17
高杉くんのくれた焼きそばパンはとても美味しかった。
もしかしたら、今まで食べた焼きそばパンの中でいちばん美味しかったかもしれない。
わたしは、ひと口ひと口ゆっくり味わいながら食べた。
そしてそのあとは山中さんを探した。
廊下を探しながら教室に戻る。
教室にもいない。
ちなみに高杉くんの姿もなかった。
昼休みはあと15分くらいある。
山中さん、どこにいるんだろう。
あ……もしかしてーーーーー。
わたしはひとつだけ『もしかして……』の場所を思いついた。
それは、わたしもまだ行ったことのない場所。
行きたいと思っていながら、なかなかひとりでは行く勇気がなくて。
入学した時、場所を確認するのに見に行っただけでまだ中には入ったことはなかった。
そこは……ーーーー。
ガラ……。
静かにドアを開ける。
たくさんの本棚の中からいくつか物色して手に取り、パラ……っとめくっている山中さんの後ろ姿。
いたーーーー。
図書室。
わたしの『もしかして』は、ここだった。
わたしの大好きな本達がギッシリと並んでいる。
ポツリ、ポツリとしか人のいない図書室。
その中に山中さんの後ろ姿があった。
大好きな本に囲まれた図書室という場所だったせいだろうか。
不思議なことに、さっきまでの緊張もなくなり、わたしはためらうことなく真っ直ぐ山中さんの元へと向かった。
「山中さん」
声をかけると、山中さんが振り向いた。
「綿谷さん!具合は?もう大丈夫なの?」
「うん。もう大丈夫……。あの……山中さん。……さっきはいろいろ迷惑かけちゃってごめんね。ホントにありがとうっ」
ペコッと頭を下げた。
すると山中さんがにっこり笑った。
「そんなの全然だよー。でもよかったー。気になってたんだ。さっき保健室行ってみたんだけど綿谷さんもういなかったから。教室戻ったのかなと思ってたんだけどいなかったからさー」
「え……保健室来てくれたの……?」
わたしを心配してわざわざ保健室まで来てくれたの……?
「……あ、ありがとうっ……。わたしもね、山中さん探してたの。さっきちゃんとお礼言えてなかったから、ちゃんと言いたくて……」
「そうだったんだ。わたし達行き違いだったんだね」
カラッと笑う山中さん。
「……だね」
わたしも自然と笑う。
胸がコトコト鳴っていた。
なんていうか……今まで感じたことのない気持ち。
それはうまく言葉では表せないけれど、とても嬉しい予感というか。
恋とは違うけれど、なんだかちょっとときめくというか。
もしかすると……。
山中さんとなら。
わたし、友達になれるかもしれないーーー。
「……山中さん、本好きなの?」
わたしは思い切って聞いてみた。
「うん。好き。よく読む。昼休みとか放課後とかしょっちゅう図書室来てるよ。で、しょっちゅう本も借りてる。で、たまに返却日過ぎる」
山中さんがイタズラっぽく笑った。
「……そうなんだ」
やっぱり。
山中さんも本好きなんだ。
なんとなく、そんな気がしたんだ。
ホントになんとなくなんだけど。
そのなんとなくが当たっていて、わたしはすごく嬉しかった。
そして思ってたとおり、図書室で本を探している山中さんはなんだかとても素敵だった。
「わたしも本大好きでよく読むんだ……。図書室は……まだ来たことなくて、今日初めて入ったんだけど」
ちょっとドキドキしながらわたしが言うと。
「ああ、綿谷さんも休み時間とかよく本読んでるよね。図書室今日初めて来たの?」
「うん……。ずっと来てみたかったんだけど、なんかちょっと勇気がなくて……」
たじたじしながら言うわたしを見て、山中さんが笑った。
「勇気って。図書室はそんなに意気込まなくても来れるって」
「……だよね」
わたしもつられて笑う。
「あ。ってことは。もしかして今日はわたし探すのに勇気出して図書室来てくれたの?っていうか、よくわかったね。わたしが図書室にいるって」
「……もしかしたら、って思ったの。でもよかった。山中さんのおかげで、ずっと来てみたかった図書室にやっと来れた……。ありがとう」
わたしが笑顔で言うと、山中さんが楽しそうに笑った。
「綿谷さんってホントおもしろい。そしてすごくいい人だよね」
なんか恥ずかしくなって顔を赤くしながらブンブン手を振る。
でも……すごく嬉しい。
「わたしも……本見ていこうかな」
わたしの言葉に。
「ぜひ。なんか綿谷さんのおすすめとかあったら教えて」
山中さんが嬉しそうに言った。
「わたしも。山中さんのおすすめの本、教えてもらいたい」
「よし。おすすめし合おう」
「……うん!」
ふたりで笑った。
きっと。
山中さんとなら仲良くなれる気がする。
友達になれる気がする。
きっと。
山中さんは、わたしにとって人生初めての
友達だーーーーー。
わたしと山中さんは並んで本棚の前に立った。
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