第35話「新しい奴隷少女」

 あいかわらず目の死んだ、幸薄そうな奴隷少女が二十六人、商会前に揃っていた。

 これ見る度に、心臓が締め付けられる気持ちになるんだよな。


「さあみんな、新しいご主人様になられるサワタリ・タケル様です。ご挨拶なさい」


 いきなりは無理だよシャロン。

 そりゃ命じればお辞儀はするけども、最初はまともに話が出来る状態じゃない。


「なあ、シャロン。新しい奴隷少女を雇う話って」


「あれ、ご報告申し上げませんでしたか?」

「それは聞いたとは思ったけど、住む場所とかどうするの」


 シャロンは、ちらっと銀髪ショートカットのシェリーの方を見下ろす。


「いえっ、お姉さま。私は、ちゃんとご主人様にご報告申し上げました! ほら、この報告書にちゃんと記載されてます」


 そう言ってシェリーは、俺に羊皮紙の紙束を持ちだしてくる。

 あー、このまえ俺がわけわからんから、読み飛ばしたやつか。


「これね、うんそうだ、見せてもらったよ! シェリーは悪くないぞ」


 シャロンは一瞬、琥珀色の瞳を泳がせて納得したように頷くと。


「そうですか、ではいいんです。ご主人様、すでにご存知と存じますが、隣の店舗を小間物屋商会ごと買収いたしましたので、住居は確保できてます」

「ええっ……、なるほどじゃあ、なにも心配ない!」


 すまんなシャロン。俺が報告書を読んでなかったのが悪いんだが。

 主人に恥をかかさない配慮、痛み入る……。


「それにしても、奴隷少女を二十六人追加とは思い切ったもんだな」

「今の商会の規模なら、十分に養育できる数だと愚考します。ご主人様の奴隷になりたい少女は、王都に山ほどいるんですよ」


 しかし、タイミングはよろしくない。

 ほら、何事かとシルエット姫様と、お付きの騎士ジルさんも出てきちゃった。


「シルエット姫、お騒がせして申し訳ございません」

「いえ、勇者様が奴隷少女を使役しているのは、有名な話ですから」


 そんなのが有名になっちゃってるんだ。

 それ、どう考えても悪評じゃないのか……。


「新しい奴隷少女が入ったことで立て込んでおりますので、今日はダナバーン侯爵の居城にでもお戻りになられたほうが」

「あら、わらわに見せてはいただけませんか」


「見せろと言いますと」

「前に、妾など奴隷と同じと申しましたら、タケル様は自分の奴隷は違うとおっしゃってくれました。それを出来れば、妾もこの目で見たいと存じます」


 ああ、なるほど真剣な話か。


 そうだな、姫様の境遇も、籠の鳥みたいなものだったんだろうから。

 同じように心を囚われた奴隷少女が、人間性を回復させる過程を見ることで、ネガティブな性格も矯正できるかもしれない。

 そういう心理療法もありかもしれないね、よく知らないけど。


「では、今より奴隷少女たちをお風呂で洗いますので、見ててください」

「妾もお手伝いします」


 いや、お姫様って自分の身体も自分で洗えないもんじゃないのか。

 できるというのなら、お手並み拝見させてもらうが。


 じゃあ、みんなで洗おう。ジルにも当然手伝ってもらうぞ。


「私は、子供の扱いは、苦手なのだが……」

「あとでお菓子をたらふく食べさせるから」


「勇者殿、任せられた!」


 チョロいなジル。

 俺よりチョロい奴がいてくれて嬉しいぜ。


 しかし、二十六人もの子供を洗うのは大仕事だった。

 とりあえず店番をシェリーに任せて、洗浄作業開始だ。


 奴隷少女を裸で脱衣所にズラリと並ばせて、俺とシャロンとシルエット姫とジルとで洗う。

 あと、おまけで同じ子供なのに、俺に付いて回ってるシュザンヌとクローディアまでがんばって手伝ってくれた。

 まあ、少しはお姉さんだものな。


 まずは身体を綺麗にして、肌に傷がないか調べて、あったら薬草で治療して。


「タケル、やっぱりここに居ますね!」

「シスター様、だめぇ!」


 店番がシェリーだけでは抑えきれなかったか、リアが脱衣場に飛び込んで来てしまった。

 はぁ、もういいや。


「あら、タケル。お取り込み中ですか?」

「イイからお前も、奴隷少女の身体を洗うのを手伝え」


「わたくしは、子供を洗うのは大得意ですよ! タケルを洗うのも得意ですけど」

「余計なことは言わなくていい!」


