24
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「育子!お弁当っ。まーた忘れてるっ」
リビングからお母さんの声。
あ、お弁当!
わたしは履きかけていた靴を慌てて脱いで、リビングに駆け戻った。
「ありがとう!いってきますっ」
「急いで転ばないようにね!」
「はーい!」
わたしは返事をしながら靴を履き、玄関を飛び出した。
鮮やかな赤や黄色の落ち葉が、歩く道を華やかに……でもどことなく奥ゆかしさも感じさせながら彩っている。
新しいわたしに生まれ変わってから、毎日がドキドキで新鮮で感動の連続で。
そして嬉しくて楽しくて。
1日1日があっと言う間に過ぎていき、気がつけば、季節はいつの間にか情緒漂う美しい秋になっていた。
人間とはすごい生き物だ。
すごいというか不思議というか……。
いや、下手すると恐ろしい……と言っても過言ではない。
いつの間にかわたしはもう完全にあの『わたし』からこの『わたし』になっていた。
すっと整ったキレイな顔も、すらっと長くて細いこの手足も、時が経つにつれ、『自分の顔』『自分の手足』として自ずと受け入れるようになっていた。
デブで可愛くない元の自分の姿が、すっかり記憶から消え去ったわけでは決してない。
だけど、もう過去のこととしてひとつの想い出のようにどこか頭の隅の隅に置いている自分がいた。
今のわたしは、もうあのデブでひとりぼっちのわたしじゃないーーー。
新しくこの世界で生きていくことになり、新しい自分に慣れなくて戸惑っていたわたしに優しく笑いかけてくれた山中さん。
初めてできた素敵な友達。
そんな山中さんとは、今ではもうすっかり大の仲良しで、下の名前で呼び合う仲になっていた。
きっと〝親友〟と言っていいと思う。
山中さんの下の名前は、
山中さんは『りょうこ』でいいよって言ってくれたけど、今まで友達なんていたことのなかったわたしにとって、『りょうこ』と呼び捨てで呼ぶのはさすがにハードルが高くて。
ちょっとハードルを下げて『りょうちゃん』とわたしは呼んでいる。
それでもわたしにとってはすごいことだ。
そんな風に親しみを込めて友達の名前を呼べる日が来るなんて。
あの頃のわたしには想像すらできなかったことだ。
『りょうちゃん』
最初はちょっと緊張して恥ずかしかったけど、『山中さん』よりずっとずっと親しみが湧いて距離が縮まった気がして。
わたしはとても嬉しかった。
そんなりょうちゃんは、わたしのことをこう呼んでくれる。
『いく』
いくーーーーー。
『綿谷さん』より、ずっとずっと心地よくてずっとずっと嬉しい。
りょうちゃんがわたしのことをそう呼ぶようになってから、クラスメートの女子達もわたしのことを『いく』と呼んでくれるようになった。
前のわたしだったら考えられない出来事。
高校1年生になって約半年。
新しく生まれ変わったわたしは、親友と呼べるほど仲良しの友達ができ、クラスのみんなともうまくやり、充実した楽しい毎日を過ごす花の女子高生になっていた。
デブで地味で友達もいなく、人とうまく話すことのできなかった存在感のなかったわたし。
そのわたしは、今ではあの頃と真逆の日々を過ごしている。
でも、だからと言って性格までもがあの頃と真逆になったわけではない。
だって、外見は別人になったけど、中身は元のわたし……〝綿谷育子〟のままだから。
相変わらず緊張しいだし、そそっかしいし、よく転びそうになるし。
だけどーーーーー。
「綿谷、最近よく笑うようになったよな。いや、前から笑ってたけどさ」
隣を歩いていた高杉くんが、いつもの優しい笑顔でわたしに言った。
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