26
秋晴れの空が美しい、ある日の放課後。
わたしは、違うクラスの男子生徒に声をかけられた。
「ちょっと、いいかなーーー」
誰もいない体育館裏。
足元にはカサコソ落ち葉。
わたしの前をちょっと急ぎ足で先を歩いていた彼がピタッと立ち止まり、くるっとこちらの方を振り向いた。
ドキッ。
心臓が小さく鳴り、そのままコトコト静かに響いている。
もしかして……って思った。
信じられないけど、もしかしてーーーって思った。
放課後。
下駄箱で靴を履き替え、りょうちゃんと一緒に生徒玄関を出ようとしていたわたしに声をかけてきた彼の目を見た瞬間にーーー。
りょうちゃんは、すぐになにかを察したかのように、『先行くね』と言ってニヤッとした目元でわたしの肩をポンと叩いてその場を去っていった。
こんなこと、今まで一度たりとも経験したことがない。
だけど、恋愛ドラマや映画で何度も観たことがある。
これって、これって。
〝告白〟ーーーっていうヤツかもしれない。
わたしの身体中に緊張が走った。
こんな……こんなことがわたしに起こるなんて。
想像したこともなかった。
カサ……。
落ち葉を踏んで、彼がしっかりわたしの方を向いた。
顔が熱い。
恥ずかしい……。
わたしは思わず視線をそらした。
彼のことは知っている。
バスケ部のエースで、成績もよくて、カッコよくて人気のある、B組の
最近、立て続けに4人の女子に告白されたらしいってりょうちゃんが教えてくれた。
そして、4人ともみんな『好きな人がいるからーーー』と断られたらしい、と。
「あのさ……。オレのこと、知ってる?」
黒岩くんがたどたどしく口を開いた。
「う……うん。黒岩くん……だよね?」
わたしは小さく答えた。
すると、黒岩くんが少しホッとした様子でかすかに笑顔になった。
「よかった。存在知っててもらえて。っていうか、いきなりこんなとこ呼び出してビックリしたよな。ごめん……」
黒岩くんが少しクセのある明るめの茶色の髪をくしゃっと髪を触る。
「あ、ううん……」
わたしは慌てて首を振った。
黒岩くんは再びすっと緊張感のある真剣な表情に戻り、静かに口を開いた。
「あ……のさ。オレーーー……」
ドキン、ドキン、ドキン。
静かに大きく心臓が鳴る。
「入学してから、ずっと綿谷のことが気になってて。それで……。もしよかったら、オレとつき合ってほしい。ーーー好きなんだ」
告白ーーーーーー。
初めての。
心臓の音がすごい。
わたしはドキドキする胸をぎゅっと押さえた。
告白、された。
わたしが。
信じられない。
ど、どうしよう。
緊張する。
顔が熱い。
だけど……ーーーー。
わたしは静かに顔を上げて黒岩くんを見た。
そして、勇気を出して言った。
「……あ、ありがとう。でも……ごめんなさい……」
静かに頭を下げる。
「……つき合ってるヤツ、いるの?」
黒岩くんの少し控えめな声。
「う、ううん!いない……」
ぶんぶん首を振る。
「ーーーじゃあ、好きなヤツは?」
かぁぁ。
黒岩くんの質問に、あたしの顔は火照るように一気に熱くなった。
すると、ふっと黒岩くんから優しい笑いが漏れた。
「綿谷、わかりやすい。好きなヤツいるんだ」
ドキンと大きく胸が鳴る。
耳まで熱い。
わたしは静かに小さくうなずいた。
「そっかぁ……。やっぱダメだったかぁ……。綿谷モテるだろうし。たぶん無理だろうな、と思いながら当たって砕けてみた」
そう言って黒岩くんが寂しそうに笑った。
「そ、そんな!わたしなんて全然っ……」
真面目にブンブン手を振ると。
「とか言って、オレで何人目?綿谷に告白してきたの」
黒岩くんがちょっと開き直ったカンジでちょっとイタズラっぽく聞いてきた。
「何人だなんてっ。ホントに全然っ。く、黒岩くんが初めて……です」
恥ずかしくて下を向きながら言うと。
黒岩くんが驚いたように声を上げた。
「マジで?」
「う、うん……」
「マジか……。でもオレ綿谷のこといいって言ってるヤツけっこう知ってるけど」
「え⁉︎」
「そっか……アレなんだな。高嶺の花ってヤツだ。みんな無理だと思って行くに行けないってヤツだな。そんな中、オレは果敢に立ち向かって玉砕したけど」
吹っ切れたように苦笑いする黒岩くん。
「た、た、た、高嶺の花なんて、めっそうもない!!そして玉砕だなんてっ。そんなことは全然でっ……。なんていうか。とにかくありがとう!嬉しかった……!」
ペコ!
髪がバサッと逆立つくらい、わたしは90度にお辞儀した。
すると、黒岩くんが声高らかに笑った。
え?
ぐしゃっと乱れた髪のままおそるおそる顔を上げると、黒岩くんが楽しそうに言った。
「なんかオレも嬉しいわ。綿谷、思ってた以上におもしろくていいヤツだった」
おもしろいーーー。
高杉くんにも言われたけど、わたしって、そんなにおもしろいのかな。
自分では全くそんなつもりはないんだけどな。
ポリポリと頭をかいていると、自分の髪の毛がぐしゃっと乱れてるのに気づき、わたしは慌てて手で直した。
そんなわたしの目の前で、黒岩くんが穏やかな口調で切り出した。
「ーーーあのさ。もしよかったら、オレと友達になってくれる?」
友達ーーーーー。
予想しなかった黒岩くんからの言葉に、ちょっと驚いたけど。
わたしはなんだか素直にすごく嬉しかった。
「わ、わたしでよければ」
自然と笑顔がこぼれた。
すると、そんなわたしを見ていた黒岩くんが斜め上に視線を移しながらサラッと言った。
「ーーーホントは彼氏になりたかったけど」
ドキンッ。
再びぼわっと顔が熱くなる。
黒岩くんは、なんでもサラッと言えてしまうオープンで裏表のない人のようだ。
そんな黒岩くんを前にドキドキたじたじしていると。
「じゃ、友達としてよろしく」
黒岩くんがちょっとだけ照れたような笑顔ですっと手を差し出した。
あ、握手!
緊張しながらおそるおそる手を差し出す。
黒岩くんは、そんなわたしの手をふわっと優しく握った。
わたしの心もふわっとなった。
いい人、なんだろうなーーーー。
そう思った。
黒岩くんの手は、あたたかかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます