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火鉢家での修行、二日目。
今は室内ではなく、外の稽古場にいる。
魔術の修行している。
俺は魔術の構築中、
「いくら何でも、遅いだろう。相手はそんなに待ってくれないぜ。何にそんな時間がかかるんだよ」
「魔術の構築です」
「ちょっと待て、今からお前に魔術使うからその場を動くなよ。あと強化魔術はそのままな」
そう言って俺に魔術を一瞬で展開して使ってきた。
火が俺の目の前に現れる。
そして、その火に俺は押されて一歩後ろに下がる。
「この世界の法則に従って魔術の強度があれば押せるだろ」
俺は自分の魔力の性質について話を始めた。
「あまりにも色の特性と、透明度がないせいで魔術を使うのに時間がかかります。押そうとするだけでも早くて一分。強化魔術は循環を極めれたので、何とかなりました。でも、展開する魔術だけはどうにもなりませんでした。魔力の素を研魔して自分の魔術を構築してからまともに使えます」
「なるほどな、強化魔術は魔力を絞るのと循環があれば、どうとでもなるからな。じゃあ、肝心の研魔はどうなんだ?」
「十分以上かかります」
「研魔もまともに使えねえじゃねえか。よく強化魔術だけで、撥さんまでたどり着けたな」
はあとため息が聞こえた。
「正直、俺が手伝えることは多くねえ。聞いた感じ、周一も理解していると思うが一応な。魔術の構築について速くするのは無理だ。構築についてアドバイスはできるが、構築の速さは魔力の素に依存しちまう。こればっかりは技術じゃねえ。元からある才能で決まる。研魔に関しては俺がそもそも出来ない。一応周りに聞いてみるが期待するな。やることは周一も分かってるな?」
うんと頷く。
研魔を早くすること、自分の魔術を改造すること。
この二つ。
そうして修行の日々が始まった。
***
初めて一ヵ月と少しが過ぎた。
学校は夏休みに入ろうとしていた。
火鉢の屋敷での生活は慣れた。
生活は全面的にサポートしてもらった。
華燐とはあまり会話はしなかった。
学校以外で会うのは、朝食と夕食、登下校の時だけ。
華燐と登下校が同じになるため、学校では変な噂が出たけど気にしなかった。
肝心の修行はほとんど進んでいない。
研魔は目覚ましいほど早くはならなかった。
研魔した後の魔力の素に何種類か型があることを知った。
瞬さんも勉強中らしく、俺も一緒にその型を真似しようとした。
だが、慣れ親しんだ師匠の型から抜け出せなかった。
いや、師匠に教えてもらった型にしか、磨けなかった。
その事について、瞬さんも他の人に聞いて回ってくれたようだ。
どうやら個人個人に適した手順があるらしい。
出来上がってしまった手順を変えるのは難しいどころか、下手したら一生もの。
困った、研魔を早く磨く方法は今のところ俺がその手順を素早く出来るようになるしかない。
師匠は一瞬でその形に磨き上げることが出来る。
まだまだ、師匠の技には程遠い。
次に俺の魔術については、ある答えが出る。
ほとんど完成の域に近いことが分かった。
どうやっても、対象を選ばないといけない。
その対象に空間を選ぼうとするが、どうも感覚がつかめない。
意識しても、しなくても関係ない。
相手を直接移動させてしまう。
そう移動させてしまうのだ。
自分に対して使うのは便利だが、相手に対して使うのには向いていない。
瞬さんには何度も魔術を受けてもらった。
感想は、見る景色が変わるだけでそれしか感じないと言われた。
効率求めて、住み込みで修行した。
俺が魔術に打ち込む時間が増えるとともに、俺が追い求める魔術は遠くに行ってしまう。
ただ時間だけが無慈悲に過ぎて行く。
俺をその場に置いていくように。
最初は気にならなかった事も気になるようになってきた。
”
”才能ないじゃん何でこんな奴が?”
