10

雲ひとつない、見事なまでの青空。


見上げると眩しい太陽の日差しがあたしを照らす。



どうしよう……。


言いようのない緊張感がわたしを襲う。


歩く足がガクガク震える。


キョロ、キョロ。


ヤケに周りの視線が気になる。


なんだか自分がヤケに見られているような気がして……。


落ち着かない。


オドオド、ソワソワ。


わたしは、カバンをを抱えながらうつむき加減で学校に向かって歩いていった。





ザワザワ、ガヤガヤーーーーーー。


賑わう朝の生徒玄関。


わたしは緊張しながら自分の下駄箱へと急いだ。


大丈夫、下駄箱の場所もそのまま。


落ち着け、落ち着け。


いつもどおり自分の教室に入って、いつもどおりの自分の席に座って授業を受ければいいだけ。


大丈夫。


わたしは何度も小さくうなずきながら上靴に履き替えた。


そして、外靴をしまい歩き出そうとしたその時。


ふいに、後ろから声が聞こえてきたんだ。



「おはよ」



え?


わたしは振り向いた。


そして驚きのあまり、ザザッと一歩あとずさった。


だって、だって。


振り向いたその先に立っていたのは、わたしの憧れの、あの高杉くんだったから。


な、なんで高杉くんがっ⁉︎


どうしてわたしの目の前に⁉︎


ま、ま、待って待って、落ち着こう!


ここは学校なんだから。


しかも、わたしと高杉くんは同じクラスなんだから。


下駄箱だって近いし、朝の登校時間だし、今ここにこうしてわたしのすぐ後ろに立っていたって別におかしくはないんだよ。


そうだよ。


そうなんだけどーーー。


……今、『おはよ』って言ったよね……?


わたしはキョロキョロと周りを見る。


今わたしの近くにいるのは高杉くんだけ。


ということは。


もしかして、その『おはよ』はわたしに……⁉︎


信じられない気持ちで、思わず高杉くんの顔を見る。


すると。


「……おはよ」


高杉くんが、ちょっと不思議そうな顔をしながらもう一度『おはよ』と言った。


間違いなく、わたしの顔を見ながらわたしに向かって。


ウソ。


高杉くんが、わたしにおはようって挨拶してくれた……。


し、信じられない!



「おっ……おはよう!」



ドキドキ高鳴る胸をおさえながら、わたしは口を開いた。


い、言えた……。


高杉くんに、『おはよう』って言えた……!


とっさの自分の行動に、思わず心も体も興奮状態。


ドックン、ドックン、ドックン。


痛いくらいに大きく鳴り響く胸。


ぎゅっとおさえていると。


高杉くんは、かすかにほほ笑むような表情を見せて歩いて行った。


「……………」


わたしは、その後ろ姿をポカンと口を開けたまま見つめていた。



し、信じられない……。


わたし、高杉くんに『おはよ』って言われた。


わたしも、高杉くんに『おはよう』って言った。


こんなこと、今までなかった。


はじめてーーーーー。



わたしは、そっと自分の顔や髪の毛を触った。


新しく生まれ変わったわたしだから……?


見た目が変わると、こんな奇跡も起きるの……?


おはようの挨拶くらいで奇跡だなんてと、人は言うかもしれないけれど。


わたしにとっては、奇跡のような出来事。


だって。


前のわたしでは、高杉くんとおはようの挨拶なんてしたこともないし。


されるわけもないし。


なんか、すごい……ーーーー。


胸の鼓動が鳴り止まぬまま。


わたしは教室に向かって、静かに歩き出した。






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