13
山中さんは、気さくで自然体でとてもいい人だった。
そして、笑顔が素敵なナチュラル美人だ。
そんな山中さんと一緒にわたしは廊下を歩いている。
体操着に着替えるために、体育館上にある更衣室に向かっている。
なんだか信じられない。
このわたしが、こんな素敵な女の子と一緒に歩いてるなんて。
こういうの、今までなかったから。
ずっとひとりだったから。
なんだか自分じゃなみたいで不思議な気分だ。
でも、すごく嬉しい……ーーーー。
自然と小さくほほ笑みがこぼれる。
「あー。身体測定面倒だねー。体重測定とかホントイヤだわー。わたし中学卒業してからちょっと太ったんだよねー」
山中さんが、歩きながら言う。
その山中さんの言葉を聞いたわたしは、急に心臓が重く鈍く響き出し、冷や汗みたいなものが出始めた。
ーーーーー体重測定。
ーーーーー太った。
突然吐き気が襲った。
立ち止まるわたし。
呼吸が乱れる。
立っていられなくなってわたしはその場にしゃがみ込んだ。
「え?綿谷さん?」
山中さんの驚いた声が上から聞こえてくる。
頭の中で、思い出したくもない最悪な場面が蘇る。
78.6キロ。
自分の重い体重が記入されているカード。
クラスの男子達のヒソヒソ声。
冷ややかに笑うみんなの視線。
気の毒そうにわたしを見る高杉くんの瞳。
雑居ビルの階段。
屋上から見える青空ーーーーー。
息が苦しい。
「綿谷さんっ?どしたの?大丈夫っ?」
しゃがみ込んだままうずくまるわたし。
慌ててわたしのそばにしゃがみ込んで何度も声をかけてくれる山中さん。
「ご……ごめんね……。大丈夫……」
わたしは胸を押さえながら、ようやく声を振り絞った。
その時。
「どした?」
聞き覚えのある声が、ぼんやりする意識の中でかすかに聞こえてきたんだ。
そして、わたしの目の前にひとりの男子生徒がしゃがみ込んだ。
「大丈夫か?」
目と目が合う。
わたしは、ハッと息を呑んだ。
た、高杉くん……⁉︎
わたしの目の前にしゃがみ込んで声をかけてくれたその男子生徒は、なんとあの高杉くんだったんだ。
わたしはまたすぐうつむいた。
具合が悪くて顔を上げてられなかったせいもあるが、憧れの高杉くんのことを、とてもじゃないが直視できなかった。
そんなわたしの横で、山中さんが高杉くんに一生懸命この事態を説明してくれている。
「急に具合悪くなったみたいで立てなくなっちゃって。貧血とかかな。とりあえず保健室行った方がいいよね!」
「そうだな。綿谷、立てるか?」
高杉くんと山中さんが、わたしの両腕を抱えて立ち上がらせようとしてくれたのだが。
全然足に力が入らない。
ずるっと崩れるように廊下に座り込んでしまった。
「ダメだな」
高杉くんの声が聞こえた途端。
ふわっと体が浮き上がった。
え?
気がつくと、高杉くんがわたしをお姫様抱っこのように抱きかかえて立っていた。
え……⁉︎
「綿谷、保健室行くぞ」
「わたしも行くっ」
高杉くんと山中さんの声。
ちょ、ちょっと待ってっ……。
わたしの体を支える高杉くんの力強い手。
すぐ間近にある高杉くんの顔。
こんなことってーーーー。
「……た、高杉くんっ……。大丈夫っ……あたし歩くからっ……」
小さく
「大丈夫じゃねーだろ。無理すんな」
わたしを抱きかかえて歩き出す高杉くん。
ドクンドクンドクンドクン。
大きく静かに鳴り響く心臓。
さっきの動悸とは違う。
「綿谷さん、大丈夫っ?」
心配そうな山中さんの声。
山中さん……。
申し訳ない気持ちや、心配してくれてありがたい気持ちを感じながらも、わたしはもうかすかにうなずくのが精一杯だった。
血の気が引いたようにくらくらする。
ケンくん……これは、現実……?
高杉くんの腕に抱きかかえられながら、わたしは目を閉じたまま。
頭の隅で思う。
高杉くん……わたし、重くない……?
山中さん……身体測定の着替え遅れちゃわない……?
迷惑かけて、ごめんなさい。
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