義妹と……
場所は義妹である月乃の部屋。
ある日の昼下がり、俺は月乃に自室へと招き入れられているのだ。
真っ白な壁に大きな窓。構造的には、俺の部屋とそこまで変わりはない。
でも、全然違う印象を受ける。それは家具の一つ一つが、俺の部屋にあるものとは対極に位置するものばかりだからであろう。
大きな窓には薄い水色のレースカーテンが装着されており、白い板で組み立てられた本棚の中には参考書、衣服が入っているタンスの上には小さな置き鏡やアロマなどが添えられている。勉強机の上も綺麗に整頓されていて、日々、なにかが散乱している俺の部屋にある同じ勉強机とは似ても似つかない。
窓際にあるシングルベッドは、これまた水色のシーツを纏っていて、そこにはいくつかのぬいぐるみが置いてある。小さい頃から水生動物が好きな月乃らしく、ペンギンやアザラシなど、水族館の販売所で売っていそうなくりくりとした目を持つ彼(彼女?)らが、かわいらしく横たわっていた。
突然、クイクイと服の袖を引っ張られる。
『にいさんにいさん』
『ん、どうしたんだ?月乃』
『その……あ、あんまりジロジロ見ないでね。恥ずかしいから……』
目線を逸らしながら、どこか頬を染めながらそう呟く月乃がかわいくてかわいくて、思わず俺も頬が上気してしまう。
ここ最近、心なしかどこか月乃の表情や言葉が崩れてきている気がする。
前みたいに無表情に、淡々とではなく。こう、少し顔が動いたり、言葉にも強弱がついたりして。変身をしてになくても、月乃をチラチラと垣間見ることが出来るようになってきた。
別に悪いことではない。むしろ良いことだと思う。
こうやって打ち解けて行けば、いつか俺や家族以外の人たちとも普通に交流が出来るようになってくるかもしれないから。
だけどそれは、俺にとっては毒そのものであった。
それのせいか、俺は月乃をすごく女の子として見てしまうことが多くなった。所作の一つ一つがどうしようもなくかわいく、愛おしく感じてしまう。
でもでも、月乃は女の子ではあるけれど、俺の大切な義妹だ。いくら義理であったとしても、その……恋心なんてものを抱いてはいけない。ましてや心を揺さぶられたりなんてこともいけないのだ。
そんなことをしてしまったら、この形が変わってしまうのは容易に想像出来る。それは絶対に嫌だ。月乃を、父さんを、義母さんを傷つけたりすることは望んでいない。
解ってる。義兄として、一番ちゃんと理解している。
――わかってるんだけど……。
『むぅ……にいさんのえっち……』
『えっ!そ、そんなことはないぞっ。決して、決してっ!』
『ふ、ふーん。でもでもさ、そんなに焦ってる姿を見ちゃうと、その――信ぴょう性が落ちちゃうぞっ……?』
背伸びをして俺の耳元で放たれる、そんな砂糖マシマシな甘ったるい音色。
そっと距離を置いて少しだけ、少しだけ口の端を釣り上げて、まるで小悪魔のようにな不敵な笑み。
それに月乃の部屋いると言う事実。
……こんなのドキドキするなと言われる方が無理だ。そんなのは暴論で傍論で。
胸がきゅうと締め付けて、呼吸が荒くなる。口で息を吐いていたせいか、カラカラに乾いていて、喉がイガイガとする。それに……頭も心もぐちゃぐちゃに溶かされてとかされて。目の前の月乃のことでいっぱいになっていく。
バカだなぁ俺。簡単に靡いて、簡単に魅了されてしまう。
カノジョいない歴=年齢の童貞男子くんには仕方がないのかもしれないけれど、それにしたって単純すぎる。
義妹になんて、ダメなのに。でもその背徳感すらも、ドキドキに変わってしまう。いわば、今の俺には感情のストッパーが上手くかからないのだ。
『にいさん……?』
『……ッ!?』
不思議そうに目を細め、上目遣いでこちらを拝見してくる青い瞳。
吸い込まれる。鮮やかなに光を写したそれは、俺の脳を撃ち抜く。
『にいさん……にいさん……』
吐息交じりに紡がれる呼び名は、いつもと変わらないはずなのに。
『月乃ッ……』
『……にいさんッ…………――』
「にいさんっ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます