第三章 王都陥落 編

第29話「王都落城」

「タケル、是非ちょっと来てください」

「なんだ、またからかうつもりなら」


 また、リアが来たよ。


「是非もない、真面目な話です」

「わかった」


 目深まぶかなフードをあげてリアはこっちを見る。

 蒼い瞳に、真剣な憂慮の色が見える。嘘ではないようだが。

 これでまた変な話だったら、いくら俺がチョロでも、二度とこの女を信用しないぞ。


「あっ、呼んできたんですか」


 行き先は、ライル先生の部屋だった。

 あいかわらず、割り当てられた部屋を乱雑な研究室にしてしまう先生だが。

 今日は割と綺麗に片付けられてあり、机の上に聖棒ホーリーポールが置かれていた。


「これって」

「そうです、リアさんが持ってきた、彼女の師匠が封印に失敗した『偽の聖棒』です」


「やっぱり、偽物だったんですか」

「はい、魔法には物にまつわる過去の残像思念を映し出す呪文があります。重要な犯罪捜査に使われる魔法なんですが」


「調べた結果、ゲイル将軍の強い思念が残ってました。彼の関与は、ほぼ確実です」

「そうですか、何となく分かってたけど」


 騎士の誇りを唱えるルイーズには悪いが、ゲイル将軍がやったと思ってたよ。

 これが物証になるわけかな。


「王都におもむいて、これでゲイル将軍を糾弾します」

「そうするしかないですね」


 俺は争いごとが嫌いだが、証拠をこっちが握ったってことはゲイルにも、もう分かってるわけで。

 相手もバカじゃないんだろうから、早く糾弾して追い落とさないと、こっちが殺られる危険性もある。


 リアが『偽の聖棒』を抱えて、フードを目深めぶかにかぶり直した。


「タケル、アーサマは戒律で復讐を禁止しています。罪を許せともおっしゃってます。ですが、私は……」

「ああっ、うん。しょうが無いと思うよ」


 ゲイルが悪いんだしな。

 リアのお師匠様ってのがどんな人か、俺は知らないけど。


「お師匠様は、孤児だった私を育ててくれた親代わりなんです。本当に優しすぎる人でした……お師匠様をたばかって殺したゲイルを、私は絶対に許さない」


「わかった、俺たちが必ず罪を償わせるから、見ててくれよ」


 ここまで好き勝手やらかしたんだから、ゲイルは死刑になるだろ。

 この国に死刑があるか知らんが、中世ファンタジーだし処刑は確実。

 リアが手を汚すことはない。


 こうして俺たちは、ゲイル糾弾のために王都に向かうことにした。


     ※※※


 山道を回ると果てしなく遠いんだが、『魔の山』をそのまま越えると、オックスの街と王都の距離は近い。


 山頂にある『魔素の瘴穴』の金属加工はとても気になるんだが。

 師匠を殺されたリアの気持ちを思うと、立ち寄って調べてるわけにもいかないしな。


 王都に到着すると、この前の時とは違い大歓迎された。

 いきなり国王陛下に謁見ってことはないが、この前の部屋よりはグレードが高い貴賓室に通される。


 豪奢な礼服に身を包んだ白い髭の爺さん、ローグ宰相が満面の笑みで待っていた。


「宰相、お久しぶりです」

「おおっ! これは救国の勇者タケル様、ささどうぞこちらにごゆるりとなさってください」


 調子がいいなあ。


「これから、国王にも謁見していただくよう準備をしておるところです。まずは、むさ苦しいところですが旅の疲れを癒してください」

「はあ……」


 ここまで厚遇されると、あと宰相キャラ変わってないか。

 そう見えるほど、待遇が変わったということかね。


 魔法力ゼロの俺でも、評判だけは教会認定の勇者らしいからな。


「宰相、なにか俺たちに言うことがあるんじゃないですかね」

「はっ、もちろん謝罪させていただきます」


 宰相は、豪華な服を土につけて(まあ、土といっても絨毯だけど)頭をすりつけんばかりに土下座した。


「申し訳なかった、騎士ルイーズ!」


 そっちかよ。

 ライル先生に謝れってつもりで言ったんだが。


「前回の失敗を取らせて、王都より追い払った私の判断は間違いであった。どうか、過去のことを水に流して騎士団に復帰していただきたい」


