第16話

「……そろそろ回収班の連中が来る頃だ。どうする?」

黄の問いかけに、私は湊を見る。

「なぁ、一つ聞いてええか?」

「なんだ?今更命乞いでもする気になったか?」

「……お前は何故ここにいる?」

私の質問に、黄は目を細め、次に壊れた機械のような均質な笑い声を上げ始めた。

「ははは……何故ェ?何故と来たか……ずいぶん可愛らしいことを聞くじゃないか?いいよ、答えてやる。はじめは生きていくのにこれ以外選択肢が無かったからだが……下される任務に従ってさえいれば、自分の能力を存分に使えて、場合によっちゃ人を殺しても特にお咎めなしなんていい生き方じゃないか?これを知ったら、他の生き方なぞ今更思いつかんね」

名前も、身分も、人生すら偽りを歩かされてきた女の、ただ一つ残った真実だと、その迷いの無い口調が告げていた。

「そうか……なら、私は命を賭してアンタに勝たんとアカンらしいわ」

私はそう言いつつ、湊の目を見た。彼は私の視線に気がつき、その意味するところを理解したらしい。驚きと恐怖に目を見開いていた。

「黄さん」

「……なんだよ」

「私は、もう一度自分自身の意志で生きることを決めた。アンタがどう在るかはアンタの勝手やけど、私がこれから生きていくのに、その男を殺されるわけにはいかへん。

やから……私は、アンタを私の意志に従って殺す」

私は、二度目の産声を上げた。

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