23
「高杉、おはよー」
山中さんがサラッと言った。
わたしもそれに続いて挨拶をした。
「おっ……おはよう!」
我ながら元気よく言えたと思う。
ちょっとどもっちゃったけど。
高杉くんは、わたしと山中さんの両方を見ながらちょっと笑った。
「おはよ。朝から楽しそうだな」
高杉くんの笑顔に、また胸が鳴る。
わたしが真ん中。
右に山中さん。
左に高杉くん。
なんか、なんか……。
こんなの、嬉し過ぎる。
「あれ?綿谷さん?どしたの?」
胸いっぱいで思わずうつむくわたしに山中さんが声をかけてくれた。
わたしの口から素直な気持ちがそのまま言葉となって出た。
「……なんか、嬉しくてーーー」
「えー?」
山中さんが笑いながらわたしの顔を覗き込む。
「わたし……小さい頃から人見知りっていうか、なんていうか……。うまく人と話せなくて。ひとりでいることが多かったから……。あ、それはわたしがつまらない女だっていうこともひとつの要因だと思うんだけど。だから……」
そこまで言いかけて、ふとふたりからの視線を感じた。
「あっ……。な、なんか急に語り出しちゃってごめんねっ。ふたりには昨日もいろいろ助けてもらったりして、すごくありがたい限りで……。それでいて話してて楽しくて……。あ、えっとつまりそのような嬉しい気持ちであるということなんだけど。とりあえずわたしの言うことはどうぞお気になさらずにっ」
なんだか恥ずかしくなって、わたしは慌てて手を振りながらひとりでプチパニック。
ああ、どうしよう。
顔が熱い。
絶対顔赤いよー。
と、突然両サイドから明るい笑い声。
え?
顔を上げて、山中さんと高杉くんを見る。
ふたりともお腹を抱えて笑ってる。
「綿谷さん、おもしろ過ぎるー。そしていい人過ぎるー」
「綿谷、大丈夫だ。おまえはつまらない女じゃないぞ。十分『つまる女』だ」
え……。
「つまる女……」
わたしが真顔で小さくつぶやくと、高杉くんが更に笑った。
「そ!ちなみにそれ褒め言葉だから」
褒め言葉……。
いまいちピンときてないわたしの横で山中さんが楽しそうに笑いながら言った。
「うん、褒め言葉。綿谷さんと話してるとおもしろくて楽しいってこと」
おもしろくて楽しいーーー。
わたしが?
「綿谷さん、今日お昼一緒に食べない?」
笑顔の山中さん。
「え?あ……うんっ。喜んで!」
嬉しい。
「今日はちゃんと弁当忘れずに持ってきたか?」
高杉くんがニヤッとしながらわたしの顔を覗き込んできた。
「え?綿谷さん昨日お弁当忘れたの?」
「あ……そうなの。なんか朝急いでたらお弁当カバンに入れるのうっかり忘れちゃって……。でも、今日は大丈夫。ちゃんと持ってきた」
苦笑い。
「朝メシは?ちゃんと食ってきたか?」
「はい。今日はちゃんと食してきました」
わたしが大きくうなずきながら言うと、山中さんも笑いながら言った。
「ちなみに今朝は何を食されたのでしょう」
「今朝はパンを。山中さんは?」
「クイズね。3択です。1。カレーライス。2。ピザパン。3、卵かけご飯。さぁ、どれでしょう!」
クイズ!
「うーーん」
山中さんの顔を見ながら考える。
「オレ当てる。3、卵かけご飯!」
高杉くんが自信満々に答える。
「綿谷さんは?」
「わたしは……1、カレーライス!」
「ほうほう。では正解を発表します。正解は……カレーライスでした!」
「やった!」
「綿谷さん当たり!今日小テストあるからさー。昨日のカレーをもりっと食べてきたよ」
「朝のカレーは脳を活性化させるって言うもんね」
「マジ?オレもカレー食ってこればよかったー。ボンカレー」
「わたしも食べてくればよかった。ボンカレー……」
思わずみんなで笑う。
楽しいーーーーー。
嬉しいーーーーー。
「転ぶなよー。今日は」
高杉くんがニヤッとしながらボソッと言った。
昨日の朝、教室で見事にすっ転んだ自分を思い出す。
は、恥ずかしい……。
「……かしこまりました……。くれぐれも床の割れ目には気をつけます……」
またどっと笑うふたり。
わたしも笑う。
ああ、太陽が眩しいーーー。
わたしは弾むような気持ちで空を見上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます