義妹と出かける話

 家から徒歩二分ほどの最寄り駅まで行き、電車に揺られること十分ほど。

 俺と月乃は大型ショッピングセンターに足を運んだ。



「ってかこうやって月乃と外出するのって本当に久しぶりだよな」



 俺は笑いながら、隣を歩く月乃にそう投げかける。

 すると月乃はそっぽを向きながら口を尖らせる。



「外出るのめんどくさいけど、恋のお勉強しないとだもん」



 そんな会話をしながら歩いていると、月乃がふととあるお店の前で立ち止まった。



「どうしたんだ?」

「うーんと、ちょっと服を見たいなって」

「そうなのか?」

「うん。かわいい服これ一着しかないし、変身用に色んな種類が欲しいからっ」



 そう言いながら、ウィンクをする月乃。

 今の月乃の装いは、朝エプロンの下に来ていたものと同じ、白のフラワーレースの上に黒のワンピースというもので、肩から小さなバッグをかけている。

 いつもはあんなに髪の毛もクシャクシャでダボダボな服を着ているくせに、カツラであってもちゃんと髪型を整え、しっかりとしたオシャレな服を着るとめちゃくちゃかわいいのということに、妙に腹が立つ。

 それに――



「うわぁあの子めっちゃかわいくね?」

「モデルみたい……」

「ってか横にいるのって彼氏?えっ釣り合ってなくねw」



 さっきから月乃に注目が集まっている。

 あんまり意識して見たことは無かったけど、今改めて月乃を見ると、手足も細いし、肌も透き通るほどに綺麗だ。そりゃパッと見、モデルに見えてもおかしくはない。

 普段、あんな月乃しか見ていなかったからちょっと感覚がマヒしてたが、月乃って万人受けするくらいにかわいいんじゃね……?



 そんなことを考えていると、ジッと見つめて来る月乃に気づいた。

 そして、ニヤッと笑みを浮かべ――



「ほらほら~、釣り合ってないよぉ~?」

「ちょっ、月乃!急に何言って――」

「そんなことよりお店に行くよっ!」



 上機嫌な月乃に手を引かれ、そのお店の中に入る。

 そして店内にある服を色々と物色していく。



「いっぱいかわいい服あるね、お兄ちゃん」

「そうだな」

「ちなみに、お兄ちゃんはどんな服が好きなの?」

「うーん、急に言われても分かんないなぁ……」



 そう言いながら歩いていく俺と月乃。

 そんな中で、ある一つの服が俺の目に入り、その場で立ち止まった。



「これ、かわいいな・・・・・・」

「どれどれ~?」



 月乃がグイッと俺の前へと来る。

 なにか甘い匂いがして、少しクラっとしてしまう。

 どうして女の子という生き物はこんなにも甘い匂いがするのだろう・・・・・・



「白色のフリル付きオフショルダーに赤色のチェック柄のスカートか、お兄ちゃんこういうのが好きなんだぁ~?」

「いっいや別に好きとかじゃなくてだな・・・・・・」

「でもずっと見てたよ?」

「いや本当に好きとかじゃないよっ?ただかわいいなぁって思って――」

「じゃあ、私が着たら?」



 俺の方を向く月乃。

 月乃がこの服を着たら……か。

 正直、オフショルダーの服はかなり好みだ。女の子が着ているだけで、目に留まってしまう。

 それをかわいい月乃が着れば、映えるに違いない。なにより月乃は肌が綺麗だ。普段はダボダボした服を着ているせいであんまり見えないが、これを着たら、月乃の首回りやうなじ、華奢な肩が合法的に見れるということで――



「……にいさんキモイね」



 急に無表情になる月乃。

 俺が悪かったけど、それめっちゃ心に刺さるんだってやめて!



