2


 朝、周一しゅういちの部屋にピンポーンとインタホーンが鳴る。

 おはようといつもの聞きなれた声。

 隣の部屋に住む、志津河しずかが来た。

 朝の弱い周一だが、支度はもう済ませている。

 玄関のドアを開けておはようと志津河に挨拶をして、一緒にマンションの下まで降りる。

 マンション前の道路には既に、一台の車が停まっていてその横に男の人がいる。

 その男の人が二人に向かって手を振ってきた、二人はそこに歩いて行った。

 おそらく火鉢家の使用人だろう。

輪洞りんどうくん、波止場はとばさんですね、お迎えに上がりました。使用人をしている、鍵本かぎもとと言います」

 そして名刺をもらった。

 二人もそれぞれ苗字を名乗った。

 簡単な挨拶を済ませた二人は鍵本から車に入るように案内されて車に乗る。

「では、行きましょう」

 二人は鍵本が運転する車に揺られながら火鉢ひばち家に向かった。


 ***


 あの後、周一と志津河は華燐から朝8:30に迎えの者が行くと教えてもらっている。

 車内では特に会話はなく、周一はずっと外の景色を見ていた。

 二人は魔術師の町に向かっている。


 火鉢家自身が管理する町、火鉢市。

 ここに住む人たちの多くは火鉢家の補佐や警備、運営等を担っている。

 そのため、ほかの所と比べて魔術師の割合が多い。

 多くの魔術師達は火鉢家に所属するか、その分家に所属している。

 火鉢家最大の特徴は何といっても魔宝師がいること。

 火鉢家現当主、火鉢ひばち 赤華音あかね

 今の日本の魔術師の中で最強の魔術師と呼ばれている。

 土地にも特殊な性質があって、火鉢の場合は赤色の魔力が特に活性化する。

 そのため赤色の魔力を持つ魔術師達もこの火鉢市に住んで活動している。

 

 火鉢市の生活水準は世界的に比べると高い位置にある。

 遠い昔、世界で魔力に反応する回路の発明により、人々の生活は豊かになった。「魔石」とよばれる500円玉くらいの大きさなの黒い石。

 どんな微弱な魔力にも反応して、淡く光る。

 この魔石を使って回路にすることで、人工的に魔力を循環することに成功した。

 循環すると人間と同じように一つの魔術を持つため、様々な分野で活用されて文明の発展に一役買った。

 日本の場合、魔石は火鉢ひばち水鋏すいきょう風鍔かぜつば土鏐つちこがねの四名家が管理する土地から取れる。

 比較的量も多かったため、ほとんどの人がその豊かな生活を経験することが出来た。

 そして、日本の生活水準は一段階上のものになる。


 しかし世界では違った。

 取れる量が多い国、少ない国があった。

 基本的に魔石は個人で売買することは出来なかったため、全員平等にその生活を経験することは出来なかった。

 次第に魔石を求めて世界中で争いが始まる。

 そんな争いを止めるべく、評議会が発足され展示会が開催される。

 展示会は世界規模で行われた。

 そして展示会で勝ち上がった者は、個人としてこの魔力の原料を売買する権利を得られた。

 その称号は「魔宝師」と名付けられる。

 人々の生活は豊かになったある時、その称号は最強の名を指すようになる。

 

 ***


 車で移動すること一時間。

 門の入り口で車が停まり、警備員の人に鍵本さんが身分証を見せる。

 そして門の中に入って、しばらく道を車で進んだ。

 立派な屋敷の前で車が停まる。

 鍵本さんが着きましたと言って、車を降りた。

 それではこちらですと言われて、その案内に従った。

 玄関について鍵本さんがインターホンを鳴らして、ドアが開く。

「鍵本ありがとう、二人ともいらっしゃい。ここからは私が案内するわ」

 それでは失礼します。と言って鍵本さんとは別れた。

 火鉢ひばち 華燐かれんが二人を出迎えた。

 二人とも緊張してその屋敷に入る。

 床は大理石、天井にはシャンデリア、壁はシンプルに白一色。

 吹き抜けになっている。

 奥には別の使用人が数人並んでいる。


 華燐が母の部屋に案内するわと言って、その後を二人は、ついていった。

 部屋に向かう途中、華燐は話を始めた。

「家まで遠かったでしょ」

「遠かった」と周一は素直に答える。

「遠くなかったよ、せっかく呼んでもらったんだから失礼だよ」と志津河に突っ込まれた。

 それに対して華燐は笑って答えた。

「いいの、同年代を家に招くなんて初めてだから、なんか嬉しい」

 そうかと周一は答えて、志津河は笑った。

「やっぱ改めて思ったが、火鉢ってお嬢様なんだな」

「そうだよね、屋敷もすごいし、使用人が何人もいるし」

 と周一と志津河はそれぞれ感想を言った。

「ただ家の歴史が長いだけよ」と素っ気なく答えた。

 そうして何気ない会話が再開する。


 そんなやり取りをしてる間に部屋の前に着く。

 華燐がノックをしてどうぞと女性の声が聞こえた。

 そうして華燐がドアを開けて、俺たちは部屋に入った。

 部屋に入ったら、華燐がそのドアを閉める。

 俺たちの前には二人いた。女性と男性がいる。

 席に座っている女性の横に男性が立っている。

 座っている人は、火鉢ひばち 赤華音あかね。そしてその本人が口を開く。

「二人ともいらっしゃい、遠い所ご苦労様。横にいる男性は私の側近の一人、釜錣かまてつ ばちよ」

 釜錣と言われた男が、釜錣 撥だと言って。俺達も挨拶を返した。

 そして火鉢 赤華音がまた口を開く。

「二人を呼んだのは、今後の話をするため。だけどそれが本当の目的ではないの。あなた達を深く知りたい。そう、あなた達の本当の実力が知りたい、それが今回の一番の目的よ」

 それに俺が質問する。

「新人戦の結果だけでは不十分ってことですか?」

「そうよ。ここにいる釜錣と護衛の者数人を相手に、どれだけ戦えるか見たい」

 これはありがたいと素直に思った。

 学生相手ではどれくらいの基準か分かった。

 ここで大人、特に魔術師と戦えるのは自分が今どの位の実力なのか、自分の身で経験出来るのは大きい。

 そしてあのと戦える。

 志津河を見ると、うんと頷いて返ってきた。

「わかりました、戦うと言ってもどうやって戦うんですか?」

「うちの敷地はとても広いの。そこであなた達は、入り口の門から、この屋敷にまた戻ってきてください。釜錣達がそれを阻もうとするわ。どこまで来ることが出来たのかその距離に応じて評価します。早めの昼食をとって、14時頃始めましょう。あと、華燐も参加しなさい」

 華燐は、はいと簡単に。

 俺たち二人は、分かりましたと答えた。


 日本の四名家、火鉢の魔術師に挑む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る