黒いマスク
1
季節は12月。
とある日の朝。
陽気な暖かさはすっかりなくなって、本格的な冬の季節がやってきた。
外の寒さによって部屋はとても冷えている。
俺は部屋の暖房とモニターを付けて朝のニュースを流す。
次回の来年2月の公式戦は休みのため、火鉢の今年度の国内戦は風鍔戦が最後。
俺個人の戦績は2戦2勝。
シーズンの出場率は他の国内戦に出場している魔術師と同じくらい。
国内戦で活躍している魔術師は全部に参加している。
成績に関していえばまだまだ未知数。
国内戦は一般的に次の展示会までの累計の成績で評価されるため一年目の段階では評価対象外。
国内戦で評価され始めるのは25戦の個人結果。
シーズン通じて5戦しかないので早くても5年間出場し続けないといけない。
そうしてようやく国内戦の魔術師として一定の評価を得ることが出来る。
師匠の所へ戻るために始めた国内戦の活動。
学生ということで注目され世間ではそこそこ知られるようになった。
自分が有名になるのは少し嬉しかった。
今俺達の世代で有名なのは、俺を除いて3人。
名家と呼ばれる日本屈指の魔術師と、その名家に名を連ねる分家の魔術師。
そして色校戦を出た面々達だ。
特に剛牙は俺と同じ国内戦にも出ている魔術師。
学生の中では俺達が頭一つ抜いている。
剛牙が最初に国内戦に出た時は堅狼の息子と呼ばれていたが、色校戦をきっかけに違う呼ばれ方をするようになった。
灰狼の魔術師。
魔術師の名前と固有魔術の名前が違うタイプの魔術師。
なんか羨ましい。
俺の呼ばれ方は特に変わらず、円環の魔術師という名前で世間に広まった。
肝心の師匠の所に戻る方は余り進展していない。
相変わらず師匠から連絡は来ない。
一応魔術師にはなったから師匠の言いつけは守っている。
それならいっその事、直接行ってみよう。
それがいい。
春休みに入ったら師匠の所に直接足を運んでみよう。
ついでに実家にも顔を出そう。
モニターから流れてくるニュースに耳を傾けてると気になるニュースがあった。
「昨日の夜。火鉢市の路上で一人の男性の遺体が発見されました。遺体の首元には何かで抉られた傷があり、この傷が死因に関わったとされています。殺害されたのは……」
あれ? 俺が住んでるマンションの近くじゃん。
気を付けないと。
なるべく夜の外出と一人で行動するのは控えよう。
それと志津河にも伝えなきゃ。
殺人事件が普通かと言われると普通ではない。
全国のニュースになるのは一回あるかないかの頻度。
ニュースになるくらいだから結構やばい。
「そして火鉢市からのお知らせです。現場周辺地域の警備を強化することが発表されました。犯人は依然逃亡中です。くれぐれも夜の外出は控えるようにお願いします」
とりあえず連続事件にならないことを祈って俺は学校に行く準備を始めた。
***
マンションの隣の部屋から志津河が俺を迎えにやってきた。
志津河の見た目も冬仕様になっている。
首には青いマフラー、手には黒い手袋を身に付けている。
俺は紺のマフラーと手袋身に付け、外見ではわからない分厚い靴下を履いている。
分厚い靴下は意外と馬鹿にならない。
これを履くと暖かさが倍増する気がする。
そして志津河の足の方に視線を移すととても寒そう。
見についているのはスカートと肌が少し露出した足。
俺の足は制服の長ズボンできっちり守られている。
絶対寒いだろうと俺は思って口にする。
「なあ志津河いつも思うんだけど足寒くないの?」
「え、寒いよ」
やっぱり寒いのか。
夏は良いなと思う反面、冬は嫌だなと思う。
「やっぱり靴下だけだと寒いよな」
「そんなわけないじゃん、流石に足が凍るよ」
と志津河に笑われた。
「生足は無理。見て分かりにくいけど、肌色のパンスト履いているよ。冬仕様の厚い生地のやつ」
「へえ」
知らなかった。
てっきり女の子の足は鋼鉄にまで鍛え上げられているものだと思っていた。
「これ着てないと無理でーす」
白い息を吐きながら笑って答える。
そんなやり取りを交わしながら、俺達は一緒にマンションから出た。
そして学校に向かっている途中、今日は俺から話題を振った。
「今日の朝のニュース見た?」
「見たよ。一人で外出は避けないとね」
志津河もニュースを知っている様子。
「ちょっと物騒だ」
「そうだ周一ちゃんとあれ身に付けてる?」
「身に付けてるよ、制服の内側についておいた」
俺達が"あれ"と呼んでいるのは以前に華燐からもらった赤い鉢の形をしたバッジ。
校章くらいの大きさしかない小型なもので魔力を流すと火鉢の魔術師全員に連絡が飛ぶ代物。
「これで安心ね。ある意味一番周一の周りが安全だからね」
「危険人物という認識も出来るけどな」
俺は自分が思った皮肉を言う。
「そうだね」
「この件が落ち着くまでは、週末もこっちにいるよ」
俺は相変わらず週末には火鉢の屋敷で過ごしていた。
華燐と一緒に魔術の修行を引き続き行っている。
志津河とは火鉢の屋敷に通う前からも週末に会っていない。
特に会う理由がなかったから会わないだけだった。
今回の事件は現場が近い事もあり少しだけ心配だった。
「心配なの?」
「ちょっとだけな」
志津河は嬉しそうに「了解」と短い言葉を口にしてこの話は終わった。
今日はちょっと風が吹いている。
俺達は冷たい風に当てられながら学校へと向かった。
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