第9話
7月16日。放課後の校舎から、まっすぐ帰路に着く者、街へと遊びに繰り出す者、部活の走り混みに出ようとする者など、三者三様の理由を持った生徒たちが校門をくぐっていく。
その人ごみの一角。両脇を東野と西城に挟まれた土岐の姿がそこにあった。
「あ、平坂さん⁉……あの、今日は体調悪くて先に返ったって土岐君から話を……」
「あー、うん。東野さん?このちゃらんぽらんの言う事なんか逐一真に受けんで良いからね。あと、別に私に無断で3人で出かけようってのも怒ってないから。どちらかといえばそこの浮気性男に怒ってるだけやから」
「平坂さんだっけ?悪いけど、土岐くんの彼女だかなんだか知らないけど、貴方に土岐君がどこで誰と会うかを決める権利なんてないと思うんだけど!」
確かに普通のまっとうな恋人どうしであればそうなのかもしれないが、今の私たちには関係の無い話だった。ただの同級生にべったりと張り付いていたり、外出や人と会うことにあれこれ口を出す不自然さをカバーする意味での恋人関係であったはずだが、今や完全に裏目に出てしまっていた。
「……いや、そうなんだけど……」
「彼女さんだっけ?いくら何でも束縛強すぎじゃない?そういうの関心しないなー。場合によっちゃ土岐君連れて警察とか行かないとかもね」
「……わ、私も気になります‼恋人としての約束っておっしゃってましたけど、あれはいくら何でも厳しすぎると思います!」
二人の指摘はもっともだった。私たちが結んでいる恋人としての条件は、傍から見れば、あまりに歪にすぎるものだ。指摘されたところでいつものようにはぐらかすしかない。
「……悪いんやけど、二人って湊にとって何?」
しかし、私の口をついて出たのは、はぐらかしの台詞ではなく反論だった。
「え?……それはっ、その……」
「……友達だけど」
東野は返答に窮し、西城は言いづらそうに答える。
「やんね。湊にとってはその程度やん。湊にとって恋人って言えるの私やねん。恋人同士の問題に余計な口出さんといてや‼」
東野と西城は、激昂した私に面食らって固まってしまっていた。
言ってから、自分で言った事だと信じられなかった。何故って、いつものように嘘偽りを口にした時のような感覚がまるでなかったからだ。
「二人とも、ごめんね。やっぱり今日は二人だけで出かけておいでよ。それと、心配してくれてありがとう。でも、二人が心配しているような事は無いから大丈夫だよ。今日は輝とゆっくり話し合ってみるよ」
凍り付いた場を諫めたのは、事の張本人である土岐湊だった。
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