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二日後。
俺は言われた通り、火鉢家の
部屋には赤華音さん、
前日、志津河に要件は伝えている。
相変わらず頑固だねって、そして信じてるから、そう言われて見送られた。
当分俺は自分の部屋に戻るつもりはない。
俺の横には、荷物をまとめたかばん。
時間が惜しい。
釜錣さんに負けたあの日からこのまま国内戦に参加しても負けが見えてる。
参加するからにはいい結果を求めたい。
そう、俺は堅狼を倒したい。
赤華音さんが質問する。
「どうしたの?、その荷物」
「住み込みで働かせてください」
はあと呆れた声が聞こえた。
「いいわよ、あと働かなくてもいいわ。でも、その変わり私は結果を求める」
「堅狼を倒します」
赤華音さんは笑って答えた。
「決まりね。部屋も用意するから、家の者に伝えておくわ」
「ありがとうございます」
「じゃあ後は、釜錣お願いね」
釜錣さんが分かりましたと返事をして、ついてこいと言われて赤華音さんの部屋を出た。後ろには部屋の中にいた男の人もいる。
そして屋敷を出て、稽古場に案内された。
とても神聖な雰囲気を感じた。
数々の歴史の匂いがする。
釜錣さんを先頭に俺達は靴を脱いで、その稽古場の中に入った。
釜錣さんが口を開いた。
「周一、随分と高い目標を掲げたな。そんなの無理かもしれないぞ」
釜錣さんと呼んだが、
「撥さん、無理かもしれないです。でも、戦えるチャンスはもらいました。あとは挑んで見るだけです」
撥さんはそうかと言って、俺と向き合った。
「後ろの男の紹介が遅れたな、
勝てないそうはっきり言われた。
「どうしたら勝てますか?」
「お前はどうしたら勝てると思う?」
「俺の魔術で出来ることが少ない事です」
「そうだな。お前の魔術を直に受けた感想だが、制約が多いのか? 移動させるだけで、俺自身に対してはほとんど影響がなかった。必ずお前が何かしら俺と接触しようとしてきた。一度だけだ。地面に強くたたきつけられた。だがその一回以外、魔術での直接攻撃はなかった」
あっている。ほとんど俺の魔術特徴を抑えている。
何も言い返せない。
俺の魔術は円周上を任意の位置に回せるだけ。
相手に直接攻撃はしていない。
俺の魔術は回すことしか出来ない。
俺が黙っていると、撥さんは話を続ける。
「魔術で相手に直接干渉出来るのはいい事だ。だが、移動だけでは物足りない。相手に直接攻撃を出来るようにしろ。それが出来れば、お前は魔術師として一段上へと成長できる」
撥さんの言う通りだ。
相手への直接攻撃が出来る。
それがいかに重要なのか分かる。
俺は近づかなければ相手を倒せないのだから。
俺は撥さんに頷いた。
「あとは周一次第だ。循環、魔力操作に関して文句のつけようはない。魔術この一点だけだ。
そう言って、撥さんは稽古場を出て行った。
後ろにいた火口さんが俺に近づいて話をかけてきた。
「お前、凄いやつなんだな。撥さんが人を褒めるところ初めて見たぜ。俺は、火口 瞬だ。瞬って呼んでくれ」
二十代前半くらいの見た目をしている。
身長は俺より高くて、左耳にはピアスが着いている。
「
「よろしく、 周一。住み込みで働くとか、馬鹿じゃね? 学生ならもっと楽しい事あるだろうよ。魔術に青春を費やすとかもったいないぜ」
そう言うように俺を上から下へと目線をずらす。
「いいんです、今はやりたいことが魔術なので」
「そうかい、俺は周一の実力を知らない。どんなもんか手合わせしてもらってもいいか? とりあえず強化魔術だけ」
「いいですよ」
不快には思わない。
瞬さんが俺の実力を知らないように、俺も瞬さんの実力を知らない。
そしてお互い距離を取る。
強化魔術が発動する。
俺は丁寧に素早く強化魔術を発動する。
瞬さんの強化魔術の手際を見た。
強化魔術に隙は無い。
しばらくと言っても、一秒に満たない時間見た。
次第にとても小さな隙間が出来ている。
その隙に違和感を感じた。
試されている?
その真意は分からない。
ただ、隙というには不自然な場所にあった。
腹の真ん中。
俺は瞬さんに近づいた。
瞬さんも同じように距離を詰めてくる。
俺が見た瞬さんの動作は少し遅く見える。
瞬さんのゆっくり見える動きを置き去りにして、俺はその不自然な隙を右拳で突いた。
綺麗に入った。
瞬さんは、がはっと言って倒れる。
はあはあと息を整えてから、話始めた。
「なるほどな、化け物かよ。その年で達人みたいな感覚してるのか。お前見た目以上に苦労してんだな。魔術に打ち込まないとその先には進めないってことか」
そして瞬さんは立ち上がって、俺に手を差し伸べる。
「馬鹿とか言って悪かったな。改めて、瞬だ。周一これからよろしく」
「よろしくお願いします」
そして俺は手を差し伸べて、握手をした。
***
次の日、俺は朝五時ちょうどに起きる。
火鉢の屋敷で過ごす最初の一日だ。
俺は稽古場に向かった。
昨日は瞬さんと手合わせをした後、少し魔術の練習をしてその日は終わった。
俺は稽古場の中で一人胡坐をかく。
堅い床は気にならない。
俺は自分の魔力の素と向き合う。
魔術の匂いを感じようとするが、魔術からは匂いがしない。
いつもの魔術だ。
この魔術からは孤独の匂いを感じる。
嬉しかった事、嫌だった事、色々思い出す。
調子が良いも、悪いもない。
師匠との修行の日々を思い出す。
ここからは欲するな。
欲すれば欲するほど、それが欲しくてたまらなくなる。
自分に期待して、ねだっては駄目だ。
ただ愚直に魔術と向き合い、俺自身で勝ち取るんだ。
勝ち取るのは、成長。それも劇的な成長でなければならない。
撥さんに負けたあの日、俺の魔術では展示会はもちろん、国内戦も生き残れない。
生き残る強さにまで成長する必要がある。
成長、そして勝ち取る。
自分で成長も、強さも勝ち取る。
魔術の強さが欲しい。
最大の敵は自分自身。
まだ二か月あるとかじゃない。
ここからは残り二か月。
魔力を循環する。
そして俺は静かに「研魔」を始める。
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