6

 今日の修行の時間。

 外の稽古場にいる。

 この日、しゅんさんとの修行は違った。

 華燐に教えてもらったやり方で、自分の色の波長に循環を合わせる。

 もうやり方は覚えた。

 まだ合わせるのに少しだけ手こずる。

 色をのせるという強化魔術の存在は知っていた。

 以前の俺ももちろん試している。

 しかし、出来なかった。

 独自に調べてはみたものの、どうやって色をのせるのか本を読んでも人に聞いてもやり方が分からなかった。

 俺は理論派でもあり、実践派でもある。

 感覚でそれをすることは出来ない。

 実際にやって自分で受けて見ないと、その全貌を掴むことは出来ない。

 師匠との修行では強化魔術の色のせの修行はやっていない。

 教えてもらったのは、魔術の使い方と研魔の技術のみ。

 師匠からは、周一にはまだ不要と言って教えてもらえなかった。

 そのため、強化魔術の色のせがどんなものか具体的には知らない。


 俺が色をのせた強化魔術を瞬さんに向けて使った。

「おおおおお!感じる。感じるぞ。周一が俺を動かたじゃねえか! やったじゃねえか!」

 興奮した様子で俺に感想を言う。

「でも、どうやったんだ?」

「強化魔術に色をのせるようにしました」

「確かに試してないな、よく思いついたぜ。強化魔術を極めたっていうから出来るもんだと思っていた」

「どうでしょう?」

「よく出来てる、早さも問題ない。早速この強化魔術を極めるぞ」

 よかった。これで先に進める。

 そして瞬さんが申し訳なさそうに話始めた。

「アドバイス出来なくて、悪かった。だから俺が担当だったのか。ちなみに俺は感覚でやってる、意識してやってねえ。だが意識してないで出来ることに越したことはない。意識しないで出来るようにするぞ。今日から俺も魔術を展開して使う。色のせだったら色のせ同士で修行した方が早い。まずは自分を守れるようになれ」

 瞬さんが距離をとって俺と向かい合う。

 守る?どういう意味だろう。

 そして魔術を展開してきた。

 瞬さんの後ろには六つの火の玉が現れる。

 火の玉一つの大きさは約一メートル。

「これも強化魔術の色のせだ。今までこれが普通の魔術だと俺は思っていたが、ここに来てそれが違うことを知った。俺はこの六個の火を一つの体だと思って使っている。この世界の法則には従わない。そういうもんだ。理屈はあるうんだろうよ、でも、これは俺のやり方だ。やり方っていうのは人に教えてもらうこと。実際に見ること。色々あるだろう。だけど、俺はそういのは実戦でしか身に着かないと思っている。いくぜ、避けろよ」

 その火の玉の一つが俺に向かって飛んでくる。

 俺はそれを避けた。

 続けて、二つ目の火の玉が俺に飛んでくる。

 俺は避けれず、ぶつかった。

 あっつう、強化魔術で十分防いでるのにも関わらず、ぶつかった部分の服が燃えた。

 それを見た瞬さんがまた話し出す。

「かかってこい、お前の魔術を使ってな」

 俺は既に魔術の準備が出来ている。

 俺自身が魔術を使おうとする。

 体を巻くように一つ光の輪が現れる。

「回れ」

 そして、俺は周さんに近づこうとするが、途中で止まった。

 俺の円周上に、火の玉がそれを邪魔をした。

「いいか、魔術は時に世界の法則を無視する。その法則に従って魔術を使ったり、法則に背いて魔術を使う。強度、色が強い魔術が強いと思われがちだが、実戦で戦えば戦うほどその意味は薄れる。どちらかというと魔術同士の戦いは、世界の法則の塗り合い。周一はそれを使わなくても、法則に干渉出来るみたいだが、それだとこの塗りつぶし合いで負ける。基本的には塗りつぶし合いを支配できた方が戦いに勝つ。自分色に世界を塗りつぶせよ周一」

 いつのまにか、瞬さんの後ろには6つの火の玉。

 その火の玉が進行方向とは逆に火が噴射する。

 轟轟と音を立てている。

「あまり修行と思うなよ。ここからは魔術師の戦いになるかもしれねえ。これでも魔術師の端くれだ。一応名乗るぜ。火速かそくの魔術師、火口ひぐち しゅんだ」

 その名乗りを聞いて俺も名乗り返した。

「円環、輪洞りんどう 周一しゅういち行きます」

 そう言って俺は魔術を瞬さんに向けて使う。


 この人が火速の魔術師。

 まるで展開した魔術と区別できないほどの強化魔術の使い手。

 別の意味で強化魔術を極めた魔術師。

 六個の火の玉を使って自身を加速させる。

 自由自在に飛び回り、火の玉を使って相手の魔術師を倒す。

 三年前にその独特な戦い方が国内戦で注目を浴びた。

 火鉢の異端児、そして一流の魔術師。

 今になって知る、そんな人が俺の修行相手だった。


 そうして修行、いや瞬さんとの戦いの日々が始まった。

 国内戦まで残り一ヵ月。


 ***


 修行の日々はあっと言う間に過ぎた。

 朝は華燐と一緒に循環と色のせの修行。

 そして華燐は色のせの修行ではなく、教えた研魔と循環の修行をしている。

 午後は瞬さんとの修行。

 流石に毎日模擬戦は無理だったので、週に3回は魔術の修行にあてた。

 魔術の修行の時は華燐も一緒だった。


 夏休みもそろそろ終わりに近づいていた。

 八月の第四週目

 国内戦前日。

 朝、俺と華燐はいつも通り室内の稽古場で修行をしていた。

 この一ヵ月は華燐と一緒に修行していた。

 一緒にいる時間は増えたが、あまり会話はしていない。

 そんな中、華燐が俺に質問をしてきた。

「一つ聞きたいことがあるの」

「どうした?」

「魔術師になるのは前に聞いたけど、どうして魔術をやろうと思ったの?」

 俺は隠すことなく話した。

「輝きが欲しかった、俺にも魔術の輝きが。そんな輝きを求めて俺は魔術を始めた。そしたら魔術にはまっていたよ」

 俺は笑顔で返した。

「そうなんだ。その輝きは手に入った?」

「うん、手に入った。ここで新たな輝きも見つけた。でも、俺はもっと輝きが欲しい、そう思って今も魔術をやっている」

 俺も1つ気になったことがあった。

 そういえば華燐もどうして魔術師の道を選んだろう?

 聞いてみようと思った。

「華燐はどうして魔術師になったんだ?」

「私は母のようになりたい。だたそれだけ」

 華燐は恥ずかしそうに答えたが、俺はそうかと真剣な目をして返した。

「いよいよ、明日だね。意気込みはどう?」

 堅狼の息子が結果を残したは知っている。

 だが俺にはそこまで気にならなかった。

「特別緊張はしていない。出来ることは限られている。ただ勝ちを手に入れるだけだ。見てろよ、この輝きに恥じない戦いをしてくる」

「うん、ちゃんと見る。応援してる」

 そして俺は魔術を循環する。

 研魔はしていない。

 だがそこには以前とは違う変化がある。

 俺の右手、右足には光の輪が出来ている。


 ***


 ここは火鉢市のとある場所。

 そこには世界を祀る祭壇がある。

 とある儀式が行われていた。

 火鉢家、水鋏すいきょう家の魔術師がいた。


 火鉢家は赤い長衣、水鋏家は青い長衣を着てその様子を見守っている。

 火鉢家の面々の中には輪洞 周一も参加している。

 そして少し離れた所からは、その様子を見守る一般の人たち。


 祭壇には、白い長衣を着た女性と同じ服装の人たちが囲むようにいる。

 魔術を使う様子が見える。

 この白い長衣の人達は評議会にいる

 そんな魔導士達による魔術の準備が行われていた。

 国内戦を行う際に必ず行われる開会の儀式。

 そして真ん中にいる女性が言葉を紡ぐ。

「今宵、魔術を求めて戦う者が集った。魔術に導かれた者達による戦いである。世界も魔術師を求めている。ここは日本の火鉢市、魔術に導かれし者達に魔宝まほうの恵みを」

 その一言、一言に世界が呼応するように、上空には複雑な模様が描かれた魔宝陣まほうじんが出現する。

 円をベースにした形のものもあれば、六芒星のような角がある形もある。

 様々な形をした、魔宝陣が何層にもなって、重なる。

 上空を覆う夜空のように、それはまるでいくつもの星のように見えた。

 やがて全体を映し終えた魔宝陣は動き出す。

 スムーズな動きではない。

 少しずつ、動作を確認するように動き出す。

 重く重力を感じるように、そして空気との摩擦があるように回り始めた。

 魔術いや魔宝が発動する。

 回り始めると同時に、白い光の円が彼女を中心に現れる。

 火鉢家、水鋏家の魔術師を包み込み、やがて火鉢市全体を包み込む。

 火鉢市全体が淡く光る。

 空も淡く光り始める。

 そしてその空に、幾重にも重なる巨大な魔宝陣も光り出す。

 先ほど包み込んでいた白い光が彼女の元へと戻り儀式が終わる。

 そしてどこからか鐘の音が聞こえる。

 "ごーん"、"ごーん"と二回。


 その音はこの日本中に響き渡る。


「これより、国内戦を始めます」


 火鉢のホームゲーム。

 火鉢 対 水鋏

 今宵、国内戦が始まる。

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