 正直、リアにかまってる暇はなかった。

 しかし言うだけのことはあり、リアはかなりの戦力になった。


 普段は肌を見せないだのなんだの言ってる修道女ローブもさっさと脱ぎ捨てて、身体にタオルを巻くと。

 どこにこんな手際があったのだという感じで、テキパキと子供の丸洗いをこなす。


 やはり、俺の手つきにはまだ遠慮があって、リアほどには手際良くやれない。

 シャロンはともかく、リアに負けるとか、なんか腹立ってくる。


「わたくしは、シスターになるまでもなってからも、しばらくは子供の世話ばかりしておりましたから、懐かしいです」

「そういや、リアは孤児で、聖女に育てられたとか言ってたな……」


 そのお師匠様とやらが、孤児を集めて教会で孤児院でもしていたのだろうか。

 リアにしても不遇な生い立ちのはずなのに、どうしてこんな破滅的な性格になってしまったんだ。


 お師匠様とやらが養育する過程で、リアに何があったのか疑問に思ったが。

 よく考えると知りたくもない、子供の教育について一言文句を言いたくても、すでに故人だ。


「タケル、わたくし、子育ては得意なんです」

「……よし、とりあえず全員洗えたな」


 俺は服を着せると同時に、奴隷少女たちに皮の首輪を嵌める。

 あまりいい気分はしないものなのだが、これは安全のためなのだ。


 俺の所有物ということになれば、子供たちはこの街で誰に邪魔されることもなく生きていけるし。

 何かあったときも保護は受けられる。


「なんで、姫様が並んでるんですか」

「妾も、いっそのこと奴隷になってみようかと」


 いや、わからん。

 シルエット姫が奴隷になった段階で、シレジエ王国が終わるだろ。

 その瞬間に、奴隷王朝が誕生すると思うと、ちょっと面白いジョークだが。


 リア、その手があったかー、みたいな顔をするな。


 いずれ、奴隷少女たちはそれぞれに人間性を回復するだろうが、それには短くない時間が掛かる。

 手間はかかるが、最初はきちんと一から十まで教えるのが肝心だ。


 食事のとり方からスプーンの上げ下ろしまで見てやって、歯を磨かせて寝間着に着替えさせてベッドに眠るところまで確認して教えこませればならない。

 最初さえ、しっかり正しいやり方を覚えさせれば、その通りにできるようになる。


「ふうっ」


 たかだか二十六人の子供の世話、学校の先生とか保父さんとかなら毎日やってるはずだが、俺は久しぶりに気疲れして、ふらふらになってしまう。

 体力うんぬん以前に、人間を扱っているってことが、とても重いものに感じてしまうのだ。ほんと、高校生に子育ては荷が重い。


「ご主人様、お疲れ様です」


 シャロンが、汗だくの俺の頭に大きなバスタオルを巻いてくれた。


「いや、お前のほうこそな……、今度は、お前の髪も忘れずにちゃんと洗うぞ」

「はい、ありがとうございます。ご主人様」


「勇者殿、約束のお菓子は」

「ジルさん、コレットが多分焼いてますから、食堂にどうぞ」


 食事を作ってもらったあと、おやつを追加してもらうように頼んでおいたからな。

 用事は済んだとばかりに、ジルさんは食堂に消えた。


 いや待てよジルさん、姫を置きっぱなしで行くのかよ。

 護衛の仕事はどうしたんだ。


 食堂に走る身のこなしは、ルイーズには負けるが、なかなかの手練に見えるけども。

 シルエット姫は、ジルに取り残されて呆れたように笑っていた。


 姫は放置されると、すぐネガティブになってしまうから気を使って声をかける。


「どうでしたか、シルエット姫」

「とても素晴らしいと思いました。タケル様の奴隷少女は、みな人間として扱われております。首輪につながれても、心まではつながれていない」


 シルエット姫も手つきはぎこちないながら、シュザンヌたち程度には役に立ってたし。

 何も出来ない女の子じゃないなとは、思うんだけどね。


「妾もぜひ、奴隷少女になりたいなと思いました」


 なにいってんのこの子は……。

 ジョークだよね。


「今からでも、妾に首輪をかけていただけないでしょうか……ご主人様」

「いやいや、姫様それ間違ってるからね!」


 ネガティブを更生させるつもりなのに、何で悪化するんだよ。

