餓鬼の祟り

「早乙女さんの死体が発見された」


 どよめきの正体を確かめに下山した八木さんは、帰ってくるなりそう報告をくれた。

 尤も、見に行くよりも前に二人とも、それが早乙女さんのことだと理解はしていたが。

 これでようやく、八木さんも疑わなくて済むようになったわけだ。

 間違いなく、連続殺人はこの街で起こっている。


「野次馬には混じらず、遠くから見ていたけれど……壮絶だった。瓶井さんが割って入ってね」

「……瓶井さんが?」


 どうしてあの人が、と思ったが、その理由を教えてもらってすぐに納得した。

 瓶井さんが固執するものといえば、鬼絡みでしかない。


「これは餓鬼の祟りだと、彼女はそう口にしていたよ」

「餓鬼、ですか」


 三鬼村に伝わる、三匹の鬼の伝承。

 水鬼、餓鬼、邪鬼の三匹。

 なるほど、彼女はこの殺人事件を鬼の伝承に見立てた連続殺人と捉えているのか。

 永射さんは水鬼の祟り、早乙女さんは餓鬼の祟りを象徴しているわけだ。


「住民たちにショックを与えたかったのか、あの人は早乙女さんの遺体にかけられていたシーツを剥がしてね」

「……酷い……」


 祟りを印象付けて、住民へ電波塔反対の意識を持たせようという理屈は分かる。

 けれど、それはあまりにも残酷なやり口だった。


「後は……そうだね。現場には貴獅さんや牛牧さん、双太さんに……玄人くんもいた。彼も彼なりに、事件のことが気になっているんだろう」

「玄人が……」


 虎牙は、なるべく仲間を巻き込まないようにしたいと考えていた。あいつと同じ境遇になってしまった私も、気持ちは一緒だ。

 玄人が首を突っ込み過ぎないことを祈るが、彼は案外芯の強い部分もあるし、探偵好きなところは私と似ている。色々と勘付いてしまうかもしれないな。

 玄人や満雀ちゃんは、せめて安全な立場にいてほしいのだけれど。


「……怖い顔、してるよ」

「え?」


 ふいに、八木さんにそう言われ、私は驚く。

 考え事に集中し過ぎて、酷い顔になっていたようだ。

 沢山のことが立て続けに起きて、頭も限界をとっくに超えているし、人目を気にすることなどすっかり忘れてしまっていた。

 隙だらけだ。


「お昼ご飯を食べたら、休むといい。今の君に一番必要なのは休息だよ。……事件についてあれこれ悩むのも大事だけれど、悩むためにも体力を養おう」

「八木さん……」


 ああもう、この人はなんて優しい人なんだろう。

 虎牙がいなかったら、もしかすると私は八木さんに惹かれていたかもしれないくらいだ。

 八木さんの言う通り、今の私は身も心もボロボロだった。

 とりあえずしばらくは、何も考えず泥のように眠りたかった。


「ごめんなさい。お言葉に甘えます」


 ペコリと頭を下げ、八木さんに謝意を表す。

 そして彼の提案通り、私は昼食をとってからすぐ、彼が普段使っているベッドで眠らせてもらうのだった。





 夢の中の私は、とても自由で。


 けれどその代わりに、大事なものを沢山失ってしまった気がしていた。

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