9

バタン!


急いで部屋に入りドアを閉める。


そして、おそるおそる部屋の隅に置いてある全身が映る大きな鏡の方へと歩いていく。


ドキドキドキドキーーーー。


すごい速さで心臓が鳴り響く中。


わたしは鏡の前に立ち、静かに顔を上げた。



ウ……ソ。


わたしは、ポカンと開いた口がふさがらないまま、鏡に映る自分の姿をじっと見つめていた。


驚きのあまり声も出ない。


だって。


だって。


そこには、アイドルやモデル……はたまた女優さんのように、頭の先から足の先まで余すことなく洗練された信じられないくらいの美少女が映っていたから。



こ、こ、こ……これが、わたし……⁉︎



ベタッ。


鏡にへばりつく。


間近で自分の顔を見る。


シュッとキレイに尖ったアゴ。


スッキリした頰。


毛穴も見えないくらいつるっとしたなめらかな肌。


そして、パッチリ二重のくりっとした大きな目。


くちびるもキレイな形でふっくらつやつや。


髪の毛は、うっすら自然に茶色がかっていて、サラサラつやつやのロングヘアー。


ドキン、ドキン、ドキン……ーーーー。


大きく高鳴る自分の胸。


その胸をぐっとおさえながら、今度は静かに目線を下におろしていく。


わたしがいつも着ていた、あの特注サイズのセーラー服はどこにも映っていない。


細っそり本来の一般的なサイズ……よりも更に細めのセーラー服の中に包まれている、華奢な上半身。


細い腕、細いウエスト、形の整ったキレイなバスト。


そして、くっきりキレイに見えている鎖骨。


目線を更に下へ下へとおろしていく。


膝上の少し短めのスカートから出ている、真っ直ぐで細いすらっとした足ーーー。


紺色のハイソックスがより足を細っそり見せて、もう美脚以外のなにものでもない。


ごくん……。


わたしは息を呑んだ。


そして、知らぬまに大粒の涙がひとつ、こぼれ落ちた。



カワイイ……ーーーーー。



ずっと、ずっと、ずっと憧れていた。


願っていた。


もし、願いが叶うなら。


こんな女の子になりたいって。


生まれ変わりたいって。


ずっと、ずっとーーーーー。



これが………今のわたし………。


新しく生まれ変わった、わたしーーーーー。



大粒の涙を流しながら鏡に映る自分の姿をもう一度見つめた。


「……………」


信じられないけど、これが今のわたし。


わたし、なんだーーーーー。



でも待って……。


もしかしてこれって夢?


わたし、夢見てるのかも……?


確かめてみよう。


むぎゅ。


わたしは自分の手で自分のほっぺたをつねってみた。


「いたっ……」


痛い。


ちゃんと痛みはある。


夢じゃない……。


夢じゃない……。


これは、今わたしの目の前にある現実なんだ。


涙を拭う。


いろんな気持ちがごちゃごちゃになって、嬉しいやら不思議やら信じられないやら戸惑いやら。


とにかく、いろんな感情が溢れてきてまた涙が出そうになるから、とりあえず深呼吸だ。


わたしは深く大きく深呼吸をして、そっと目を閉じた。


育子、落ち着こう。


どうしてなのか、なぜなのか、その理由はあたしにもわからないけど。


今、わたしの身にこの世では考えられない不思議なこと、魔法みたいなことが起こっているのは確か。


わたしは、今までのわたしではなく、全くの別人の容姿に生まれ変わって今ここにいるんだ。


これが、今のわたしなんだ。


このわたしでこれから生きていくんだ。


お父さんもお母さんも弟もお姉ちゃんも、みんなリセットされて新い人達になったけど、それでもわたしの家族。


わたしにとっては見慣れない顔でも、みんなにとってはわたしの存在は当たり前。


だから、とりあえずはなんとかやってみよう。


もう、さっきまでのわたしじゃない。


新しいわたしになったんだ。


こんな自分、初めてだから……ホントどうしたらいいのかわからないけど……。


とりあえず、今までどおり。


いつもの自分の生活でやってみよう。


行こう。


ーーーうん!


わたしは、鏡の中の自分に向かって大きく強くうなずいた。


……まずは学校に行かなきゃ。


確かケンくん言ってたよね。


深く関わっている家族以外の周りの環境は、前の世界とほとんど変わっていないって。


それなら学校も学校の人達もきっと変わってないよね。


そのままだよね。


だから、わたしはとりあえずいつものように学校に行けば大丈夫。


自分に言い聞かせるように、何度もうなずく。


行こう。


よしっ……!


わたしはぎゅっとこぶしを握りしめると、カバンを持って家を飛び出した。




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