第27話「魔素の瘴穴」
俺は、アーサマの神聖文字が刻まれた
『魔素の瘴穴』封印に挑むメンバーは、勇者の俺と、どう説得しても付いてくると聞かなかったシャロン率いる奴隷少女銃士隊。
こういうとき説得できないのは、俺もあいかわらずチョロだと悲しくなる。
奴隷少女たちはまだいい。
サラちゃん兵長まで近衛だと主張して勝手についてきてるから、何かあったらロッド家に申し訳がないと青くなる。
だが幸いなことに、魔の山とはいえ、雑魚モンスターの数が多いだけで、ほとんどが銃士隊で十分対応できる。
先に山に入って、ワイバーンを引き出してくれていたルイーズに感謝する。
「星王剣!」
俺も光の剣を振り回して、一刀のもとにオーク・ロードを構えていたストーンハンマーごと切り伏せる。
青白い光を放つ刃、ブゥーンと唸る光の剣の切れ味はイメージ通りだ。
秘跡(サクラメント)の効果か、フットワークも軽い。
これならなんとか、仲間を守り抜りぬいて戦い抜けそうだ。
森のあちこちで発生しているオークやオーガを鎧袖一触で斬り伏せながら、山道を必死で突っ走っていたのだが。
山頂に近づいて見えた『魔素の瘴穴』に思わず足が止まった。
「タケル、どうしたんですか!」
「どうしたんですかってリア、あれ……」
「何驚いてるんです、あれが目的地『魔素の瘴穴』です」
「えっ、だって……」
黒杉が続く山道を抜けた山頂にあったのは、鈍く銀色に輝く四角い建物だった。
鉄筋コンクリート造のビルとか、ありえないオーパーツだろ。
まあいい、とにかく向かいながら話そう。
「金属の建物って、この世界にありえないだろ」
「そういえば他には見ないですね」
なにその珍しい建物ですねぐらいのリアクション。
もっと驚けよ、自動車を見て「鉄のイノシシが走ってる」って驚くレベルだろこれ。
「リア、あれいつから建ってるんだよ」
「二百四十年前です。建国王のレンス様が、目立つようにと、ああいう変わった形の建物にされたと聞いてます」
「二百四十年とか、ありえないから、普通に錆びるだろ」
「それは是非もありませんね」
いや、リア。本当にあの凄さがわかってないよね。
なんでここにライル先生がいないんだ。
仮に誰かが建てたのは本当だとしても、二百四十年前って嘘じゃないか。
コンクリート部分はともかく、雨ざらしになった金属が残ってるとは思えない。
補修したにしても、誰が補修してるんだよ。
「勇者様の電撃魔法を使った合金だと、お師匠様が言ってました」
「ああっ、そうか金属メッキか?」
近代の電気メッキで作った甲冑とかは、現代に残っていると聞く。
あるいは可能性としては、いやしかし二百四十年だぞ。
ブリキでも錆びないわけではないからやっぱりありえないんじゃ。
ううん、知識不足で分からん。
近づいて見たら、下の方はさすがにちょっと錆がきていたが。
ほとんど錆びてない。
むしろこれは、本来は錆びる金属を錆びにくくしているのか。
トタンじゃないし、ブリキか?
あるいは錆びないステンレス加工なんてのもあったな。
いっそ、単に魔法で錆ないって話なら簡単なのだが。
自分でもブリキや、メッキ製品を作れるかもしれない可能性を示されると、考えざるをえない。
ただでさえ、いま冶金技術が欲しくてたまらないときだ。
「ご主人様、いまはそんなことを言ってる場合じゃないです!」
あんまりこだわってたので、後ろからシャロンに怒られてしまった。
「ごめんわかった、すぐ中に突入するぞ!」
四角い門から中に走りこむと、通路には大きなドクロマークがたくさん書かれている。
「建国王である伝説の勇者様が、危険だと示すために」
「怖いんだよ!」
趣味悪いだろ、伝説の勇者レンス。
もうとっくの昔に死んでるだろうけど、絶対友達になれそうにないタイプだ。
何度か扉を抜けると。
いよいよ、瘴穴の間にたどり着いた。
そこにあったのは円形の大きな金属の床だった。
穴がたくさん開いていて、下から青白い光が漏れだしている。
なんだこれ、写真で見たことあるぞ。
俺の頭の中で危険アラームがガンガン鳴ってる。
「……って、これ原子炉じゃねーか!!」
下からチェレンコフ光がでてきてるよ。
なんなの、魔素って放射能だったの!?
そりゃ変なモンスターもたくさん出てくるわ!
うああ、防護服来てないじゃん!
