19

わたし、ホントに新しい自分になったんだ。



その事実だけは、少しずつ実感してきていた。


でも、まだまだ気になることや聞きたいことがたくさんある。


まずは、家族のことーーー。


わたしはこれから家に帰る。


でも、そこにいる人達はみな知らない人達。


わたしの新しい家族。



「……ねぇ、ケンくん。家族のことなんだけど……」


「うん。どうしたの?」


「……大丈夫かな。わたし、あの人達とうまくやっていけるかな……」


今朝、初めて顔合わせた新しいお父さん、お母さん、お姉ちゃん、弟。


みな初めて見る顔で、知らない人達で。


家族のような気がまるでしない。


「……こんな風なよそよそしい態度で家に帰っても、大丈夫なのかな……」


「大丈夫だよ。そんな育ちゃんの性格もふまえての育ちゃんってことになってるから」


「そっか……」


「心配?それとも、ホームシック?前の家族が恋しくなっちゃった?」


ケンくんがちょっとイタズラっぽい目でわたしの顔を覗き込んできた。


「そういうわけじゃないけど……」


ふと、元のお父さん、お母さん、お姉ちゃん、翔平の顔が浮かんできた。


みんな、どうしてるんだろうーーー。


どうしてるもなにも、もういないのか。


最初からいなかったことになってるのか。


わたしの人生がリセットされたと同時に。


そう、なのかーーー……。


なんとも言えない複雑な気持ちになった。


でも……。


わたしは小さく首を振った。


それでもわたしはこのわたしを選んだんだ。


新しい家族、新しい自分になる道をーーー。


「大丈夫、大丈夫。育ちゃんなら家でも学校でもうまくやっていけるよ。もう1回寝転んで空を見ながらゆっくり深呼吸でもしてごらんよ。気分もきっと落ち着くよ」


ケンくんの言葉にわたしはうなずいた。


再び寝転び、広い空を仰ぎ見た。


相変わらず青くて広くて美しい。


そっと目を閉じる。


優しい風の音、爽やかな緑の香り。


スーーー……。


大きく息を吸い、ゆっくり吐く。


そして静かに目を開け、空を見る。


キレイ。


気持ちもだいぶ落ち着いてきた。


「ケンくん、ありがとう……」


寝転んだまま横を見る。


いない。


わたしはガバッと起き上がった。


周りをキョロキョロ見回す。


さっきまですぐ隣にいたハズのケンくんがどこにもいない。


あれ?


なんで?


わたし、夢見てたの?


ブルブル頭を振る。


いや、確かにケンくんはいた。


ここに。


なにごともなかったかのように突然消えたケンくん。


またいつか、ふっとわたしの前に現れるのだろう。


きっと、また突然姿を見せて話しかけてきてくれるのだろう。


その時、わたしはどんなわたしになってるかな……。


今より、もっとこの世界に慣れて新しい自分に馴染んでるのかなーーー。


とりあえず、帰ろう。


これからは、あの人達がわたしの家族。


「……よし」


わたしは小さくうなずき、静かに立ち上がった。




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