竜殺しが居るから良いようなものの、これルイーズ無しなら突破するのにどれほど時間がかかった分からない。

 これが最短ルート、まあドラゴンは革も肉も高級品なので、いい儲けになったと思うしか無いな。


「もちろん、あとで解体してスタッフが美味しくいただきますよ」

「タケルは、誰に言ってるんじゃ」


 いや、まあ視聴者への配慮ってあるだろ。

 みんな貴重な食料資源を、無駄にし過ぎだと思うんだよな。


「ここが、八十八階の宝物庫じゃ」

「プッ……白金プラチナの門かよ!」


 やっぱり削ったらダメなんだよな、これ切り取って持って帰ったら、どれだけの金になるか。

 クソ、俺の精神を削ってきやがって、女王リリエラめ……。


「準備は良いかの」

「おう、万全の体制だから行くぞ」


 チラッと後ろを見たら、先生がオーケーサイン出してたので大丈夫、参る!

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