義妹に誘われる話

 朝食を食べ終わりソファでくつろいでる俺に、後ろから月乃が話しかけてきた。



「ご飯、おいしかった?」

「あ、あぁ。月乃のポトフいつもおいしいよ」

「……だけはって何だけはって」



 突然だが、月乃は料理下手だ。

 何年か前に月乃がお手伝いで作ったカレーやにくじゃが。それはそれはもう、本当にゲテモノだった。

 その時は残すのは悪いということで最後まで食べ切ったが、あんまりだったということを月乃は悟ったのか、それ以来、月乃は料理をしなくなった。



 ただ、1つだけ例外がある。

 料理下手な月乃が唯一作れる料理があり、朝もそれを作ってくれるのだ。

 では一体、その料理とはなにか?



 そう、ポトフである。

 月乃は何故かおいしく作ること出来る。

 上手く言えないのだが、味が俺好みというか、どこか懐かしい感じがして好きだ。



「そんなこと言うんだったら、もう料理作ってあげないもんっ」



むくれてからそっぽ向く月乃。

いつもとは違い表情がコロコロ変わる分、凄く愛くるしい気持ちになる。

俺はなぐさめようと、月乃の頭をなでてやる



「な、何してるのお兄ちゃんっ!」

「ん?あぁ、なんか久しぶりになでたくなって」

「……にいさんキモイ」



急に素に戻りジト目で見つめてくる月乃。

でもどこか言葉が弱弱しくて、口では抵抗しているもの行為自体は本人としても嬉しいのかもれない。

俺は更に丹念になでなでしてやる。



「ほらほら~」

「……」

「良いんだろう~?なでてもらうの好きだもんな~?」

「……にいさん?」

「ん?」








「今から日向ちゃんに電話して、にいさんの未練全開ねちねちボイス聞かせても良いんだよ?」








そう呟き、スマホを何度かタップしてこちらに向けて来る月乃。

俺はその場で立ち止まり、そのスマホに目を向ける。



『日向ぁ~……俺のこと好きじゃなかったのかよぉ~……』

『あぁまじで日向と付き合いたかったぁ~……日向ぁ~……』



「フラれた日の深夜、なかなか眠れなかったにいさんが泣きながら日向ちゃんへの想いを吐露してたのは知ってる」

「……」

「たまたまその時間までゲームしててたまたま水を飲みに自分の部屋から出たらたまたまにいさんの部屋からたまたま声が聞こえてきて。様子をうかがいに行ったら、たまたまスマホが録音状態でこの音声が取れてた」



その場で固まる俺。

え、そんなたまたまって起きるものなの?

っていうか完全に故意で録音したよねそれ!



「本当にキモイねにいさん」

「……」

「聞いてる私が死にたくなる位だった」

「……」



吐き出される罵倒の数々。

淡々と吐き出されるから、1つ1つの威力が半端じゃない。

……もう本当にメンタルが――



「もうにいさんが私にいじわるしないならこの音声消しても良――」

「お願いしますめっちゃ消してください早くはやくハヤク」

「まったくもう……」



月乃はスマホを少し弄り、またこちらへと向ける。



「ほら、ちゃんと消したからもういじわるしないでね」

「分かった心に誓うよ!」



俺は月乃の目の前でガッツポーズをする。

「はぁ……」と大きなため息を吐き出す月乃。

――あ、あれ?呆れてる?思ってた反応と違うなぁ……



「ねぇそんなことよりさ、少し提案があるんだけど」



そう言って俺の隣に来て、ソファに座る月乃。



「どうしたんだ?」



そう聞くと、月乃はえへへと笑ってから口を開ける。






「お兄ちゃん、ちょっとお出かけしよっ?」






正直、かなり驚いた。

月乃は外に出たがらないタイプだ。だから、こうやって自分から誘って来ることなんてほとんどないのだ。



「良いけど、なにか行きたいところとかあるのか?」

「うーん、まぁあるっちゃあるんだけど。そうじゃなくってさ」

「ん?」

「恋のお勉強、したいなって」



 そう言いながらソファに座る俺に、後ろから囁いてきた。

 甘い声に、かすかな吐息。

 それらが交わり、まるで脳を溶かすような衝撃に襲われる。



「ちょっ!ばか!やめろってそれ!」

「あれ~?お兄ちゃん、照れてるの?」

「照れるかよ!義妹を意識したりなんかしねぇよ!」



 ……実際、めっちゃ照れてるし、めっちゃ動揺している。

 月乃の変身は、俺に効果抜群なのだ。

 義妹であるという自覚はしているものの、普段とは雰囲気が違い過ぎるからふいにドキッてしてしまう。

 まぁ月乃的にはこれが狙いなのだろうが、俺にとっては心臓に悪い。



「あはは!葵君は義妹に照れちゃういけない人だったんだぁ?」



 コロコロと笑う月乃。

 いやまだ本当に、この子が月乃だって信じられん。





 あの後結局、月乃に流されるようなまま俺は認めてしまった。



『お兄ちゃんも一緒に勉強すれば良いんだよっ。恋を!』

『……わ、わかった』



 それ以降と言うもの、ずっと俺にグイグイと近づいてくる。

 まぁ幸い、今日は親が朝から用事で不在だったため、この危ない関係がバレずには済む。

 だがきっと、こうスキンシップを取ってくるのは今日だけになるはずがない。

 そうなると、バレるリスクが高くなる。

 だから、俺は月乃にこう切り出した。



「月乃っ」

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「こ、恋の勉強とやらは俺としてもしたい。日向を奪い取りたいからな……」

「ほう?」

「だけど!この関係が父さんとかにバレたら、さすがにヤバいんじゃないかって思うんだ……」

「それは大丈夫だよっ。お母さんとかがいるときは、ちゃんといつも通りでいるから!」



 いつのまにか近づいてきて、ウィンクをする月乃。

 超が付くほどあざといが、めちゃくちゃかわいい。



 そんな姿に、胸が高鳴ってしまう。

 ……果たして俺は、こんな生活に耐えきれるのだろうか。

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