 シルエット姫に首輪をつけようものなら、ジルさんに本当に斬り殺される。


「じゃあ、わたくしは指輪が欲しいですタケル」

「あーリアうるさい」


 なんでこいつらは、コンビでいるんだろう。

 同じ白ローブ金髪で、キャラが被ってる上に両方とも面倒すぎるよ。

 せめて一人ずつじゃないと、こっちの身が保たない。


「シャロン、限界だから……俺はこの場にしばらく昏倒する」

「かしこまりました、シュザンヌ! クローディア!」


 なんか「首輪が」とか「指輪が」とか吠える声は、遠くの方に遠ざかって行き。

 俺はシャロンの膝枕で、しばらく眠る。


 強烈なボケに対して、ツッコミすら自分で出来なくなったって。

 俺も、姫のこと言えないレベルで、退化してしまってるかもしれない。


     ※※※


「お目覚めに、なられましたか……」

「ああ、すまないシャロン」


 ずっと膝枕しててくれたのか。

 足がしびれただろうに。


 今何時だろう、外はすっかり暗くなってる。

 さっきまで騒がしかったのに、やけに静かだ。


 新しい奴隷少女たちが寝てる部屋をそっと覗くと、みんな各々のベッドで健やかに寝息を立てている。

 奴隷の産地は難民が溢れる王都からだろうから、長旅で疲れたんだろうな。


「ご主人様、お食事になさいますか、それともお風呂ですか」

「えっと、そうだな。じゃあ、風呂で約束を果たすことにするか」


「はい、参りましょう。もうロールに頼んでお湯を入れ替えてもらってます」

「本当に手際がいい」


 自分が動けるのは当人の努力だと思うが。

 動かずに人を使うのは才能だな。


「うふふふっ、はい」


 シャロンの頬が紅潮して、耳が天を向くようにピーンと張り詰めている。

 緩んだ頬を見なくても、機嫌が良いとわかる。


「じゃあ、行くか」


 なんで俺が髪を洗うことが、奴隷少女の栄耀になっているのかはよくわからない。

 シャロンたちにとって、俺は言わば親代わりになっているのだから、甘えたい存在なのかもしれない。


「そのシャロンたちに、助けられてしまってるのは情けないけどな……」

「ご主人様、何かおっしゃいましたか」


 いや、たくさんの出来のいい娘を抱える身としては、もっとしっかりしないと思っただけだ。


「シャロン脱ぐのは、いいけどタオルを身体に巻くぐらいの配慮はしろよ」


 もう大人なんだから、言わなくてもわかるだろう。

 俺も腰にタオルを巻いて入る。


 さて、身体を洗うのが先か、湯船に浸かるのがさきか。

 シャロンがタオルを巻いてしずしずと浴場に入ってくるのを見て、まず髪を洗ってやるのを先にしようとお湯を湯船から汲んだ。


 シャロンの育ちきってしまった身体は、大きめのタオルでも完全に隠れきれてない状態なので。

 湯船に浸かり、タオルがお湯に濡れてからだと、気まずくなりそうだから。


「だいぶ待たせてしまったな」

「いえ……」


 シャロンにざぶっとお湯をかぶせて、手で石鹸を泡立てて髪を洗う。

 髪は綺麗に手入れされている、奴隷少女同士で散髪とかしてるのかな。


 だったら、髪も自分たちで洗いっこしてくれって感じだが、それは言うまい。

 本人がそうして欲しいというのだから、俺はそれに応えるまでだ。


「シャロンはアレだな、綺麗な髪をしているな」

「はい……」


 なんだか黙って洗っているのが恥ずかしくって、変なことを言ってしまった。

 淡いオレンジ色の髪は、お湯で濡れると瞳の琥珀色に近い感じになる。茶色よりは少し明るくて綺麗な色彩だ。


 綺麗に泡立てて、獣耳にお湯が入らないように気を使いつつ、シャロンの髪をたっぷりと時間をかけて洗ってやった。

 さっと流したら終わり、たいしたことはない。


「あのご主人様」

「んっ」


「身体もお願いするってことは」

「はぁ……」


「あっ、ごめんなさい」

「いやいいよ、すまん。俺が気にしすぎなのかもしれない」


 シャロンに他意がないのはわかっている。

 だが、さすがに大人の女性の身体を洗うっていうのは、もうラインを越えている。


「じゃあ、私がご主人様のお背中をお流しするのは」

「それならいいぞ」


 願ってもないことだった。

 俺が背を向けると、シャロンが泡立てて背中を洗ってくれる。