 まあ、ルイーズにも謝るべきだよな。

 そうだ、そっちの話が先だった。


「宰相、騎士団のことで話があるんです。実はゲイル将軍が……」


 ライル先生の説明に、顔を青くする宰相。


「そんなことが、おのれゲイルめ! すぐに奴を捕らえるのだ」


 宰相は側近を呼び、ゲイル糾弾に動いてくれた。

 これでとりあえず一段落かな。


 と、ゲイルが部屋に入ってきた。

 捕まえたにしては早すぎるなと思ったら、クロスボウを持った部隊を連れての登場。


「およびですかな宰相閣下」

「ゲイル貴様なんのつもりか、うあっそれは!」


 ゲイルが手に持っているのは、王冠を被った威厳のある男の頭だった。

 また、グロ展開かよ。


「ハハハッ、国王陛下といっても、こうなるとあっけないですな」

「きっ、貴様ぁ! 気でも狂ったか!」


 ゲイルは、王の首を宰相に放り投げると

 そのまま宰相に突きかかって、深々と剣を突き刺した。


 王国騎士の突撃、普通の爺さんである宰相にはどうすることもできず。


「狂ったのは、この状況で俺様を叱責できると思ってる貴様の方だろ」

「グアアアッ、ゲイル、きさぁま……」


 ゲイルがズルッと剣を引き抜く。

 宰相はあっけなく、倒れて息絶えた。


「ハッハッハッ、偉そうにしてた男もこのザマだ。最高の気分だぜッ!」


「ゲイル貴様、気違ったか!」


 ルイーズが、ゲイルに向かって直刀サーベルを抜いた。


「もうそれ聞き飽きたわ、なんでお前らは最後まで現実を認めようとしないんだろうなあ」

「なにっ!」


「そこで死んでる間抜けな国王と宰相を見ろよ。王都の王族も、貴族どもも、俺が全部皆殺しにしてやる。シレジエ王国の権威も、おしまいになったってことなんだよ」

「ゲイル、王国に忠誠を誓った騎士のお前が、なぜこんな……」


「ハハッ、すげえなルイーズ。お前まだそんなこと言ってんの? 気が狂ってるのはお前のほうだろ」

「なんだとぉ!」


「お前だって、自分は悪くないのに責任取らされて追放されてよ。お前もう騎士ですらないだろ、この国がもう根本から腐り切ってるのがなんでわからんのだ」

「騎士はそれでも、国のために戦う存在だろうが!」


「それは上級騎士の生まれのお前らだけだ、父親が士分ですらなかった俺様が、この腐った国でここまでのし上がるのに、どれほど苦労したと思ってんだ」

「そんなことは関係ない、貴様も騎士の誇りがあるなら、この場で私と正々堂々剣で勝負しろ!」


 横で聞いてて、俺もいまいちどっちがおかしいのかは、わからんけどね。

 確かに、弱者を虐げて平然としてるこの王都にも良くないところもあるから、盗人に三分の理ぐらいはあるかもな。

 悪いのはゲイルだが、あいつの言い分に耳を傾ける人もいるかもしれない。


 ルイーズとゲイルの一騎打ちが始まって、こっちも向こうも空気を読んで静観してる状況。


 ライル先生の魔法なら、ゲイルもろとも吹き飛ばせるだろうが。

 向こうのクロスボウ部隊も数が多いから、やばいかもしれない。

 下手に動きが取れない状況で、いくたびかルイーズとゲイルがつばぜり合いを繰り返した。


「やはり強いなあルイーズ」

「ゲイル、騎士の信念を持たぬ貴様の剣に、私が負けるはずがない!」


「残念だぜルイーズ、冒険者に成り下がったお前なら、分かり合えるかもしれないと思ったのに」

「騎士とか以前に、私はお前の顔が生理的に嫌いだ!」


 ルイーズそれはちょっと酷い。言い過ぎだから。

 ゲイルも、ルイーズと分かり合えるかもとか、このに及んでないだろ。

 お前すごい嫌われてたぞ。


「そうかよ、だったらその大層な騎士の誇りを抱えて死ね」

「ゲイル貴様ぁ!」


 あっ、顔が生理的に、を無視した。

 気持ちは分かる。


「おいもういいぞ。おまえら、こいつを撃ち殺せ!」

「なっ、卑怯な」


 クロスボウ部隊は、ゲイルが引いて合図したと同時にルイーズに向かって一斉射撃を行った。

 うあ、マズイ。

 完全に虚を突かれた、先生の魔法も間に合わない。


 中世ファンタジーで、決闘シーンを破るとか反則だろ!