「私が着たら着合うどうかってことを聞いてるの」

「あっそういうこと!絶対似合うよ!」

「はぁ……まったく……」



 1つため息を吐き出し、その服に向き直る月乃。



「まぁでもにいさんがここまで動揺するなら、ありかもしれない……」




ボソボソと小声で呟く月乃。小さすぎて聞き取れない。



「ん?なにか言ったか?」

「お兄ちゃんには関係ないっ」



そしてそっぽを向く月乃。

うーん……ちょっとご機嫌斜めになっちゃったかなぁ。

するとその服を手に取る月乃。



「え?それ買うの?」

「別に私の勝手でしょ?お兄ちゃんのヘンタイっ」

「えぇ!」

「買ってくるから、お兄ちゃんは外で待ってて!」


あーあ。やっぱり機嫌損ねちゃったか……

俺はそう思いながらお店の外に出る。

そしてスマホをいじっていると、お店から月乃が出てきた。



「お兄ちゃん、お腹空いてない?」

「あー、まぁそろそろお昼時だもんな。なにか食べに行くか」



そう言って、俺と月乃はモール内にあるフードコートに向かう。



「お兄ちゃんはなにか食べたいものとかあるの?」

「うーん、まぁ特には思いつかないなぁ」

「じゃあさ!クレープ食べようよクレープっ」



余談なのだが、月乃は大のクレープ好きだ。

ほとんど出かけることがない月乃が、クレープを食べるがために、わざわざ買いに行くことがあるほどだ。



それに、最近俺自身もクレープを食べてなかった。正確には食べたかったのだが、男一人で買いに行くのはなにか抵抗があって買えなかったのだ。

でも今は隣に月乃がいる。変な抵抗感も覚えずに買うことが出来る、良いタイミングだろう。



「俺もクレープ食べたいし、それで決定だな」

「やったぁ」



そんな会話をしていると歩いていると、クレープ屋に到着した。



「いらっしゃいませ。ご注文はどれになされますか?」



俺はレジ台においてあるメニュー表を見る。

ふむふむ。どれもおいしそうだ。

その中で俺は、バナナとストロベリーに目が留まった。

本当は二つ食べたいところだが、見たところここのくクレープはサイズがかなり大きいらしい。欲張って食べれなくなるよりも、一つを味わって食べる方が良いだろう。

そうなるとうーん、バナナも魅力的だがここはなんとなくストロベリーにしておこう。



「じゃあ、ストロベリー一つ」

「私はバナナ一つで」

「かしこまりました」



あれ?月乃今、バナナにした?



「月乃、チョコクリームじゃなくて良いのか?」



そう、月乃は大のクレープ好きでもあり、大の苺好きなのだ。

クレープは勿論、どんなものでもストロベリーがあればそれにするのだが。



「今日はバナナの気分かなぁって」



なにか意味ありげな目でこちらえ見てくる月乃。

……なにを企んでいるんだ。



「おまたせしました。ストロベリーとバナナになります」



店員からクレープを受け取り、俺と月乃は近くの空いてる席に座る。



「いただきます」

「いただきまーす」



パクリ、とクレープをかじる。うん。うまい。

生クリームの甘さと、苺のほんのりとした酸味。

それが上手く絡まり合い、極上のハーモニーを奏でている。



やっぱりストロベリーはおいしい。

だけど、心の中で少しモヤモヤする。

あぁ、バナナも食べたかったなぁ――






「ねぇお兄ちゃん?バナナ食べてみたい?」






対面に座る月乃が、自分のクレープを差し出してきた。

何故かしながら。

一瞬、不思議に思ったが、ちょうど気になっていたとこだ。一口貰おう。

俺は差し出されたクレープを受け取ろうとして――



「ダーメ」

「へ……?」



寸前で手を引っ込める月乃。思わず素っ頓狂な声が出てしまう。

俺が月乃に困惑の目を向けると、左手で頬杖えをしながら月乃はまた俺の方へとクレープを差し出してきた。



「お兄ちゃん、あーん♪」

「んなぁっ……!」



いきなりのことで固まる俺。

急にあーんとか恥ずかし――そうか、そういうことか!

