28
ポツリポツリとまばらに人がいるだけの放課後の図書室。
りょうちゃんはわたしを連れていちばん奥の端っこの席にずんずん進んでいき、サッとパイプイスを引くと『座って』と促した。
わたしが座るとりょうちゃんも素早く隣に座り、そして近くに人がいないのを確認するとわたしの耳元でいきなりこう言ったんだ。
「ーーー実はね。いくと黒岩がつき合ってるのかって聞いてきたの、高杉なの」
「え?」
「あれはね。なにげにサラッと聞いてきた風だったけど、相当気になってるってカンジだったね。間違いない。高杉、絶対いくのこと好きだよ」
突然りょうちゃんの口から出てきた高杉くんの名前。
しかも。
好き……?
好きーーーー?
高杉くんが。
わたしのことを⁉︎
「え、えっ⁉︎」
思いもよらぬ突然のりょうちゃんの言葉にわたしは思わず声を上げてしまった。
向こうの離れた席で静かに本を読んだり、勉強したりしている生徒がこちらを見る。
「ご、ごめん……」
慌てて口をおさえるわたしの心臓は、ここにいる全員に聞こえてしまいそうなくらいドキドキ鳴っていた。
「で、ズバリ質問なんだけど。いくは高杉のことどう思ってる?」
ドキンッ。
心臓が跳ね上がった。
「ど、ど、ど、どうって……。わ、わた、わたしはそんなっ……!!」
ブンブン顔と手を振るわたし。
その顔はおそらく真っ赤だったに違いない。
りょうちゃんが、にやぁっとしながらわたしの顔を覗き込んできた。
「ーーーあれ。もしかして………」
「ち、違うのっ!高杉くんのことは、なんていうか、明るくて元気で優しくて、一緒にいるとすごく楽しくてっ……。高杉くんは、なんていうかみんなに好かれてるから。クラスの人気者だから、友達も多いし、みんなの中心っていうか……。つまり、高杉くんはみんなの高杉くんってカンジだからっ!
だから、わたしは高杉くんのことをどうのこうの言える立場じゃなくて。憧れの手の届かない存在というか……。とにかくそういうカンジなわけでありまして。だから、高杉くんのことをどう思ってるかだなんて!そんなっ……」
「……ぷ」
小声で身振り手振り必死に説明するわたしを見て、りょうちゃんが吹き出した。
声を殺しながらお腹を抱えててヒーヒー笑ってる。
「いく。高杉のことが好きなんだね」
ぼ。
一気に顔に火がつく。
「ありがとう。一生懸命説明してくれて。いくが高杉のこと大好きなんだってことが、よーくわかったよ」
笑い過ぎて涙目になっているりょうちゃんが、優しくわたしの肩を叩いた。
恥ずかしい!!
わたしは無言のまま机に顔を埋める。
高杉くんのことどう思ってる?って聞かれただけなのに。
焦って動揺して、思わずひと言の質問に対してその倍以上のことををひとりで勝手にペラペラとしゃべってしまった。
というか、語ってしまった。
それも、大変熱く……。
「りょ、りょうちゃん……あのね……」
わたしは真っ赤になった顔を静かに上げた。
そんなわたしの手を、りょうちゃんは優しくぎゅっと握ってこう言った。
「そうならそうで、もっと早く教えてくれればよかったのにー。わたし協力するし応援するよ!」
「あ、ありがとう……りょうちゃん。でも……その……わたし、高杉くんのことは憧れの存在であって。好きーーーっていうか、なんていうか……」
言いながら更に顔が熱くなっていくわたし。
『好きっていうか、なんていうか』なんて。
これはどう考えてみても、自分の心に問いかけてみても。
わたし、高杉くんのことが〝好き〟ーーー。
だよね。
真っ赤にほてった頬を押さえながら、わたしは静かにうなずいた。
「ーーーはい。わたしは高杉くんが好きです。ずっと前から……。今、改めて自分の気持ちを再認識したしだいです……」
うつむきながら真剣に言うわたしに、りょうちゃんは嬉しそうに大笑い。
りょうちゃんの笑い声が図書室に響き渡り、りょうちゃんが慌てて口を押さえた。
そんなりょうちゃんを見て、わたしも思わず笑ってしまった。
「いやぁ、今日はなんだかいい日だわー。そっかそっか。高杉はいくが好きで、いくも高杉が好きで。ふたりは両想いだったってわけかー」
りょ、両想いっ⁉︎
りょうちゃんから気絶しそうなフレーズが飛び出した。
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