感想『家族なら、一緒に住んでも問題ないよね?』
高木幸一 著(GA文庫)
あらすじ
祖父と二人暮しだった主人公の真。しかし、高校入学してすぐその祖父は亡くなってしまう。そんな中、彼は体調不良のまま雨の中を帰っていると公園でとある女性に出会う。
フラフラとしていたこともあり、草野宙子と名乗る彼女に「熱が出てるから」といって半ば強制的に家に連れ込まれる。熱が酷かったこともあり、彼女の家で過ごした翌日、宙子から言い渡されたのは「草野家に住み込み、家族である四姉妹の食事を作るという仕事をしないか?」という提案だった。
四姉妹の長女であり家長でもある宙子は能天気で大雑把な25歳の小説家。
次女の16歳の波月はレトロゲーム好きのクール系美少女。
三女の姫芽は主人公の中学時代の部活の後輩であり、かつて主人公のことが好きで告白してきたこともあったりする。真面目な子、可愛い。
四女の美星は元気一杯の小学5年生、可愛い。主人公に懐いている。
そんな4姉妹と主人公の間で紡がれる擬似家族ラブコメディ。
感想など
フィンラン子さん(感性が近いラノベ読み)やみずのとりさん(信頼出来るラノベ読み)やヤボ夫さん(感性が近いラノベ読み)がけっこう褒めていたこともあって購入。そういやこの作家さんの処女作、読んだこともあるし割と好きだった記憶もあり、購入確定した。
家族がテーマのライトノベルってけっこうあるし、かなり名作が多いイメージだった(『狂乱家族日記』とか『平浦ファミリズム』とか、最近だと『子守男子の日向くんは帰宅が早い』だとか)けど、この作品もその法則から外れることなく名作でした。
家族からの愛を受け取ってこなかったが故に、「嫌われないように生きていく処世術」が染み付いてしまった主人公。そんな自分自身がとにかく嫌いになっているって状況、そのうえ「じゃあこの仮面外した俺は何者なんだ?空っぽじゃないか?」ってなるんですよね。ものすごく分かる。ものすごく、人と話してても「俺と喋ってておもろいのかな?
本当は俺なんて……」って思ってしまうことあるんですよ。
僕自身がそうなので作中の主人公は自己肯定感が僕なんか以上に感じられないんだと思います。何しろ家族からの愛を受けてこなかったのですから。自己肯定感ってよく言われる話なんですけど「成功体験」から作られるんですよね。家族からの愛も受けず、褒められもしなかった彼にとってその成功体験が圧倒的に足りなかったのだと思います。
そんな状態で主人公に唐突に向けられた愛、それが姫芽の告白だったって考えるとなんとなく主人公が素直に受け止められなかったのもわかる気がするんです。
四姉妹、特にこの1巻で深くまで描かれたのは姫芽や月波でしたが、それぞれが胸の内に「父と母を失ったことで植え付けられた不安定さ」や「思春期の少年少女が抱く息苦しさ」を抱えていたように思える。
ちゃんと記号的な意味で魅力的なキャラを作り、ラブコメをしながらも、そのキャラクターの深いところはかっちりと固定化されたものではなくゆらぎがあるという部分、そこに「人間なのだな」という所を感じたし、それがあったからこそ、最近のラブコメの中でも僕の中での評価がかなり高いのだと思う。
今年出たラブコメの中では1位2位を争う傑作なのは間違いない。これを読んでる人はぜひ、手に取って欲しい。
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