 なんでシャロンたちが洗って欲しいのかわからないー、なんて言いながら。

 自分で他の人に洗ってもらうと、やっぱり気持ちよかったりするのだから世話はない。

 何も言わなくても、シャロンは後ろから俺の髪まで洗ってくれる。

 本当に出来過ぎだな、背中を流してもらったらさっぱりした。


「シャロン、やっぱり背中だけ洗ってやろうか」

「ぜひっお願いします!」


 是非って、お前はリアか。

 変態が伝染るから、その口調はやめておきなさい。


 タオルで前はきちんと隠せよと命じて、背中を向けているシャロンに泡立てて手を付けた。

 タオルを使わず手で洗うのは、別にいやらしい意味じゃない。


 もう大人になっているシャロンの玉の肌は、繊細な感じがして。

 少し迷ったけど、目の粗いタオルでは傷つけてしまうんじゃないかと思ったから。


 本当に大きく育ったなあ。大きくて柔らかくて暖かくて……いや、やめよう。

 小さくて傷だらけだったころのシャロンを知っているので、余計に直視しづらい。


「ご主人様、やっぱり前も洗って……」

「ダメに決まってるだろ」


「じゃあ、私が……」

「どうしたんだ、シャロン。お前は、もっと聞き分けがいい子だろ」


 普段はそんなないのに、こんな時に限ってやけにからんでくる。

 俺が抵抗あるのわかってるだろう、言わせんな恥ずかしい。


「ご主人様は、どんな奴隷がお好きですか」

「えっ……」


 いや、お前どうして、こんな時そんなことを。

 なんかいたたまれなくて、俺はシャロンに背を向ける。


「ご主人様が、ただ聞き分けの良い奴隷がよろしいんでしたら、私はそうしますけど」

「それはお前……俺は、自分の奴隷に自由で居て欲しいと、いつも言ってるだろう」


 奴隷制度がある今の社会を認めている。虐げられているのも仕方がない。

 だけど、自分の手の届く範囲では、それを許したくない。


「じゃあ、時にはご主人様のお言葉に逆らってもいいんですか」


 俺の首にほっそりとした手が回されて、背中に柔らかい感触が当たる。


「シャロン、それはそうだけど、これは違うだろっ!」

「どっちなんです、ご主人様。従順な奴隷がお好みなんですか。それとも、奔放な奴隷がお好きですか」


 俺は、全く身動きが取れなくなった。

 諸事情により、猫背のまま立ち上がることができなくなってしまったのだ。


「ねえ、ご主人様。どっちなんですか」


 これはもう進退きわまる。その時だった。


「あー、シャロンさん。わたくしたちに黙って抜け駆けとは、いけませんわね。アーサマの罰が当たりますわよ」


 リアが乱入してきた。

 これは、助かったと思ったけど。


「おいっ、リア、タオルをつけろよ馬鹿野郎!」


 助かってないじゃないか。

 修道女は、他人に肌を見せないんじゃなかったのか。無駄な肉を揺らしすぎなんだよ、お前のほうが、アーサマに罰してもらえ!


「あらぁでも、わたくしのオッパイを覆える大きさのタオルがないので、これは是非も無しですね」

「そういうこと自分で言っちゃうんだ、お前……」


 いくらなんでもドン引きだわ。

 どこの世界に、巨乳を自慢する聖職者がいるんだよ。


 あまり引きすぎたせいで、立ち上がれる状態になった俺は。

 即座にお湯を自分と、なぜかズルッと前のめりにへたり込んでいるシャロンにかけてやると、さっさと湯船へと緊急避難した。


 リアだけなら、そのまま横を突き抜けて脱衣所に逃げてもよかったのだが。

 なぜかリアの後ろから、シルエット姫とジルさんが入ってきた。もう、後ろに下がるしかない。


 二人が浴場に入ってくるのは分かる。どうせリアに、一緒に入ろうとそそのかされたんだろう。

 それはいいんだが、本来隠さなくてもいいぐらいささやかなお胸のシルエット姫は、きちんとタオルを巻いてるのに。


「なんでジルさん前を隠してないんですか!」

「おお、勇者殿。お目汚し申し訳ない」


 いや、お目汚しではないですよ。


 無駄な脂肪のついていない筋肉の張り付いた四肢は、それはそれで美しいと思えるし、スタイル良くて、出るとこきちんと出てますしね。

 あと、黒髪ポニテで小麦色の肌ってのがポイント高いです。綺麗ですよ。


 でもそういう問題じゃないでしょう!


「いや、目の保養、じゃなくてタオルで前を隠しましょうよ!」

「そうしたほうが良かったのか。聖女殿が、まったく隠してなかったので、風呂とはそういう作法なのかと思ったのだ」


 いやいや、気付こうよ。リアはおかしいから。

 なんであいつが普通に聖女扱いされてるのか、俺はいまいち納得できない。


「あら、そういうものですよジルさん。あと湯船にタオルを浸けるのは、マナー違反だから是非やめてくださいタケル」

「お前が、なぜ日本の入浴の作法を知ってる!」


 身体を洗うタオルは石鹸や垢がついてることがあるので、湯船に入れるのはマナー違反なのだ。

 しかし、リアが知ってるわけない。シレジエ王国は風呂文化ないだろ。


 リアはきちんとかけ湯して、湯船に入ってくる。

 本当に、お前どこの国の人だよ。同郷の人間なのか、同郷の人間なんだな!


「ほら、タケル。無粋な真似は是非やめるのです。裸の付き合いですよ」

「うああっ、その言い回しとか、どこで覚えたんだよ」


 リアは一瞬の躊躇もなく、俺の前まで来て下半身を隠していたタオルを剥ぎとった。

 お前の行動はもう、本当にツッコミが間に合わないんだよ!


「くはぁ、生き返る……是非とも気持ちいいお湯ですね」

「その久しぶりに温泉に来た、OLの甘いため息みたいなのやめろ」


「はてタケル。OLってなんですか、オーガ・ロードのことですかね」

「いまさら、そのわざとらしい現代知識を知りませんみたいな素振りもやめろ」


 絶対こいつ知ってるよ……なにが是非だ、似非異世界人め。

 リアは、現代日本の風呂文化に詳しすぎる。


 絶対裏に何かある、今度とっちめてやる。

 だが今はちょっとマズイ、命拾いしたなリア。


「それよりも、もっとタケルの勇者の力を高める秘蹟サクラメントがあるんですけど、是非知りたいですよね」

「絶対知りたくない!」


 知りたくないって言ってるでしょ。

 湯船に浮かんでる、風船みたいなのくっつけてくるなよ。


「シャロン、頼む!」

「はいっ、リアさん下がりましょうね」


「えー、わたくしはまだ」

「ねっ!」


 良かった、シャロンが力押しで何とかしてくれた。

 リアとの間に割って入ったときに、シャロンの胸も盛大に当たって行ったんだが、この際不問に処す。


 オッパイをもってオッパイを制すとは良く言ったものだ。

 リアが来たら、もう全部シャロンにガードさせよう。

 手段を選んでいる場合じゃない。


 さあ早く、タオルを取り返さなくては。

 うっ……。


「なんで、タオルを脱いでるんですかシルエット姫」

「だって聖女様が、タオルはお湯に浸けちゃいけないって」


 それは、すごく正しいマナーなんですよ。

 でも湯船で、俺にさも当然のように抱きついてくるのは、ちょっとどうかなあと思います。


「あれっ、勇者様なんだか妾には、反応薄いですね。すごく失礼なものを感じます」

「姫様相手なら何とか自制はできます。でも控えていただけると、嬉しいのですが」


 いくらシルエット姫がストロベリーブロンドで、絶世の美女で、ハーフエルフでも。

 胸も身体も、例えて申し訳ないけどシェリーぐらいの大きさだからな。


 奴隷少女で鍛えられている俺にとっては、さほどダメージがない。

 シルエット姫は成人した(異世界基準だけど)女性だし。

 鑑賞物としては、磨き上げられた白い肌は、とても美しいと思うのだけどね。


 そこは紳士なので、俺だって目をそらします。


「ちょっと待ってよ、なんでジルさんまで俺にくっつけてくるんですか」


 ジルさんちょっとおかしいんじゃないのか……。


「いや、みんなしてるからそういう作法なのかと、違うのか勇者殿」


 そんな作法があるわけないだろ!

 いや、混浴の段階から間違っているからな、そこから違うよ。


 頼むから、俺に早くタオルを取らせてくれ。

 というか、もう上がらせてくれ……。


 結局、この日は俺は全員が出るまで風呂から出れずに、長湯する結果となってしまった。

 この勢いで、風呂どころか寝床にまでリアがちょっかい出しに来たら嫌だなと思ってたら。


 臨戦態勢で寝ずの番をしてくれてる、シュザンヌとクローディアが一晩中ガードしてくれたので、俺の安眠は守られた。

 なるほど立ったフラグってのは、意外にしっかりと回収されるものなのだなと思った次第である。

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