 しかし、ずっと余裕の笑みを浮かべていたゲイルの顔が、初めて醜く歪んだ。


「はあぁぁ~? この数のクロスボウの直撃で無傷とか、化け物かよ」


 ルイーズが着ているのは、『黒飛竜の鱗の鎧』だ。

 鉛弾ですら通用しなかった硬い鱗に、いかに高速度・高威力のボウガンの矢でも貫通するわけもない。


 それにしたって、顔とか鎧に守られてない急所に飛来する秒速百メートル近いスピードで迫る矢を、剣で弾いて見せたルイーズは、十分に化物なんだけど。


「私だって、もう昔のままではないぞ、ゲイル!」


 矢を振り切った瞬間に直刀を捨てて、小弓に持ち替えゲイルに射撃するルイーズ。

 決闘でなくなったら、飛び道具を使う程度の柔軟性は、ルイーズにだってある。


「チィ、女郎めろう風情が!」


 ルイーズの正確無比な矢を、鋼鉄の篭手ではねのけるゲイルも人間超えちゃってる感じがする。

 この二人は、さすがに騎士団長クラスの実力だ。


「もういいでしょう、ゲイル将軍から聞けることは聞けました。ルイーズ団長下がってください。こいつを倒します」


 先生の冷静な声が部屋に響き渡った。


「クックック、どうするつもりだ、ライル書記官。魔法でも使ってみるか? 決め手にかけるとはいえ、貴様らが囲まれてる現状は変わらんのだぞ」


 こうしている間にも、ボウガン部隊が次の矢を込めている。


「こうします」


 ライル先生の合図で、奴隷少女銃士隊が入ってきた。

 ゲイルのボウガン部隊を超える数。


「なぬ?」


 ゲイルの情けない叫びに向かって、銃士隊の一斉射撃が襲った。

 弾ける銃声、硝煙の煙。


「やったか」


 弓を引いていて無防備だったクロスボウ部隊は、銃撃を受けて全員が倒れ伏している。ゲイルは……。


 何とゲイルは、とっさに机を引き倒して盾にして銃撃を防いでいた。

 すごい対応力、敵ながらアッパレだわ。

 お前に、ルイーズを化物って言う資格ない。


「ええいっ、この程度で勝ったと思うなよぉ、ルイーズ!」


 なぜかルイーズにだけ捨てセリフを残して、ゲイルは大きな机を抱えたまま逃げていく。

 そんなことしなくても、火縄銃は連発できんのだが、そこは知らないのか。


 あっ、部屋の扉に引っ掛けてバリケードにするつもりなのか。


「先生このまま追撃していいですか」


 ルイーズなんか、もう聞くまでもなくゲイルが部屋の入口に残した机を乗り越えて追撃しようとしてるぞ。

 ゲイルのことだから、この先も罠があってもおかしくはないから迷う。


「ルイーズさん追ってはいけません!」


 ルイーズダメだって。不服そうに振り返るルイーズの眼がキツイよ。


「でも、先生なんとかならないんですか」


「お師匠様のかたきが逃げちゃう」


 ゲイルを逃してしまって、リアが泣きそうな声を出してる。

 彼女にとっては恩人の敵なんだよな。


 普段はともかく、今日のリアには同情する。

 ゲイルさえ倒せば、この騒ぎ終わりじゃないか。


「ゲイルの軍は騎士団に、王国の正規軍まで加わってるんですよ。まだ待ち伏せの罠は必ずあります。あとタケル殿、私だってなんでもできるわけじゃありませんからね!」


 ああ温厚な先生が怒った。そうだよね。

 本当なら袋のネズミだったんだから、逃げられるだけマシか。

 先生のおかげですよ、ごめんなさい。


「分かればいいです。さあ、みんな今のうちに逃げますよ。まだ王都全体が囲まれてるわけではありません。王城の守りさえ突破すればいいんです」


 先生の巧みな戦術指揮の元、銃士隊の攻撃で、王城の中に二重三重に配備されていた敵の囲みは突破された。


 最新の機械弓が相手でも、銃士隊が撃ち負けないって分かってそれは良いんだが、俺の気持ちは暗い。

 ついに、人間同士の殺し合いになってしまった。


 ゲイルが言った通り、王城の囲みはあったが、王都全体を囲めるほどの兵力はなかったようだ。

 街は、ゲイルにくみする側とくみしない騎士と兵士が争って、騒然とした状態に陥っている。

 この街から逃げるのは、たやすそうだ。


 首都シレジエの街を出て、ホッとして後ろを振り返ると王城が焼けていた。

 おそらく宮廷魔術師同士の撃ちあいになって、火がついたんだろうな。


 王都の落城、街の至る所でも火の手が上がって手のつけようがない。

 すでに難民だらけで酷い街だったけど、こうなると悲しい。


 ゲイルも自分の陰謀がバレたからってこんなことしでかしちゃって。

 どう収拾つけるつもりなんだ。

 敵ながら、心配になってくるぞ。


「先生、それでどっちに逃げるんですか」

「もちろん、エスト伯領に向かってです」


「えっ、近くのオックスの街じゃないんだ」

「ゲイルもバカじゃないでしょうから、そっちに向かって足の速い騎士隊で追撃してきますよ。無駄な戦闘は避けたいですからね」


 先生は、王領とエスト伯領の国境沿いにオナ村から義勇兵団を繰り出して、味方の陣を張っていた。

 エスト領まで逃げ込めば安全と。


 ホッとしたけど、ここまで先が読めてる先生なら、ゲイルの陰謀を未然に防げたんじゃないか。

 澄ました顔で、馬車に揺られている先生に、そう聞こうか迷ってやっぱり辞めておいた。


 また、怒られちゃうし、失礼だもんな。

 俺は、ライル先生を万能チートみたいにすぐ考えちゃうけど、魔法使いだからって何でもできるわけではない。

 むしろ勇者とか言われてる俺が、なにやってたんだって話だ。


 これから先の展開、全く読めなくなってきた。

 宰相に頭をさげさせて、ゲイルを失脚に追い込んで、メデタシメデタシだと思ってたのに。


 この先、一体どうなるんだ……。

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