第11話
はじめて人を殺した時の感覚は、今も手に焼き付いている。
訓練期間を終え、16歳で五行機関東方支部に配属されて初めての任務の最中の事だった。
参加したのは、国内で密かに網を広げつつあったある敵対機関の拠点に潜入し、エージェントのリストを写し取ってくる任務だった。
任されたのは、組織の拠点近くに張り込み、緊急時に味方を逃走させるあくまで補助の役割。
任務は順調に進み、残るは味方が痕跡を残さぬよう拠点を後にするだけだった。
その段階になって敵に自分たちの存在が露見してしまったのだ。
事前の取り決め通りの逃走経路である夜の地下通路。
通行人を装い、味方を通すと、間髪入れずにやってきた追手に足払いをかけ、地面に引き倒そうとした。
後は大苦無で足の筋を絶ち、その場を後にすれば良いはずだった。
足払いをかけた瞬間に手首を極められ、一緒に倒れこむ際、私は反射的に相手に大苦無を突き立ててしまっていた。
流れ出る血に合わせて、抵抗する手足の力が抜けていくのが苦無を通して伝わってきた。
帽子で良く見えていなかったが、年は私とさして変わらない男だった。苦痛とおびただしい出血に、あどけなさを残した顔がわなないていた。
私を偽装名で呼ぶ味方の通信で我に返ると、敵殺害の旨を連絡し、訓練で叩き込まれた自分の痕跡を消す手順をこなしてその場を後にした。
味方との合流地点で回収用の車に乗り込んでもなお、殺した相手の顔が頭から離れることは無かった。
そして、それは今も変わらず続いている。
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