「ここに、制御棒(ホーリーポール)を差し込んで封印します」
「リアぁ! いま制御棒って言ったよね!」
「間違えました、聖棒(ホーリーポール)です。聖棒を差し込みまーす!」
「もうどうでもいいから、早く止めてくれぇ」
「創聖女神アーサマの忠誠なる信徒ステリアーナが祈り求めます! どうか世界を統べる創聖の名のもとに、混沌から湧く魔素の噴出をお止めください!」
プシューと音を立てて、聖棒が飲み込まれていく。
次第に、下から漏れだしてくる青い光が収まっていく。
「これで、収まったのか」
「はい、封印が完全に成功しました」
本当に、終わるときあっけないな。
あとは魔素が、本当に放射能汚染的な物じゃないことを祈るだけだ。
しかし、勇者の光の剣も青いんだよな。
青白い魔素って、結局なんなんだろうという謎は残る。
魔法自体が魔素なのか、地中から湧きだす混沌が魔素なのか。
なんでアーサマの棒を挿したら止まるの?
俺がそんなことを考えて、脳をハングアップさせていると。
リアは、お師匠様を謀って殺した犯人を探すと、封印に失敗した聖棒を引き抜いていた。
あとで調査するつもりらしい。
身体から変な触手とか羽とか生えないうちに。
一刻も早く、この部屋から出たほうが良いと思うけどね。
※※※
残心。
俺は『魔素の瘴穴』から出ると、光の剣を手にして、油断なく辺りを見回す。
こういう、長い時間をかけて目標を達成した瞬間こそ一番危ない。
俺は、ちゃんとパターンを分かってるんだよ。
魔素の噴出が止まった黒い森は、不気味なほど静まり返っている。
あー、こういう雰囲気は、絶対来る。
キーンと耳をつんざくような音が聞こえた。
ほら、来た!
「そうか、山の主が戻ってきたから雑魚はいなくなったか」
頂上から見上げる俺は納得した。
あんなのが見えたら、どんなモンスターでも逃げるよな。
ものすごいスピードで、黒飛竜(ワイバーン)の生き残りが飛び込んでくる。
あの乱戦を生き残ってきた黒飛竜も、伊達ではない。
黒飛竜の中でも、一際大きい身体、群れのボスってやつか。
せっかく自らに力を与える魔の山を守ってきたのに、俺たちが魔素を止めたのでお怒りのようだ。
黒飛竜からしたら、仲間も殺されたし、気持ちはわかる。
だが、こっちも負けられないんだよ。
黒飛竜は、俺たちの眼前に飛びかかると同時に大きなアギトを開いた。
魔素に強化された黒炎を、こっちに吹き出してくる。
「まずい、ブレスか!」
防御力強化された俺はともかく、サラちゃんとかシャロンとか逃げてぇ!
「アーサマ、みんなを護って、ホーリーシールド!」
リアが前に出ると、白銀の聖なる大盾を出して、ブレスを抑え込んだ。
いい加減な詠唱でも、ちゃんと護ってくれるアーサマ素敵すぎる!
「グギギャアア!」
黒飛竜は、怒りの叫びを上げると、思いっきりホーリーシールドを突き破る。
そのままこっちに体当たりを仕掛けるつもりか。
「ご主人様下がって!」
「このぉ!」
シャロンやサラちゃんが、銃士隊が、一斉射撃。
こちらに矢のように飛んでくる巨大な黒飛竜に火線が集中した。
薄い羽に穴が開くが、直撃する鉛弾ですら硬い鱗は弾く。
急降下してくる黒飛竜の勢いは、止まらない。
なぜか、黒飛竜はまっすぐに俺を目掛けて飛びかかってくる。
『ミスリルの胴着』がキラキラして目立つからか。
まあ、好都合だ。
「いいぜ、こいよ!」
俺は、精神を統一し、光の剣を最大出力で出す。
正眼に構えて、黒飛竜の狂気に彩られた赤い目を一点に見つめて、心深く沈めた。
「北辰一刀流奥義、星王剣!」
無駄な力はいらない、ただ一心に敵を頭から断ち切ることだけ考えて。
大きな光の剣を大きく振り上げて、静かに振り下ろす。
飛び込んだ黒飛竜の巨体と、交差――
ドサッと音を立てて、真っ二つになった黒飛竜が地に転がった。
「星王剣に、斬れないものなどない」
さっと光の剣を振るうと、光が収束する。残心。
「タケル、やりましたね。立派な勇者です!」
「ご主人様、ご立派です!」
シスターリアが、大きな聖棒を抱えながら感動に打ち震えている。
奴隷少女たちも、サラちゃんも、銃を掲げて泣きながら感動に打ち震えいる。
いい最終回だった。
「おう……」
さすがに『ミスリルの胴着』は、黒飛竜の鋭い牙がかすっても、傷一つ付いていない。
だが、中の人間は、斬り伏せる際にかなりダメージを食らった。
念の為に回復ポーションを飲んでおく。
感動する仲間をよそに、ほろ苦いポーションをグビリとやりながら。
俺の頭は、もう転がってる黒飛竜の赤黒い肉を眺めて、そろばんを弾き始めていた。
黒飛竜の肉は食えるのか、美味しいのか。
黒飛竜の鱗は高く売れるのか、加工すればなにか作れるかなどと。
やっぱり、俺の本質は勇者より商人。
生き残るためには、金がないと、何も出来ない。
「とりあえず、戦場の後片付けからだな」
大洪水やメテオの被害がどれほどだったか調べて、使えるものは拾って使う。
いろいろ出費もあったが、今回もトータルでは大儲けだろう。
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