幼馴染と登校する話
四月十日。始業式の日。
起床し朝食を食べ終わった俺は、準備をしていた。
でも始業式の日なんて、せいぜい、春休みの宿題くらいしか持っていくものなんてないから、すぐに終わった。
机の上に置いてある時計を見る。時刻は7:43分。
俺の家から高校までは、徒歩十五分くらいで行ける。集合時刻が8:30だから、今から行っても新しい教室で待つことになってしまう。
行かずに部屋で時間を潰してても良いのだが、別にこれと言ってすることがない。
「うーん、どうするかな」
少し考えてから、俺は学校に向かうことにした。
本当になんとなくで、そう決めた。
自室を出て階段を下り、玄関で靴に履き替えてリビングに向けて声をかける。
「行ってきまーす」
「おう、気をつけて行ってこいよー」
父さんの声を耳にして、俺はドア開け外へ出る――
「あ」
「あ」
俺が外へ出たのとほぼ同時。
向かいの椎田家から出て来た女の子と目が合い、思わず声が出てしまう。
そして俺は素早く体を半回転させ、再びドアを開ける。
「っておかしいでしょ!なんで入るの!」
そんなの知ったこっちゃない。
気まずいんだよこっちはっ!!!
「ねぇ、久しぶりに一緒に学校に行――」
俺はその言葉を遮るように家の中へと入り、ふぅと溜息を吐き出す。
一緒に学校行くとかまじで死ぬ。無理無理。
「……どうしたのにいさん……学校行ったんじゃないの……?」
そこへ月乃が階段を下って来た。
「いやちょっと忘れ物があるのに気づいてさ」
「ふーん……?」
「だから一回取りに戻って来――」
ガチャリと、後ろのドアが開く。
「忘れ物って、私のこと?」
「おっおま!なんで勝手にドア開けてんだよっ」
「鍵、開いてたから」
いやそれ普通に不法侵入だけど?
「別に良いじゃん幼馴染なんだから、ほら行こっ!」
「あっちょっ待って!うわぁー!」
俺は幼馴染、椎田日向に強引に手を引かれ、外に連れ出されるのであった。
「これは、緊急事態かもしれない……」
☆☆☆
結局、俺は日向と一緒に登校することにした。
本心としてはめっっっっっちゃ嫌なのだが、もう逃げられないので諦めた。
「なんで逃げたのよ、葵」
隣を歩く日向に、そんなことを言われる。
だけど、それには答えられない。
「……秘密」
「はぁ?」
「答えられない……」
「なんで?」
「……」
お前にフラれて顔合わせにくいからだよばか!
「やっぱり私のこと避けてるよね?」
「……そんなつもりはない」
「明らかにそうとしか思えない行動ばかりだけど?」
「……記憶にございません痛っ!」
鞄で頭を殴ってくる日向。うん、マジで痛いからやめてくれ?
……ったく、誰だよ日向は性格良くて誰にでも謙虚とか言ったやつ。嘘つくなって。
「はぁ……」
「……ごめん」
俺はそう言いながら、日向の方を見やる。
長いまつ毛に大きな目、綺麗な鼻筋にふっくらとした唇。それらが上手に組み合わさっている。
それに、栗色のウェーブがかった髪の毛も艶やかだし、スタイルも良い。
改めて見ると、やっぱりコイツかわいいな……
「なに?ジーッと見てきて。惚れてるの?」
「そっそんなことはないぞまったく断じて」
慌てて日向から目を逸らす。
しまった。つい見過ぎてしまっていた。
なにかごまかさないと。
でも、話題がない。そりゃそうだ、最近まったく喋ってなかったのだから――待てよ、一つあるじゃないか。話題が。
まぁだけど、正直この話にはあんまり触れたくないし、胸も痛む。
でも、これしかないのだから仕方ない。俺は深呼吸をして口を開く。
「……そう言えば彼氏が出来たんだったよな?」
ふいにそっぽを向く日向。
「どうした?」
「……いや」
「まぁ、おめでとう」
「……ありがと」
ん?さっきから急に歯切れが悪くないか?なにか、違和感を感じる。
「ねぇこの話は終わりっ!」
「え、なんで?」
「なんでも!」
声を荒げる日向。やっぱり、なにかおかしい。
「日向、俺になにか隠してるか?」
瞬間、日向の体がビクッと震えたのを俺は見逃さなかった。
……もう少し詮索してみよう。
「なぁ、彼氏って誰なんだよ?」
「……知らない」
「うーん、サッカー部の大沢とかか?あいつイケメンだし」
「違う……」
「じゃあバレー部の宮田か?めっちゃ背高い」
「違うっ……」
「そんなら野球部の田淵か?あいつ性格良いし」
「違うっ……!」
「え、違うのかよ。じゃあもう正直分かんねぇな。日向かわいすぎて釣り合うヤツが思いつかん」
「ふぇ。かっ、かわぁ……!」
「?」
急に顔を真っ赤にする日向。あれ?今俺なにか変なこと言ったっけ……?
「ってか大体、皆違うってば!」
「だから誰なのか聞いてるんだよ」
「……!そ、それは――」
「日向、お前本当に彼氏出来たのか?」
「はへっ……?」
俺が素朴な疑問をぶつけると、日向はその場で立ち止まってしまい、俯いた。
「それにさ良く良く考えたら、日向って今まで告白されてきてもずっとフッてばっかだったじゃん」
日向は昔から凄くモテるので、いろんな男から告白を受けている。
だけど、その中にOKを貰った人は一人もいない。どんなにイケメンでも、どんなに性格が良くてもだ。
そう考えると、今回はOKをしたというのは考えにくい。これだけフリ続けているのは、なにか事情があるからじゃないだろうか。
だから、彼氏が出来たというのが嘘なのではと思ったのだ。まぁ、俺の勝手な推測だけど。
「嫌なら良いけどさ、教えて欲しい。彼氏が出来たのかどうか、誰が彼氏なのか」
「……葵はさ、どうして彼氏についてそんなに聞いてくるの?」
その言葉に、俺は戸惑った。
……そうだ、自分の彼氏についてこんなに聞いてくるのは怪しい。
同性なら普通にある話だが、異性となると事情が変わって来る。
例えば、こう明確な好意を持っているとか――。
「ねぇ葵、私のこと――好きなの?」
ふいに、月乃の言葉を思い出す。
『お兄ちゃんは恋に不慣れだったから、攻めることが出来ずに先手を越されてしまった』
そう、俺は恋に不慣れなのだ。
果たして日向は日向はなにを隠しているのか。
果たして日向は本当に彼氏を作ったのか。
なんにも、分かっちゃいない。
だから、黙り込むしか出来なかった。
そんな俺を日向が真剣な面持ちで見つめて来た。
そして、こんな質問を投げかけて来た。
「……もしさ」
「……?」
「もし、私が彼氏を作ってなかったら、どうするの?」
小鳥の囀りが響き渡る、早朝の通学路。
まぶしい日差しが日向と重なり合い、まるで煌々と照らされているかのようで。
とても美しく、ただただ美しい。
そんな光景を見ながら、俺は小さく呟くのだった。
「知るかよ、ボケ……」
〈追記〉
この作品に触れて頂き、ありがとうございます。どうもしろきです。
少しご報告をさせていただきます。
こちらの作品はPCで作成しているのですが、この構図だとスマホ画面で見にくいかなという風に思いましたので、改めて構図の変更をさせていただきました。
他の話も順次変えていきますので、少々お待ちください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます