14
ぼんやり目が覚める。
わたしは静かに目を開けた。
白い天井。
ベッドを囲むクリーム色の仕切りカーテン。
あ……。
寝てたんだ、わたし……。
高杉くんと山中さんに保健室に連れて来てもらったわたしは、ベッドに横になって休んでいる間にいつの間にか眠っていたらしい。
おかげで具合もだいぶよくなり、体が楽になった。
わたし、どのくらい寝てたんだろう。
ふたりはわたしがベッドに横になるのを手伝ってくれて、それから保健室を出て行った。
高杉くんと山中さんにちゃんとお礼言えてない……。
わたしは静かに起き上がって、そっと仕切りカーテンを開けた。
「あら。どう?具合の方は」
デスクでなにか書き物をしていた保健の
「あ……だいぶよくなりました……」
そう言うわたしに、麦田先生はにこっとほほ笑んだ。
「よかった。お水飲む?」
「あ……はい」
小さな冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、ガラスコップに半分くらい注いでわたしに手渡してくれた。
「ありがとうございます……」
コクン……。
ひと口、ふた口ゆっくり水を飲む。
「昨日はちゃんと寝た?」
先生がわたしの隣に座る。
「あ……はい」
「朝ご飯は?ちゃんと食べてきた?」
「あ……えっと……。食べてないです……」
「朝は少しでもいいからなにか口にした方がいいわよ。それと、たぶんちょっと貧血気味なのもあるわねー。今はだいぶ顔色もよくなったけど」
「はい……」
白衣を着ている麦田先生は、メガネがよく似合う知的美人だ。
ちょっと女医っぽくてカッコイイ。
「あの……わたしどのくらい寝てましたか……?」
「40分くらいかな。疲れもたまってたんじゃない?ベッドに横になって高杉くんと山中さんが出て行った途端すぐ寝てたから。ぐっすりだったよ」
先生がちょっと笑った。
「すみません……」
「調子よくなってよかった。でも、食事と睡眠はしっかりとるんだよ?あ、鉄分もね。どう?このまま起きれそう?大丈夫そうなら、綿谷さんだけここで身体測定しちゃおうと思うんだけど」
あ……身体測定。
「今みんな体育館でやってるけど、たぶんもうすぐ終わると思うし。綿谷さんも今着替えてやっちゃえば、大体みんなと同じタイミングで教室戻れるよ」
体操着もちゃんとベッドの脇の棚に置いてある。
山中さんが持ってきてくれたんだ。
身体測定と聞いて、少し胸が重くドキンとしたけど、さっきのような動揺はない。
保健室で麦田先生とわたし以外は誰もいないし。
「はい……」
わたしはベッドの仕切りカーテンを戻して体操着に着替えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「じゃあ、最後体重ね」
麦田先生が記録カードに記録しながらわたしに言った。
目の前にある体重計。
ドキドキ胸が鳴る。
大丈夫だよ。
もう、前のわたしじゃない。
わたしは体操着から出る脚を見た。
すらっと長く細っそりしている。
……自分の脚じゃないみたい。
「どうしたの?」
体重計の前で立ち止まっているわたしに声をかける先生。
「あ……いえ……」
ドクン、ドクン、ドクン。
飛び出そうなくらい心臓が大きく鳴り響く。
わたしは小さく深呼吸をしてそっと体重計に乗った。
ドキン、ドキン、ドキンーーーーーー。
わたし、何キロなの……?
思わずぎゅっと目をつぶる。
すると。
「ーーー44.3キロ」
麦田先生の声。
え?
わたしはパッと目を開けた。
目の前に見える体重計のメーターを見る。
44.3キロ……?
ドキドキドキドキ。
高鳴る心臓。
わたしは半ば呆然としたまま静かに体重計から降りる。
軽やかにメーターが戻る。
「はい、オッケーっと。これ、持ってってね」
体重を書き終えた先生が、記録カードをあたしに差し出した。
「……ありがとうございます」
そっと受け取る。
その時ちょうど、身体測定があった4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。
キーンコーンカーンコーン……ーーーー
「お。グッドタイミングだねー。どう?教室戻れそう?」
「あ……はい。大丈夫です……」
「お弁当ここで食べてったら?昼休みだし。食べたあと少し休んでいっていいよ」
「あ……えっと具合はもう大丈夫です。お弁当は……」
お弁当ーーー。
そういえばダイニングテーブルの上にあった気がするけど、持って来なかった。
いつもは、朝食を食べたあと、まず自分の部屋に戻って荷物を取りに行き。
それから再びダイニングテーブルに戻り、お母さんが作ってくれたお弁当をカバンに入れて家を出るんだけど。
今朝はそれどころじゃなくて。
お弁当にまで気が回らなかった。
「あー。もしかして、綿谷さんダイエットしてるー?」
先生がちょっと横目なカンジであたしの顔を覗き込んできた。
「あ……いえ。そういうわけじゃないんですけど、今日は朝ちょっとバタバタしてて……お弁当忘れてきちゃって……」
「そう?それならいいけどー。ダメだよー?ちょっと痩せ過ぎなぐらいなんだからしっかり食べなきゃー。お金は持ってきてる?購買のパンでもいいからお昼はちゃんと食べなさい。朝も食べてないんだから。もしかして財布も忘れてきた?」
痩せ過ぎ……。
「あ……大丈夫です。お金は持ってきてます……」
お昼はいつもお弁当だけど、万が一のために小銭入れは必ずカバンの内ポケットに入れてある。
「じゃあ、ちゃんとお昼食べてね。それと、夜も早めに寝ること。はい、お疲れさま」
先生がにこっと笑った。
「……はい。着替えてきます」
再びベッドの仕切りカーテンの中に入り制服に着替える。
着替え終えたわたしは、麦田先生に一礼した。
「……ありがとうございました」
そして、静かに保健室を出た。
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