25

「そ、そうかな?」


わたしはドキドキしながら答えた。



朝の登校時間。


ついさっき校門前で会った高杉くんと並んで歩いているわたし。


いつからかな。


朝、偶然高杉くんと校門近くで顔を合わすようになって。


クラスも同じだから、会えた時はなんとなく自然と並んで歩いていくようになって。


でもわたしがちょっと遅れて家を出ると、高杉くんはもう先を歩いてて会えなくて。


それで、『この時間くらいに家を出れば、校門付近で高杉くんと鉢合わせるんだ!』ってことに気がついて。


わたしは、高杉くんが登校してくる時間に合わせて家を出るようにしたんだ。


高杉くんに『おはよう』って言いたくて。


それで、今日の朝も遅れそうになって慌てて家を出ようとしてお弁当忘れそうになって……。


すごいよね。


前のわたしなら、こんなこと考えられない。


わたしにもこんな勇気があったんだって。


我ながら驚いてる。


自分でもわかってる。


この姿だから。


この外見のわたしだからこれができるんだって。


でもーーー。


この外見でも、もしわたしが思い切って勇気を出して行動を起こさなかったら、高杉くんに『おはよう』とは言えないわけで。


だからーーー……。



「ーーーうん。なんか変わった。雰囲気が。もちろんいい意味で」


高杉くんがカバンを肩にかつぎ直しながらサラッと言った。


「……ありがとう」


わたしは嬉しくて照れ臭くて、ポリポリと頭をかいた。


そうーーー。


自分でも思うんだ。


わたし、少し変わったな……って。


高杉くんが言ってくれたように、いい意味で。


大げさかもしれないけど、わたしの中にもこんな風に小さな奇跡を起こせる力があったんだってーーー。


りょうちゃんと親友になれたこと。


クラスのみんなと仲良くなれたこと。


高杉くんと『おはよう』の挨拶を交わせるようになったこと。


今こうして一緒に並んで歩いてること。


わたしにとっては全部が奇跡で。


だからこの日々を、『今』を大切にしたい。


どうか、ずっとこのままでーーーー。



「おはよ!」


わたしと高杉くんの肩の間から元気な声。


「りょうちゃん!おはよう」


「おお、山中おはよー」


振り返って挨拶をして自然と3人並んで歩き出す。


こんな朝の登校風景も、わたしの毎日の中にさりげなくだんだんと増えていって。


気がつけば、わたしは学校に行くこの時間が大好きになっていた。


「いく!昨日いくと借りたあの本、めっちゃおもしろかった!」


りょうちゃんが興奮気味にかつ楽しそうに話してくる。


「ホント?ドキドキハラハラ?」


「もうドキドキハラハラ通り越して、ぎゃー!ってカンジ!」


「ぎゃー!なの?それは気になる。わたしも借りてみる!」


りょうちゃんと話してるとホント楽しくて朝から笑っちゃう。


「おまえらホント本好きだなー」


高杉くんも笑う。


「高杉は?本とか読まないの?」


りょうちゃんが聞くと、高杉くんが当然って顔で答えた。


「そりゃ読むさ」


「え?そうなの?」


思わず嬉しくなって高杉くんの方を見ると、りょうちゃんが小さくうなずきながらわたしの肩をポンポンと叩いた。


「いく、この顔をよく見て。同じ本でも高杉が読んでるのは違う本。絵がいっぱいのヤツ」


「え?高杉くん、絵本読むんだ!わたしも好きだよ、絵本!」


意外!と思いながらも嬉しくて目を輝かせていたら。


一瞬ふたりがしーんとなり、それから同時にぷはっと吹き出した。


「いく。漫画だよ、漫画!いや、もちろん絵本も絵がいっぱいだけどさ」


りょうちゃんがケラケラ笑ってる。


「え?あ……漫画。ああ、そっちか!」


「綿谷えらい!オレが絵本を読んでいそうな清らかで純粋で綺麗な心の持ち主だということをおまえはよくわかっている。いいヤツだな。っつーか。山中。オレはまだなんも言ってねーぞ。オレが漫画しか読まねーみたく決めやがって」


「じゃあ小説とか読むわけ?」


りょうちゃんが聞くと。


「決まってんだろ、漫画だよ」


得意げに威張って答える高杉くんに、わたしもりょうちゃんもどっと笑う。


そうだよね。


高杉くんが小説とか絵本とか読んでる姿は……正直あんまり想像できないかも。


「でも!あれは昔好きだったぞ。2匹のりすがでっかいフライパンでホットケーキ作るヤツ!」


2匹のりす。


ホットケーキ。


ああーーー。


「〝ぐりとぐら〟ーーーだ」


「おお、それそれ!」


「ちなみに……りすじゃなくて野ネズミで。ホットケーキじゃなくてカステラ、ね」


わたしが笑いながら言うと。


「え?あれネズミだっけ?」


本気でポカンとしてる高杉くんに、りょうちゃんがすかさず笑いながらつっこんだ。


「ネズミだよ。野ネズミ!」


「まぁ、そういう説もあるな」


高杉くんの回答にまたどっと笑う。


おかしくてお腹が痛い。


高杉くんもりょうちゃんもお腹を抱えて笑っている。


みんなの笑い声が、目には見えないキラキラの粒になって空いっぱいに広がっていた。



そんな楽しい日々の中。


更なるキラキラな出来事がわたしを待ち受けていたんだ。




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