”そもそも国内戦に出ることすら難しいよ”
火鉢の魔術師達から風の噂で聞いた。
魔術師からの俺の評判はそこまで良くはない。
そう言われることは当然なのは分かっていた。
子供が夢を語っているのに過ぎない事に。
俺は展示会に出場して師匠を手助けしたい。
世界最強と言われる魔宝師になりたい。
俺はここで目標に向けて努力できなければ、その先は無いと思っている。
俺は頑張るしかない。
時間が許す限り。
頑張るしかない。
やる事は決まっている。
でも、目に見えた結果は出ない。
時間が経つにつれてその言葉が徐々に俺を不安にさせていった。
***
七月最後の日の朝。
学校は夏休みに入った。
俺はいつもと同じ、室内の稽古場で胡坐をかいている。
明かりはついていない。
この期間何度やったか分からない、研魔を始める。
俺は焦りを感じていた。
心は穏やかではない。
何をやっても上手くいかない。
これ以上やっても俺に劇的な成長は見込めないんじゃないか、そう思った。
だが俺は早く師匠の所に戻りたい、その目的のために国内戦を勝ち抜く必要がある。
国内戦で生き残るために、結果を残すために劇的な成長が必要だった。
今の俺では生き残る事は出来ない。
成長しなきゃ、強くならなきゃという焦り、欲がぐつぐつと俺を焦らせる。
磨いても、磨いても自分の中が何か黒いもので汚れていくのを感じた。
師匠と会う前のことを思い出す。
俺もあんな風に輝けるかなと思って、魔術を循環した。
輝きはなかった。
必死に自分自身を磨いた。
ただ必死に磨いた。
だがそこに輝きはなかった。
師匠と会うまでその輝きはなかった。
分かっている。
師匠によって磨いてもらい、俺は輝いた。
だが今その輝きが霞んでしまうほど、俺が汚れていく。
師匠に磨いてもらったように同じように磨くけど、その汚れは消えない。
その汚れは、俺を不安にしていく。
暗い暗い世界だ。
俺の周りには誰もいない。
一人だ。
あの時は師匠がいて、志津河がいた。
今は違う。
俺が目指して歩いていた道の先には、いつも二人がいた。
その道も通り過ぎて、自分がやってきた道を振り返るとそこには誰もいない。
そして周りを見ても誰もいない。
孤独を感じた。
今の状況と一緒だ。
誰かがいる匂いも、音も、感覚も、輝きも感じない。
気のせいか舌がざらざらする感覚がする。
俺の中で積み上げてきたものが、ボロボロと崩れて行く。
崩れて行くそれを手で押し固めようとするが、すぐに崩れる。
不安が俺を蝕んでいく。
そんな中、稽古場の入り口から"がた"と音が聞こえた。
俺は反射的に振り向いた。
そこには火鉢がいる。
稽古場の中が暗いせいか彼女が輝いて見えた。
毎日俺を見に来ているのは知っている。
いつもは、そんな音も気にならない。
だが今日はなぜか音が気になった。
そして俺は思った。
なんで彼女はあんなにも輝いているんだ。
俺も、俺も、その輝きが欲しい。
そう思ったと同時に俺はなぜか声を出していた。
思わず彼女を名前で呼ぶ。
「
そう呼んで俺は気づく。
華燐は持っているじゃないか、あの輝きを。
俺が試していないことがあるじゃないか。
強化魔術の色のせはまだやっていない。
俺は言う。
「俺に強化魔術を教えください」
そして返事はすぐに来た。
「周一、いいわよ。私が協力してあげる」
俺の中で黒い汚れ、不安が少しだけ薄くなる。
これで駄目ならしょうがないと、自分の中で納得できた。
彼女は俺に向かって歩いてくる。
彼女は輝いて見える。
だって華燐は"真紅に輝く脚"の持ち主なのだから。
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