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とある授業の日。

実技でもやっている魔術の循環についての授業。

その歴史について触れていた。

席替えをするも、周一は席が変わらず同じ席にいた。


男性教師の声が聞こえる。

「循環にも流行っていうのがある

 ここ最近は接近して戦う傾向もあって、循環の速度を速くするのが流行りですが、

 昔は遠距離で戦う傾向が強く、長い循環をして強大な魔術を構築するのが流行ました

 ある時代では色の濃さが魔術に対して重要視されるという事で、色を濃くする循環が流行ったのもあります。

 ということで、今日はそんな循環の流行について学んでいきます」

そうして授業が始まる。

静かな教室、男性教師が黒板に文字を書く。

"こつこつ"と板書の音がこの静かな教室に鳴る。


周一は、机の上に教科書とノートを開いている。

話だけとりあえず聞いている様子。

目線は黒板を向いていない。

ぼーっと徐々に曇っていく空を眺めている。


勉強が嫌いなわけじゃない。

でも好きってわけでもない。

教室で受ける授業はとても貴重なのは分かっているつもりだが、授業いや、学校に行くことが億劫になるときもある。

今日は俺にとってだめだめな日だ。

何となく板書をノートに書き写していく。

先生の声はあまり耳に入ってこない。

今日は特に別の事に意識が向いている。

どうやって俺は、堅狼を倒したのだろう。

だが事実魔術で、堅狼を倒した。

よく分からない、気になる。

一度国内戦の映像を見返してみたが、自分ですら何も分からない。

俺の記憶もぽっかりその部分だけ綺麗に切り取られている。

もう一度映像を見返してみよう。

何か思い出すかもしれない。

少し淡い期待を寄せる。


授業に集中しようと思ったが、全然頭に入ってこない。

だめだ、今日は特にだめだめな日だ。

やる気も何もかも、お家に置いてきてしまった。

集中力のかけらもない。

魔術の修行に関しては何気に集中力が持つように心得たけど、普段の高校生活には意識が向かない。

興味がないはずない、頭で分かっていても、それとは別の思考が邪魔をして上手く考えが纏まらない。

眠気、気疲れ、そしてやりたくないという気持ち。

魔術の修行中はそんなこと思わないのに、なぜか授業中には発生する感情。

そんな授業にも一応小テストや筆記の試験はある。

テストはボロボロ、下から数えた方が早い。

変に知識が偏っているせいで、分かった気になっている。

実技に関係する授業については問題ない、中学の授業にあった保健体育みたいな感じで無駄に知識は豊富だ。

完璧と言えるかは分からないが、ある程度、循環に関しては理論武装していると思いたい。

実技に関しては全く問題ない。

実技がいいおかげて、何とか成績を保っている。

魔術の高校の特色として、馬鹿でも、強ければ何とかなる。

どちらかの成績が秀でていれば、問題はない。

俺の進路は三つあるうちの一つに決まっている。

というより一つしか行けなさそう。俺が進めるのは実戦科しかなそうだ。


ちなみにこのクラスで仲がいい響来と峡、そして俺達はこのクラスで一括りにまとめられている。

三馬鹿と呼ばれている。

脳が魔術にしか行き渡っていないと思われているほどやばい。

響来は俺と似た感じで、実技に感する知識は豊富だが、それ以外は空っぽ。

響来は天然的な馬鹿で、俺は覚えが悪い方の馬鹿。

峡は悲しい事に馬鹿ではない。

実技も、勉強も器用な奴。

成績に関していえば、総合成績三位の化け物。

俺達とつるんでるせいで、馬鹿と呼ばれているとても可哀そうな奴だ。

本人は特に気にした様子はない。


俺達が三馬鹿と呼ばれるようになったのは実技で、校内を囲う壁を破壊したこと。


何てことない、実技の授業だった。

響来が最初に言い出した。

「よし、強化魔術であの壁を破壊した方が勝ちな」

「いいよ」

「暑苦しいやつだが、たまに面白い事を思いつく、乗った」

そう言って、俺たちは壁に向けて拳を打ち出した。

曲がりなりにも魔術師を輩出する高校、そんな簡単に壊れないだろうと思って魔術を展開した。

三人で一緒に壁を殴った。

そしたら穴が空いた。

三人とも綺麗に穴を空けた。

響来が真面目な顔をして言う。

「引き分けだな」

その時は俺も常識というのが欠如した。

なんかあるでしょ、その場のノリ、そして若気の至り的な奴。

その時の事を便利な言葉で振り返る。

俺と峡は起きてしまった事に感想を述べる。

「そうだな」

「なんか、簡単に空いたな」


クラス内の人たちに落ち着きがなくなり、騒々しくなる。

先生がその光景を見て俺達を叱った。


響来が代表してその時の状況を説明する。

先生も確かに納得していた。

「そうだな、そう簡単には壊れないはずだ

 だが、それはそれ、これはこれだ

 頼む、大人しくしてくれ」

「すみませんでした」

響来は元気よく答えた。

「二度としません」

すみません。俺はとても反省しています。

「申し訳ございません」

峡は反省しているのか、していないのか、何とも言えない表情をする。

相変わらず目には濃いクマがある。


この時は厳重注意ということで、終わった。


そして俺達の事は学校中に広まる。

三馬鹿として。

この事件をきっかけに、俺達はよくつるむようになった。

学校では大体この三人で絡んでいる。


結媄が俺達の会話に混ざるようになったのは、響来が原因の一つだ。

俺の中ではこれは忘れることのない事件だった。


結媄が響来に循環のこつを聞いたらしい。

どうやら先生が言うことがいまいち分からず、出来る響来にコツを聞いていた。

だがあいつは、

「ギュイーンして、ピッとして、パアだ」

そう言った。

「いや、分からないよ

 もうちょい、詳しく教えてよ」

教えるのが下手だった。

響来は俺達に助けを求めた。

「なあ、循環のコツってなんだ?」

いざ俺もそう言われたとき、言葉が見つからなかった。

思わず、響来と同じで、擬音語しか浮かばない。

脳で、なぜか「ギュイーンして、ピッとして、パアだ」が俺の頭の中をぐるぐる回った。

「そりゃあ、ギュイーンして、ピッとして、パアだ」

自分でもびっくり、その言葉を発していた。

俺も教えるという才能はどうやらないらしい。

その時に察した。


結媄は呆れた表情になる。

「いや、分からないよ

 もうちょい、詳しく教えてよ」


峡も俺を見て呆れている。

「周一流石にそれは、ねえよ」


響来も俺を見て呆れている。

「――」


二人の視線が辛い。

思わず顔を背けた。

だが頭から離れない、魔法の言葉。

ギュイーンして、ピッとして、パアだ。

その日、俺の中の流行語大賞は確定した。


そして峡がアドバイスをする。

「自分の循環を意識的に出来ることに集中するのがいい

 一周するのに全意識を向けるんだ

 自分で全てをコントロールすることから始めてみたら?」

なるほど、流石だ教えるのが上手い。

コツというより、注目するべきポイントを踏まえている。

最初から循環は出来ない、全てを自分でコントロールして全体を把握する必要がある。

何が出来て、何が出来ないかを自分の中で、分けることは非常に重要な事だ。

循環もなんだかんだ難しいからな。

ぱっと思いつく、峡は教えるのが上手い。

いや、循環に苦労したのだろうか、その詳細は分からない。


結媄は理解したようだ。

「分かった、ありがとう

 早速試してみるね」

そう言って、俺達から離れて行った。


さっきと変わらず、俺を見つめる二人の視線が痛い。

響きも同じ説明をしたのに簡単に俺を裏切った。

そして、峡が俺に向ける視線は冷ややかだ。


そしてこれをきっかけに結媄も俺達の会話に混ざるようになった。

今の俺達には結媄の存在は大きい。

常に俺達に現実を見せてくれる、ツッコミ役。

いわゆる最後の砦だ。

峡もたまに俺達と一緒に馬鹿な発想をしてくれる。

そうちゃんと乗ってくれる、いい奴だ。

だが結媄は違う。

男子という、括りに捕らわれない絶対的な存在。

女子の視点で俺達を現実に引き戻してくれる。

締めるところはちゃんと締めてくれる。

ありがたいことにこんな俺達に真面目に付き合ってくれる。

そしてクラスで浮いていた俺達の事を気にかけてくれる、いい女性。


なんだかんだ俺はいじられ役になる事も少なくない。

志津河との会話ではこんな事起こらないのに、こいつらといるとそれが引き起こる。

不思議でしょうがない。


いつの間にか授業が終わるチャイムが鳴る。

先生がここまでと言って授業を終わらせる。

俺の学校生活は今日もいつも通りだ。

例え今日が、だめだめな日でも、いつも通りは変わらない。


***


この世界には地球と同じような様々な物理法則が成り立つなかで、魔力という不確定な要素が含まれている。

魔力は自然で発生することはあるが、魔力単体が自然現象として力を持つことはない。

人間が循環という行為を行い魔術として外部に展開することにより、初めて力として作用する。

この世界にもたくさんの生物がいる中で人間だけが、その魔力に適応する進化を遂げた。

魔力の素と呼ばれる、石のようなものを生まれた時から体内に宿している。


魔術の力の要素となるのが、魔力の色と強度。

魔力の色特有の属性による力。

魔力の強度による力。


そんな魔術を操る上で重要なのが、循環。

フェルテマ・オルシングスが書いた有名な二冊の本がある。

「循環と魔力の色」

「循環による魔力の縮小と拡大」

これまで、魔術と循環の関係性というのは明確になっていなかったが、その関係性を明確にしただけなく、循環という分野を切り開いた偉大な著者と書物。


循環によって魔力の色を濃くさせること、逆に色を薄くさせることを見出した。

私の体験を持ってそれを記載する。

――循環と魔力の色より抜粋


興味深い結果が出た。

規模が小さい魔術を循環によって魔術を拡大して、遅くした。

大きな魔術が発動すると予想したが、発生した魔術は規模相応の魔術だった。

そして、先ほどと同じ規模の魔術を分割して、速く魔術を構築した。

今度は小さな魔術が発動すると予想したが、発生した魔術は先ほどと同じ魔術だった。

結論を言えば規模に関わらず、循環による魔術の構築速度によって魔術の強度は変化しない。

――循環による魔力の縮小と拡大より抜粋


先人達が切り開いた本がこの世には沢山ある。

この世界の魔術は既に長い歴史の上で、様々な研究が行われ沢山の本にまとめられている。

比較的文明も発展しているため、人々がそれらの本を見ることは容易である。

本は図書館で見ることも出来るし、自分で購入することも出来る、学生や魔術師であれば一部書物を魔力媒体で確認できる。

そんな先人達の研究成果は魔術の発展のため引き継がれていく。

石から、本へ、本から魔力媒体へ、そして人へ。


この世界は、魔力の分野が非常に発展している。

文明の発展は魔力によるもの。

地球と少し違うのがについては、ほとんど馴染みがない。

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