2

 場面は五月の終わり。

 俺は朝起きて、机の上に置いてあるリモコンに魔力を流す。

 すると、壁についている装置から水のようなものが出て、四角い枠の形になった。

 そこに映像が映し出され、音が出る。

 魔術を専門にする番組がやっている。

 俺は何となくそれを聞いていた。

 ただ聞き流してるのに今日は違った。アナウンサーのある一言が俺の頭の中を支配する。


「八月の水鋏 対 火鉢戦。堅狼の魔術師で有名な氷銅ひょうどう 嶺自れいじの息子。氷銅ひょうどう 剛牙こうがの参加を水鋏家が発表しました」


 "あああああ!"その手があったと思わず声を出してしまった。

 そうだ、俺は火鉢の魔術師になったんだ。

 国内戦に参加して結果を残せば、師匠から連絡が来るかもしれない。

 火鉢所属の魔術師になったが、あれから特に師匠から連絡はない。

 連絡もしていない。

 なんと重大なことに連絡先を知らない。

 三年の付き合いがありながらも、住所も郵便番号も電話番号何もかも知らない。

 一度、志津河に聞いてみたところ内緒と言われてしまった。

 どうやら、学生の間師匠は俺に会うつもりはないらしい。

 徹底してやがる。

 何もしないでこのまま時間が過ぎるのは、それはそれで勿体ない気がした。

 何か行動に移した方が良いに決まっている。

 自分一人考えられることはたかが知れている。

 国内戦で結果を残せばきっと師匠も俺に連絡してくれる。

 浅はかな考えだけど、目的はシンプルだった。

 次の目標は決めた。

 国内戦に参加して結果を残そう。

 善は急げ、思い立ったが吉日。

 学校で今日、華燐に相談しよう。


 ***


 放課後、珍しく俺が華燐のいるクラスに向かった。

 華燐の姿を見つけて、話しをかける。

 俺は落ち着いてはいられなかった。

 ただ自分が伝えたいことをそのまま伝える事にした。

「火鉢頼む。俺を国内戦に出させてくれ」

「いきなりどうしたの?、落ち着いて」

 そして俺はいったん一呼吸する。

「ごめん、相談がある。俺を国内戦に出させて欲しい。そのために火鉢家の当主に直接あってそれを伝えたい。頼む、お願いします」

「分かったわ、協力してあげる」

 深く理由は聞かれなかった。

 そして華燐は席を立つ。

 俺は志津河を探したが教室にはいなかった。

 ほら行くわよと教室の出口に華燐は立っている。

 ごめんと返して華燐と一緒に教室を出た。


 ***


 場所は変わり、火鉢の屋敷に移動した。

 赤華音あかねさんはまだ不在らしく、華燐からごめんと謝られた。

 しばらく待つと思うと言われたが、気にしていないと答える。

 直接伝えられる機会を作ってもらうんだ。そんな事はどうでもいいと思った。

 夜になったけど、まだ赤華音さんの姿は見えない。

 お腹すいたでしょと華燐に言われて、晩御飯も頂いてしまった。

 夜九時、赤華音さんの姿が見える。


「おかえり。母様、ちょっといい?」

「ただいま、いいわよ。いったん私の部屋に向かいましょう」

 俺も一度見て、色々察したらしい。

 そして俺達は赤華音さんの部屋に向かった。


 部屋に入ると、一通り華燐が状況を説明した後、俺が話始めた。

「あの火鉢さん」

「赤華音でいいわ、それで要件はどうしたの?」

「赤華音さん、俺を国内戦に出させてください」

 赤華音さんはしばらく考えた素振りを見せた後、答えた。

「いいわよ。その代わり条件として二か月後に控える、水鋏戦に参加すること」

「はい、その条件で大丈夫です」

 俺はその場の勢いで答える。

 俺の頭の中は国内戦に出ることで頭がいっぱいだった。

 出れるなら後はやるだけだ。答えは簡単だ。

「じゃあ決まりね。今日はもう遅いし詳しい話は、また次回にしましょう。次は二日後なんてどうかしら?」

「分かりました」

「二日後ね、あと送ってあげるわ」

「突然押しかけてすみませんでした」

「いいのよ。あなただから許してあげる」

 そう言われて、俺は火鉢家の使用人に家まで送ってもらった。

 俺は自分の部屋に帰って来る。

 部屋の明かりは無く暗い。

 部屋の明かりを灯すスイッチを押した。


 俺は嬉しくて仕方なかった。

 今日いきなり進展があった。

 国内戦に出れる、出れるぞ。

 あとは、結果だけだ。

 二か月後が楽しみで仕方ない。

 やるからには徹底的にだ。

 今の環境では、満足に修行は出来ない。

 魔術を使うのにも制限がかかる。

 日常で使えるのはせいぜい、強化魔術のみ。

 それでは成長できない。

 普段やっている修行では間に合わない。

 俺には今倒したい相手がいる。

 釜錣さんに負けた今のままでは勝てない。

 ここで俺が求めるのは勝利の二文字、しかも大物の魔術師だ。

 堅狼の魔術師に勝利すること。


 俺は静かに闘争心を燃やす。

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