第14話 もう一匹きた!

 一時間も経たないうちにパトリックは戻ってきた。

 ズズに乗って。だけど、もう一匹アンゴラネズミが増えている。彼の連れているアンゴラネズミはズズと毛色が異なり、ピンクがかったクリーム色をしていて頭に赤いリボンをつけていた。

 ズズと同じように鼻をひくひくさせた姿はもふもふ感に溢れ愛らしいが、このアンゴラネズミが何か重要な手がかりなのだろうか?

 

「お待たせ。兄ちゃん」

「何か分かったか?」

「うん。姉ちゃんはどこかに消えてしまったんだ!」

「どこか……鳥か何かに連れ去られたとか?」

「ううん。たぶんなんだけど……」


 パトリックは針のような指先で地面を指し示す。

 つられて俺も地面を見るが、雑草しか目に映らなかった。

 

「モグラか大ミミズの開けた穴に落ちちゃんじゃないかって。姉ちゃん、農場に行っていたらしい」

「農場に穴が? ウサギとかも穴を掘るみたいだけど」

「何かは分からないけど、農場ならミミズかも。たまに出るんだ。大ミミズの奴が」

「小人が落ちるくらいの穴になると……結構な大きさだな」


 ジャイアントワームとまではいかないが、体管の太さが俺の手の平くらいはありそうだ。

 となると、長さが三メートルくらいはあるかもしれないな。


「でも、ミミズかモグラならまだよかったよ……人を襲わないから」

「おお。そいつは不幸中の幸いだな。それで、そのアンゴラネズミは?」

「こいつは姉ちゃんが世話しているアンゴラネズミなんだ。だから、こいつに聞こうと思ってさ」

「アンゴラネズミが?」

「うん。こいつら鼻が利くんだぜ。ゴゴなら姉ちゃんの匂いを覚えているから」


 犬みたいだな。アンゴラネズミって。

 乗りかかった船だ。ここまで来たら俺も一緒に探しに行きたい。

 だけど、問題はサイズだな……。


「農場は俺やアメリアでも入ることができそうか?」

「うん! ついてきて」


 言うや否やパトリックを背に乗せたズズが動き始める。彼に付き従うようにピンクがかったクリーム色の毛皮を持つゴゴも後を追う。


「俺たちも行こう」

「うん」


 アメリアと顔を見合わせ頷き合う。

 アーチはここでお留守番だ。彼はさすがに大きすぎると思ったから。

 

 ◇◇◇

 

 ゴゴは確かにぽっかりと開いた穴を見つけ出した。

 小さな小さな畝にはカブのような作物が実って並んでいる。

 穴は土が被っていて隠れていたけど、ゴゴが鼻先で掘り返し今ならハッキリと穴が確認できるようになった。

 だけど、ゴゴは穴の中に興味を示していない。

 この中にパトリックの姉がいるわけじゃあないのかな? しかし、ここ以外に穴らしきものは見当たらない。

 

「パトリック。ゴゴの様子から何か分からないか?」

「うーん。この中以外に考えられないんだけど、どうしちゃったんだろう、ゴゴ」


 しゃがんで穴を覗き込んだままのパトリックが俺に言葉を返す。


「中を覗いてみるか?」

「うん、だけど僕の体が穴の中に入るかなあ」

「パトリック。万が一のため、体にロープを巻き付けてくれ。穴は少しだけ広くするから」


 俺じゃあとてもじゃないけど、この穴に入ることなんてできない。

 腕でさえ入らないからな。


「これでいいかな?」

 

 パトリックが手持ちのロープを腰に巻きつけ、両手を広げる。


「こっちは俺が持つ。何かあったらすぐに引き上げれるように」


 そう言って、ロープの端を指先で挟む。

 よし、これで準備完了だ。

 

ドールハウス体積自在

 

 見た目には変化はないが、入り口から少しのところまで俺の固有能力で少しだけ広くなったはず。

 穴が崩れてこないか少し心配だったけど、大丈夫そうだな。

 

 俺の方へ顔だけ向け口元を引き締めたパトリックは、行くぞとばかりに片腕をぐわっとと振り上げた。

 

「見てくるよ!」 

 

 パトリックはぴょんと飛び跳ねるようにして穴の中に消えていく。

 俺とアメリアにはどうすることもできなく、やきもきするが、彼の帰りを待つしかない。

 

「大丈夫かな? パトリックくん」

「いざという時はこいつで引っ張り上げるさ」


 指先にくるんと巻いた細い紐をアメリアへ向ける。


「わたしも一緒に行けたらなあ」


 はあと両手を前にやりため息をつくアメリア。


「俺もだ。ドールハウス体積自在は大きさを変えることができるものと変えることができないものがあるからなあ。自分の体のサイズは変化させれないんだ」

「どんなものなら、対象なの?」

「俺にもこうしっくりくるところと、こないところがあってさ」

「へえ。面白そう」


 パトリックを待っているとソワソワして仕方ないし、アメリアも興味を持っているみたいだから気晴らしにドールハウス体積自在のことでも語るとするか。


「岩とか家みたいな生き物じゃない物体はまず変化させることができる」

「馬車とか、エリオくんが炎竜に投げていた石とかかな?」

「そそ。あと家とかな。だけど、生き物になるとできたりできなかったりするんだ」

「そうだな。そこの木の枝を取ってもらえるか」

「うん」


 ちょうど座るアメリアのお尻の横に小指ほどの枝が落ちている。

 彼女は俺の言われた通りにそれを摘まみ上げ手の平に乗せた。

 

ドールハウス体積自在


 固有能力の発動と共に、小さな枝が手の平サイズにまで大きくなる。


「エリオくんが念じると、即、大きさが変わるんだね」

「うん。小枝や丸太は変化させることができるんだけど、樹木はダメなんだ」

「根っこが土から出ていれば大丈夫なのかな?」

「枯れた木なら。草や葉はかなり微妙でな。俺にもハッキリと分かっていない」

「不思議だね」

「何となくで分かってはいるんだけどね。直感的に『こいつは変化させることができない』って分かるというか」

「へええ」

「アーチの餌。あれは肉だけど、大きくできていただろ?」

「うんうん。でも、生きている動物だとダメなんだっけ」

「うん。肉は『加工』するといけるようになることが多い。同じように調理した食べ物もだいたいいけるんだ」

「ねね、だったら、小人のお料理も食べることができるのかな?」

「行けるはず。パトリックの姉さんを無事保護した後に、パトリックに頼んでみようか」

「どんなお料理なんだろう」

「アメリア、よだれよだれ」

「え、ううん。出てないよ?」

 

 口元を指先で撫でるアメリアだったが、からかわれたことに気が付き「もお」と眉尻をあげる。

 ほっこりしてきたところで、指先に巻きつけた糸に反応があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る