購入時の意味ありげな目。そしてさっきのニヤニヤ。

すべてこれのためだったのか……!



「ほらほら~。いらないの~?」

「くっそ……」



月乃は今まで、あーんとかしてこなかった。そもそもそういうタイプじゃない。

それに大きな驚きを覚えると同時に、ずっと月乃の手の平の上で踊らされていたのと公共の場でのあーんという行為に、とてつもない羞恥を覚える。



だけどこのまま断ってしまうのも、負けた感じで悔しい。

えーい、もうどうにでもなれっ!



「あ、あーん……」

「どう?おいしい?」

「……おぉ、これもうまいな」



心の奥底からそう思った。

ここのクレープ屋、初めて来たけど自分の中で、結構お気に入りのお店になった。



「ちなみにだけどお兄ちゃんそれ、間接キスだよ」



瞬間、俺は羞恥の限界によりその場で突っ伏した。




☆☆☆




 気づけば空はもう、綺麗なオレンジ色に染まっていた。

スマホの時計を見ると午後五時半とある。そろそろ帰宅しなければいけない。



「んー、そろそろ帰るか」

「そうだね。もうちょっといたかったけど」



 名残おしそうな顔をする月乃。

 まぁ、俺としても今日は本当に楽しかった。

 ここ二、三日、日向にフラれたからかなりナイーブになっていた。

 なんとなく、それがリセットされた気がする。

 月乃に感謝だな。



「今日はありがとうな、月乃」

「私もお勉強出来て、凄っく楽しかった!」



 目の前に来てそう告げる月乃。

 その姿が夕日と重なり、図らずとも見とれてしまう。



 普段、月乃を義妹としか見てなかった。

 けれども、今日のデートで色々な姿が見れた。

 今だってそうだ。こんなににこやかに笑う月乃を見たことがなかった。






 ――あれ?月乃って、こんなにかわいかったっけ……?――







「ねぇお兄ちゃんっ!」



そう言っておもむろに俺の手を取る月乃。

 そして、俺の手の指に自分の手の指を絡ませて――



「その1、手つなぎデートっ。任務完了!」

「ちょっまっ!月乃!?」




 ニコッと笑う月乃。繋がれた手。それも恋人繋ぎ。

 それらを意識すればするほど、俺の鼓動は加速していく。

 ってか手小さいし柔らけぇ……これが女の子ってやつなのか――



「ってノートにはこんなのなかっただろ!」

「そんなのよく覚えてるね?」

「どういうことだ月乃ぉ!」

「せっかく恋のお勉強をするんだったら、アレンジを加えないとなって!」



「軽いスパイスだよスパイスっ」と弾むような声色で言う月乃。

 いやもうこれ完全にアウトな気がするんですが……?



「……ちなみに、原型はどんなのだったっけ?」

「うーん」

「……?」



 左手の人差し指を顎に当て、考え込む月乃。

 そんなに考えないといけない位変えたの?



「あ、分かった」

「なんだ?」

「デート」



 は?



「デート……だけ?」

「うん」

「手繋ぎは?」

「なかったよ」







 いやもうそれスパイスの域超えてねぇぇぇぇぇ!







「デートだけじゃ味気ないかなって?」

「別に手は繋がなくても良いだろうよ手は!」

「あれ?お兄ちゃん、私と手繋ぐのドキドキするの?」



えへへっと笑いながら首を傾げる月乃。

俺はそんな月乃に聞こえないよう、小さく呟いた。



「……だから義妹を意識したりしねぇって……」







〈あとがき〉

ご覧していただきありがとうございます。

今回は義妹とお出かけする話でした。いかがでしたでしょうか?

またご意見などを頂きますと、僕が喜びます。よろしくお願いします。


話は変わりなんですが、僕のこの書き方だとスマホの方で超絶見にくいということが発覚しました。なんで順次変えて行こうと思います。申し訳ございません。

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