感想 『ヴァンパイア・サマータイム』

 石川博品 著(ファミ通文庫)


あらすじ

 人間と吸血鬼が、昼と夜を分け合う世界。山森頼雅は両親が営むコンビニを手伝う高校生。夕方を迎えると毎日、自分と同じ蓮大付属に通う少女が紅茶を買っていく。それを冷蔵庫の奥から確認するのが彼の日課になっていた。そんなある日、その少女、冴原綾萌と出会い、吸血鬼も自分たちと同じ、いわゆる普通の高校生なのだと知る。普通に出会い、普通に惹かれ合う二人だが、夜の中で寄せ合う想いが彼らを悩ませていく……。夏の夜を焦がすラブストーリー。


感想と自分語り

 2019年からライトノベル界隈は異世界転生ライトノベルからラブコメにメインストリームが移り変わりつつあります。しかも流行りはこれまでの三角関係や複数ヒロインハーレムラノベというより主人公とヒロインの「1対1」のラブコメ。1対1モノのライトノベルの傑作といえばこの小説だろ!ってことで2013年に発売されたこの小説を紹介します。


 この小説の魅力の1つ目、それは吸血鬼を特別なものとして描いてないことです。あくまで彼らは世界の半分、だけど昼と夜で生きる世界が違うって理由であまり交わることはないんですね。そんな彼らがばったり出会う、しかもコンビニっていうありふれた場所で……もうこの時点でヤナガワは「ええやん」ってなるわけです。


 そんでもって2人は生きてる時間がちがうから、2人が重なり合う時間も僅かなんです。だから、彼らはその一緒に入れる時間を大切にしようとしていて……それがいいんですよね。会える時間が限られている、そういう障害があるからこそ恋は燃え上がるものです。


 そして、この石川先生はその「名前の付けようのない関係」を描くのがすこぶる上手い。時々、踏み込んでしまいそうに、思いをさらけ出しそうになりながらも、躊躇ってしまうって描写が多くあるんですけど、もうねこれがたまらないんですよね。


 美しいんですよ。2人の関係性が。

 これはね1対1のラブコメなんて枠に収まらない「本気の恋愛ライトノベル」なんです。



 今人気の『隣の天使様』とか『継母の連れ子』は「近い」距離感なのに、くっつかないのが焦れったい、それがたまらないって方向性なんですけど、この作品は「遠い」んですよ。時間ってのは5次元なんていわれてますからね。物理的距離なんかよりずっと遠い。


 だから、彼らが急接近するわずかな時間が、儚い夢のようで、愛おしくてたまらないんです。


 1対1ラブコメ好きな人、少し昔の作品ですがこの作品に手を伸ばしてみてはいかがでしょうか?



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