8

「育子、早くご飯食べちゃいなさい。学校遅れるわよ」




え。


わたしはパッと目を開けた。


こ、これって……ーーーーー⁉︎



「なんだ、育子。全然食べてないじゃないか。具合でも悪いのか?」


え。


今朝、聞いた言葉ーーーーーー。


わたしは、ゆっくり辺りを見回した。


ここ、わたしの家ーーーーー。


いつもの食卓。


今朝、わたしが座っていた席……。


わたしの目の前に置かれてる、トーストとサラダとヨーグルト。


今朝と同じ風景。


ただ……。



「育子が食べないなら、オレ食べよっと」


目の前のトーストをひょいっと持っていく男の子。


「こら、翔平っ。自分のもまだ食べてないでしょ!それに、『育子』じゃなくて『お姉ちゃん』て呼びなさいっていつも言ってるでしょっ」


そう言いながら、バタバタ忙しそうにキッチンに立つ女の人。


ぐぅ。


今朝と同じ、かすかにお腹の虫が鳴った。


「なんだ、腹減ってるんじゃないか。ほら、育子。お父さんの食べなさい」


そういう中年の男の人。


わたしは、おそるおそるみんなの顔を見る。


翔平……?お母さん……?お父さん……?


見慣れた家の食卓も、交わした言葉も、まるっきり今朝の風景と同じなのに。


ここにいる家族が、みんな知らない人になっているーーー。


見たことのない、顔。



わたしは、必死に頭を整理していた。


これはーーーーー。


つまり、さっきの出来事は全部本当のことで。


あのケンという男の子が言ってたとおり、家族みんなが全部見知らぬ新しい人達になり。


そして。


わたしも、新しい自分に生まれ変わった……?


そういうこと……?



「ボーッとして。どうしたんだ?育子」


新しいお父さん……が、不思議そうにわたしを見る。


「あ……え、えっと……」


「ーーー育子。アンタ今日体重測定でしょ」


「!!」


黙ってコーヒーを飲んでいたキレイな女の人が、口を開いた。


この人が、お姉ちゃん……?


「体重測定?」


「それでご飯食べてないの?」


お父さんとお母さんの声。


たぶん……いや、間違いなくわたしのお父さんとお母さんなんだろうけど。


別人になってるから、ものすごく違和感……。


お姉ちゃんも翔平も、全然違う人……。


ただひとつ言えることは、みんな顔立ちが整っていてキレイ。


お姉ちゃんは、あっちの元の世界でも美人だったけど、こっちの新しいお姉ちゃんはもはや芸能界のモデルさん並みにキレイ。


翔平もジャニーズJr.にいそうな可愛い顔立ちで、お父さんもお母さんもキレイな顔をしてる。


この人達が、あたしの家族……ーーーーー。


なんとも不思議な気持ちでみんなの顔を見ていると。



「育子。言っとくけどね。アンタはもう十分痩せてるんだから。っていうか、むしろ痩せ過ぎ。朝ご飯抜かないでちゃんと食べていきな」


新しいお姉ちゃんの言葉。


え……?


「そうよ、育子。ただでさえ細いんだから、朝はしっかり食べていきなさい」


新しいお母さんの声。


え……?



痩せてる……?


痩せ過ぎ……?


細い……?



わたしは、パッと自分の体を触った。


腕、お腹周り、太もも、肩、首、顔……。


え。


え、え、え?


再び、自分の体を触る。


ちょっと待って……。


こ、これって……ホントにあたしの体?


だって、触ったカンジがいつもと全く違う。


腕も太ももも、つかんだ自分の手の中にすんなり収まるくらいの細さ。


首も顔も、すっとしていて明らかに小顔の気配。


ドキドキドキドキ。


胸が高鳴っていた。


わたし、細くなってる……?


痩せてる……?


見たい!!


ガタッ……。


わたしは勢いよく立ち上がった。


「わ、わたし……もう学校行くねっ……。いってきます!」


そう言うと、わたしは慌てて2階の自分の部屋に駆け込んだ。




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