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それはーーークラスにいる〝高杉たかすぎ〟くん。



ずっとずっと、密かに憧れている人。


どうしたいとか、どうにかなりたいとか、そういう気持ちは一切ないの。


ただ、見ているだけでいいの。


入学して、一緒のクラスになってから、彼はわたしの中ですぐに気になる存在の人となった。


なぜだかすごく、他の人より目立つというか……目のいく人だったから。


いつも元気で明るくて、よく笑ってて。


スポーツも得意みたいで、バスケ部でもすごく活躍しているらしくて。


ちょっと茶色がかった髪も、汗も、光にあたるとキラキラしていて。


彼の周りには、いつも友達がたくさんいて。


男子も女子もたくさんいて。


彼の周りは、いつだってみんなの笑顔で溢れてる。


高杉くんは、クラスの中心的人物で、みんなの人気者なんだ。


まるで、わたしとは正反対。



だから、すごく憧れて。


そして、絶対に近づけない。



同じクラスだけど、きっと彼はあたしのことなんて全く眼中にもないだろうから、わたしの存在自体わからないかもしれないね。


でも、いいの。


遠くから見ているだけで。


同じクラスでいられることだけで嬉しい。



それだけで、いい。



でも、今日の身体測定。


今日だけは……今、この時だけは、高杉くんと違うクラスだったらよかったのにな……と切に願ってしまう。


だって、高杉くんにだけは絶対知られたくない。


わたしの体重。


他の人に知られるのだってもちろんイヤだけど。


高杉くんにだけは、間違っても絶対に知られたくない。


こんな重い体重のわたし。


恥ずかしくてイヤだよ。


もちろん、男子と女子に分かれるけど。


それでも、クラスの女子みんなと一緒に並んで体重を計らなきゃいけないなんてイヤだよ。


だけど。


そんな憂鬱な心のわたしをおかまいなしに、身体測定の時間はやってきた。



「ーーーもう絶対太ってるぅ。やだやだぁ」


「カホ、胸またデカくなったんじゃないのー?」


「えー!いいないいな!」


「どれどれっ?」


キャーキャー。


楽しそうに騒いでいる女子。


早く終わってほしい。


一刻も早く終わってほしい。


早く……。



わたしは、できるだけみんなに聞かれないよう、知られないよう、体重測定はできるだけ最後の方に並んだ。


手足がすらっと長くて、体も細いスタイルのいい子ばかり。


それに引き換え、自分はまるでひどかった。


体操着から出る足は太く、お腹も胸もどっしりしていた。


やだ。


わたしは、昔からこの体操着になることが大嫌いだった。


だから体育も嫌い。


よく理由を作って見学してるんだ。


こんな姿、高杉くんに見られたくない。


身体測定は、男女共に体操着に着替え、体育館を半分に区切って男女別で行われている。


女子のいる反対側の方。


ずっとずっと遠くだけど、高杉くんもそこにいる。


ちら。


わたしは、男子の様子を伺ってみた。



男子の方はと言うと、女子の方を気にしてる様子も全くなく、ふざけながら遊びの延長戦のように落ち着きなく並んだりしている。


なんとなくホッとした。


そして、高杉くんの姿を見つけた。


後ろの人と、プロレスごっこみたいのをして遊んでいる。


思わず、わたしの口元がほころぶ。


元気だなぁ、いつも。


あ、先生に注意された。


ふふ。


なんだかおかしくて、少し笑っちゃった。


そして、そんな中。


体重測定で並んでいる前の人達もどんどんいなくなり、ついにわたしの番がやってきた。


計る先生とカードに記入する先生と、ふたりの女の先生が並んで座っている。


「はい、どうぞ。カード出してね」


「はい……」


わたしは、記入カードを記録係の先生に渡した。


そして、おそるおそる体重計に乗った。


「えっと、78.6キロ」


78.6キロ……。


「はい、いいよ」


体重計を降りると、メーターがぐうんと戻った。


恥ずかしい。


身長156センチ、体重78.6キロ。


なんて重いんだろう。


「はい、カード。あとで教室の回収ボックスで集めるのでそれまで持ってて下さいね」


カードを受け取ると、わたしは足早に更衣室に向かった。


やっと終わった。


それほどみんなに体重を聞かれることもなく、なんとか無事に終わった。


よかった。


そう、思っていたんだ。


ところが。


これから戻ろうとしている教室の中で、絶対に起きてほしくなかった最悪の事態……最悪の事件がわたしを待ち受けていたんだ。


そう、人生最悪の事件が……ーーーーー。




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