第10話
「二人で話し合う」というので、どこか喫茶店にでも行くのかと考えていたが、そうではないらしいことがほどなく判った。
道中で土岐本人が今から行く場所の説明をしてくれたからだ。
雲雀ヶ丘高等学校の現在の校舎は、新設された2代目の校舎なのだという。
南に向けて縦に3棟横に並んでいる新校舎の東側。武道場のある方角のさらに奥。
小高い丘の上に、茂った林の中に隠れるように、鉄筋コンクリート打ちっぱなしの、かつての旧校舎が聳え立っていた。
「人気無し、外部から見えにくく、小高い丘の上にあるから待ち伏せにもってこいやな」
「何その感想怖い……」
「ただの癖やから聞き流して……ところで、なんでわざわざ旧校舎まで?」
「まぁいいからいいから」
「……言っとくけど」
「別に邪な目的とか無いから。信頼できる人にだけ教えてるいい場所があるんだ。恋春とかには教えてるよ。たどり着く前に聞いてみてもいいよ」
「……それなら、まぁ」
そんな事を話しながら、両脇に木に生い茂った坂を上っていった。
3階建ての旧校舎の屋上へと続く階段が終わり、屋上に上がる扉の前。
たどり着くころには、日がすっかり落ちてしまっていた。
「一目惚れしたっての。あれ、建前じゃなくて、本当なんだ」
私の持つスマートフォンのライトが照らし出すダイヤルロックを回しながら、土岐はふとそんな事を言いだした。
「はぁ……なんや、私の容姿がそんなにストライクやったんか」
「いや、ビジュアルでいうと恋春とかみたいなのが好みかな」
「どつき倒すぞお前‼……じゃあどのへんに惚れてん?」
「この学校に来た初日、男子に囲まれたことあったろ?どさくさに紛れて胸を触ろうとした奴を君が柔術かなんかで投げ飛ばした時の姿が美しかったから、かな」
鍵が開き、屋上への扉が開く。
屋上は柵すら設置されておらず、暗闇に目が慣れていなければ端に気づかずに転落してもおかしくはなかった。しかし、そんなことなど気にならない程、頭上の景色に目を奪われた。
現れたのは、深い青色をした夜空の絨毯から漏れる光たちだった。
海を望む丘陵地に立つ旧校舎から見る星々は、街明かりの邪魔を受けず、その声を地上にまで届けていた。
「……これが、俺の秘密の内の一つ」
隣を見れば、土岐が得意げな顔をして私を見ていた。
「……私の秘密は……」
私は、少しずつ自分の秘密を明かし始めた。
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